表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/357

#57 エルフの群れが現れた

 即座に〈万能感知〉を起動させて音の発信源を探ってみると、現場には数人の敵らしき何かが出現しており、それが周囲の村人なのか冒険者なのかを手当たり次第に攻撃しているようだ。


「役立ちそうなんで連れてくな」

「大丈夫なんですか?」

「ああ。侯爵のせいで、かなりの確率で役に立つはずだと俺の勘が告げているんでな」


 という訳で、俺の考え通りならシリアは絶対に必要になるんで連れて行く。その際に侯爵やアクセルさんが何かを言いかけていたけど無視して宿屋を後にした。まぁ何が言いたかったのかは大体察しがつくが、それを受け入れるとすると被害が大きくなるんで却下に決まっている。


「うっはぁ……派手にやってんなぁ」


 宿屋を飛び出すと同時に2回目の爆発音。さっきよりは小さいけどその一撃で数人が吹っ飛んだ。せめて生きててくれればポーションなりで治療してやれるけど、これだけの大人数の前でエリクサーはヤバイので急ぐしかない。多少村に被害は出るだろうけど人命にはかえられないだろう。もちろん綺麗で可愛い女性を優遇するぞ。


「せぇ……のっ!」

「ぐげはっ!?」


 比較的頑丈そうな建物(勿論人の有無は確認済み)の屋根に飛び移り、それを一発で破壊するだけの蹴りで飛び出し、弾丸顔負けの速度で一気に村の上空を駆け抜けると、ちょーっとやりすぎたと一瞬後悔しかけたものの、運よく襲撃者の1人を蹴っ飛ばす事で急ブレーキがかかってそうならずに済んだ。

 一方で、蹴っ飛ばした相手の骨の折れる感触があったから、結構重傷を負わせたと思う。このまま戦線を離脱してくれれば儲けモンだな。

 さて。一応騒ぎの中心に降り立ったわけだが、周囲を見渡してみると所々に鋭利な刃物で切り裂かれたような跡が残り、そこにあったであろう建物は燃えていたり大量の岩の下敷きになっていたりと無事な物は1つもなく、転がっている冒険者らしき連中や住民も少なからず犠牲になっている。


「ほぉ……小物にしては大したものではないか」

「子供? あんなのがリックを一撃で倒したとは……」

「油断してただけだろ? じゃなかったら家畜以下のクソ人間ごときが我々に触れる事など叶う訳がない。あの馬鹿は何度注意しても治らん。栄光あるエルフ族だと言うのになんと愚かなのだろうか」


 ざっと見た限り、注意しておかなきゃいけないのはいま喋った3人だろう。


 1人は、俺の中にあるエルフって概念を覆す岩みたいな肉体を持つ40代のナイスミドル。

 1人は氷みたいに冷たい印象が強いアイスブルーの目を持つアニーといい勝負の前方断崖絶壁の美人さん。

 最後の1人は細く引き締まった鞭みたいな細長い印象の青年。

 他にも10人近いエルフがいるけど、〈万能感知〉で見るとこの3人のエルフが纏うオーラは並外れて強力だ。こっちにも取り巻きに匹敵する冒険者も少なからず存在はしているようだけど、3人に敵うレベルは俺とユニくらいなもんだろう。もちろん俺は楽に勝てるから何の問題もない。


「随分と派手にやってくれたな。目的は人殺しか? 一体いつの間にエルフの中で人肉食が流行るようになったんだ? 菜食に飽きたにしては随分と歪んだ食生活だな」


 とはいえ、一方的に無力化するのはさすがに周囲の女性達の心証が悪くなるし、エルフって時点でその目的の9割9分がシリアを連れ戻しに来たんだろうと思ってるって言うか確信してる。それ以外にこんな風にエルフがしょっちゅう攻めてくるようなら、この村はとうの昔に滅んでるし、侯爵がわざわざこのルートを選択しないだろう?


「ハッ! テメェ等みたいなゴミなんざ家畜の餌にもなりゃしねぇ。テメェ等はおれ達にとって大切なモンを2回も盗みやがった。1度目はババ様の言葉があったから我慢してやったけど、今回ばかりは我慢の限界だからな。この村の人間全員ぶっ殺すべっ!?」


 俺の質問に嬉々とした笑みを浮かべながら拳を打ち鳴らす青年が接近してこようとしたが、絶壁美人さんの拳骨がそいつの後頭部に振り下ろされた。


「駄目よアル。数人は生かして行き先を聞き出さないと。この間の二の舞になるわ」

「全くだ。前回は貴様のせいで人族の幼き侯爵などに余計な貸しを作る羽目になってしまったのだ。反省が見られないのなら戦士長の地位を剥奪となるぞ?」

「ぐ……っ! っせーなわーってるよ! だがそのガキは殺していいだろ? 馬鹿だったとはいえリックの奴をノしたんだからな。敵討ちだ」

「構わん。そやつが生きている限りはここの連中も無駄な抵抗を続けるであろうからな」

「そうね。出来れば一番情報を持っているであろう人間を殺すのは惜しいけど、それより上の人間は必ずいるはずだから何も問題はないわ」

「なら決まりだ。せいぜいこのおれを楽しませがっは!?」


 あれ? あんなに俺に対して生意気な口を利くし、〈万能感知〉からもそこそこ実力者ってオーラがあったのに、いざ蓋を開けてみればまさかのワンパン。せめて防御する素振りくらい見せて欲しいもんだったんだがピクリともせんかった。時々〈万能感知〉の判断基準がおかしい気がする。

 しかし。これで話を聞き入れるだけの冷静さを持ち合わせてるっぽい奴が残ったな。これなら背負ってるシリアについて話を聞き入れてくれるかもしれんな。


「ほぉ……」

「劣等種族にしては素晴らしい動きをするじゃない。アルフォンスを一発だなんて」

「まぁこのくらいはな。それよりもお前等に聞きたい事があるんだ。こいつの知り合いを探してるんだが心当たりはないか?」


 ぐっすりと眠るシリアの首根っこを掴んで2人に突き出してみると、力強くありながらも静かだった気配が一瞬で荒れ狂う嵐のように吹き荒れ始めた。やれやれ……やっぱり全員痛めつけて大人しくさせるしかないのか。面倒くさい。


「ほぉ……人族如き無能種族が我らが偉大なエルフ語を介するか」


 取ってよかった〈異世界全語〉。もしかしたら統一言語みたいなのが使用されてるかもなんて可能性も一瞬考えたが、こういった物をわざわざ記載している時点で必要なんだろうと判断した俺の勘は間違っていなかったようだ。


「まぁそう難しい訳じゃねぇしな。それよりもコイツなんだが――」

「我等が姫を2度も攫った挙句、のうのうと恩着せがましく返すフリを見せるとは。猿知恵を回したつもりか?」

「やはり争う事しか能のないサルの延長線の低俗種ね。その程度の愚策を我らエルフが信用すると本気で思っているのかしら? 元々我々以外の言語は家畜の鳴き声と同意。理解する必要などないわ」

「……」


 やれやれ。どうやらさっきの馬鹿は人の話を聞かないタイプ。こっちの馬鹿連中は一度こうだと決めたらあらゆる証拠を前にしても決して間違ってても曲げないタイプ。ハッキリ言ってどっちも面倒くさいから力づくで分からせるしかないか。あっちもやる気みたいだししょうがない。ナイスミドルは半殺し。絶壁美人は縄で縛り上げよう。


「愚かな人族が調子に乗りすぎたな。死を持って償え」

「エルフの魔法を前にして、猿如きに抗えると思わない事ね」

「そっちも軽い頭でよく考えろよ。こいつの生殺与奪を握ってるのは俺なんだぜ? そんな事していいのかなぁ? 当たっちゃうぞぉ? 首折っちゃうぞぉ?」


 やる気は微塵もないけど、シリアの首を掴む手に少し力をこめればあっさりへし折る事が出来る。それをわかりやすく2人に見せつけるようにして脅しをかけているんだ。余計な動きをすれば大切な姫が死ぬぞ――と。

 というかこいつ姫だったんだな。それにしては随分と教育がなっていないよな。100歳まで生きてれば他人に対する対応や立ち居振る舞いなんかも一通り学んでいなければ人生やってらんないって言うのに、ユニを全く恐れないし自分の欲望に忠実だし非常にワガママでほぼ子供のままだ。今も腹いっぱいになったからって寝てるし――ってかこの状況でよく寝てられるな。神経図太すぎるだろ。


「随分と図に乗った事をするものだな。この数を相手にその態度……命が惜しくないのか?」

「勿論惜しいさ。でもな……この状況は俺を殺すにはまるで足りないぞ。本気で殺したけりゃ……そうだなぁ、ざっと1000倍は欲しいかな?」


 たった十数人程度でこの俺を殺そうというのであれば、エルフ程度ではきっと遊びにもならない。これは自信過剰で言ってる訳じゃない。純然たる事実だ。なにせ〈身体強化〉がマジで便利すぎるんだからな。

 最初に吹っ飛ばした奴はなぜか警告音を発していたけど、他の連中はそれほどでもない。もちろんこの世界基準であれば十分に強者なんだろうが、そこはチートだからですべて解決よぉ。


「猿の子供如きが大層な口を利くじゃない。至高の種族であるエルフと刃を交えた事がないのね。己の実力を過信し過ぎた罪はその命でもって償うといいわ」

「はっはっは。過信しているのはそっちだろ? この程度で何とかなると本気で思ってんだからな」

「ぐああああっ!?」


 残念だけど俺に不意打ちは通用しない。背後から気配を消して近づき、シリアを奪おうとしていたんだろうけど、そんなのは随分前から分かっていたんで、足元にコッソリ創造しておいた小石を後ろ足で蹴っ飛ばすのとほぼ同時に悲鳴があったんで振り返ってみると、肩のあたりがごっそりと無くなっているダンディズムなおっさんがうずくまっているんで、目の前に悠々と歩み寄り~の追撃の右フックを打ち込んで~の退場処分。


「いま俺が話してる途中でしょうがぁ! で? 戦うの戦わないのどうすんの?」


 こっちとしては戦わずに済むならそれでオールオッケーなんだけど、ここまでしておいてノーバトルでフィニッシュってのは無理があるか?


「フン。大言を吐くだけはあるという事か」

「いいでしょう。そこまで死にたいというのであればこちらも加減はしません」

「手っ取り早くて助かるよ。ほんじゃどうぞ」


 どうやら実力行使に出てくれるという事なので、俺はシリアを絶壁美人にむかって放り投げてやると、多少はその氷の表情にヒビを入れる事が出来たけどすぐにまた凍り付いてしまった。やっぱ一筋縄じゃどうこうできないか……残念~っ!


「なんのつもりかしら?」

「いやなに。これから君達が完膚なきまでに負けた時に、「シリアがそばにいたから本気を出せなかった」なーんて言い訳をされるのは心外なんでね。これなら余計な事のを考えなくて済むから十二分に実力を発揮出来、なおかつ負けた時のいい訳にもならない。そんな弱者に対して優しさを見せれる俺って格好良くね?」


 どのみち圧倒的実力差をもって無力化させる予定だから、シリアが居ようが居まいが未来は何にも変わらない。しいて言えば、エルフ側が俺の実力を認めざるを得ない時間が短くて済むってくらいだろう。


「大した度胸だ。我々を相手にここまで大口をたたいた人間は初めて見るな」

「短命種族なうえにロクな知識のない猿が……っ。後悔しても遅いわよ!」


 とりあえず。2人に加えて取り巻き連中も戦闘態勢を取り始めた。ようやく全員のヘイトを俺に集めることに成功した訳だけど、こっちとしては殺さないようにするのに一苦労しそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ