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#5 とうとう気付いてしまった

「あ、あの……そんな事を知ってどうするつもりなのですか?」


 俺の問いにおずおずといった様子で手を上げてくれたのはルーアだ。

 黒く長い髪は、本来であれば艶やかでとてもとても美しいストレートロングだったんだろうけど、ここでの生活が長いのかぼさぼさで見る影もなく、人付き合いが苦手なのかここに至るまでにひどい目に合ったのか、誰とも視線を合わせようとしない黒い瞳はわずかに影を帯びている。

 すらりとしてて幼いがゆえに凹凸は少ないながらも、なかなかの魅力を持っている。この娘も5年もすれば確実に化ける。


「決まってんじゃん。ここを出るために邪魔だから排除すんだよ」

「ええっ!? そんなの――」

「うるせぇぞクソガキ共!」


 ルーアが何かを言ったみたいだけど、その声量を超える怒声と金属――この場合は鉄格子を何かでぶっ叩いただろう甲高い雑音がすぐ近くで叩きつけられ、俺以外の全員がビクッと肩をすくませて恐怖に顔を歪めながら壁際まで逃げ出した。

 とりあえず敵の規模を知るまでは従順でいようと文句も言わずに視線を横に向けてみると、そこには短く刈り上げた茶髪に垂れ目。頬に傷のある20代くらいの下衆そうな男が、こっちよりは上等な麻の服に革鎧。手には鈍い輝きを放つ刃こぼれの酷いショートソードが握りしめられている。きっとあれで鉄格子を殴ったんだろうな。もったいない。


「おいおっさん。ここはどこだ?」

「ヘッ。さすがに剣の真似事なんかしてやがるだけあって随分と気が強ぇな」

「これって奴隷じゃねぇのか? そんな契約をそっちと結んだ記憶はねぇぞ」

「馬鹿が。契約なんざ隷属魔法さえ使えばテメェ等の意思なんざ関係ねぇんだよ。道のど真ん中で金になりそうな剣放り出してぶっ倒れてた自分の不幸を呪うんだな。きひひ」


 それで説明は終わりとばかりに、垂れ目男がこっちに向かって何かを放り投げて来た。

 受け取ろうかどうか一瞬迷ったけど、さすがにこの距離でそんな事をすれば異常に気付かれて増援を送り込まれる危険があるから黙って地面を転がるのを観察する事にした。

 真っ黒でかなり堅そうだ。石炭っぽい見た目ではあるけど、落ちた時の音は凄く軽かったし、妙に跳ねたって事は柔らかいのかなぁとか考えていると、ペルがそれにかぶりついた。どうやら食料らしいな。他のメンバーも次々にそれにかぶりつく。ちゃんと手が使えないフリとしていつも通り――それこそ獣のようにむさぼる。


「へへへ……どうしたよ。テメェも喰えよ」


 なるほど。どうやらこいつは己より弱者に位置する女の子達が卑しく地面に額をこすりつけるように食事をする姿を見て興奮する特別な性癖の持ち主らしい。さっきまで眉間にしわを寄せて腹立たしくしていたのに、今では目をらんらんと輝かせて気色悪い笑みを浮かべながら股間を膨らませながらよだれを垂らしてる。その目的はどうやら俺。一応男なんだが見た目だけは女っぽくも見えるからな。さすがに男色で無いと信じたい。

きっと生意気な俺が地面に落ちた何かに喰らい付くのを今か今かと待ちわびてるようだけど、そんな気色の悪い趣味につきあってやるほどお人よしじゃない。それに。こんな汚い地面に落ちたモンを食って腹を壊したくないし超絶不味そう。


「必要ない」

「……チッ!」


 思い通りにならなかった事に垂れ目が舌打ちをしたものの。中に入って来て暴力を振るうとか無理矢理口の中にねじ込むと言った事をしてこないままどこかへと去って行った。どうやら歩き回っている反応の正体がアイツで、こうして食い物? を配って回っているようだ。

 とりあえずこのやりとりで分かったのは、ここに居る奴隷達に一方的に契約を結ばせたけしからん魔法使いと、あの垂れ目の異常者。それにこれはあくまで未確定だけど、それらを統べる男がいるかも知れないという事。

 扱いが酷いといっても、こっちは奴隷でいわゆる商品だ。自分で言うのもなんだけど、見た目だけは同室の連中を圧倒するくらいのかなりの美形だからな。それに傷が付けばそれだけ価値が下がる。そんな行為をしてしまったら、あいつがリーダーじゃない限りは首が飛ぶだろうからね。まさに金は天下の回り物――ってな。


「うみゅぅ……ぜんぜんたりないのだ」

「おなかすいたにゃ~」

「もっとたべたいにゃう」


 ソフトボール大のそれだけでは育ち盛りの少女達を満足させるには到底足りる訳がないか。特に幼い獣娘3人が、俺の前に転がるそれに視線をロックオンしたまま動く気配がない。こっちとしては別にくれてやっても何の問題もないんだけど、さすがに食中毒の危険性を考えればいい選択とは言えないよな。


「そうだなぁ……絶対に騒いだりしないって約束するなら、とびっきり美味しいモノを食べさせてやるぞ」

「おいしいものなのだ!?」

「しずかにするにゃ!」

「りょーかいにゃう!」


 美味い物と聞いて、あっさり大声を出した3人の尻尾が嬉しそうに左右に揺れるもすぐに騒いだ自覚があって口を塞いだけど、いつまでたってもさっきの垂れ目が近づいてくる気配がない。どうやらどうやら飯を配り終えたらしく、そいつはここから少し離れた場所から動く気配があまりないようなので、しばらくは自由に出来るだろう。


「よし。ほいじゃあ少し待ってろ」


 まずは綺麗な布とまな板を創造っと。


「えっ!?」

「どうして?」


 ルーアとシリア2人がなぜか信じられないものを見たような驚きをしたけど、今は飯を作るのが先だから質問は後回しだ。聞かれても無視する方向です。

 さすがに一発でぶっ倒れる程魔力は持っていかれなかったから、続けて食パンにレタスにトマト。3人娘のリクエストで肉が欲しいとの事なので、薄切りハムと俺が好きだからチーズも追加。それにマヨネーズを塗って具材を挟めばあっという間にサンドイッチの出来上がり。

 食材の量はおよそ20人前で、消費したMPは現在量の1割にも満たない。取りあえずまだまだ創造できそうで一安心だ。


「真っ白で柔らかいパンなのだ」

「これがにくにゃ~?」

「もうたべていいにゃう?」

「ちょっと待った。手を綺麗にしてからだ」


 今にもサンドウィッチに突撃しそうな3人に、ウェットティッシュで手の洗浄をさせる。もちろん年長の2人にもだ。


「良し。食え食え」


 俺の一言を合図に、獣娘3人衆が山と積まれたサンドウィッチを手に取って一口。


「う! まいのだ」

「お! にくにゃ」

「さ! いこうなのにゃう~」


 久しぶりの人らしい食事に3人が俺との約束を一瞬忘れたようだけど、飲み込むようにかぶりつくので続きの言葉の音量はほとんどかき消されてくれたが、年長2人も同じくらいかそれ以上に腹を空かせてるはずなのになぜか取ろうともしない。


「どうした? 別に毒とか入れたりしてないからお前等も食べろよ」

「ま、まずは3人が食べからで」

「栄養は子供の成長に必要。あと獣肉は嫌い」


 なるほど。つまりは今ここにあるだけが食料の全てって思っているから、3人に少しでもお腹いっぱいになってもらおうと我慢してるって訳か。美少女の上に健気だだなんて……おじさんの緩くなった涙腺になんとも甚大なダメージを与えてくれる。


「食材はまだあるから気にすんな。肉が苦手ってんならお前には野菜サンドを作ってやるよ。ちなみにこのパンは食えるのか?」


 差し出したパンに対し、シリアは顔を近づけて鼻を数回鳴らしてすぐに頷いた。どうやら乳製品はいけるようだ。まぁ駄目だったらそれらすら使わないパンを使えば済む話なんだけどな。生前の飯の情報量を甘く見るなよ?


「なら作るとしますかね」


 次々に食パンや肉類を創造してサンドウィッチを作って見せると、ようやく納得してくれたのか2人もツナサンドや野菜サンドを食べ始めてくれたんで、後はフルーツジュースや冷たい水なんかをそれぞれに振る舞ってから鉄格子を捻じ曲げて脱出。

 同じように、いくつかある牢屋にも侵入して同じようにサンドイッチと飲み物を振る舞う事を忘れない。ここで魔力をケチったりなんかして騒がれると、色々と面倒な事態に発展しそうだからちゃんと大声を出したりするなよと言い含めて全員に賄賂として配りまくった。全体的に有望そうなのは3割くらいだったのにはちょっとがっかり。


――――――――――


「はふぅ……もうたべられないのだ」

「おにくうまうまだったにゃ」

「しあわせにゃう」


 満足そうにお腹をさすりながら寝転がる3人娘を、年長2人も満足そうにしながら冷たい水を飲みつつ嬉しそうに眺めている。

 他の牢屋の中も久方ぶりのまともな食事に大体同じような光景を見る事が出来る。これで十分すぎる程の恩を与えたはず。これであれば俺の指示にも的確に――ってのは難しいだろうがある程度は素直に従うだろうからそろそろいいだろう。


「さて。それじゃあ代金として連中の規模を教えてもらおうか」

「っ!? ど、どうしてもやるんですか?」

「当たり前だろ。いつまでもこんなカビ臭い場所に居てられるかっての。ついでにお前等も逃がしてやるから感謝するんだぞ」

「ありがとなのだ」

「嬉しいにゃ」

「優しいのにゃう」


 一応なりとも六神達に対する迷惑行為をしなくちゃなんないからな。いつまでもこんな辛気臭い場所でだらけている訳にはいかないし、どうせならもっと豪華で大人の女性を侍らせながらの方が何倍もいいに決まってる。


「手伝う?」

「いいよ。たぶん俺1人の方がやりやすいし」

「じゃ。教える」


 ルーアの代わりにシリアが教えてくれた情報によると、奴隷契約を結ばせる火属性の魔法使いとさっきの垂れ目の他に、戦士系が5人に盗賊系が3人。売り捌く為の商人が1人に馬車の御者が1人の他に、連中のリーダ格らしい身なりのいい雷属性の魔法使いの貴族が3日に一度のペースで訪れるらしいが、昨日来たばかりなので問題はないと言っていたが、そういうまさかがこういう時に限って起きるいわゆるフラグっぽい発言なので一応気を付けてかかろう。

 他の牢に捕らえられていた奴隷達から得た情報を統合しても、シリアとほぼ変わらないのでまず間違いないはず。


「それにしても……」


 ふと疑問に思った。奴隷って割にはどこの牢屋にも子供――しかも女の子しかいなかった。幼女専門の奴隷売買業者なんだと考えるなら、どうして男の俺がこの中に混ざっているんだろう。一応女顔っぽく見えるけど、服を剥ぎ取った時に一物を見ていない訳がないのに。

 そんな疑問が頭に浮かんだから確認の意味も込めて袋服を捲ってみると、流石に転生前のサイズの物がそのまま取り付けられているとは思っていなかったからそれ相応のサイズがあると思っていたのに、見える限りだと股間には何にもついていなかった。


「ん?」


 見えないなら探すしかない。前から手を伸ばしてお尻の方まで探りを入れてみても、何のとっかかりもない。これはつまりどういう事だ? 最初からなかったのか? それとも魔法かなんかで俺が女の身体にさせられたのか? 戻せるのか? ええい! 答えなんて分かる訳がないからできる事をしよう。


 まずは……ここの連中がやったかどうかを聞いて回るとしよう。

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