表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/357

#48 名付けにお呼びでない? こりゃまた失礼しました。

「けぷ……っ。まだまだ食べるのなの」

「やれやれ。もう驚かないと思っていたんだけどな。それと飯はもうない」

「じゃあもういいのなの」


 満足そうにソウルイーターは『お腹』をさすりながら横になっている。その『表情』は非常に幸せそうだ。

 さて。なんで俺がこう表現しているかと言うと、ソウルイーターが完全に人の形となっているからだ。

 腰まで届くロングの黒髪。クリっとした大きな瞳は普通の目とは色が反転していて、黒目の部分が白く。白の部分はその逆と言った感じ。

最初に見た時はすらっとした足は完全に幼児のそれにとって代わり、パッと見た感じは5~6歳と言ったところ。それが真っ白なワンピースを着て草原に寝転がっている。漫画を読みながら。

 こんな事になった発端はほんの些細な出来事。

 遅めの夕飯を食べた後。ソウルイーターがどうしてここに居るのかを聞くと、何でも関西骸骨を倒した時に所有権がなくなり、もっとおいしいご飯が食べたいからと一番近くにいた俺と契約をしようと神の部下の転移で一緒に地上に戻り、馬車にかじりついてついて来たらしい。

 そうして俺が手に取ったタイミングを見計らって、一方的に所有者として契約を結んだとの事。

 しかし。そんな勝手な事をしたせいで剣としての力はほぼ失われ、剣みたいだったサイズが短剣にまで小さくレベルも1になってしまい、あらゆるステータスが激下がりしているらしい。体形もそのせいらしい。というか剣にもレベルってあったんだな。

 そんな話の途中で、もう食べる物がないと聞くとすぐに眠ってしまったので、俺達もその日は眠る事にした。ちなみに寝床は俺の部屋だ。この時はまだ剣だったんで、幼女好きは何も文句を言う事はなかった。

 翌朝。いつもより少し遅めの起床をし、全員で朝食を済ませてさぁマリュー侯爵の所に戻ろうとしたところで問題が発生した。


「喋る剣って、おかしいよな?」


 何気ない一言だったけど、これには全員が納得してくれた。

 歴代の勇者などの中には、会話ができる剣を所有していたなんて話がのこってるらしいけど、それはあくまで〈念話〉の一種であり、こうして普通に会話ができる剣の話は聞いた事がないらしく、そんなものを持って帰れば物珍しさから買い手が現れるかも知れないらしい。

 俺としては金銭に何の魅力も感じないので別にどうでもいいんだけど、これを聞いたいソウルイーターが俺にかじりついて離れたくないと大泣き。売る気はないと説得するのに時間を食ったが何とか分かってくれた。

 なら街の中では喋るなと言ったところで、声色やその振る舞いからこいつは幼女だろうとすぐにわかったから、きっと美味しそうな屋台なんかを発見すればすぐに買ってと言ってくるのは目に見えている。

 どうたしたもんかいのぉと頭を悩ませていると、アニーがぽつりとつぶやいた。


「人間と分からん姿になれたらええんやけどな」


 そんな馬鹿な力がある訳ないだろうと笑いあっていた俺達の目の前で、ソウルイーターがあっという間に幼女となって、力を使ったからお腹がすいたと食い物を要求し、冒頭に至る訳だ。


「で? 何だってお前は人の形を取れるんだ?」

「うーんとね。あちしの身体はグニャグニャできる金属で出来てるってましたーが言ってたのなの。でも弱っちくなっちゃったからこの大きさが精一杯なの」

「グニャグニャに出来る金属?」

「そうなの。せーしきめーしょーっていうのは難しいから忘れちゃったけど、そういう物だってましたーが教えてくれたのなの」

「知ってるか?」


 我がパーティーの知恵袋たるアニーに問いかけてみると、しばらく考え込んだが知らないとばかりに首を横に振った。

 ましたーとやらについても一応尋ねてみたけど、当然ながら名前ではないだろうとの判断が下されたが、喋れて人にもなれる剣を作り上げる程の人間は過去には居たかもしれないが現代には存在しないだろうとも言ってきた。


「まぁいいか。とりあえず俺がいいというまでその姿でいろよ」

「わかったのなの。ごしゅじんさまのいう事はちゃんと聞くのなの~」


 さて。こうなると待っているのがあの地獄という事になる。


「ほんなら名前を付けてあげんといかんな」


 気が付けばソウルイータを餌付けしながら抱きしめているリリィさんの発言に、全員が賛同した。

 いちいち剣にしたり人にしたりすんのはその度に飯を作らされるって考えると面倒くさい。なので永遠にこのままでいてもらおうと考えると、さすがにソウルイーターって呼び続ける訳にもいかないし、何より本人を含めた全員がその名前が可愛くないと言ってくるし。

 という訳で本人を前に全員での名前会議が始まる。切り込み隊長は俺だ。


「魂子でいいんじゃないか?」

「「「「却下。可愛くない」」」」


 あっさり俺は戦力外通告を受けました。それにしたって全員で言わなくてもよくないか? 俺だって女の子っぽい名前を考えて発表したって言うのに……黙って飯作ってろなんて言われた。俺ってこのパーティーのリーダーのはずなのに、扱いが酷いなぁ。

 ぶつくさ文句を言いながらも4人は白熱した議論を重ね、あっという間に1時間が経過したころ。急に騒がしさがなくなったので振り返ってみると、全員が満足そうな表情を浮かべていた。


「ほんなら、あんたの名前は今日からアンリエットや」

「わーいなの。あんりえっとなのあんりえっとなの~」


 どうやらアンリエットと言う名前で決まったらしい。嬉しそうに自分の名前を連呼しながら俺に抱きついてきたんで頭を撫でてやると、えへへ~と頬ずりをしてくる。随分と気に入ったようで、こっちとしては喜び3割悲しみ5割。残りの2割は鼻血を流しながらこっちを見ているリリィさんへの恐怖だ。


「うふふ……可愛い美少女が抱き合っとる……天国や」

「……名前が決まったならさっさと街に戻るとするか」

「……せやね」


 とりあえずリリィさんは無視だ。ああなったらしばらく戻ってこないから、俺とアニーで出発の準備を始める。その間にユニにはアンリエットの子守を頼み、コテージを片付けたり馬車にいくつかの魔物素材を木箱や樽などにぶち込んでアリバイ工作を施しておく。


 ――――――――――


 行きと違って帰りは目的地がハッキリとしていたし、何よりいつもの馬車であるというおかげで地面の起伏に対してもサスペンションやゴムタイヤなんかが衝撃を吸収してくれるんで、お尻に何の問題もないから、行きの倍近いの速度だったおかげもあって半分の時間で到着。門番に侯爵の依頼書を見せるとほぼノータイムで通してくれたんで、このまままっすぐ商人ギルドまで突き進み、依頼書を見せるとすぐに奥へと案内され、馬車に積んでおいた分と魔法鞄(ストレージバッグ)に入っていた分の清算をしてもらっている。

 その間。俺達はマリュー侯爵にスタンピード解決の報告をしてさっさと帰ろうと思ったんだが、中庭でのティータイムに付き合わされた。ちなみに座っているのはマリュー侯爵と、その対面に俺。その俺の左右にアニーとリリィさんと言った感じだ。

 ユニとアンリエットはこういう場に相応しくないんで置いて行こうかとも思ったけど、騒がれると面倒なんで少し無理を言って庭で遊ばせてもらって、主にアンリエットがはしゃいでいる。


「ダンジョンはどうでしたか?」

「余計な邪魔が入って非常に疲れたな。とはいえしっかり掃除は終わらせたから、後は侯爵の努力で冒険者が頻繁に出入りするようにすれば問題はないんでないか?」


 回収してきた魔物素材でおおよその強さってのが把握できるだろうから、ギルドとしてもどの程度の冒険者を向かわせればいいのかの指標になるからな。


「そうですか。それにしてもこれほどの素材を持ち帰ってくれるとは思っても見ませんでした。買取金額は上乗せさせるように言っておきますね」


 侯爵がリストを見ながらそう呟く。

 そんなものが必要なのか分からんかったが、アニーとリリィさんはそうせぇへんと中抜きされるんやと力説。俺としては別にされても問題ないんだがそこは商人の2人だ。戻って来るまでの道中で馬車の半分を占め、魔法鞄の容量限界ギリギリまで詰め込まれた量は、最近の冒険者100人分くらいに匹敵するらしい量のリストをキッチリ書き切っていた。


「その辺は恩を売る為にやった事なんで。市場価格の10分の1くらいで売却します」

「あら。こちらとしては嬉しいけど、貴女が勝手に決めていいのかしら?」

「構いまへん。あて等は今回ほとんど何もしとりまへんので」

「それに、これで侯爵様の顔覚えもようなる思えば安いもんですわ」

「うふふ。アニーさんにリリィさんね。ちゃんと用意しておくわね」


 これでアニーとリリィさんは、侯爵の領地での商売がグッとやりやすくなったらしい。俺には商売の何たるかはよく分からんが、余程のあくどい商売でない限りはいろいろと便宜を図ってもらえ、いくつかの税についても減額が約束されるようになるらしいんだとよ。

 別に金については俺が無尽蔵の財布みたいなもんだから別にいいんじゃないかって思うけど、これはこれ。それはそれらしい。


「さて、約束の勇者の件だったわね」

「ああ。侯爵が知ってる限りの情報が欲しい。包み隠さずだからな」

「約束だから教えるけど、なぜそこまで勇者の情報にこだわるのかしら?」

「個人的事情だからそこまで教える義理はないな」

「ちょ!?」


 俺の発言に周囲の騎士達が一斉に殺気を放ち、アニーが慌てたように口を開こうとしたが、俺がさらに強い殺意でもって周囲を脅せば一発で事足りる。既に俺の強さを身をもって知ってる連中はこの場には居ない。いわゆる敵前逃亡って奴かね。ちゃんと治してやったんだから礼の一つくらいしろよなと言いたくなるが、野郎のはノーサンキューだ。


「では1つだけ聞かせてもらいます。勇者に害を及ぼすつもりはありませんね?」

「こっちからは手を出さない事を誓ってもいいけど、あっちが仕掛けて来たりしたら問答無用で細胞の隅々にまで誰に逆らったのかを教えてやるが?」


 もしかしたら殺すのが一番手っ取り早いのかもしんないけど、それだと相手側がそれほどぎゃふん(死語)と言わない可能性が高い。何せ地球の人口は70億以上。替えは相当居るからな。むしろ半殺し程度に留めて、神器を横取り40万したりする方がよっぽど六神達をぎゃふん(死語)させる事が出来るだろうから。


「ならいいわ。これが、私の知る限りの勇者の情報よ」


 マリュー侯爵の合図で執事の1人が丸められた羊皮紙を手に俺のそばまでやって来たのでそれを受け取り早速中身を確認すると、そこに描かれていたのはやっぱりあの短絡ガキの顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ