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#47 仲間になりたそうにこちらを見て? いる。

 〈万能感知〉で位置を確認してみると、立っているのはダンジョンの入り口から少し離れた場所。相変わらず台風直撃みたいな暴風が吹き荒れているし、満天の星空が夜である事を知らせてくれる。


「うん。どうやら夢じゃなかったみたいだな」


 俺の手には〇トの紋章みたいな神器であろう物と、2リットルペットボトルくらいのサイズの微塵の役に立たないであろう銅製のトロフィー。何か特殊な効果があるかも知れんから、後でアニーに〈鑑定〉してもらっとっか。

 そんな事を考えなら普通に角からひょっこり顔を出してみると、入り口近くで右往左往している3人を発見した。


「ただいま~」

「っ!? アスカ! 無事や――」

「主っ! ご無事で――」

「ギャアアアアアアアアア!! なんでそないにドレスがボロボロやねええええん!!」


 声をかけるなり、アニーよりもユニ。ユニよりもリリィさんの悲鳴が夜も更けた風の谷に響き渡った。心なしか、それが響いてる間だけは風力が弱くなってたように感じたなぁ。


「いやーちょっと奥の敵に苦戦してねぇ」

「主が苦労するほどの相手とは……いったい何者だったのですか」

「四本腕の紫骸骨だったな。名前は知らんがアニー達と一緒の言葉遣いをしてたな」

「「えっ!?」」


 おや? 今の反応を見る限り、どうやらあの関西骸骨に心当たりがあると見た。まぁ……大して興味もないんでさっさと別に話題に切り替えるけど。


「アニー。ちょいとこれを〈鑑定〉してくんないか?」

「なんやこれ? 変な形した器やなぁ」

「俺もよく分からんからアニーに任せるが、とりあえずここから離れてからな」


 ダンジョン攻略の最中に空はすっかり暗くなり、完全に日が落ちていたからな。〈時計〉を確認してみると現在時刻は25時を回っている。確かに予想以上に時間を食った自覚はあるけど、さすがにこうなるまで掛かるとは思わんかった。

 関西骸骨と戦っていたのはおおよそで30分。最下層に到着した時間を考えるとおかしなくらい時間がかかってるし、アニー達に聞いてみたら入り口前で見えない結界に3時間近く捕まっていたらしい。

 あそこはまるで、精神と○の部屋みたいな状態の場所だったんだなぁと思いながら、エルグリンデに戻ろうと馬車に戻ってみると、竜巻に巻き込まれたのかと言いたくなるほどのボロボロの無残な残骸となっていた。


「うわお。風の谷ってのは随分と危険な場所なんだなぁ」


 それを見たアニー達の表情は一様に怒りに染まっているが、俺は犯人に心当たりがあるので平然としていた。別にこの程度の物だったらまた作ればいいだけだし、この辺りなら〈万能感知〉にも人の気配も魔法による見られてる気配もないから問題ないから。


「んな訳あれへんやろ。魔物避けの香もたっぷり焚いたんやからそれはありえへん。普通に考えたら人がやったんや思うわ」

「魔力の残滓を感じますから人の手でやられた思うわ。こんな場所に来るんは冒険者くらいなもんやから、帰ったらギルドに抗議せなあきませんね」


 このボロボロ具合は刀を振った時に出来るあのスキルで間違いない。きっと俺に直接仕返しが出来ないからこんな手段を取ったんだろう。これだからガキは短絡的で困る。こんな事をされたってただただ暴行の威力を上げるだけだというのに……。


「確かに人間の匂いが残っていますね。数は……6です」

「ならあん時に会った自称勇者連中だろうな。あいつらもそのくらい居た」

「どないして勇者が来ないな事しますのん?」

「負けた腹いせじゃないか? それにあくまで自称だから偽物かもな。本物ならこんな事しないだろうからな」


 ま。ちゃんと馬車として形が残っているだけでも御の字だろ。この辺りはきっとあの少女騎士達が色々とくれてやった恩を仇で返さなかったという事にしておこう。


「何ちゅう奴等や。そんなんが勇者名乗ってええんかいな」

「さぁな。その是非を決めるのは偉い奴だからな。駄目なら死刑か鉱山奴隷になるだけだ」

「はて……しかしその連中はどないしてこんなダンジョンに来たんやろか」

「神器とやらを取りに来たと言っていたな」

「神器? 何やそれ」

「これだ。ちょっと調べてみてくれ」


 取り出したのは某〇トの紋章。それを〈鑑定〉持ちのアニーに渡して本物なのかどうかを確かめてもらう。


「……確かに神器いう結果は出たんやけど、それ以外に何も分からへんなんて初めてや」

「別に何でもいいんだよ。それが本物の神器って分かればな。ところでもう1つの方はどうだ?」

「こっちはトロフィー言うもんらしい。銅製で大した価値もないんやけど、なんかよぉ分からん記号が並んどって解読でけへんねん」

「なら後で紙にでも書いておいてくれ。まずはここを離れようや」


 ささっとボロボロの馬車を壊し、これは焚火の火種として有効活用。パパッと新しい馬車を創造して、この暴風の影響が届かないであろう場所まで20分くらい移動した俺達は野営の準備を始める。

 既に夜もかなり更けてるから入り口は閉ざされてるだろうし、アニー達も何の文句も言わずに手伝ってくれるからその答えはきっと間違ってないんだろう。

 さて。俺達の野営は他の冒険者連中と違って非常に豪華で安全性が高い。何故ならただマントでくるまって寝てる訳もなく、魔道具であるコテージを使用しているからだ。

 エルグリンデに向かう際の何度目かの野営の時。いちいちテントをたてるのが面倒だからと〈品質改竄〉をした結果。何とか創造する事が出来た。

 そのおかげでその日は昼まで魔力欠乏で意識がぶっ飛んだ挙句に、全員から色々と文句を言われた事で少しへこんだけど、今じゃそんなのはこれがどれだけ便利な物なのかを知らなかった無知ゆえの事だと気にしていない。それほどまでにアニー達がこれが気に入った証拠でもある。

 コテージのサイズは、外観的にはユニも入れないほど小さく、電話ボックスみたいな内部に扉が6つあるだけのこじんまりとした玄関っぽいが、そこから先は空間魔法の力によって1人一部屋――おおよそで2LDK風呂トイレ別くらいのサイズがあり、中はこの世界ではどんな高級宿でもあり得ない低反発のベッドに枕に羽毛布団。冷暖房完備に水洗のトイレに風呂付き。これで文句なんて出るはずがない。

 外では、ユニが寝ながらも警戒できるらしいから交代のために起こされる心配もないし、万が一何かあれば〈念話〉で知らせてくれるから安全性はかなり高いと自負している。


「ホンマ便利やな。アスカのスキルは」

「まったくやわぁ。料理はおいしいし。馬車もお尻痛くならへんし。野営も警戒のために寝不足になる事もあれへん。こないに楽ばっか覚えてまうと離れられへんくなってまうな」

「そう思うなら携帯食を食ってテントで寝たらどうだ?」


 ダンジョンに向かうにあたって、なにも購入しないのは怪しまれると思って干し肉やドライフルーツと言った保存食に携帯食や、野営用のテントを人数分購入している。

 干し肉は多少獣臭いものの食べられないほどじゃないし、ドライフルーツも酸味が強いけどそれなりに食べられる。

 全くダメなのが栄養食だ。冒険者向けなだけあって非常に高カロリーとなっているが味を完全に犠牲にしていて、端的に言えばかび臭い木屑で作ったクッキーみたいな感じだけど、我慢すれば今日1日くらいならそれだけでもしのげる。


「「嫌や」」

「あっそ。ほんじゃあ今日は何を食う?」

「ウチは生姜焼きや!」

「あては魚がええですな」

「ワタシはダンジョンで十分に肉を食べたので甘い物が欲しいです」

 ――美味なる物を。

「……何でいるんだ」


 リクエストが見事にバラバラだ。まぁそれはいつもの事だから別にいいんだが、ユニの隣で何やら蠢いているソウルイーターが地面に文字を書いてそわそわしていた。


「うわっ!? 何やこの剣……」

「禍々しい気配がします。破壊しますか?」

「止めといた方がいい。痛い目にあうぞ」

「アスカはん知っとるんですか?」

「まぁな。とりあえず飯を作りながら話すよ」


 そんな訳で、皆と別れた後に宮殿の奥で赤の神の部下に、やり込み達成のために四本腕の関西骸骨と戦わされ、そいつの持っていた剣である事を説明しながらまずはアニーの生姜焼きが完成。後は常備してある寸胴から豚汁。土鍋からご飯をそれぞれよそってテーブルに置いてやる。


「はぁ……あて等と別れてからそないな事があったんですか。そら災難でしたなぁ」

「全くだ。まぁおかげでレベルが15になったから最悪だった訳じゃないけどな」

「それでどうしますのん。この剣」

「うーん」


 試しに柄を握ってみると、刀身が一瞬だけ光ったが別に襲い掛かったりしてくる様子はない。完全に餌付けに成功していると判断して問題ないだろう。今もアニーの夕飯に喰らい付きそうな感じでいくつかの歯が伸びているんで刀身をひっぱたくも、反撃してくる様子がないからな。


「こいつは使えるのか?」

「割と悪ぅない武器や思うで? それは〈自我武器(エゴ・ウェポン)〉言うてメッチャレアやし性能も折り紙つきや」


 曰く。〈自我武器〉とは武器自体に人格があり、所有者の命に従って魔法を放ったり形状を変化させたりと言った能力があるのだとか。

 そんなアニーの説明を聞きながら鯛のホイル焼きをリリィさんの前に。


「悪目立ちしたりするか?」

「どうやろ。普通にしとれば見た目はただの剣やし……大丈夫や思うで」


 とりあえずソウルイーターは大丈夫らしい。

 こっちとしてはあってもなくても問題はないんだけど、捨てて行っても付き纏い続ける未来しか見えないんだよなぁ……前例がいる訳だしさ。


「どうかしましたか?」

「いやなんでもない。お前……俺の武器になりたいか?」


 首をかしげるユニにクロカンブッシュを置きながらそう確認してみると刀身が折れ曲がった。きっと頷いたんだろう。

 続いてご飯が食べたいだけだろ? と続けるとこっちにもやっぱり頷いた。何でこうも俺の周りには食い意地の張った連中ばっかり集まってくるんだろうな。


「まぁいいか。じゃあお前は今日から俺の武器としてしっかり働け――よ?」


 俺の言葉に、刀身から出てきた歯が嬉しそうに笑った瞬間。刃渡り1メートルくらいだったソウルイーターの刀身が砕け散ったかと思ったらナイフくらいのサイズに。


「何が起きたんや!?」

「さぁ? 俺に合わせた大きさに変化したってところじゃないか?」

「大丈夫なん? 急に呪われて死んでまうなんて事んなってもうたらあてはその剣――今はナイフみたいやけど、それを粉微塵にしてまう自信がありますわ」


 躊躇いなくそう言い切るところがまさしくリリィさんと言ったところだが、幼女ラヴな性格を知る由もないソウルイーターは、ユニですら命乞いをするほどの迫力のある笑顔に恐怖したようで俺の背に隠れるように逃げ出した。


「落ち着けって。さすがにそこまでしねぇって」

「分かりませんやん。なんせ持ち主は骨やったんやろ? せやったら骨になってまうかもしれへんやん? あての可愛い可愛いアスカはんがそないな事になってもうたら……」


 瞬間――リリィさんの目から光が消えると同時にユニが逃げ出した。あまりの早業に普通だったら俺がとっ捕まえるくらいの余裕はあっただろうけど状況が状況だったから自然と土下座をし、アニーはハリセンで後頭部をフルスイング。


「目ぇ覚めたか? あんま脅したんなや」

「……すんまへんねぇ。どうしてもアスカはんが絡んでまうと自制が利かへんようになるんよぉ。せやから、アスカはんに変な事したら空きまへんえ?」


 ニコニコ笑顔で剣を脅すリリィさん。はたから見れば変な光景だが、その迫力に完全に刀身が震えまくってる。これで格付けは済んだだろう。


「さて。それじゃあ飯を再開するか」


 問題は解決した。俺としては別に小さくなろうが大きくなろうがどっちだっていいんでそれはスルーの方向で。

 とりあえずこいつも飯を食べるみたいなので、ダンジョンで食う予定だったが余ったサンドイッチを山盛り用意してやると、無数の歯が現れて一斉に食事が始まったので、しばらくはこれで何とかなるだろう。


「やれやれ。とんだ大飯ぐらいが加わったな」

「その分こき使ぅてやればええやん。ちゅうか飯を食う武器なんて初めて見たわ」

「あてもです。どないなっとるんやろ?」

「俺が知る訳ないだろ。本人に聞け本人に」

「いやいや。いくら歯があるから言うて喋れるわけが――」

「ふや? あちし喋れるなの」

「「「喋れんのかよ!!」」」

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