#46 トロフィーを獲得しました。 ~お掃除大好き~
口撃マウントを取ってすぐ、関西骸骨がやたらめったらに剣を振り回してくるが、雑な剣筋で振り抜かれるモンに当たってやるわけがない。
「ほっ。ほっ。ほっ」
「ぐぬぬ……ええ加減攻めて来んかい! いつまで避けてるつもりや!」
「とは言っても攻めずらいから仕方ないだろ。〈火矢〉」
「んなちゃちな魔法は効かん言うとるやろ!」
関西骸骨の攻撃は主にソウルイーターのみ。他の剣は数回の魔法で防御に特化していると分かったんで、こっちの攻撃がほとんど通じない。まぁ、こっちの主攻は魔法であって、剣で斬りこんだりマジ殴りとかはまだしていない。
理由は1つ。ソウルイーターの威力が未知数だからだ。
最初の一撃で床を砕くのではなくくり抜いたという事実が、どうにも二の足を踏んでしまう。あれで肉を食われたらすごく痛そうだし、何より一度食いつかれたら連鎖的に全身を食いつくされる気がしてならない。それほどまでにあの剣から飛び出す口の量は異常だ。歯並びは綺麗だけどな。
幸いにも射程がさほど長くないので、距離を取って戦えば何の問題もない。
「〈微風〉」
「ぐぬっ!? またそれかい!」
そして距離が詰まれば、不可視に近い風の壁で強引に距離を離す。これは〈火矢〉と違って質量が桁違い。そのおかげで剣一本で吸収しきるのは時間がかかるのだ。だから押し込める。
その隙に投石攻撃を繰り出してみるけど、ソウルイーターが飲み込む。
とはいえ、このまま同じ事を繰り返すのはただの千日手だ。アニー達もどこかで俺の帰りを待ってるっていうのに、これ以上は付き合ってらんない。あまり六神に連なる連中に手の内をさらけ出したくないんだが、まぁこのくらいならそこまで怪しまれんだろ。
「ふぅ。いい加減同じ事を繰り返すのも飽きてきたな」
「ほんならワイに殺されぇ。苦しまんようにさくっと殺したるわ」
「何言ってんだお前。死ぬのはそっちに決まってんだろ」
別に一度死んだ身だから死ぬことに抵抗はないけど、この世界でまだまだやりたい事はたくさん残ってるんだ。主に女性とお近づきになってムフフな展開になる事だけど、男ってのは往々にしてこんなもんだろ。
そんな訳で、さっさと終わらせるとしますかね。
「せぇ……のっ!」
「ええ度胸や」
床を蹴って距離を詰める俺に対し、関西骸骨が嬉しそうな声を出しながらソウルイーターを前面に突き出すと、俺に喰らい付こうと無数の歯が襲い掛かるが、その脅威が届くギリギリで足を止めると同時に〈収納宮殿〉へ手を突っ込んでいた腕を引っ張り出してそれを敵に向かって投げつける。
「……ッ!?」
「んなっ!? な、なんや急に……落ち着かんか! 一体何をしたんやワレェ!」
どうやら成功したようだな。これが駄目だったら日頃から無駄に作ってある石を顎が外れるほど詰め込んでやろうかと思っていたんだけど、やはりこういった物の方が反応はいいようだし、関西骸骨にもソウルイーターを御し切れる限界がある事も知る事が出来た。これならもっと簡単に勝利に近づける。
「ふっふっふ。剣よ……これが欲しいか?」
もったいぶって取り出したのは、このダンジョンに訪れる際に作っておいた軽食――つまりはサンドイッチやホットドック。
最初に疑問に思ったのは何度目かのソウルイーターの一撃が床や柱をえぐり取った時だ。妙に食いつきが悪いのを見て思ったんだ。あれ? こいつら味覚あるんじゃねって。
そう考えると、俺に向かって襲い掛かって来る速度や量もおかしく見えて来るし、柱を背に大分余裕をもって回避したりなんかした時の明らかな速度の減少はそれを決定づけるに十分な情報と言えるんじゃないかね。
という訳で、最後の調査として試したのが料理を食わせてみる事だった。結果は上々。今なおサンドイッチを持つ手を左右に揺らすだけで無数の歯が我先に喰らい付こうと関西骸骨の身体を引きずるように接近してくる。
こんな場所であんな関西骸骨と暮らしてれば、普通の飯すら食えないのは当たり前の日常に突如として現れたこの世の物とは思えないほど美味過ぎる物。食い付かないはずがない。
「ぐ……っ!? 何ちゅう手ぇ使ってくるんや。こないにアホなやり取りすんのは初めてや!」
「しかし効果は絶大だ。頑張んないと死ぬぞ?」
既に俺の料理の虜となっているソウルイーターを失えば、関西骸骨は自然と攻め手を失う事になる。相手もそれを知っているからこそ、必死になって離さんと踏ん張ってんだ。
もちろん他の3本の剣で対処できなくもないだろうが、俺が脅威と感じているのはあくまでもソウルイーターだけだし、他も強力な剣があるなら必死に制御しようとするよりもさっさと残った剣を使っているはず。
となると、あれさえなくなれば勝負はあっという間につく。ここが最後の戦いなのだ。サンドイッチ片手になのが関西骸骨の言う通り情けないけど、勝負は勝負だ!
「オノレは人を喰らうんが仕事やろうが! たかがパン切れに仕事放棄すんなや!」
「むっほー。美味い美味い。おや? あと1個になっちゃったなぁ~。食べちゃおっかなぁ?」
「ッ!?」
その言葉に一瞬動きを止めたソウルイーターではあったが、俺がサンドイッチやホットドックを食べ始めるともう止まらない。このままだと全てを食いつくされると思ったのか、完全に仕事より食事に重きを置いてしまったソウルイーターは、なんとすらりと伸びた女性のような足を生み出し、関西骸骨を軽々引き摺りながら悠々と近づいて来るので山盛り乗せた皿を遠くに滑らせると、そちらに向かって駆け出してしまった。
「ぬがががが!?」
「はっはっは~。思う存分食うがいいさ~」
バクバク食べ続ける剣に営業スマイルで次々に食べ物を与えながら、俺は剣を振り上げる。ワイバーンには通じなかったダマスカス製のバスタードソードだが、ここなら足場もしっかりしてる。さすがに断ち切れないって事にはなるまい。
「ま、まだ負けた訳やない!」
「そんな体勢で何ほざいてやがる。負けたに決まってんだろうが」
今更ソウルイーターから手を離し、立ち上がろうとしてももう遅い。いわゆる一つのチェックメイトって奴ですね。
「ふんぬっ!」
インパクトの瞬間だけ4割も開放した〈身体強化〉の付加された一撃は防御に回った3振りの剣ごとすべてを両断し、あれだけ苦労させられた関西骸骨はあっけない最期を迎えて、俺の中に経験値が入ってくる間隔があったけど、レベルアップにはまだまだ足りない。
長いようで短い――でもやっぱり長い戦闘が終わると、神の部下が見えるようになった。
「よくぞ勝利した。到達した者よ。これにて試練達成とする」
「そうかい。そんじゃあスタンピードは止まったのか?」
「然り。此度のスタンピードを起こそうとしたのはあくまで勇者への試練であり、それが済んでしまえばここは用無しとなる。人類発展のために残してはおくがな」
「そりゃよかった。じゃ、わざわざ試練とやらを突破してやったんだ。神器はもちろんもらうとして、それ以外にも何かいい物がもらえたりするんだろうな?」
「然り。それも我が主であらせられる赤の神より預けられている」
「……そうか」
ついつい対価を要求しちゃったけど、若干ながら嫌な予感がするんだよなぁ。赤の神とやらがどの時代のゲームをやっていたかによって随分とそれが変わるからだ。
昔のゲームであればきっとそれなりにいい物がもらえる気がするけど、最近のゲームってなると事情が変わる。
いつのころから現れ、やり込みの度合いを示す指針となった結果。今や標準装備となったと言っても過言ではないトロフィーだ。
あんなものを貰ったところで旅には――というか家の棚に飾る以外の使い道がないものを貰ったところで、どこかに定住するつもりは今のところないから完全に〈収納宮殿〉の肥やしにしかならない。出来ればそれじゃありませんように。
「では、これが赤の神より授けられる到達した者への褒美だ」
「うへぇ……超いらねぇ」
最悪だ。神の部下がどこからともなく取り出したのはもの凄く見覚えのあるトロフィーだった。しかもこんだけ苦労してブロンズかよ! まぁ……関西骸骨はともかくとして、道中はザコばっかだったからな。仕方ないっちゃ仕方ないか。
「どうした? 人族は赤の神を敬うものであるぞ。その神からもらたらされる褒美に何故喜ばぬ?」
「いや……まぁ。ぶっちゃけるとマジで要らねぇからな。受け取ったって事にして捨てといてくれ」
上手い言い訳なんか思いつかないし、何より相手が野郎だ。堂々と本音をさらけ出してその栄誉だけを受け取るだけにとどめておけば、あっちも一応報酬を渡したって言う大義名分が立つだろう。
「なんと罰当たりな!! 我が主からの褒美を捨てろだと!? 貴様自分が何を言っているのか分かっているのか! そのような事をすれば罰を与えられてしまうではないか!!」
「だって要らんモンはいらんし。第一、それは何にどう使えるのか説明してみろよ」
俺はいらないと言っている。しかし、六神の部下は上司である赤の神に叱られるから受け取れと怒鳴り散らす。ならば、俺がそれを受け取りたいようにするのがあっちの仕事だ。
「せ、説明だと? しかし我は勇者にこれを渡せとしか言われておらぬ故説明が出来ぬ」
「神の部下なんだろ。〈鑑定〉とか持ってないのかよ」
「この程度の試練の立会人にスキルなど持たせる訳がなかろう。そもそも我が主の褒美を受け取らぬと言った選択をするとは露ほども思っていなかったからな」
俺はそうは思わんけどな。あの馬鹿勇者がどの時代の人間かで変わるだろうが、俺と同じ時代の生まれであればまず間違いなく要らないと言うはずだ。何せ荷物以外の何物でもないんだからな。
まだ〈収納宮殿〉を持ってる俺ならそこにしまう事が出来るが、あいつはスキルのショボさを考えると、そう言った便利系のスキルは持ってないと思う。敬虔な信者とも言えない性格だから、まず間違いなく要らんと言うだろう。
「何だよ役立たずだなぁ。だったら何か別な物をおまけとしてつけてくれれば、仕方ないから受け取ってやるよ」
「何故貴様が上からモノを言うのだ」
「そりゃそうだろ。こっちは受け取らんでもなーんにも困んないけど、そっちは受け取ってもらわにゃ困るって自分で言ってただろうが。媚び諂えとまでは言わんが、そっちが下手に出るのは当然だろうが。馬鹿なのか?」
ここで我が動かねば外に出れんのだぞ? と脅して来ようモンなら、神器がなければ魔王討伐が不可能になって、お前の勝手な行動で赤の神に迷惑がかかって他の神連中からグチグチ文句を言われてよりしんどい罰を受けるんじゃないのぉ~? と脅――けほん。独り言をつぶやく予定だ。
「く……っ。ならば――」
「ああそうそう。俺ってばこの若さで白金貨数万枚持ってる金持ちだから金はいらんし、ダマスカスの剣とか持ってるから武器防具の類も必要ないし、現状に満足してるから貴族とか聖女とかに祭り上げられるのも反吐が出るんで」
「……」
完全に黙って苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。
どうやらそれらのどれかを褒美の副賞としてつける予定だったんだろうが当てが外れたな。その辺りの物は自分で自由に作れるし、もっとレベルが上がれば〈付与〉とかも大量につけられるようになるだろうからな。
それから30分。ピクリとも動く気配のない神の部下に持久戦でも挑まれてんのかと最初の内はラノベを読んで時間を潰していたが、ちらっと目を向けてみると顔を青くしながら脂汗を流してたんで、仕方なく助け船を出す事にした。
「最近レベル上げがしんどくなって来たんだよなぁ~。どこかの優しい神様の部下が経験値やスキルの融通してくれたりしないかなぁ~」
受け取る側が欲しい物を要求するのはおかしいだろうけど、こうでも言わないとあっちがいつまでも人形みたいに動かないんで仕方ない事なんだよ。こちとらアニー達をいつまでも待たせる訳にいかないんでさっさと終わらせて開放してほしいのだ。
チラチラと目を向けながら、わざとらしほど大きな声でそう告げると、真っ青だった顔に少しだけ精気が戻って来た。本当に手を焼かせる。
「それならばある程度は融通は出来るが……」
「ならそれで構わんのでさっさとやってくれ。それとも他に妙案でも浮かんだか?」
「本人たっての頼みであれば断れん。では受け取るがいい」
神の部下が、トロフィーと神器であろうどこぞの勇者の紋章みたいな物を放り投げられたので受け止めると、即座に足元に魔法陣が出現し、トロフィーから大量の経験値が俺の中に流れ込んでくるのを感じながら、久しぶりの地上へと舞い戻った。
――レベルアップにより〈品質改竄〉に新たなスキルが追加されました。〈薬品学〉
――レベルアップにより〈回復〉の性能か向上しました。
――レベルアップにより〈料理〉に新たなスキルが追加されました。〈レシピ閲覧〉
――新たなスキルを追加。〈獲得経験値上昇小〉




