#4 奴隷になりました
「いやぁ……どうしてこうなったかね」
俺は1人そう呟く。隣にいる犬耳少女は俺と同じボロボロの布袋に穴を開けただけのような服を着て不思議そうに首をかしげるが、特に説明するつもりもないんで呆然と窓から見える景色に目を向ける。
ま。ぶっとい鉄格子がこれでもかと突き刺さってるから、半分以上は鈍色だけどね~。
カビとホコリにまみれた空気はロクな掃除が行き届いていない為に、漂う悪臭とがっちりスクラムを組んで俺の鼻を破壊しようと猛然と襲い掛かって来るし、後ろ手に何故か他の連中より遥かにデカくてゴッツイ手枷で身動きを制限させられてる。
現状を説明しよう。俺は絶賛牢屋の中にる。もちろん自分から進んでそんな場所に足を踏み入れる訳がない。何せ俺は天国行きが決まっていたほどの善人なんだからな。
これは――聞くも涙語るも涙の悲しい物語である。
――――――――――
異世界に降り立った俺は当然。歩くなんてしんどくて面倒な選択を選ぶはずもなく、馬車か何かが通りかかるまで待機しつつ、駄神に刻み込んでもらったスキルの具合を確かめるために脳内で起動と呟いて、眼前にステータスウィンドウを展開する。
そこには名前やレベル。ステータスやスキル一覧なんかがズラリと出てくる。
〈身体強化〉のおかげかHP・MP以外の初期値がドエライ値を表示しているので、試しに小石を拾って軽く投げてみると、近くに居たスライムが地面ごと爆発するようにはじけ飛んだ。これならここで馬車を待ってても危険な目に合う可能性は皆無と判断していいかもしんないな。
この時間を利用して、一番必要としていた〈万物創造〉を起動させると、すぐに脳が焼き切れそうになるほどの情報が襲い掛かって来た。
「っぐ!?」
そのせいで一瞬だけ意識が吹き飛ぶほどの頭痛が駆け抜けた。きっと事前に〈身体強化〉なるスキルをオンにしてなかったらマジでぶっ倒れてたかも。あのクソ駄神が……こうなるって言っとけよな。
〈身体強化〉は、自分のステータスを10段階で変化させる事が出来る物で、確認してみると最低値の1段階目に設定されている。これでこの数値って事は、最大に設定したら一体どうなるんだろうな。殴っただけでこの星を真っ二つにでもしちまうかもな。
そんな事よりもだ。〈万物創造〉を使うたびにこんなんじゃハッキリ言ってしんど過ぎる。一覧じゃなくてカテゴリ別に表示するように変更し、一度に表示できる数も1000から10くらいに。
後は説明文なんかも必要な時に見えるように切り替えて、とにかく出て来る情報を最小限に。脳にかかる負担を抑えないと立ち上げるたびに脳が焼き切れるような痛みに襲われてたんじゃしょっちゅう使ってらんないっての。
「ふぅ……こんなモンだな」
そういう操作を30分ほど続けてようやく、俺にとって使いやすくて負担を最小限に抑えた表示を完成させた訳だから、試運転としてまずは武器でも作ってみる事にしよう。もちろんこの世界基準の物だぞ。ってかそう言った類のモンしか作れないように制限をかけさせたんだからな。
ウィンドウに触れる事でも操作できるけど、万が一にもそんな状況で人が通りかかったら怪しい人判定を受けて馬車とかに乗せてくれなくなるかもしれないから、思考操作で取りあえず武器一覧を表示するけど、何故かどれだけスクロールしても木刀以外はグレー表示されてる。何でだろうか。
しかし。そう簡単に魔剣や聖剣を造れるとは思ってなかったからこその〈品質改竄〉スキルの出番なのだよ。
このスキルは、MPを使ってあらゆる品物を高品質にしたり逆に劣化させたり自由自在にできるかなり便利なものらしく、木刀を選択すると品質1って表示が出たんでまずは10くらいまで品質を上げてみると、鉄の剣に変化した。
30にしたら銀。
50にしたらミスリル。
70にしたらオリハルコン。
90にしたら魔剣。
そして最高品質の100にしたら神剣になったが、あの駄神のクズっぷりがどうしても脳裏をよぎって雑魚剣っぽい空気を感じるんで、95に下げて聖剣にしておこう。
どうやら魔剣より聖剣の方が品質という意味では高いらしい。個人的には魔剣って響きの方が好きだけど、攻撃力とかを考えれば断然聖剣になるから、とりあえず創造してみよう。何事もチャレンジ精神は大切だ。
「う……わ?」
思考操作で創造をクリックした途端。心臓を握り潰される様な苦痛と天地がひっくり返ったと錯覚するほど視界がぐにゃりと歪んで、気付いた時には地面に倒れて指一本動かせない状況に陥っていた。
立ち上がろうにも全身から感じる地面の感触以外に頼れる物は無く、魂が抜けていくような気味の悪い違和感に、若干気持ちいいなぁなんて思ってそれに浸っていると、視界の端で青白く光る何かが落ちてるのが見えた。確認は出来ないけどきっと聖剣なんだろうなって答えを導き出したところで視界は真っ暗になって、気が付いた時には牢屋の中。そして冒頭のセリフへと話は戻るって訳だ。
「なぁそこの犬耳っ娘。ここってどこ? なんでこんな場所に俺等は閉じ込められてる訳?」
とりあえずは情報収集だ。別に地面に寝転がって犯罪になるなんて馬鹿げた法律がある訳でもなし。ほぼ確実に答えは決まり切ってるけど、これも形式上必要な事だしね。
「ここは牢屋なのだ。閉じ込められてるのはレト達奴隷が逃げ出さないようにするためなのだ」
「なるほどね。ここに居るのは全員奴隷って訳か」
「そうなのだ」
大方の予想通り。やっぱこいつらは異世界テンプレの1つである奴隷って訳か。そして同じ場所に居る俺も、あの場所で気絶してたのを偶然通りかかった奴隷商の連中にこれ幸いと捕まって放り込まれたんだろう。初日から何とも運が悪い。
それにしても……何だって俺はあの瞬間に気絶なんてしたんだ? 特に攻撃を受けた痛みもなかったし、あらゆる気配を感知できる〈万能感知〉の範囲に魔物は沢山いたが、視認できる範囲に限定すると、居たのはあのスライム一匹だけだった事を考えると、他に原因になりえるのはスキルしかないよなぁ。
すぐにステータスウィンドウを開いて一番の原因っぽい〈品質改竄〉のスキル詳細を開いて確認していく。あいにくと環境は劣悪だけど時間はたっぷりとあるから、のんびり読み進めていくとすぐに原因が発覚した。
どうやら〈品質改竄〉によって変化させた聖剣を創造する時にMPが足りなかったらしく、魔力欠乏症と言われる症状に加えて、不足分をHPで補填した事による急激な衰弱も合わさっての強制的な睡眠をとる事で、その二つを回復させたらしい。知らなかったとはいえ、よく死ななかったな。危うく転生数分で第二の人生も終了を迎えるところだったぜ。
よくよく確認してみれば、HPとMPが8割以上減って――この場合は回復していると表現した方がいいか。そして時間を知る事の出来る〈時計〉で確認してみたところ、ぶっ倒れてから約5時間が経過しているらしい。それでこの回復量って事は……〈回復〉はハズレスキルっぽいな。
とりあえずこの身に起こった事と置かれている立場を把握した。次は脱出するために行動するとしますか。いつまでもこんな辛気臭い所に居るのは精神衛生上よくない。
この牢屋には俺を含めて全部で5人の奴隷が閉じ込められている。全員例外なく可愛いのは非常に喜ばしいが、ちょーっと幼すぎるな。将来に期待しよう。
1人は質問に答えてくれた犬耳娘のレト。他には猫耳のペルとチカにエルフのシリアに同じ人間のルーアの合計5名。その全員が8歳~12歳くらいの幼い女の子だけ。少し考えれば大部分が小間使い的な労働力目的なのは漫画とかで学習済みだけど、同じく使い捨ての性奴隷になるのもラノベとかで学習済みなんだよな。
俺の審美眼で同室の5人を採点するならば、全員が間違いなく可愛いから高い確率で性奴隷になるんだろうなぁと思う。
戦国時代とかならいざ知らず、現代常識に当てはめればそれは即お縄な行為だ。ちゃんと成人すればどの娘も高いレベルでいてくれると思う。特にエルフのシリアは現状ですでに一部分がDくらいはあるから将来は有望だ。ロリ趣味はないんで是非とも10年後くらいに全員にお相手になってほしいもんだってのが俺の見解。
「なに?」
「いやいやなんでもない」
こんなハイレベルな美少女をどこの馬とも知らない脂ぎったおっさんが覆いかぶさるのは、男として羨ま――じゃなくて、許してはおけんな。
これは何としても1人でさっさと逃げだすより全員を安全無事にここから逃がしてあげて俺に対する好感度ポイントを稼いでおかねばならんだろう。これは将来のための投資である。
そうと決まれば即行動。まずは〈身体強化〉があるからゴッツイ手枷をあっさり引き千切ると、同室の奴隷達から驚きの声が上がるも、見張りとかに見つかりたくないから静かにするように言って聞かせ、幼いペルとチカとレトにも理解できるようにバレないようにしろと説明してから全員の手枷も同じように千切ってあげると口々に感謝の言葉を述べてくれたけど、まだそれを言ってくれるのは気が早い。
すぐに〈万能感知〉で人の存在について検索をかけてみると、それで知る事が出来る範囲だけでも実に100人近い反応が表示されるが、さすがにこれだけの数でたった5人の奴隷を見張るなんて馬鹿げた人の使い方はしないだろう。
それに、その反応の大部分は俺達同様狭い室内に押し込められている。まず間違いなく同類と判断していいとして、気になるのは敵の規模。一応1人が歩いているっぽいのでこいつはそうなんだとしても、さすがに1人ってのもおかしい。
「さてと。この中に、俺等を攫った連中の規模を知ってる奴いるか?」
ロリっ子ばかりを集めてる連中って事を考えると、きっと〈身体強化〉があれば後れを取るような事はないと思いたいけど、ここは日本じゃなくて異世界だ。魔法とかまだ見ぬ攻撃方法があるかもしれない相手に、正面から挑むのは情報が足りない。
まずは敵の規模を知らないと始めらんねぇ。