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#43 ゾンビと鞄と時々欲望

 ナガト達を見送った後。戻って来た時の為の罠を仕掛けてから下の階に降りると、意外な事に全員がその場で待機してくれていた。ちなみに今回のダンジョンはフローリング張りのいわゆる洋館設定。こんな場所での魔物となるとやっぱりゾンビとかゾンビとかゾンビとかが思い浮かんでしまうのは仕方のない事だろう。


「随分と遅かったやないか。それで? ユニの嫌な気配っちゅうのはなんやったんや?」

「ああ。勇者だったよ。本物かどうか知らんけどね」

「ええっ!? ゆ、勇者ってホンマにあの勇者ですか!?」

「落ち着け。相手の言葉を鵜呑みにするほど商人は馬鹿じゃないだろ? 勝手に名乗ってるだけか本物かどうかは俺には判断できん。証拠らしい証拠がある訳でもなかったしな」


 漫画やラノベで見て来た勇者は一騎当千の活躍が出来る。それは神から授けられるチート能力によるところが大多数を占めるんだけど、あのナガトの能力は明らかにショボすぎる。どう考えたって年頃の男であればもっとド派手で最強俺様TUEEEEEE! みたいな能力を欲しがるに決まってるんだが、ナガトって名前は日本人っぽいよなぁ。もしかしたら……神とやらから貰えたポイント低かったのかもしれないな。南無~。


「それやったら、何でこんなん時間がかかったんや」

「ちょっと護衛の綺麗な少女騎士達に見とれていてね。楽しんでいたらつい時間が……」


 全員が全員可愛くて綺麗って訳じゃなかったけど、ほっこりする感じで目の保養にはなった。本人を目の前にこんな事を言うと睨まれそうだけど、決してブサイクじゃない。のほほんと武士然とポニテのレベルが高かっただけだ。残りも十分可愛らしい容姿をしていた。ただの言い訳にしか聞こえない? 言い訳なんだから仕方ない。得てして容姿に関する説明は言い訳がましく聞こえると思うから納得させるのは無理!


「相変わらずやな」

「随分と余裕でしたなぁ。アスカはんらしいけど」

「主。戦闘中によそ見は良くないと思います」

「無事だったんだしまぁいいじゃん。とにかく、さっさと一番下まで行ってスタンピードを止めないとな」


 勇者のおかげで少しだけ時間を取られた。こういった面倒事はさっさと終わらせてのんびりと諸国漫遊するのが俺の性に合っている。

 と言っても、オレゴン村での混浴やギック市で夜の蝶達との酒宴を楽しむ予定なんで、それが終わるまではさほど遠くまで行く予定はないけどな。

 そんな感じで再びユニと俺達で分かれてダンジョンの踏破をする事になったんだけど、この階層の敵はやっぱりゾンビで、あっちと違って脳幹を破壊しないといけないのでここは主にリリィさんが活躍してくれた。


「〈火矢フレイ・アロー〉」


 無詠唱で放たれたリリィさんの魔法は、俺の時とは違ってその名前通りの炎の矢がゾンビの頭部に突き刺さり、ほどなくしてゆっくりと膝を折る。

 ちなみにドロップ品は瓶に入った毒々しい何かの液体。ハッキリ言って微塵も欲しくはないが、これも仕事だ。それはアニーに任せて俺も魔法でゾンビを狩っていく。決して触りたくないから他人に押し付けた訳じゃないぞ。


「なぁアスカ。こんなんまで拾う必要あるんか?」

「さぁ? っていうか商人なんだから、アニー達の方がこういった商品価値に詳しいはずだろ。〈鑑定〉も使えんだから利用価値とか教えてくれんじゃねぇの?」


 どのくらいの精度で調べられるのか知らんけど、少なくとも俺の〈万物創造〉の説明欄よりは詳しく書かれているはずってのがやっぱりテンプレのはず。

 そう確信する理由としては、ある時に俺が実験として作った品質の違うハイポーションをコッソリ忍ばせてみたところ、ビックリするくらいに怒られた。それはもう〈恐怖無効〉が裸足で逃げ出すくらいに本当に怖かった。

 あの経験によって、アニーの〈鑑定〉は品質的な物の詳細や効力の違いがかなり細かく調べることができると分かったからな。それで行けば、あの訳の分からん液体がどんな物なのかもすぐに分かるはずだ。文句を言うのはゾンビ液を拾いたくないからだろう。


「アホいうなや。こないな場所でいちいち〈鑑定〉なんかしとったらあっちゅう間にMPが無くなってまうわ」

「それに、あて等は日用品とか食材を主に扱っとるんです。たまに芸術品なんかも扱いますけど、魔物の素材なんかはそないに扱った事があらへんので詳しゅうないんです」

「だとしたって、商人ギルドに所属してんだから最低限の物価くらいは把握してるモンなんじゃないのか? 出先の村とかで買い取ってくれなんて言われるだろ」

「まぁそないな時もあるにはあるんやけど、冒険者もやっとらん狩人なんかはそういうのを大抵は服に使ぉたりしとるらしいから昔に1度あったくらいやろか」

「ん? って事は、こういう物の買取とかしないのか?」

「そんなんギルドやったり街な店武具店やっとる人間のする事や。ウチ等みたいな旅商人は街で仕入れた普通のモンを別の街で売る。それで得た資金でまた別な普通なモンを仕入れて、また別の街で売る。そうやって生計をたてとるからホンマに触らへんな」

「なるほど理解した。でも仕事なんで落ちてるモンはキッチリ拾ってくれ」


 アニーにとって無価値だろうと、侯爵にとっては多少なりとも価値のある物かもしれないからな。これは商売のための採取じゃなくて、仕事としての採取だから、選り好みなんてわがままは許されない。


「そう言うけど限度っちゅうもんがあるわ。この際やからあれや。魔法鞄ストレージバッグ作ってくれへんか? デタラメ人間のアスカなら出来るんと違うか?」


 魔法鞄。それは漫画やラノベで見る異世界転移・転生物で大抵出て来る超便利アイテムだ。もちろん〈万物創造〉と〈品質改竄〉のコンボでただのカバンがそれになるのは把握済みだが作っていない。

 だって俺には、そんなちゃちな物をはるかに凌駕する〈収納宮殿〉なるスキルを持っている。だから別に要らなくね? ってな感じで全く作る予定はなかったけど、これさえあればユニの背にどっちかを乗せて素材回収に充てれば、探索速度が倍に上がり、女っ気のまるでないダンジョンを一秒でも早く脱出できるようになるからな。


「それはいい考えだな。次にユニと合流した時に試しに作ってみるとするか」


 俺的に使えないと言っても魔法鞄はそこそこ品質が高い。つまりは馬鹿みたいにMPを食うしHPすら持って行かれるかも知れないからな。可能な限り安全な状況で創造したいからな。


「ホンマか!? さすがアスカやな。頼りになるわぁ」

「頼られるのは悪い事じゃないからいいけどな。こっちも情報を色々と貰ってる訳だし」


 当初。2人は道中を共に行くだけの単純な足代わりでしかなかった。

 しかしオレゴン村での防戦を機に仲間として行動を共にするようになった。

 それ自体は別にいい。問題なのは利益が一方的すぎた事。

 アニー達は俺の造り出すほとんどの物を欲したし、俺もレベル上げのためにあっさり提供したけど、あっちからもらう物に関しては何も欲しいと思える物はなかった。

 金も要らないし物もいらない。だからと言って与えるだけはこっちが納得しない。

 結果。それなりにこの世界の情報を手に入れる事が出来た。旅商人なだけあって色々と世界情勢に関する情報を持っていたし、ある程度の商品価値なんかも教えてもらったし、これからも有益な情報が手に入り続ける事を考えれば、まだ借金の方が多いけど、アニー達との関係は問題ないレベルでフラットといっていい。

 かなり傲慢で自己中心的に聞こえるけど、2人をようやく仲間として認める事が出来そうだ。


 ――――――――――


「さてと。それじゃあ試しに作ってみるとしますかね」

「とうとうか。待ってたで~」


 1時間後。だんだんと敵のリスポーン速度が上がって来てて思うように進めないし、この階層には安全ポイントがないからのんびり魔法鞄なんて作ってる暇がないんだけど、わざわざ上の階層に戻るのも面倒だし、マリュー侯爵にたっぷりと恩を売っておくためには、このくらいの危険を承知で今すぐに作った方がいいと判断した。第一、ここなら誰かに手の内を知られる心配がないからな。


「まずはサイズ――大きさだな。どのくらいのが欲しいんんだ?」


 そう言って〈万物創造〉の画面をアニーに見せる。地球でのショルダーバッグやリュックやウェストポーチなど、様々な鞄と分類されるものの一覧を見せては投げかけられる質問に対して可能な限り答えた結果。開閉がしやすく丈夫そうとの理由からランドセルに決まったので、早速〈品質改竄〉でぐんぐん品質を上げていくと80を超えたあたりでようやく魔法鞄と化したという枕詞がついた。

 そこに加えて(小)という文字。これに対してのアニーの返答は大体で麦袋(10キロ)が5個も入れば上等と言った感じらしい。ちなみに(中)だとその5倍。(大)だと更に10倍ってな感じで積載量が増えて行らしい。なので迷わずに(大)になる最高品質で創造。


「うお……っと」


 途端に襲い掛かる魂が抜かれるような喪失感。これは予想通りにMPだけじゃなくてHPすら持っていかれてる。この感覚は……久しぶりにヤバいぞ。


「アアア……」


 そんなタイミングに合わせたかのように、俺のすぐそばでゾンビがリスポーン。即座に攻撃しようとその腕をこっちに向かって振り上げる。マズイ……っ!?


「主に触れるなど百年早い!!」


ギリギリのところでユニがゾンビを叩き潰してくれたけど、さすがに今のは危なかったな。未だにHPが減り続けているとはいえ、いきなり聖剣を創造しようとした時は一瞬で気を失ったが今回はそうなってない。成功した可能性は高い。


「……ふぅ。危なかった」


 創造は成功。俺の目の前には黒いランドセルがちょこんと鎮座していた。そのおかげでMPは0。HPに至っては九割以上を持っていかれた。すぐにエリクサーを飲んで回復っと。


「スマンな。ウチが魔法鞄欲しい言うたばかりにこんな事になってまうなんて」

「全くだ。アニーのわがままで主に危機が及ぶなど許してはおけん」

「気にすんな。魔法鞄があれば堂々と大量の素材を持ち運びできて、俺のスキルの隠れ蓑になってくれるからな。それに、これについては俺も考えが甘かったんだ」


 そこそこ持って行かれる事は覚悟していたが、まさかここまでとは考えが甘かった。おまけにタイミングを見計らったかのようにゾンビがリスポーンして運悪く俺に攻撃を仕掛けてきた。これについてアニーだけを責めるのは酷だろう。


「しかし!」

「うーん……それなら罰として、この素材を入れ替えてもらおうかね。もちろん素手で」


 取り出したのはそう! 悪魔のGのドロップ品である羽だ。何の役に立つのかさっぱり分からんけど、素材は素材だ。ちゃんと持ち帰らないとな。特にアニーはこの素材に触れるのを極端に嫌がってたからな。十分に罰として成り立つはずだ。


「うげっ!? ホンマに触らんとアカンか?」

「ああ。そうじゃないとユニが納得しない」


 主の命として納得しろと言えば引き下がるだろうけど、同じ事を何度も繰り返せば不信感を募らせる結果になるし、それが原因で命令を聞かなくなってくると道中の移動も苦労するようになる。

 かといって、厳しすぎる罰を与えると今度はアニー達が離れて行ってしまうかもしれない。貴重な美少女と情報収集の場が失われる。それで考えればこのくらいが落としどころだろう。

 表情と態度を見れば十分に嫌がっているのはユニに示せるし、入れ替えも全体の三分の一ほどしか使ってないんで、まだまだ罰を与える事が出来るんだぞと知っているだろうからさほど無茶をしないと思う。後は――


「ユニ。俺を殴れ」

「へえっ!? な、なにを突然言い出すんですか!」

「何って、罰を受けるのがアニーだけってのはおかしいだろ。こっちも考えが甘かったんだし、罰を受ける理由としては十分だろうし、なにより俺がスッキリいしない」


 他人に厳しく自分に甘い。そんな考えを持たれるのはあまり好ましい事じゃない。

 痛い・苦しい・面倒くさいの3煩いを嫌う俺だけど、今回は両成敗って事でキッチリ痛い思いをしてけじめをつけなきゃなんないから、自分の非をキッチリ認める良識ある主と思わせるにはたとえ命令してでもやらせる事に意味があると思う。


「しかし……主に手を上げるなど」

「なんでぇなんでぇ。じゃあ俺だけが無罪ってのにお前は納得すんのかよ」

「勿論納得などしませんとも。しかし従魔であるワタシが主に手を上げるのは不可能です」

「ならアニーかリリィさんのどっちかでいい。武器で殴るか魔法を撃ってくれないか?」


 さすがに俺のステータスだと、2人に素手で殴られたところで逆にダメージを与えかねん。と言って〈身体強化〉を解除すると、レベルの低さと現状のHPから死にかねないんで、この辺りが落としどころだろう。

 という訳なので、はたから見ても殴られて痛そうって感じの武器をいくつか地面に転がす。


「そんなん急に言われても……」

「気にしないからバコーン! とやってくれや。そうじゃないと示しがつかんし俺もいつまでもグチグチ文句言われるのとか嫌だからな」

「ほんならあてがさせてもらいます!」


 どんと来いと言わんばかりの仁王立ちで待っていると。今まで沈黙を守っていたリリィさんが声を張り上げながら一歩前に進み出る。

 その行動にユニもアニーもビックリしたような顔をしたけど、どす黒いオーラを纏う笑顔を向けられただけで全身を震わせて飛び退いた。あれだけ強いユニをビビらせるなんて、リリィさん……恐ろしい娘!


「質問ええですか? 罰になるんやったら何でもええですな」

「まぁ……ユニがこれは罰になってると認めたもんならなんだっていいぞ」

「ほんならユニはん。ちょいと耳ぃ貸しておくれやす」


 そう言ってユニの耳元でこしょこしょ話をする事5分。結構長い説明をしてるなぁ。一体どんな事をさせようと考えているのかがその表情からじゃよく分からないけど、時折2人がこっちを向くのが妙に気になる。


「うーむ。そんな事が本当に罰になるのか疑わしいのだが?」

「大丈夫やって!! アスカはんなら絶対に嫌がってくれます!」

「しかし……」

「ほんならその反応を見決めたらええです。それがアカンかったら別な方法を考えありますよって心配せんでもええです」

「まぁ……リリィがそう言うのであれば」

「ほなアスカはんに与える罰は……これですっ!」


 そう言って取り出された物に、俺はマジで嫌な顔をしてしまった。

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