#41 勇者が現れた。騎士ABCDEが現れた。
「あ? 道理で魔物が少ないと思ったら、先に入ってる奴がいたのか。しかもガキって事は、ここの魔物はやっぱザコしかいねぇって事かよ。わざわざこの俺様が来るまでもなかったじゃねぇかクソが」
6階層に続く階段の前で待つこと5分。現れたのは黒髪で目つきの悪い10代の生意気なクソガキと、騎士風の少女が5名ほど。女を侍らせてのハーレムパーティーだと!? あんな目つきが悪くて尊大な物言いをするガキがいいとは……やはり顔――にしてはそれほどでもないな。生前の俺と比べりゃそら良い部類に入ると言っても、この世界のイケメンズが横に立てば3段も4段も落ちるルックスなのにぃ……っ。気に入らん! 挑発して先に手を出させて痛めつけてやろう。
「なんだお前。大して強そうに見えないクセに随分な大口を叩くな」
男相手――しかもハーレムを作ってやがる人類の敵なんかに敬語なんか使ってやるつもりは毛頭ない。そもそも現状は敵と判断して相手してるんだ。いちいちそんな事にまで気を使ってらんない。
「ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞコラ。殺されてぇのか?」
「ぷぷぷ~。お前なんかに出来るのか? 女性の背に隠れていきがってるだけの弱虫如きに」
正確に表現するならば、少女騎士達がこっちの姿を発見するや否や、まるで生意気なクソガキを守るかのように3人が矢面に立ち、1人が弓を構えてもう1人が詠唱を始めたんだ。そりゃあなじってくださいと言ってるようなもんなんだから口に出してあげないと礼儀に反するってもんよ。
アイツを貴族的な存在と仮定すると、少女達の行動のつじつまが合う事になる訳だ。それを俺はお守りされてる口だけ男と表現するとあっという間にクソガキは顔を赤くして怒りをあらわにする。
「いい度胸じゃねぇか。ならレベルアップのついでにぶち殺してやるよ!」
「冗談は顔だけにしとけ。お前に負ける程俺は弱くないっての」
とりあえず相手はやる気みたいだから、こっちも自衛のために戦うとしますかね。
得物の刀身が赤黒いって事は、どうやらダマスカス製。それもこの世界の物と違って極端に薄いし波紋が浮かんで反り返ってる。イメージとしては日本刀が近い。
ん? 黒髪・10代・日本刀? 持ち。これもこれでラノベテンプレの1つ――地球人の勇者召喚に抵触している。アクセルさんに聞いてる容姿と一応一致するが、影武者って可能性もまだ否定できない。
「ナガト止めるんだ。我々の任務はこのダンジョンを制覇し、魔王討伐に必要な神器を集める事にあるのであって、人殺しではないはずだ」
「そうですぅ~。早く魔王をやっつけてぇ~、元の世界に帰りたいんでしょぉ~?」
「優先順位を失念するなど言語道断だぞ」
「るっせえ! こんなクソガキ程度、一太刀で終わらせてやるよ!」
フムフム。魔王ブッ殺とか言ってるって事は、どうやらこのナガトなる生意気ガキは勇者で間違いないようで、ここに来たのは魔王を討伐するのに必要な神器とやらを手に入れる為という訳か。どうやって比較的生まれて新しいらしいこのダンジョンの情報を入手したのかは疑問に感じなくもないが、まぁ信託的な物だと思っておこう。
しかし……神器ってなんだ? 是非ともその情報――もしくはそのものを入手したいな。そうなれば駄神の目標である六神ぎゃふん(死語)を僅かながらも達成させられるかもしれない。
「なぁ。神器って何?」
分からん時は全員に問いかけるのが一番だ。聞くは一時の恥。知らぬは一生の恥というからな。多少の恥や嘲笑は自分の不勉強に対する罰だと思って受け入れよう。
「神器に関する情報は重要案件である故に、提示は叶わぬ」
「なるほど。それだったら神器って言葉自体も言っちゃ駄目だったんじゃないか?」
俺のそんな問いに対して、ナガトを含めた全員がそのキーワードを口走った張本人である栗髪ポニテの少女騎士へと視線を向ける。
「わ、私が悪いというのか!?」
「まぁそうなるだろうね。ついでにそっちの娘もね」
「そ、それがしもでござるか!?」
「そりゃそうだろ。1回だけだったらそこそこやかましかったんだから聞き間違いだろうとかって強引に終わらせる事が出来ただろうけど、あれだけ静かな状況で神器だ魔王だって単語を口に出したんだから。こんな事が上の人間――まぁ騎士団長とか王様とかにこの事が知られたら、全員で罰を受けたりするんじゃないかな? いやー大変だねぇ」
ほんのさわりでしかないけど、部外者に堂々と重要案件をあっさり喋ってしまったんだ。他意がなかっただろうとは言っても規則は規則。罰をは受けないといけない。例外を作れば他の連中に示しがつかなくなるからな。
女の子が痛い思いをするのは見てらんないけど、あっちにはあっちの事情があるだろうから止めたりはしない。邪魔して偉い連中に難癖つけられるのは嫌だからね。
女子達は俺のまくし立てに顔を青くしているが、その中にあって勇者は余裕で自信に満ちた笑みを浮かべながら刀を抜いた。
「馬鹿が。そんなのこのガキをぶち殺しちまえばなかった事になってすべて解決すんだろうが。たかがクソガキの戯言に惑わされてんじゃねぇよボケ女共」
隠すのが面倒だから殺して口封じという訳か。悪くない考えだと褒めてやりたいところだが、それが俺相手に通じると思ってる時点で残念としか言いようがない。実力差を計る事が出来ないほど未熟な勇者には、半殺しで己の不甲斐なさと言うのを骨身に刻み込んでやろう。
「という事を言ってるけど、そっちの女の子達はどうする? こっちは依頼で魔物を狩らなきゃなんないから忙しくてな。そっちが戦わないというなら君達にだけは手は出さないけど、やるって言うなら仕事の邪魔になるだろうから容赦はしないぞ」
こっちとしては女性と戦いたくはないけど、誰だって自分の身が一番かわいいんだ。襲ってくるとなったら無力化はさせてもらう。こっちにはエリクサーがあるから、最悪四肢を吹っ飛ばしてダルマにしたり殺しちゃったりしても一滴でほら元通りってね。ついでに心をへし折れるから従順になってくれる事この上なし。
俺の問いに対し、少女騎士達は数秒迷った末に武器を構えた。どうやら、相当に神器に関する事を漏らした際の罰が大きいんだろう。それとも子供1人殺す方がたやすいとそう考えたのかもしれないな。真相は聞いてみないと分かんないけど、まぁ答えないだろうけどね。
「じゃ。始めようかね」
こういった場で開始の合図はない。しいて言うなら俺の踏み込みがそれに該当するし、一番手前に居た武士然とした少女騎士の腕を斬り飛ばした事が該当するかもしれない。とりあえず先手は俺がいただいたという事だ。
「ぐああああああ!!」
「ミリー! よくも!」
「遅い遅い」
武士然少女騎士の断末魔を契機に、槍や剣や弓矢なんかが次々と襲い掛かって来るけど、〈身体強化〉されたステータスの前では当たっても痛くもないだろうが、集中すればすべての動きがスローに見えるようになる。当たる要素なんて皆無だ。
「どけ!」
「っ!? っとと……」
「どうした? さっきまでの余裕はどこに行ったんだ」
「いやぁ。さすがにビックリしたねぇ」
そうだったそうだった。確か勇者は何かしらのチートでかなりの実力を持っていると仮定していたんだった。怒声を張り上げてからの一閃だったから何とか避ける事が出来たけど、あれが無かったらどうなってたんだろうな。怖くて試したくはないけど。
どうやら居合を使うらしいが、その姿はなかなか堂に入っている。厨二独特のカッコイイ精神でやってんのかと思ったが、元から腕がいいのかチートとしてもらったのか知らんが迂闊には飛び込めんな。
「〈神域治療〉~」
「おぉ……」
ナガトの一閃のせいで足が止まった隙に、のんびり騎士が斬り飛ばした腕をあっさりと治癒魔法でくっつけちゃった。あんな事が出来るんだから、彼女は僧侶系でも上位のジョブなんだろう――と思ったら顔を真っ青にしてへたり込んだ。どうやら相当に燃費の悪い魔法を使ったみたいだな。腕一本くっつけるだけでああなるって……弱いのか?
「どいてろ。このガキはオレがやるから、テメェ等は支援と妨害だけしてろ」
「お前ごときがそれで勝てるかな? それとも彼女達にいい所でも見せたいってか。このエロ小僧が。少し綺麗で可愛い女性を侍らせてるからって調子に乗んなよ!」
「ハッ! 大した自信じゃねぇか。そういうのはオレ達に勝ってからほざけや!」
やっぱりガキだな。いちいち声を張り上げてからじゃないと斬りかかれないのかね。おかげで余裕をもって回避できるからこっちとしてはありがたい。本来居合ってのは、鞘走りを利用しての超高速の一撃必殺の技だと俺は思っている。それをああも考えなしに振り回すって事は、チートであの力を手に入れて技術が伴ってないって事だろう。
それに、この程度で心を乱してるようじゃたかが知れてる。ハズレ――とまではいわんが当たりでもない。やはりこういう人助けをするには精神が成熟した大人を転生者に選ぶのがベターだと思うんだよなぁ。テンプレとはいえガキはすぐに図に乗るから
まぁ、かくいう俺も〈抜刀術〉のスキルには非常に惹かれたものの、それよりも大切なスキルがいくつもあるので〈剣術〉で我慢したんだ。
「〈鈍足〉」
「〈貧弱〉」
「〈剛力〉」
「〈加速〉」
「〈盲目〉」
バフとデバフが俺とナガトに飛び交い、次々に魔法が襲い掛かって来るけど〈万能耐性〉の前には何の意味もない。速さと筋力が増加した一閃は僅かばかり脅威になったけれど、避けきれないほどじゃない。
「嘘……魔法が効かない!?」
「こっちもレジストされた」
「馬鹿な……それほどの実力差があるというのか? とても信じられん」
驚いてる驚いてる。これで次に攻撃魔法を撃ってくれば相手をMP切れに追い込めて有利になるんだろうけど、ダンジョンを潜るというのは街の外での狩りよりもより死と隣り合わせに近い行為だ。そんな愚を犯すほど『この世界の住人は』馬鹿じゃないだろう。腕が斬り飛ばされるって緊急事態を除けばだけどな。
さて……ここで一発妥協案を提示してみようかね。
「俺の実力が理解できただろ? ここで提案だ。そっちが矛を収めるなら、こっちも剣を収めてやろうじゃないか。こっちの目的はあくまでダンジョンの掃除だ。それが終われば別に神器とやらを回収したところで文句は言わんし、黙っててほしいなら神器の事は黙っておいてやるぞ? それに、そこの回復役の人はMP切れかけてるんだろ? 安全面を考慮するなら退いた方がいいと思うけどな」
ここに来るまでの魔物自体はさほど強い訳じゃないから、前衛3人と馬鹿の力押しの単純な戦闘だけでも十分に帰還できるだろうけど、ダンジョン外の風の谷の魔物はここの比じゃないくらい強いらしい。
まぁ、俺的にはまだまだ投石一発なんでよく分かんないけど、アニーとリリィさんはこの辺りでは戦闘をしたがらなかったからそうなんだろうと推測しているだけに過ぎない。
さて。冷静な判断を5人がしてくれると嬉しいんだけどね。
「なに迷ってんだボケが! んなの〈脱出〉の分だけ残してればいいだろうが。あんなクソガキの言葉に乗せられそうになってねぇでさっさと援護しやがれ!」
あーあ。やっぱりこいつは馬鹿だ。短絡的で目の前の事しか考えてない。
普通これだけの時間戦えばどっちが上かなんてすぐに分かるもんだろう。それを全力で戦えば何とかなると本気で信じてるのか? こんなのが勇者だなんて……人族の神は馬鹿なのか? それともただの脳筋なのか――って一緒か。
「やれやれ。お前はとんだ馬鹿だな。こんな奴の下に就けられて君達もいい迷惑だろう」
「ガキが生意気な口きいてんじゃねぇよ!」
34のこっちからすれば、20にも届いていないっぽい勇者の方が十分にガキなんだけどな。
とにかくこいつには話が通じないから、まだ冷静な判断が出来るであろう5人の意見を通させるために、こいつには少し眠っててもらおう。勇者は一応人類の希望だろうから殺しはしない。代わりに神器とやらを奪わせてもらう。それだけでも六神の1人をぎゃふん(死語)と言わせる事が出来るだろう。
「どれ……少しばかり本腰を入れて相手をしてやるから、せいぜい死ななように努力しろよ」
「出来るもんならやってみろやクソガキィ!」
相変わらずの突撃一辺倒。折角チートで習得した居合いの技があるんだから、自ら飛び込むような真似をせずにじりじりと距離を詰めての一撃か、カウンターに特化させればもう少しは戦闘らしい戦闘になったと思うんだけどな。
「んぐっ!?」
さっさと終わらせるかと軽く一閃を避けて、第二撃が放たれるよりも先に鳩尾に拳を叩き込んでそれでおしまい。そう考えて至近の間合いにまで踏み込んだ瞬間。目の前が真っ赤になって全身を駆け抜ける激痛に一瞬だけ思考が停止したけど、振り抜いた拳は止まらずにナガトを打ち抜いたとはいえ、照準とは大きくズレて鎖骨辺りを打ち抜いた。




