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#40 一匹見つけたら30匹はいると思え! とはよく言ったもんだ

 風の谷ダンジョン第2階層。ここはTHE・ダンジョンと言わんばかりのごつごつとした岩肌の薄暗い洞窟みたいな光景が広がっていた。さっきと様変わりしすぎだろ! と心の中でツッコミを入れておきながら各自にヘルメットを渡す。


「これもダンジョンだからって事か」

「まぁ……せやろな」

「それ以外に説明できまへんから」

「ワタシは獲物を狩れれば問題ありません。では」


 とりあえずユニはさっきと同じで好きなように獲物を狩りたいだろうから、一応灯りが居るかどうか聞いてみたが、臭いや気配などで位置を把握できるし不意打ちを受けても大丈夫だと返って来たんで好きにしていいぞと指示を出すと、牙をむき出しにして嬉しそうに駆け出していった。

 きっと大丈夫だとは思うけど、危険などが迫った場合は必ず〈念話〉をしろと言っておいたんで、ちゃんと守ってくれるはずだ。怠った場合はしばらく野菜生活だと言ってもあったからな。キッチリ言いつけは守るだろう。


「さて。それじゃあ俺達は俺達でダンジョン探索をするとしますか」

「せやね。最初はウチ等だけで大丈夫なんかと思っとったが、あないなザコばっかやと分かった以上は積極的に狩らせてもらうで!」

「あても新しい魔法の試し撃ちをしたいですわ」

「じゃあ任せた」


 いつになく積極的に魔物を狩りたがる2人の後方を守るような位置をキープしながら素材を回収しているんだけども、魔物の質が随分とショボい感じがする。

 一階で出会ったのはスライムにヒヨコにウサギ。どれもがまぁまぁデカいサイズだったけど、スライムに至っては最初に見かけた紫のじゃなくてザコ代表の水色だった。

 正直ここに来るまでに見かけた魔物の方が何倍も強そうに映ったし、2人の余裕の表情を見ればその考えは間違ってないと思う。

 そしてこの2階層目には、コウモリと鳥とネズミが知っているサイズの倍以上となってダンジョン内をぎゅうぎゅう詰めで徘徊している。普通に考えれば強くなってるんだろうけど、アニーとリリィさんの無双っぷりを見る限り、魔物の形が変わっただけで強くなったって感覚は今のところない。よくこんなんで冒険者が逃げ帰ったな。

 一瞬虚偽報告かとも思ったけど、このエンカウント率とリスポーン速度を考えれば正常な判断なんだろう。


「いやー。アスカのおかげでこないに楽に魔物を狩る事が出来るわぁ。ホンマあん時オレゴン村に寄ろうと思ぅてよかったで」

「ホンマですなぁ。くれはった武器もやけど、この明かりのついた兜もえらい代物です」


 確かに。入り口の周辺はまだ一階層の日が降って来てるんでそれほど不便を感じなかったけど、20メートルも離れればほぼ漆黒の闇。足元辺りに申し訳程度に発光する苔なんかがあったりするけど、これが普通の状態のダンジョンだったら魔物の姿を探し出すのに一苦労しそうだ。

 そこにこのライト付きヘルメットの出番ですよ。これがあればユニみたいに魔力を感知するなんてスキルを持ってなかろうと、俺のように〈万能感知〉を駄神から分捕ってなかろうとも遠くまで見渡す事が出来るし魔物の発見にも一役買っている。


「アスカはんがおらんかったらあて等はまだまだしがない商人やったし、侯爵様との繋がりが出来る思ぅてまへんでしたから」

「そもそもアスカがあの場所におらんかったら鱗狼(スケイルウルフ)に食い殺されとったわ」

「確かにな。俺もここまで面倒事に巻き込まれ続けるなんて思いもしなかったよ」


 そもそもが調子に乗って実行したスキルの実験失敗に始まって、奴隷商に捕まって女にされるわ魔族に襲撃された村を護衛したりワイバーンを追っ払ったりこんな場所までダンジョンのスタンピードを鎮めたりと、ほとんど間を置かずに次々に面倒事が降りかかって来た。

 そのおかげでアニーやリリィさんをはじめとした美少女に沢山出会えたのは喜ばしい事ではあるけど、やっぱ女の身体じゃあその喜びを十二分に発揮できないんで、今のところは災難しかないと思っておく。


「なんや。ウチ等との出会いも面倒言うんか?」

「うんにゃ。それ自体は幸せな事だと思ってるから大丈夫」

「そう言うてもらえるとあても嬉しいです」


 ふむ。やっぱ魔物の数自体はコミケみたいな感じで蠢いているけど、これだけ会話をしながら対応できるって事はアニー達にとってもザコ魔物って事で間違いない。

 これがどこまで続くのか分からないけど、何もせずに経験値が入って来るというのは楽でいい。そんな事を考えながら素材を拾っていると、2人の足が突然に止まったんで顔を上げてみる。


「どしたよ」


 まるで麻痺でも受けたかのように立ち尽くしたまま脂汗を流して小刻みに震えているんで、何事かと視線の先をのぞき込んでみると、そこに居たのは黒光りしたボディを持つ平べったい虫――いわゆる悪魔の僕Gだった。


「うっはぁ……こりゃ凄いな」


 オレゴン村での時にも見た事があるけど、こうもずらりと隊列を組んでとなるとさすがの俺でも背筋がゾッとするんだ。女子2人がこうなるのも納得の光景だとしても、目的は魔物の殲滅。倒さないと街に被害が及ぶんだから頑張るしかない。


「ほら。さっさと倒さないと先に進めないぞ」

「そ、それは分かっとるけど……リリィは魔法撃てるんやから任せるわ」

「ちょ!? そんなんあんまりやわ! アニーちゃんにも手伝ぉてもらわんと」

「さっきまで護衛ナシで撃っとったやろうが。さっさとやらんかい!」

「あては嫌や! 汁が飛んできたりするかもしれへんもん!」

「そんな事言ってる場合かよ。ったく……なら俺がやるから撃ち漏らした時はちゃんとやれよ」


 さて。俺がやるとは言ったものの、一匹一匹潰してたんじゃ時間がかかりすぎるし、飛んだり走ったりして襲い掛かってきたりすれば、その地獄の光景は背後への精神的な被害が甚大になる。最悪の場合は精神が崩壊してしまう恐れがある。

 あれだけ騒いでおきながら、なぜか今のところはこっちに気付いた様子はないから、先制攻撃で一気に数を減らす事が出来れば、狭い通路であるこっちに逃げ込んで来るだろうからその時に一匹一匹退治していけば、精神衛生上にもいいだろう。なので初手に選択するのはやっぱり魔法って事になる。

 俺が現在使えるのは火・水・土・風の初級と各属性を掛け合わせた複合の初級魔法だけ。となると範囲攻撃っぽい事が多い風を選ぶのが妥当だろう。リリィさんの風魔法もなかなか大きな竜巻を発生させてたしな。後はこれに水でも複合させれば濡れて飛んだりして来ないかも。


「頼りになるわぁ。さすがアスカや」

「ホンマ助かります。どうもあの見た目と動きがアカンねん」

「ったく……都合良いな。さて……〈電風(スタン・ブロー)〉」


 手のひらを突き出してそう唱えると、Gのいる部屋の中心を起点として、紫の電流を纏ったエメラルドの球体が一瞬で洞窟内を駆け抜けて、鼓膜をつんざく轟音と耳障りな断末魔とつぶれる音が反響して史上最低なオーケストラ楽団の演奏が数秒間だけ披露された。


「おぉ……こりゃ凄ぇ」


 〈万能感知〉が利かないからゆっくりと洞窟内をのぞき込んでみると、Gの姿は綺麗さっぱりなくなってて、その代わりに素材として大量のテカテカとした羽が端の方に転がっていた。

 今からこれだけの量のGの残骸を拾うのかと思うと辟易とする。とりあえず素手では触りたくないんで、ゴミ掃除なんかで使う鉄製のハサミを創造し、嫌々ながら始めようかとしたところに、随分と遠くまで逃げていたアニーとリリィさんが駆け寄って来た。


「何ですの今の魔法は!?」

「風と水の複合魔法の〈電風〉だ。この前のレベルアップで覚えた」

「あんなん〈電風〉やあらへんっ! 絶対Lv3の〈風雷撃ライトニング・ボム〉くらいの威力があるはずや! それを無詠唱なんて説明が付きまへん!!」

「まぁまぁ。奴等を何の被害もなしに全滅できたんだからそういうのはどうでもいいじゃん。それよりも大量に転がってる素材集め手伝ってくれ。1人じゃ辛いから」

「「……先の偵察してくるわ」」


 触るのが嫌で逃げたか。まぁいい。どうせ素材を渡すのは商人ギルドだからな。その時には嫌だろうと手伝ってもらうしかないだろうからな。くくくのく。


 ――――――――――


 のんびりゆったりとマイペースで魔物の間引きと素材の回収とを繰り返しながら進んだ結果。3時間くらいで5階層まで降りてきた。

 今は、ダンジョンに必ずと言っていいほど存在するらしいセーフゾーンで、今は食事を兼ねた休憩をしていた。


「相変わらずアスカのご飯は美味しいわぁ」

「おんなじように作っとるのになんでやろ……」

「そこら辺はスキルのおかげだな。それよりこのダンジョンって何階層あるんだろうな」


 ダンジョンの難度は出現した月日が長ければ長いほど深く強力になっていくらしく、それに照らし合わせるとこのダンジョン自体は、比較的新しく生まれたから決して深くないとの事。

 ここに来るまでも、本気でなくても一階層を一回りするのに10分も走ればおつりがくるほどに狭いけど、素材収集を考えればどうしたって進軍速度は遅くなって、閉鎖空間による圧迫感ってのは知らず知らずのうちに精神的な疲労が蓄積してパフォーマンスの低下につながる――なんて情報を本かなんかで読んだような気がする。


「誰も入らんとスタンピード直前まで成長した言う事は、少なくとも10階層くらいはあるんと思ってええやろ。聞いた話やと、ダンジョンっちゅうのは生まれた瞬間から7階層はある言う話やからな」

「ふーん。ちなみにこの世界のダンジョンの最高深度でって知ってたりするのか?」

「それやったら王都のさらに西に一月以上行った所にあるダンジョン都市アリギュラいう所で、100階層以上いうんがありますな」

「ダンジョン都市かぁ。やっぱあるんだな」


 異世界転移・転生系ラノベにはテンプレの場所だがやっぱり存在していたか。人を隠すにはうってつけともいえる場所だな。奴のもしかしたらその街に居るかも知れんと考えると、ニートに行くのも良いがそこにも早い内に探りを入れておきたい。


「というかギック市もやで? 街のど真ん中にダンジョンがあるアリギュラと違ぉて少し遠い場所にあるんやけど、あっちは中級レベルやから魔物からとれる素材だけで生計をたてとる冒険者が結構いるんや。そん中でもアリギュラいうんは1000年以上前から存在する神級ダンジョンを持っとるんで、そんくらい深くなっとるんや」

「ふーん。そりゃ随分とたくましい奴等だな」


 ダンジョンを中心に街を作り、効率的かつ継続的に素材を回収して収益を上げて、それを使用しての武器防具がさらに冒険者に還元され、それを手にした冒険者が新たな階層へと向けて進軍する。確かに理に適ってる商売ではあるな。

 しかし……1000年の歴史があって100? ここのダンジョンが10と仮定すると、その歩みは滅茶苦茶遅いんじゃないかと言うしかない。まだハッキリしないが、この世界のレベルって滅茶苦茶低くないか?

 そんなダンジョン講座? みたいな話を聞きながら十分に休憩をしたんで次の階層に向かおうかとイスやテーブルなんかを収納しているところに、ユニが来た方角を向いてうなり声を上げ始めた。


「どうした?」

「嫌な感じが近づいてきます。粗末な殺気ですが何か妙な気配が混じっています」


 その言葉を聞いて2人が即座に武器を構える。あれだけ余裕をもってこのダンジョンの魔物を蹴散らしていたユニが嫌な感じと表現したという事は、少なからずリスポーンする普通の魔物ではないという事になる。


「特殊な魔物か?」

「いえ……魔物と言うよりは人間に近いですが、アニーやリリィよりは強いと思います」


 真っ先に思い当たる可能性が潰れた。

 しかし……魔物ではないけど強い何かか。こっちは〈万能感知〉が使えないから何かが近づいて来ても全く反応が出来ないからな。逃げようにも別のフロアに向かえる道は一本だけだから、鉢合わせの可能性を考えるとなると、一番の安全策はこれしかないか。


「ユニ。2人を連れて下の階層に行け」


 正体不明の存在に対してとれる対処法ってのは、現状だと一番強い俺がそいつの討伐をするのが一番安全で簡単だ。ほとんど戦ってないし何かを作りだしたりした訳でもないんでMPは十分に回復してるし、あらゆる異常状態に対しても〈万能耐性〉があるからまず間違いなく効かない。そういった搦め手を頼りにしている存在であるならば、初手は確実に不意を突ける。

 なにより、他に意識を割く必要がなくなるって言うのがいい。


「しかし……」

「大丈夫だ。別に死ぬつもりはないし、全員の安全を考えればこうするのが一番いい」

「ユニ行くで。アスカの心配するだけ無駄やって」

「せやでユニちゃん。ここはアスカはんに任せて、あて等はあて等にできる事をせな」


 相手の実力が分からない以上。ユニ達は邪魔になりかねない。そういった事情をアニー達はきちんと理解してくれたみたいで、ユニは俺と共に何者かとの戦いに参入しようとしていたけど、お前がやられたら誰が馬車を牽くんだと言ってとりあえず納得してもらった。


「キチンと戻ってきてくださいね」

「わーってるよ」


 はてさて。鬼が出るか蛇が出るか。面倒臭い事にならなければいいんだけどな。

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