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幕間 ~神の大誤算~

「はぁ…………っ。ようやっと居なくなりおったか。数々の転生・転移者を送り込んだが、あんなに神使いの荒い転生者は初めてじゃわい。おまけに至高で完全なる存在である創造神のこのワシに暴力をふるいまくってくるとは……六神達ですらせんかったというのに」


 まったくもって信じられん。ワシは宇宙誕生よりも遥か昔から存在していた創造神だというのに、ああも何のためらいもなく何度も殴って来るとは思ってもみんかったわい。痛くはないが衝撃があるし、何より移動せにゃならんのが面倒で仕方ない。おかげでホームランの瞬間を見逃してしもうたわい。

 今までも何度か面倒臭いという感情に負けないで必死に人間を転生させてきたが、あの男はそんな連中ですら御しやすいと思えるほどに過去最低最悪の存在じゃった。まぁ、あれだけアクが強いからこその脅威的な数値なんじゃろうな。

 そもそも神を前にして平伏したり崇めたりせんのが考えられん。世界はワシのような神が作り上げ、生物が生息しやすい環境を作ってやって始めて生を謳歌出来ているというのにじゃ。あの男は全くとって言っていいほどそこに対する感謝もなければ敬意もない。その辺に転がっておる石と同価値としか思っとらん態度じゃったわい。

 それだけならまだしも、あの男はワシにまるで子供と接するような態度をしておった。それが何よりも腹立たしい。たかだか34年程度の人生でこのワシを見下すような態度とっていい訳がないのじゃが、あの男は折角見つけた六神共の邪魔をするための最高に近い転生者じゃ。機嫌を損ねられて元の世界に逃げられては困るから仕方なく黙っておったのじゃ。決して殴られるのが嫌だとか舌戦で歯が立たなかったという理由ではないぞい。


「さてと。続きを見るとしようかのぉ」


 ワシの世界と違って、あの男の世界は魔物が存在しないから人同士が頻繁に醜く争っとる。それ自体は滑稽で何の興味も引かれんが、こと野球に関しては全く別問題じゃな。

 最初に見た時は木の棒で球を打つだけではないかと馬鹿にしておったが、知れば知るほどその奥深さにのめり込み、今では各地の野球を観戦するために忙しい日々を送っておる。

 本来であればあの男を転生させる時にも試合はあったのじゃが、今回は消化試合という事もあったので、断腸の思いだが奴を選択したんじゃ。せいぜい長生きして奴等をぎゃふん(死語)と言わせてもらいたいもんじゃわい。


「フン。相も変わらず野球観戦か。野球自体は悪くない遊戯であると同意できるが、やはりゲームと肉体の鍛錬こそがこの世の至高なり。それ以外は全て格下である!」


 ワシに向かって何とも生意気な口を利くので振り返ってみると、そこには赤い髪を腰まで伸ばす獣の様な荒々しい顔立ちに、逆三角形の鋼の様な肉体を与えてやったワシの世界の人族を統べる許可を与えてやっとる赤の神が堂々とした足取りで横を通り過ぎて本棚を眺め始めおった。


「貴様みたいな幼児に野球の魅力など分かる訳がなかろう。これはワシの様な大人にならんとその真の魅力に気付けんのじゃよ」


 六神達を生み出したのはほんの12000年前。各種族が集落をなせるほど数が増えてきて面倒になってきてしもうたから、各種族から使えそうな魂を引っ張り上げて神格化させたうえで管理に対する知識は十二分に与えたと言っても所詮は子供。この至高にして崇高な競技の楽しさが微塵も理解できておらぬのじゃからな。

 しかも、いうに事欠いてあのような機械玩具のほうが優秀など片腹痛い。野球ができる物もあるが所詮は偶像。一球にかける濃厚で重厚な想いのない試合などつまらぬものよ。思い通りにならんと癇癪を起こすところはまさに童と言わざるを得んわい。


「フン。ロクに仕事もせぬ者に幼児と言われる筋合いはない。働きもせずに飯を喰らい、野球を視る事しかせぬお前は野生を忘れた無能な獣と同義。さっさと創造神の座から降りて我等にその権利を譲るがよい。さすればこの世をより良く治めてやろうではないか」

「かっかっか。その生意気な口を物理的に閉じさせても良いが、貴様等にはもっと効果的な邪魔を用意しておる。せいぜい世界をかき回されんように頑張るんじゃな。今回のは飛び切り頭のネジが吹き飛んでおるからな」

「なんだと? また邪魔者を我らが世に放ったというか。ロクに仕事もしないくせに懲りない奴だ。そうやって何度我等が勇者・魔王に駆逐されたから覚えていないのか?」


 ぐっふっふ。やはり食いついてきおったのぉ。これじゃから連中の邪魔をするのは楽しくて仕方ないんじゃよ。今すぐにでも全貌を明かしてやりたいところじゃが、さすがにそう簡単に全てを明かしてやるほどワシはお人よしではない。おっと。この場合はお神よしとした方がええかの。


「実に楽しみじゃよ。それがいつどんな形で降りかかるのかと怯えて戦々恐々しながら管理の日々を過ごす姿が目に浮かぶようじゃ! か~っかっかっか」


 あの男には、すぐにバレぬように六神達に対してのみ働く認識阻害を無許可で付与しとるからのぉ。たとえ発見したとしてもそれがワシの送り込んだ転生者であるとはすぐには気付くのは――龍族の管理をさせとる緑の奴だと可能かもしれんが、この脳筋の赤には至難なはずじゃ。慌てて右往左往する姿を思い浮かべるだけでも笑いが止まらんわい。せいぜいこの情報を他の連中に伝えるメッセンジャーとしての仕事をするんじゃな。


「ほぉ……この個体は飛鳥恭弥というのか。男が幼い女の身に転生するとは理解に苦しむ。やはりこの世界は男でなけば。それも……我のように筋肉がなければ生き残れぬというのに……お前をもってして頭のネジが吹き飛んでいるというだけはあるようだ」

「な……っ!? なんじゃとおおおおおお!」


 赤が肩をすくめてため息をつきながら、管理用にと与えたの~とぱそこんとか言った便利な地球の道具を見ながらそう呟きおった。せっかくの認識阻害がまるで効果を発揮しとらんではないか。

 チッ! こんな速攻でバレてしまった事に関しては、裏でいけすかん緑がかかわっていたんじゃろうと理解できる。そもそもこやつがワシの部屋に来ること自体が珍しいしこのタイミングじゃからな。しかしじゃ。もう1つの大事な情報に関しては聞き流す事は出来ん。

 ワシは赤から管理の仕事用に与えておったの~とぱそこんを奪い取ってあの男の表示をもう一度――性別の欄を確認してみると、そこにはいつの間にか♀の表示がらんらんと輝いておった。


「な、なんという事じゃ」


 これはマズイ事をしてしまったのぉ。いくらワシにとって何の意味があるのか分からん作業に付き合わされて疲れていたとはいえ、これは取り返しのつかない大失態じゃな。

 あの男がワシの世界に降り立つ理由の1つに、女にモテたいと言うモノがったはずじゃ。理由としてはその先にある性行為をするつもりなのじゃろう。男とはそう生きるように作られておるから仕方ない事じゃ。

 そのために、よく分からん美貌なる物を極限まで追い求めながらも堂々と女湯に行きたいからと子供でなどと下衆な思考を躊躇いなく吐き出す奴じゃ。まぁ、この世界は洗浄魔法があるからよほどの物好きな貴族くらいしか風呂は作っとらんはずじゃ。

 それが出来ないと分かったら、この世界に風呂などロクに存在せん事すら念頭にない阿呆でも、自殺してまでワシの所に復讐に来るかもしれん。そうなったら一大事じゃわい!

 今のあ奴は神を殺すには足りんが、痛みを伴うくらいには強い。戻ってきたら殴る蹴るの暴行は確実。それだけは何とか阻止するために、コッソリ自殺出来ないように細工を施しておこう。万が一気付かれたとしても、こちらに来れないのであれば文句も聞こえんからの。

 一応男に戻す事も出来るが、六神共の邪魔をするには特に不都合もなさそうじゃからしばらくはこのままでええわい。なによりワシの野球観戦の邪魔をしたんじゃ。これも天罰と思えばいい気味じゃとほくそ笑む事が出来るわい。

 生憎とあの男はスキルに夢中で気付いとらんようじゃし、自殺を防いだ以上は気付かれたところで寿命を迎えるまではあの男にワシをどうこう出来る力などありはせんが、念には念を入れて適当な奴を人柱として細工しておけば、疑いがワシに向く事もなく何の恐れもなく野球に集中できるわい。


「いつまで我の物を触っているか!」


 奪い取るように赤がワシの手からの~とぱそこんを掻っ攫ったうえに数冊の本を手にさっさと自分の領域へと帰って行きおったわ。これで野球観戦の続きを何の障害もなく続けることが……終わっておる。しかもワシが贔屓にしとるチームが敗北しておるじゃと!? おのれ六神共……この恨みは必ず晴らさせてもらうぞい!

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