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#32 人間ガイドブック爆誕

 翌日。穴が開くほど手紙を確認して俺に不利益が被るような内容が記載されていなかった事の確認を終えた俺は、冒険者ギルドで借り受けた4人の青年を従えてスラム街を歩いていた。

 ちなみにアニーとリリィさんは商人ギルドで用事があると朝早くから出て行ってしまい、ユニは溶けた外壁を修理するための石材を運ぶ手伝いを命じてある。武勇伝は広がっているだろうから心配はない。


「あの……ここに何が?」

「そのうち説明する。ちゃんと賃金が支払われてんだろうからついて来い」

「「はぁ……」」


 連中も不満はあるんだろうけど、こっちとしてはちゃんと人当たりのいい性格の奴をと要求しておいたので、明らかに態度に出したり暴言を吐くような真似はしない。そういう所は好感が持てる。持てるのだが……両者ともアレットには劣るがこっちもこっちでかなりなイケメンを用意しやがった。

 1人はくすんだ青い髪に糸目で少し困ったような顔をしている長身の武闘家。

 1人はアシンメトリーな黒髪の伏し目がちなクール系双剣士。

 1人は笑顔の眩しい活発そうな槍使い。

 最後は眼鏡をかけたインテリ系魔法使い。

 これは何だ。あのギルドマスターは俺の正体を知っていてわざとこんなイケメンばっかりを見せつけてストレスを与える精神攻撃を仕掛けてきているのか!

 いやいや冷静に考えるんだ俺。そもそも俺が男だという事を知っているのはあの駄神と奴隷商連中以外に1人もいない。多少口が悪くて一人称が俺だとしても、幼いながらに胸は膨らんでるし声色だって完全に女だ。そこからどうやったってお前は男だ! なんて言ったって誰も賛同しない。

 試しに柔らかい笑顔を浮かべながら振り返って4人に視線を合わせると、気まずそうに視線を逸らす。そこには男である俺には気持ち悪いほどの好意が隠し切れていない。


「あれ? お前は昨日の貴族――じゃなかったんだったな。デカい犬はどうしたんだ?」


 そんなイタズラに内心申し訳ねぇと思って歩いていると、ようやく目的の人物である地図書きの少年を捉えた。随分とちょこまか動き回ってたせいで近づくのに苦労したが、ある程度ルートを予測して待ち構える事でようやく実現した。


「やっと見つけた。ちょっとした儲けになるかもしれん仕事があるんだけど手伝ってくんねぇ?」

「悪いけど今そんな暇ないんだよ。これを仲間ンとこに届けないといけないんだよ」


 よくよく見れば、少年の手には小さな瓶が握りしめられている。大切にしているところを見ると相当に高価な物――きっと俺が渡した金貨で買ったんだろうが、その慌てようはちょっと気になるし、ゆっくり話が出来ないとやらせようとしている事に対する説明が難しい。


「ならついてくわ。構わねぇだろ?」

「えっと……」


 言いよどんだ姿を見てすぐ浅はかだったと自分に内心で舌打ちをした。


「あぁ……悪いけど一旦ギルドに戻ってもらっていいか? 用が済んだらまた呼ぶから待機しててくれ。ちゃんと金払ってんだから酒飲んだりすんなよ」

「「分かりました」」

「考えが足りなくてすまんな。俺だけでも連れてけ。そうすりゃ金をやるぞ?」

「まぁ……お前だけなら」


 スラム街で幼い子供だけで生計を立てる事を考えれば用心深いのは当然で、本来であれば俺の同行すら拒否したいんだろうけど、僅かながらも知った間柄だし、何より金貨をポンと出せる相手だ。渋々ながら了承してくれた。

 そんな訳で、少年の案内で家と家の隙間や酷い臭いのする下水道の中なんかを通り抜けながらたどり着いたのは、意外にも小奇麗に整っている教会だった。

 こんなスラムによく教会なんてあるなぁと思いながら少年の後に続いて中に足を踏み入れる。

 中には木製の長椅子に中央奥に教壇。その上のステンドグラスが一部砕けているけど、それが赤い髪の何者かなのを把握するには十分だ。あれが噂の六神の1人なんだろう。髪は長いけど露になってる上半身を見るにあれは男か。ちょうど顔の部分が欠けてるんで分かんないけど、こういう場合はイケメンと相場が決まっている。死すべし!

 他には錆だらけのパイプオルガンと天井に埃だらけでボロボロのシャンデリアがある程度で、シスターなんかもいなければ教徒の姿もない。完全に放棄された場所をこいつらが勝手に寝床にしてる。そう判断するしかないな。

 あまり信仰されていないのか。

 それともスラム街だからなのか。

 どっちにしろ、綺麗なシスターがいない時点で俺の興味は完璧に失われている。元々それが目的で来た訳じゃないから別にいいんだけどさ。こういう場合のテンプレとしては、やっぱり美人のシスターがいたっていいと思うんだよ俺は。うん。

 そんな感想を心の中でしながら奥の部屋へと入れてもらうと、そこには少なく見積もって10人以上の少年少女が確認できた。


「おかえり――ってちょっとルーク! そっちの女は誰よ!」


 ちょっと磨けばお嬢様と呼べなくもないくらいに可愛い少女が突然大声を上げながらルークと呼んだ少年に詰め寄った。他のガキ連中は俺に拙いながらも殺気を飛ばしたりこっそりと武器を握ったりして敵意を纏っているが、怒鳴り少女のそれはどっちかってーと嫉妬に近い感じがする。


「俺はアスカだ。よろしくな」

「アンタなんかに聞いてない! ルーク説明!」

「こいつは昨日言ってた金貨をくれた奴だよ。それよりも薬を買って来たんだ。これでフィルは助かるんだ! まだ大丈夫だよな」


 ルークのそんな問いに、その場にいた全員が笑顔を浮かべたり歓喜の声を上げたけど、やっぱ34年も生きてると見えちゃいけないもんが見えて来る。

 詳しく説明するなら、ある程度の年齢を境にフィルとやらが助からないと分かっているようで、非常にあいまいな笑みを浮かべている。それでもこの場で口にしないないのは小さな子供達に希望を持たせるためなのかもしれない。

 それは当然突っかかって来た少女も分かっているみたいで、あれだけ怒りの表情を見せていたのに一瞬で濃い影が差す。


「まだ息はあるけど……」

「なら大丈夫だ。なんたってこいつはエリクサーだからな」


 うわぁ……超ド級に嘘くさい。というか120パー嘘の商品を買わされてんじゃん。スラムで生きる人間にしては随分と素直ってかマヌケ過ぎる。それだけ正常な思考回路を回せる状態でもないのかもしんないけどな。

 とりあえず本物かどうかを確かめる為にも、急いで更なる奥の部屋へと突き進むルークの後について行ってフィルなる何者かの容態でも確認してみよう。


「これは……随分と酷いな」

「昨日のワイバーンの炎にやられたのよ。正直生きてるだけでも奇跡に近いわ――って!? なんであんたまでついて来てるのよ!」

「病人の前でうるさいぞ」

「うぐっ!?」


 勝手に踏み込んだ先には、全員の寝床なんだろう。湿っぽいせんべい布団が床一面に敷き詰められてて、その中の一番端にある布団だけが若干膨らんでいる場所にフィルは横になっていたが、これは確かに生きているのが奇跡と表現するのにふさわしいな。被害者ほぼゼロのほぼに該当する人物がまさかこんな近くにいるとはね。


「どうして避難しなかったんだ?」

「避難できるのはこの街の市民だけだからよ。スラムで暮らしてるあたし達にそんな権利はないの。それでバラバラに逃げたら、フィルだけがああなっちゃったのよ」

「なるほどね」


 つまり、逃げたくても逃げる場所がなかった。それで全滅を避けようと散らばった結果、フィルの逃げた先でワイバーンの炎が街や人を焼いたという訳か。何の慰めにもならんがよくそれで生きてられたな。ある意味では運が良いともいえるな。

 全身を包帯が覆っているが、それは残らず血で真っ赤に染まってるのに交換されてない。まぁこんな場所で暮らしてる時点でそれも難しいのは一目瞭然が、清潔に保たないと感染症を引き起こして簡単に死んでしまう。

 何とか無事だったのは顔の右半分くらいで、そこからはわずかにライトグリーンの髪と濁り切った虚ろな瞳が天井を眺めたまま人形のように動かない。


「フィル。エリクサーって薬を買って来たんだ。これでお前の怪我も治る凄い薬だ。何とか飲んでくれないか?」

「……」


 優しく語りかけたルークは、十中八九別の何かである液体をフィルの口へと滑らせ、ほんのわずかに喉が動いたのを確認したけど、特に回復するような兆しは見られないって言うかポーションとかの回復の兆候って知らなかったな。さすがに全身が光るような事はないと思うけど、不謹慎だがどうなるのかちょっと楽しみだ。


「それじゃ。しばらく休んでてな」

「ん? これで終わりなのか」

「ああ。これで終わりだ。ほら。お前等もフィルの体に障るから出て行け」


 そういって皆を部屋の外へと連れて行くルークを見送り、俺はフィルのそばに置かれた瓶を手に取ると、背中に鋭い切っ先が押し付けられた。


「ちょっとあんた。何するつもり?」

「調査」


 色合い的にはポーションの類。だけどかなりその色素が薄いし匂いも弱い。となると水か何かで濃度を下げたローポーションって可能性が高い。高いんだけど……


「なぁ。ポーションって飲んだことあるか?」

「ある訳ないじゃない。って言うかこっちはナイフ突きつけてるのになに平然としてんのよ!」

「騒ぐな。病人が起きる」

「ぐ……っ! そもそもポーションは高級品。あたし達が使えるのは傷薬がせいぜいよ。あんたみたいな貴族様と違ってね」


 なるほど。存在は知ってるけど飲んだことがない。スラムでどうやって生きて来たのか疑問だったけど別種の回復方法が存在していたのか。こいつはうっかりしてた。後で買って一覧に加えておこう。

 それよりもまずはフィルの治療をしないとな。このまま放っておいたらマジで死んでしまうし、こいつを救ったら交渉がやりやすくなる。おまけに随分とかわいらしいから将来有望そうだってのもある。


「なぁ。ちょっとした仕事をして欲しいんだけど、こいつ助けたらお前等って俺のいう事を何でも聞くか?」

「はぁ? あんた今の状況本当にわかってる? 殺されようとしてんのよ?」

「その覚悟があるならやってみろ。こっちとしては気にしないし、その程度じゃ殺せねぇよ」

「馬鹿にして……っ!」


 〈身体強化〉と〈万能耐性〉のおかげで、ワイバーンの加速が加わった外壁への突撃でもさして痛みを感じなかったんだ。いまさらスラムの子供が持ってるような武器で痛みを感じたりするはずもないので、完全に無視してさっさとエリクサー(本物)を創造してしまおう。


「嘘……でしょう!? アンタ……人間じゃないの?」


 大した度胸だ。何の躊躇いもなく斬りつけて来るとはね。肉体的にはゼロダメージだけど、それでも防刃耐性をつけてない服はザックリと斬り裂かれた。


「お前の実力がへぼいだけだ。はい完成っと」


 特に気にする事無くあっさり終了。

 今回は〈品質改竄〉を使わなかったおかげで眩暈するまではいかなかった。それでも若干頭が重い感じは残ってるんで、やっぱ高品質は違うなぁって思いはあるけど、こうやって簡単に作れるとありがたみがなくなって来るよなぁ。今後も止めるつもりは微塵もないけどな。

 そんな訳で、即座に斬りつけてきた少女の手首をつかんで後ろ手に拘束。


「あんた何者よ!」

「ただの旅人だ。それより見てろ」


 何が起きたかの証人がいるといないとでは大違いだ。主に信頼度の上昇率がな。

 という訳で口で蓋を開けてフィルに九割をぶちまけて、残りの一割を多少強引だけど口の中にねじ込むと、すぐにその全身が真っ白な光に包まれた。

 全身包帯だから経過はどうなってるのか分かんなかったけど、1分もすると光は収まった。


「痛く……ない?」

「フィル!?」


 小さな呟きに、少女は驚いた声を上げて近づき。恐る恐る包帯をめくった瞬間。滝のように涙を流しながら部屋を出て行ってしまったんで、俺が代わりに包帯を外していく。


「おかしい所はあるか?」

「ううん。ところでお姉ちゃんは誰?」

「俺は女の子の味方だ」


 そんな感じで包帯を解かれたフィルは、ライトグリーンボブショートが似合うとても可愛らしい女の子で、ようやく戻って来たルークや他の面々も、その姿に嬉しそうに涙を流して俺にもの凄い感謝の言葉を続けてくれた。

 ふっふっふ……。これで俺の言う事には絶対服従の都合のいい従業員が手に入ったぜ。もちろんホワイト企業を目指しますよ? 相手は子供だし、本当に儲けられるのかどうか分からんので今回は実験みたいなもんだしな。

 という訳で仕事の内容を話してみると、思った通り全員が不思議そうに首を傾げてそんなんが仕事になるのかとルークの弁に、他の子供達も同じように何言ってんのみたいなニュアンスの言葉を紡ぐが俺は行けると思ってるので、お構いなしにギック市の地理に詳しい数人を引き連れて大通りの中でも一番人の往来が激しい南外壁前へとやって来た。


「なぁ……本当にやるのか?」

「当然だろ。助けてやったんだから言う事を聞くって言ったのはだどこのどいつだぁ~い。お前だよ!」

「なんだよその言い方……まぁ、金貰ってるからやるよ」


 事前に冒険者ギルドの人間やアニーとリリィさんにも確認を取ったが、街の地図を売っていたりどこに何があるのかを知るすべは己の足以外にないらしい。

 であれば、どこに何があってどんな店なのか。品ぞろえや値段などの情報を商売にすれば、金もうけができるんじゃないかと俺は踏んでいる。だからこそ多少自信ありげに提案したんだ。護衛として連れて来た連中も随分と興味ありげだったから儲けは期待できるだろう。

 ってな訳でさっそくカモ発見。最初はやり方を見せるためにルークを連れ立って2人組冒険者の前で立ち止まる。


「お兄さん達この街は初めて?」

「ああ。何だお嬢ちゃん……買ってほしいのか?」

「ううん。わたしが売るのは、この街の案内。欲しくない?」

「いらん。そんな物がなくても宿だろうと酒場だろうとそこら中にあるだろう」


 事実。一番人通りの多いこの大通りには宿屋と酒場・食堂と言った店舗が軒を連ね、連日連夜途切れることなく賑わいを見せている。

 だがしかし。賑わっているという事はそれだけ様々な人種がはびこっているという事でもある。良店もあれば悪店もあるのは世の真理。こればっかりは世界が変わろうが決して揺るがないので、別にこいつ等がぼったくり店に入って身ぐるみはがされたところで痛くもかゆくもないが、こっちも商売なんでな。


「うーん。それじゃ特別っ。ルーク。あそこのお店ってどう?」

「あそこは初見の客に質の良くない食事を出したり宿代を高めに請求されるから止めといた方がいいぜ。貴族と裏でつながってるから、文句を言って身ぐるみはがされた元・冒険者が何人もスラムに居るんだ」


 もちろん事前に打ち合わせをして悪い店は教えてもらってる。まずはあえて悪い店を例に挙げて、次に中でも優秀な部類に入る宿を指さす。


「あそこは?」

「あそこは値段の割に飯がうまい。おまけにシーツは3日に一度のペースで替えるし、なにより受付の娘が可愛いと男連中には評判の宿だ。と言っても、口説いたりすればおっかない元・B級の冒険者だった親父が出てくるから止めといたほうがいいぜ」


 そこまで聞いても恐らくは半信半疑。端的に言えば所詮は子供の戯言。しかもみすぼらしい服(俺も着ている)を着ているからスラムの人間なのは一目瞭然。それでも足を止めたのは俺の美貌のなせる業だ。ここでさらに一押し。


「さ・ら・に特別っ。お兄さん達の魔物の素材。ギルドより少しでも高く売りたくない?」


 魔物の素材は基本的にギルドに下ろすのがルール。これもテンプレの1つかなと思ったんだが、どうやらここのギルドでは解体はよほどの大物か大量でなければ有料でしかやっていないらしく、そこ以外に売却が出来ない田舎のギルドと違って、素材も貴重であったり急を要する物。ポーションや各種状態回復薬の素材くらいしか常時買取をしておらず、大抵の冒険者は解体の技術も持ち合わせており、依頼以外の素材は必要に応じた専門店に売却するのがこの世界のテンプレらしい。

 となると、やはり重要なのは高額で買い取ってくれる場所だろう。特に日々の食事にすら事欠くような下層冒険者であればなおさら。

 しかし。ギック市はこの世界基準で大都市であるために鱗狼の素材1つとっても買い取っている店舗は30以上あるらしく、初見で最高値の店を引き当てるのはまず不可能だろう。


「お前等みたいなスラムのガキにそんな事が出来るのか?」

「お兄さん達スラムの人間を甘く見すぎだよ。どこにどんな魔物が卸されたのかを知るのは生きる事に必要な知識なんだからね」

「それがどうして値段に繋がるんだよ」


 当然のように疑問を投げかけてくる冒険者に対し、説明をする。

 スラムの人間は慢性的に腹を空かせている。

 中には犯罪に手を染めたり冒険者として常時依頼の薬草採取などで飢えをしのぐ連中もいるだろうが、ガキ連中はそういった奴等に稼ぎを奪われてロクに金を得る事が出来ずに食うのもやっとの状態だ。

 そこに対して何かしらの支援策があるのならまだよかったかもしんないが、ここを治めていたのはクソ貴族。儲けにならず損失しか生み出さないスラムに金をかけるなんて事はしない。廃れた教会がその最たる証拠だな。

 ってなると、食っていくためには犯罪に手を染めるかそれ以外の方法が必要になる。それが情報を扱うと言う事。

 どこの店に肉が売られた。

 どこの店で毛皮が供給過多で倉庫を圧迫している。

 どの時間にどこの道を使えば安全か。

 そういった情報を共有する事で、盗みを働いても気づかれにくい。万が一気付かれたとしても余裕を持って逃げ切れるのだから。


「――という訳で、わたし達はどこの店で何が不足しているのか知ってるって訳」

「なるほどな。じゃあおれ達のも高値で売り払える場所に案内してくれるんだな」

「商品次第かな? お兄さん達がこの商売の初めてのお客さんになるなら、青銅貨1枚でやるよ? しかもお代は高く売れなかったら貰わないってのでどう?」

「大した度胸だな。いいぜ乗ってやるよ」

「毎度あり~」


 こう言えば、万が一納得がいかなくても相手は損しない。

 ルークは俺の提案にちょ!? って言ってたけど、こういう商売をするにあたって必要なのは相手の信頼を得るのが大事。値段も青銅貨1枚ならパンが1個買えるかどうかなんでそこまで大金じゃない。損して得取れって奴だ。

 それが決定打となって、こっちの提案を受けてくれることになった。


 ――――――――――


「どうだったよ。いい感じで儲けが出ただろ」

「ああ。お前の言った通りだ。ありがとな」


 あれから何人かの下層冒険者や駆け出し商人を相手に同じように商売をした結果。多少問題はあったものの、子供連中と護衛の連中との顔合わせに丁度良かったんで利用し、おおむねスタートダッシュとしては十分な成果を得た。あとは子供達が自分達で頑張るのみだ。何か問題が起きたらギルマスの首を物理的に飛ばすから頑張れよとの激励と共に護衛の代金である金貨を100枚渡してある。

 1日経ってようやくアニーとリリィさんの準備が整ったので、俺達はマリュー侯爵のいるエルグリンデに向かうために北門に居た。傍らには世話してやったスラムの子供達。


「しばらくの護衛代は俺が出してやっけど、それが無くなった後は自力で頑張れよ」

「おう! なんか世話になりっぱなしになっちまったな。今度来る時はもらった薬代を払えるくらい稼いどいてやるから、必ず受け取ってくれよ」

「期待せずに待っててやるよ。じゃあな」


 そんな簡単な別れを告げて、俺達はギック市を後にする。

 この数か月後。彼等はギック市ではなくてはならない存在として多くの冒険者や商人だけでなく、良識的な店からもウチを紹介してくれと言う注文まで受けるほどに成長するのはまた別の話。

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