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#351 うるさいですよ~? ポカポカ。少し静かにしましょうねぇ~? ポカポカ。

「あれがそうか?」

「ああ。あたい等の親分――精霊王のカグツチさ」

「るうあああああああああああ!!」


 腹の底まで響くような怒声に、拳を地面に打ち付ける衝撃破はさすがと言わざるを得ない威力だが、そんな事をされて新しい噴火口を作られたらたまったもんじゃないからな。イフリア達にルナさんの護衛を任せ、早速とばかりに声が届くだろう距離まで歩み寄り――。


「うっせぇんだよボケが」

「ぐぼあああああ!?」


 背中を向けるほど状態を捻ってからの、封魔剣での強烈なツッコミをそのわき腹に叩き込む。すると、殊の外軽く、あっさりと数100メートル以上すっ飛んで行ってしまった。


「おいいいいいいいいいい!! 貴様何しとんじゃワレコラァ!」

「いやぁ……野郎の声ってのは聴いてるだけでストレスがな……それにあの程度では死なんだろ。加減もしてやったし」

「そういう問題じゃねえじゃろうが! おじきは精霊王じゃぞ!」

「うるせぇ黙れ。だったらテメェ等であの馬鹿が話を聞けるような状態に持っていっときゃ良かったんだよ。それこの俺がわざわざ手を貸してやったってのに、感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはねぇ!」


 あの一発で間違いなく奴の意識は俺に向いた。であれば周囲に当たり散らすなんて聞く耳を持たない状態から、俺の罵倒や挑発くらいは届くようになったんだ。ここからストレス解しょ――げふんげふん。冷静さを取り戻させてやる手助けをしてやろうというのだ。感謝しかないだろう。


「なんじゃとコラァ!」

「止めな! 今はそんな事を言い争ってる場合じゃないよ」

「ですが姐さん!」

「あたいは止めなと言ったんだ。精霊母の言に逆らう気かい?」


 イフリアのひと睨みで、カサンドラが押し黙る。それを確認し、今度はこっちに向き直る。


「で? あんたは精霊王をどうにか出来るのかい?」

「まぁ、手ごたえから言っても負けるような事にはなんないだろうな」


 隙だらけだったから何とかなった。とは俺は思わん。そもそも〈身体強化〉が優秀なスキルであり、2割3割の力でも魔族を相手取れるし、10割でこの世界のおとぎ話に出て来たらしい神と双肩を成す実力を持つらしい魔神を圧倒出来ないまでも対等に渡り合えた。

 そんなスキルを前に、たかが――というにはちょいと力は強いが精霊王とガチバトルをやったところで負ける要素はない。まぁ、攻撃方法が封魔剣での殴打くらいしかないこっちも勝ちって訳じゃないんだけどね。


「じゃあ任せたよ。あの馬鹿は殊の外しつこいよ?」

「……どこまでやっていい」

「そうだねぇ。しばらくはあたいの言う事を聞くくらいコテンパンにしてやっとくれ」

「了解。ちゃんと他の精霊母達に俺という存在を好意的に伝えてくれよ?」

「精霊までそんな目で見てるん?」

「当然だろう。触れないのは残念だが、そこに綺麗で可愛い女性が居ると聞けば、魔族だろうと口説くのがこの俺アスカ様だ。上からな物言いになるが、ルナさんもその1人であるからこうして親交を深めようとしてる訳だ。誇っていぞ」


 これが野郎であったなら、俺は間違いなくここにはいない。そもそもシュエイを救ってない。つまりはそこで獣人という種族がかなりの窮地に立たされる羽目になっていた。まぁ、ルナさんという報酬の代わりがあったのかもしれんがそこはたらればの世界。結果はこうなんだから興味はない。


「人間が……この精霊王であるこのカグツチに何をしたぁ!!」

「うるせぇから殴ったんだよ馬鹿。部下も守れんかった無能がギャーギャー騒いでんじゃねぇよ。近所迷惑なんだ。額をこすりつけるように土下座しろや」

「黙れ! 人間ごときがこのカグツチに謝れだと? 身の程を弁えろ!」


 怒鳴り散らしながら剛腕が振り抜かれたわけだが、直撃したところでビクともしないし押し付けられる拳の熱は役目を終えかけてるホッカイロくらいの微熱にしか感じないので、さっきと同じように封魔剣での殴打で吹っ飛ばす。


「随分と弱ってんな。まぁ、こんだけ力使ってりゃそうなるか」


 ちらっと見ただけでも数100ヶ所に似たような爆心地がある。これだけのモンを拵えるためには、勿論の事ながら色々な力が消費される。手っ取り早いのが魔力。

 精霊母であるイフリアのマジの一撃を喰らった際、2割程度だったら焼け死んでただろう威力があったんでめっちゃビビった。あんま生に執着はないが、性にはめっちゃ執着してっからな。せめて一度だけでも我が息子をデビューさせないと死んでも死に切れん。

 ちょっと話がそれたが、結局のところこの馬鹿は後先考えずに魔力を使いまくって絶賛弱体化中って訳だ。こんなだったら負けてやる方が難しい。


「いいだろう。このカグツチを本気にさせた罪を死でもって償うがいい!」

「出来るもんならやってみな」


 どうやらこいつは馬鹿らしい。自分の状態を正しく把握していないらしく、こんな雑魚な状況でこの俺に対して生意気な事を言ってのけた上に殺すだって? 冗談はよし子ちゃん。


 ――――――――――


「助かったよ――っていえばいいのかね」

「どうしてくれんじゃ。あんなおじき初めて見るぞ」

「なんだよ。注文通り馬鹿の伸び切った鼻をへし折ってやったんだぞ?」

「アスカ……やりすぎ」


 カグツチを一方的にボコってボコってボコりまくった結果、10分もしない内に地面に半分埋まってぶつぶつ言ってる姿は、あれだけ尊大だった時と比べて半分以下に見えるな。まぁ、埋まってるからなんだけどね!


「んなことよりもだ。さっさと事情を話してこい」

「あ、ああ」


 すぐにイフリアがカグツチに話しかける。良かった良かった。ちゃんと会話が出来るようになったじゃないか。おまけに随分と静かになったし、馬鹿みたいに炎を吐き出さないんで相対的に気温の上昇は若干ながら低くなっていくだろう。俺が実感する事はないがね。


「よく来たな人間よ」

「あ?」

「すんません。あっしも姉御にこんな事したくねぇんですが、これでも精霊王として威厳を保たなきゃならねぇんっすよ。申し訳ねぇっすが付き合ってくだせぇ」


 俺みたいな超絶美少女にペコペコしてる時点で威厳もへったくれもないと思う。まぁ、すでに格付けは済んでるんで、こっちとしてはそこまで目くじらを立てる案件ではない。脅しヴォイスを1発かます程度で。


「んな事より現状の理解度だ。分かってんだろうな?」

「もちろんでさぁ。イフリアから山から神の怒りが出るって事だそうで。マジなんですかい?」

「大マジだ――っていうかマジって意味知って使ってんのか?」

「ええ。あっしは中級精霊の時分に異世界からやって来たって奴と魔王と戦争しましてね。そん時に色々と話を聞いてたんでさぁ。これを知ってるって事は、姉御も異世界人なんですかい?」

「いや。俺もとある奴から教えてもらっただけだ。それより何とかならんのか?」

「申し訳ねぇ。とんでもねぇ力が寄り集まってんのはあっしも感じられるんすけど、たとえ魔力が満ちてたとしてもどうしようもねぇです」


 案外使えないあなぁと内心ディスりつつ現状を確認させてみると、どうやらあと10分もしない内に地中からこの山の中心部に直撃するとの事。俺でも調べる事は出来たけど、やっぱ面倒な事は他人にやらせるのが一番な訳よ。口をちょこっと動かすだけで済むなんて楽すぎる。


「うーん……やっぱり地下だったかぁ」

「駄目なん?」

「だって潜ってくために穴掘るのとか超面倒臭いじゃん」

「ん。納得」


 5割程度で、10分もあれば5キロ下くらいまでなら掘れるけど、正直やる気が全く起きないんでカグツチに顎で指示を飛ばすと、敬礼後すぐに下級精霊を強制招集させて穴を掘らせていると、確かに徐々に山が震え始め、それが段々と巨大になり残り2分と迫った今では震度5くらいの揺れが続いている。


「姉御は本当に異世界人と似てるっすね」

「どういう事だ」

「それ……見えてないんすか?」


 目を向けた先には顔を真っ青にして俺にしがみついているルナさんが。

 あー……そういえば山賊退治をした時もユニ以外は地震にめっちゃビビってたっけ。

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