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#350 すべては息子のために……物理的な説得をじゃないか

『とりあえず……これからどうする?』


 話がひと段落したんで、本筋に戻す。


『どうするって……』

『何とか止める事は無理ですのん?』

『すでに起動してるからな。これを壊すとより酷い被害になるそうだぞ』

『そんな事誰に聞いてん。そしてそれを信じてええんか?』

『もちろんだ。性格に難はあるが綺麗で可愛い女性から聞き出したものだからな』

『ええわ。とりあえずウチ等はどないしたらええねん』

『そこだよなぁ……』


 火山の噴火に対しては俺が何とかするとして、他の人員に関しては出来る事がほとんどない。避難勧告をするにしても限界があるし、王都は無理だ。こっそり事件を解決するっきゃないが最優先でしなきゃなんないのは決まってる


『まずはそこから離れろ。恐らくだが赤い魔法の光が迫てくるぞ』

『あぁ……それでしたらこちらには届いてますが、特に異常は感じられませんよ?』

『念のためだ。それに目がチカチカすんだろ? 長時間いると目に悪いぞ』

『っ!? すぐに脱出します!』


 ユニにとって読書の要である目の不調は死と同等なくらい恐怖を掻き立てるんだろう。慌てたような声を初めて聴いた気がする。今度から罰に目へのダメージを考慮しておこう。どうせエリクサーを摂取すればなるだろうけど、今までと比べて随分と素直になてくれるだろう。くっくっく。

 それから、ほかのメンバーも次々にその場を脱出。一応神壁については回収をしてもらう事も忘れない。1枚でも他者の手に渡るととんでもない事になるらしいので、アニー達が真剣な声色で脅して来たから一応厳命。


「……まだ?」

「あぁ。悪い悪い」


 随分と長い間話し込んでたせいで随分とほっとく形になったルナさんが話しかけて来たんで、とりあえず決まった事を説明する。


「分かった。うちはどないしたらええ?」

「ルナさんには悪いがこのまま山に突っ込む」

「……ん」

「一応安全には気を付けるつもりだが絶対じゃない。なぁに気にするな。たとえ死んだとしてもいくらでも生き返る事が出来るから安心だな」

「それ、安心言わへん」


 いつ火山に攻撃が始まるのか分からん以上、その文句に耳を傾けるわけにはイカン。まぁ、死なせちゃうと好感度激下がりになるだろうから可能な限り守り切るつもりではあるが、あのクソ眼鏡が何か仕掛けないとも限らんからな。


『アスカ~。ウチ等はユニ来るまでじっとしとくことにするわ』

『そうか? じゃあこっちはこっちで済ませとくから、ユニは2人のトコに向かってくれ』

『分かりました』

『アスカはんの雄姿が見られへんのは残念やけど、あて等の足では追いつく事出来へんので』

『あちしは追いかけるのなの~』

『それでは我も主人の元へと向かわせていただきます』


 それぞれの行動方針が決まった訳だが、とりあえず先立って必要なのはルナさんの装備だな。

 獣人領の外を歩くためにはよく分からん対策が施されたマントを羽織らんといかんが、これも完璧じゃない。にもかかわらずより灼熱な火山の噴火口まで行くんだ。100パー耐えられる訳がねぇからな。その辺のモンを走りながら適当に創造っと。


「何してるん?」

「ちょっと暑いのかなぁと思ってな。着てみるか?」

「今は無理やん」

「そんな事はないぞ。こうすれば――」


 という訳でルナさんを空高く放り投げ、落ちてくる間に〈魔法鞄〉取り出し~の。コテージ取り出し~の。扉開け~の落とし~の。

 後は着替えを終えるまで扉を日よけ代わりにしながら走る事30分。ようやくノックが聞こえたんで結構かかったなぁと思いながら、今度は前方に向かって放り投げるとキチンと地面に着地。出てきたルナさんを抱え上げつつコテージを〈収納宮殿〉でキッチリ回収。


「……もっと方法なかったん?」

「あれが一番手っ取り早いからね。それよりもどう?」

「ええよ。暑さ感じへんし」

「そりゃよかった」


 とりあえず、現状で暑さは感じなくなったらしいんで、更にギアを上げて道なき道を山頂に向かって突っ走る。気が付けば随分と山が近くなってきたなぁ。

 山肌は……当たり前だが枯れ木1本ねぇんで地肌むき出しで、どうなってんのか知らんけどそこら中に爆心地っぽいなぁって感じる場所が無数に点在してやがる。アレがイフリアの言っていた精霊王の怒りの被害地なんだろう。一発一発が球場くらいデカい。


「あれなんやろ?」

「さてな。とりあえず挨拶に行くかね」

「挨拶? 誰に?」

「精霊王」


 まだすべての火の下級精霊が戻った訳じゃないから怒りは収まってないだろう。あんま暴れられるとこっちにも迷惑がかかるだろうから、しゃーなしに大人しくさせに行く。姿形は一応聞いて野郎と分かってっから遠慮はしねぇ。

 軽ーく言ってみたらスルーしてもらえるかなぁと思ったけど、そこはこの世界の住人。やはり見逃してはくれなかった。


「何言ってるん? 精霊王は会えへん」

「普通の奴はそうかもしれんが、こと俺に関してはそうでもないんだなぁ」


 とりあえず〈万能感知〉を頼りに山を駆けあがる。ここら辺まで来るとさすがに噴火装置の状況は確認できないが今更したところで何か出来る訳じゃないからな。要は攻撃が来たと言う事だけ分かればそれでいい。


「ホンマに会うん? というか会えるん?」

「多分大丈夫だ。迎えが来た」


 その視線の先には、イフリアとカサンドラが近づいてくる姿がある。表情まではよぉ分からんが、あっちから来てくれたのは都合がいい。


「出迎えご苦労」

「ご苦労じゃないよ! この魔力の高まり……アンタ失敗したね!」

「ああ。敵の方が一枚上手でな」

「なに悠長な事言うとるんじゃ貴様! このまんまじゃと獣人領が滅ぶんど!」

「そうさせないためにここまで来てやったんだろ。で? 精霊王の様子はどうよ」

「相変わらず怒り狂ったまんまさ。そんな場合じゃないっていうのに聞く耳を持たないのさ」


 チッ。大人しくしてりゃあ見逃してやってもいいかなと思ってたが、やはり一言やらにゃいかん様だ。


「じゃあ俺がそいつにガツンと言ってやるからそこまで案内しろ」

「……言っておくけど、殺したりしないでおくれよ。あんなでも火精霊の長なんだからね」

「大丈夫だって。斜め45度でチョップを叩きこめば大抵の物は直る」

「おい。話し合いするんじゃねぇんか?」

「勿論話し合いだ。主に拳と拳での物理的な語らい――じゃなくて一方的な説教だな」


 なんて事を話し合いながらイフリアの背を追っていると、ルナさんがなんでかこっちをじっと見てる。


「なんだ?」

「なんで喋れるのん?」

「スキル持ちなだけだ」

「ふーん……勇者なん?」

「違う違う。俺は綺麗で可愛い女性を探しすために世界を飛び回る愛の旅人だからなあらゆる所属の言語は完璧に話せるし、精霊語もそのうちの1つだ」


 ドヤァ……と胸を張ってみると、何故か呆れたような目を向けられた。それはイフリアやカサンドラも一緒のようで、俺としてはなんでそんな事になるのかが全く分からん訳よ。


「どっかおかしいとは思ってたけど、女のためにそこまでするかい?」

「普通だろ」

「そん若さで何に力入れとんじゃい。強さに思いきを置けぇや」

「これ以上は無意味だろ」


 レベル上げはやっているが、これはあくまでスキルのグレードアップが目的であって強さを求めてる訳じゃない。そもそもそんな目的で旅をしてたら一生かかっても頂点に立てないほど成長速度が激遅いからな。


「確かに。アンタくらい強ければそうだろうね」

「だろ? だから俺はあらゆる種族の綺麗で可愛い女性とお近づきになる手段を最優先としてる訳よ。そのために言語を習得するのは最優先事項だ」

「納得いかん……」

「別に同意を求めるつもりはないさ。これはあくまでで俺の生き方であって、他人に同じことを強制してる訳じゃないし、誰にも迷惑をかけてないんだからな」


 すべては日の目を見なかった我が息子を、世界を股にかけて大活躍させたいという親心――とちょっと……かなり……滅茶苦茶ヤりたいって思いもある。


「さて……そろそろかな」

「ああ。あそこに見えるだろう? あれがそうさ」


 イフリアの指さす先では、確かに上半身しかないゴリマッチョな野郎が拳を地面に打ち付けている奇妙な光景があった。

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