#349 武勇伝武勇伝
遠く離れるように10階って高さから飛び降りる。左右からの大絶叫が止まる事無く響き続けるが、叫べるってのは生きてるって証だ。
そうして後5メートルってところで、充填が完了したらしい不可視の塔が真っ赤に光り輝き、その光が地面を走ってこっちに迫る。
「なんだありゃ」
〈万能感知〉で見るに、あれにはとんでもない魔力が込められてて、これに殺傷力があった場合は俺なら〈身体強化〉の割合を引き上げれば耐えられん事はないが、問題なのは肩に担いでる2人だ。
ルナさんはここに来るまでにレベルを上げたし、綺麗で可愛い女性って事もあって自重をほとんどしないで最高の素材を用いたから、ワンチャン死なないかもしんないけど絶対じゃないし、一番槍ちゃんに至ってはユニくらい強いかもしれないと判断したが今は装備らしい装備はない。いわゆるご都合布きれによってR-18にならない程度に凝視したい部分が隠れている――つまりほぼ裸な訳だ。確実に死ぬって。
「……後で治すからせめて受け身取ってくれよ」
……叫ぶのに必死でどっちも話を聞いてないみたいだけど、死ぬよりはマシだろうと放り投げた直後に光が直撃――したけど特にダメージらしいダメージはないし状態異常になるような感覚もねぇ。どうやらただの杞憂だったとしておこう。まだ俺だったから無事だったという線もあるんだからな。
程なく着地。地面も特に性質が変化した訳じゃないらしいが、あんま長くこの中に居ると目がチカチカしていかんね。
「おーい。死んでないか?」
「うちは平気」
「ぼっくも」
よかった。とりあえずアニー達みたいにものすごい剣幕で殴りかかって来るような事態にはならんかったようだ。ルナさんはまだしも一番槍ちゃんは殴って来そうな感じがしたんだけどね。
「さて。とりあえず現状の確認だ。素直に話せばクソ眼鏡を殺しに行くに際しての良い装備を融通してやるぞ?」
尋ねる相手は勿論一番槍ちゃん。問う内容は勿論これからどういった経緯で獣人領が滅びの道を歩むのかだ。素直に吐けばこれをくれてやると、目の前にヒヒイロカネの大剣と軽鎧とアクセサリーを見せびらかす。
「……あの光は他にもある装置をつなぎ合わっせ、各所に溜められた精霊の魔力でもって神の済む山であるあの場所を攻撃。そうすれば獣人領を滅ぼす事の出来るほどの災いがここに降り注ぐって〈盟主〉様が言ってたらっしいよ」
「ふむふむ……」
イフリアから聞いてた話と若干違うな。まぁ、あっちのはどんくらい前なのかもはっきりしないほど昔の話らしいし、なーんとなくだけど一番槍ちゃんの方が現実味がある。地球だとそんなんで火山が噴火するかよって思うけど、ここは異世界でファンタズゥイ~な理が働いてるからな。そういった方法もアリなんだろう。
「どうにかならんのか?」
「知らっない」
「いつ神の怒りが出るのかとかもか?」
「うん」
「役立たず」
「う、うるっさい! ぼくは強い奴と戦いたいから〈盟主信教〉に居ただけだっもん!」
一番槍ちゃんもバトルジャンキーか……まぁ、こんな世界で生きてゆくには誰しも修羅にならなきゃいけないんだろう。まぁ、俺が出会ってきた連中はたいていがそれを楽しんでる節があったけどね!
「まぁいいや。とりあえず手伝え。問題が解決したら無罪放免で逃がしてやるから」
「ええのん?」
見逃し発言にルナさんがわずかに顔をしかめるが、その程度で俺は退かんぞ? 俺は俺の目的のためには手段を択ばん男だ。まぁ……やりすぎると2人の阿修羅が覚醒するからな。桑原桑原……っと。
「利用されてただけっぽいしな。それに、綺麗で可愛い女性は極力助けるが俺の信念だからな」
「ぼく……綺麗じゃなっい。目がこんなだっよ?」
よく見てみろと言わんばかりに8つの目をギョロっと向けてくるが、特に何とも思わんので目をそらさず嬉しそうに笑みを浮かべる。やはり見れば見るほど将来有望だよなぁ……。
「俺は気にしないぞ? それに戦闘に際して有利だからそのまんまなんだろ?」
「そうさ。これだけの目があっると色々見えっるし、集中すると――おっと。これ以上はぼくの秘密」
「おしい~。もうちょいだったのにぃ~」
なーんて暢気に話し合ってると、横からもんの凄い怖い顔をしてルナさんが睨みつけてきた。その迫力に思わず一番槍ちゃんと抱き着きあってガタガタ震える。
「ふざけすぎや。状況分かっとるん?」
「わ、分かってますとも。なぁ?」
「うんうん。獣人領が神の怒りで滅ぶんでっしょ?」
「で? 2人はそんな時になしててん」
「なにって……ナンパ?」
言ってからヤバいと思ったけど遅かった。気が付けば地面から突き出したアッパーカットが的確に顎を捉え、俺の身体は宙を舞った。因みに一番槍ちゃんは魔法が直撃する一瞬前にちゃっかり離れやがった。この裏切り者っ!
「わーお。あれ喰らって生きてるっておっかしい頑丈さだっね」
「おいおい。こういう時は一緒に罰を受けてくれよ」
「無っ理だよ。いまのぼくがあんなのの直撃受けたら怪我じゃすまないっから」
「……十分頑丈」
「……とまぁこの辺で。それじゃあ最後に、どんくらいで攻撃が始まる?」
「ギークはあの塔が崩れればすぐに始まるって言ってった」
「なるほど」
光輝いて全体的に振動してる。これがどの位で崩壊するのかは俺には分からんし、一番槍ちゃんも知らんのだろう。ワンチャン〈鑑定〉が使えるアニーなら分かるかもしれんかな。
「とりあえず帰っていいぞ。何かできるって感じじゃなさそうだし」
「そうだっね。ぼくは戦うくらいしかできないかっらギークを殺すために動く事にすっるよ」
「なら装備の他にいくつか奥の手をくれてやるからありがたく思えよ」
「へっへ~」
とまぁ、最後のお茶目を楽しみ、一番槍ちゃんにいくつか秘密をくれてやった。何を与えたのかはもちろん秘密だが、俺がやる事だからな。それはもうこの世界の基準を逸脱しておりますとも。
そんなアニーに見つかったら精神崩壊しそうなくらい怒られるだろう一番槍ちゃんを少し見送り、来た道を戻る。今となってはユニにここを任せずに済んだのは運がよかったと思う。
2人を相手にしても勝ちは拾えるだろうけど、その後のアレはユニじゃ耐えられん。もしそうなってたら、きっと今頃はこの世になかっただろう。悪運だけは強いな……俺。
「どないするん?」
「とりあえず連絡だな」
届くかどうかわからんが、とりあえずパーティーチャットで問いかけてみると反応があった。
『アスカ。失敗したやろ』
『おう。敵方に頭の切れる奴がいてな。死体を餌に魔力溜めるたぁ思いもせんかった』
『こっちの死体も消えてまいました』
『ワタシのところです』
『あちしは食べちゃったから分かんないのなの』
『我も配下のモノに施したので死体を残しておりませんでした』
ふぅ……なんとなしに言った嘘がまさか当てはまるなんてな。これも俺の日頃の行いが良すぎるおかげだな。
『とりあえず報告。数日中に山から神の怒りが噴き出す』
『何してんねん!』
『ど、どうしますのん!?』
『まぁ、いくつか考えがない訳じゃないが確実な保証もないんだよなぁ』
『美味しいならあちしが食べてもいいのなの』
『神を殺すというのはいかがでございます? 存在が消えればおのずと怒りは消滅するのでは?』
『それは無理だ。俺の予想だとあの場所に神は居ねぇからな』
昔の連中は様々な自然災害を神の怒りと称してきた歴史がある。今回もそれに該当するはず。俺だったらあんな場所に居を構えねぇし、人類の攻撃程度にキレて一種族を滅ぼすとかどんだけ器ちいせぇんだよってな。
『ふふ……そうでございますか。それでは殺しようがございませんね』
『っちゅうか神殺すて丸男はぶっ飛びすぎやろ』
『我が主人であれば可能なのかと思いまして』
『どうだろうなぁ……あの耐久力を考えると難しいと思うぞ』
魔神であの強さだ。それと同等か上である六神を相手取るとなると予想すら出来ん。駄神を殴った事はあるが、アレは肉体よりテレビを壊した方が効果は抜群だぁ!
『戦った事があるのでございますか?』
『一方的に殴っただけだ。派手に吹っ飛ばしたが怪我した様子はなかったがな』
俺の言に全員が押し黙――あぁ、アンリエットだけは凄いのなの~♪ ってはしゃいじゃいるが、それはいつもの事だからノーカンだ。




