#347 あーとでひじてつくらうんさぁーあぁ
「るぅああああああああ!!」
「おっとっと」
まず始めに、一番槍ちゃんが幼女とは思えない咆哮を上げながらまた暴れ始め、突然の事だったんでついバランスを崩しちゃって、せっかく捕まえたのに逃がしてしまった。
「殺す殺す殺す殺っすぅ! お前はぼくの命を懸っけてでもぐちゃぐちゃのバラバラにしてやっる!」
「落ち着きなさい。僕も〈盟主〉様を虚仮にしたあの愚物を骨も残さず塵にしてやりたいところですが、現状では明らかに不利です」
「だったらお前だけ逃っげろ。ぼくは刺し違えてでも――」
「待て――と言うのが聞けねぇのか?」
「「っ!?」」
底冷えするような声に、ルナさんは顔を真っ青にしてその場にへたり込み。一番槍ちゃんは目が血走るほど我を失ってたのに、多少だけど冷静さを取り戻した。
「おっかないねぇ……それがテメェの本心って訳か?」
「さてどうでしょう。それよりも、随分と思い上がった発言をしましたね?」
「別に思い上がってねぇよ。事実を言ったまでだからな」
間違いなく俺はこいつ等より強い。それは間違っちゃいないが、件の盟主とやらはよぉ知らん。まぁ、こう言う連中のボスってのは大抵強い設定だろうが、魔神相手に生き残った俺ほどじゃないだろう。つまり何も間違っていないと言う事だよ。
「お前まっだ――」
「調子に乗るなよクソガキ。お前如きが〈盟主〉様より上などありねぇんだよ」
「だったら実力で証明して見せろよ」
「もうやってんだよ! 〈握魂〉で死んどけや」
さっきまでの優男然とした態度は一瞬で悪辣な顔へと変わり、いつの間にか詠唱していたらしい魔法をこっちに向かって放ってきたが、目に見えて何かが迫って来るという感じはないけど〈万能感知〉では何かが迫ってくる感じがあったのでとりあえず受けてみたものの、なーんか嫌な感じがあるくらいで変化は特にない。
「……なんだ? 欠片も死ぬ気配がないぞ?」
「ば、馬鹿な……僕の最大魔法だぞ! 何故死なない!」
「さてな。お前の魔法がへぼなんだろ? って訳で死ね」
クソ眼鏡の懐まで一気に飛び込み、剣を横薙ぎに動かすだけであっさりと腰から上下に両断したんだけど、噴き出したのは無数の紙吹雪みたいな物。それが無数に散らばり、後に残ったのは一番槍ちゃんだけだけど、その表情は全ての目をひん剥いて驚いてる。
ふむ……どうやらはじめからあのクソ眼鏡は本体じゃなかったらしいな。こうなると一番槍ちゃんの方も本体じゃないって考えるのが至極当然かな。
「信じらっれない。あの魔法で死なない存在なっんて……」
「おーい。聞こえてるかぁ?」
「っ!? な、なにっさ!」
「いやぁ。クソ眼鏡がああなった以上、一番槍ちゃんはどうすんのかなぁって」
両者ともに本気でかかって来たらしいけど、俺には手も足も出なかった。つまり手詰まりって訳だ。野郎はすでに再起不能にした以上、俺は綺麗で可愛い女性には手を出すつもりはない。盟主とやらの下に帰るのなら放っておいてもいい。
「……すっごいムカつくけっど、ぼくじゃお前に勝てない。かといって背を向けて逃げるのも〈盟主〉様に顔向けが出来な――」
何かを言いかけてる途中で、一番槍ちゃんの身体が何かに引っ張られるように急速に目の前から消え去り、事もあろうか俺の肉体ですら炭化させるほどの高熱を発し続けている煙突部に激突。
「うぎゃあああああああああああ!! ギークフリイイイトオオオオ!」
あっという間に一番槍ちゃんの全身が炎に包まれる。マズイな。てっきりあの身体も偽物なんだと思ってたけど、恨み言のようにあのクソ眼鏡の名であろう物を叫んでるって事は本体なんだろう。って事は、あのままだとエリクサーで治療できる限界をあっという間に超えるぞ!
「チッ!」
「アスカ。アカン!」
人の忠告なんか聞いてられっか! なにがどうなってんのか一切分からんが、このままでは将来有望な綺麗で可愛い女性が失われてしまうんだぞ? それをみすみす指をくわえて見殺しにするなんて、俺の女性好きはそこまでレベルは低くねぇ!
すぐさま駆け寄りエリクサーをぶっかける。勿論の薄めたりしない原液100%。かなりの激痛を強いるだろうが死なないだけましと思ってもらいたい。その間にどうにかして引きはがせれば……っ。
「なんちゅう力だよ!」
まるで煙突に縫い付けられてるんじゃないかってくらいビクともしない。皮膚が焼けて張り付く程度ならすでに引きはがせてるが、これはそんなレベルじゃないぞ? いったいどうなってやがる。
「アスカ!」
「チッ! そっちもかよ」
ルナさんの悲鳴じみた声に、反射的に煙突部に神壁を張り巡らせてギリギリで一番槍ちゃんと同じ未来を回避させる事は出来たが、室内に居るだけでも汗が噴き出すくらいに熱い場所――その最たる原因の1メートル圏内となるとその猛威は圧倒的。
「あづい……」
「一番槍ちゃんと同じ事になってないだけマシだと思え」
ルナさんは時々エリクサーを飲ませておけばいいだろうが、一番槍ちゃんはそうはいかない。一瞬でも手間取るとかなりキビィ。何かいい方法はないもんかねぇ。
「おや? この状況でまだ全員生きているとはね。つくづく規格外の存在ですね君は」
「その声は……クソ眼鏡!」
〈万能感知〉で姿は確認できない。って事は魔法的な何かを使ってこっちを見て声を飛ばしてるって事か。やっぱこうなた原因はこいつの仕業か。
「さっきはどうも。そこそこの資金を投入した人形を一撃で破壊されるとは思いませんでしたよ」
「安全をケチるとロクな事にならんぞ」
「以後気を付けるとしましょう。それにしても……ある程度予期していましたが君は何ともないようで」
「そうだな。お前の実力がヘボいおかげだな」
どうやら俺もこの煙突に激突させられる手筈になっていたらしいが、クソ眼鏡の実力が足りなかったので難を逃れたらしい。
「しかし無能な2つの魔力袋には効果があったようですよ?」
「だな。今すぐテメェのところに行ってその顔面をグチャグチャにしてやりてぇよ」
「はっはっは。そんな事をしていたら両者共に死んでしまいますよ。何故そんな無能共を助ける事に必死になっているのか理解しがたいです」
「ああそうかい。だったら次に会う事があったら骨の髄までそんな事をするのか分からせてやるよ」
「くふふ……その状況で次があると本気で思っているのですか?」
瞬間――地面が揺れ始めた。
一瞬地震か? と思ったが、あれだけ押し付けられるようになってた一番槍ちゃんとルナさんがそれぞれ剥がれ落ちたんで回収。すぐにエリクサーをぶっかけて重度の火傷と脱水症状から救い出しながら現状に対して思考を巡らせるが、大して苦労せずに結論を導き出す。
「充填が完了したか」
「ええ。本来であれば各所から火精霊を餌に起動させる予定でしたが、君がそこの無能を救い出すためにと色々としてくれたおかげで無駄が省けました。これで〈盟主〉様に顔向けができると言うモノですよ」
「ギークフリイトォ!! コレは一体どういうつもっりだ!」
はっはっはと笑うクソ眼鏡に対し、ようやく自由を取り戻した一番槍ちゃんはどこにもいないクソ眼鏡に対して喉が裂けんばかりに怒声を張り上げるも、返って来たのは冷笑だった。
「何を勘違いしてんだ? お前みたいな無能が〈1桁〉である僕の従者だと本気で思ってたのか? クハッ! どれだけ無能なんだ? 多少頑丈な駒が一つ二つ無くなったところで補充すれば済む話だ。それに、我らが命は〈盟主〉様のためにある。命を投げ捨ててでもそいつを殺すのが駒であるお前の最後だ。せいぜいその娘に抱き着いて崩落に巻き込め」
そんなセリフを最後に、クソ眼鏡の気配が完全に消え去った。
「どうするん?」
ルナさんの声に、決まってんだろうと返答する。
どうやら、役目を終えるとこの塔は崩壊するらしく、逃げるのは壁をぶっ壊してそこから飛び降りるだけの簡単なお仕事なので、とりあえず一番槍ちゃんに目を向けてみると、クソ眼鏡の言葉が相当応えたようで、へたり込んでうつむいたまま動く気配がない。
「とりあえず脱出しねぇ? このままだと死ぬぞ~」
「……」
「死んだんと違う?」
「どれ」
物は試しと、そこそこ発育のいい胸を後ろから鷲掴みにしてみると、まだ硬さが残る柔らかさが指先から脳天まで一瞬で駆け抜け、かなりの幸福感が全身を駆け巡ったその数瞬後には一番槍ちゃんからの肘鉄がわき腹に深々と突き刺さった。
「ななな……何をしてるっんだお前!」
「いちち……元気になってなにより。じゃあ脱出するか」
一番槍ちゃんも元気になったんで、悠々と壁をワンパンで打ち砕き、そこから嫌な予感を感じ取っただろう2人を素早く担ぎ上げ、30メートルくらい先に向かって飛び降りた。




