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#345 呼んでないけど飛び出てじゃじゃじゃーん

「ふーい。ようやく到着だな」

「煙。あれへんね」


 道中、溜まった煙を壁をぶっ壊す事で換気しながら突き進み、ようやくたどり着いた最上階は窓がないのに煙が1ミリも侵入していない。どうなってんだろうと辺りを見渡してる。

 ここにあるのは、今まで回って来ただろう場所の中心部なんだろう。魔法陣的な物はどこにも見当たらない代わりに、部屋の中央に随分とけたたましいうなり声をあげる10メートルほどの何かが鎮座し、塔を突き破ってなお伸びてる煙突みたいな奴は随分と赤いな。


「これが例の噴火装置かな」

「知らへん。それよりえらい暑いわぁ」

「あぁ。スキルがあるから気温の変化に疎くてな。いつぐらいからキツかった?」

「最初から。6階くらいからもっと」

「そうか……」


 まぁ、考えられるとしたらこれ以外ないよなぁと中央の装置に飛び乗り煙突っぽい何かに触れてみると、指先が一瞬で炭化したものの、今や我がスキルの一軍選手であらせられる〈回復〉の力ですぐに元通りだが、ワイバーンのブレスやアレクセイの自爆にも平然と耐えきったこの肉体を焼き焦がすとはね。

 とりあえずの確認が取れたんで、一度降りて装置をぐるっと一周――


「アスカ!?」

「ん?」


 装置の陰からの不意打ちを受け止め、カウンターで拳を突き出してみるもそこには人の影も形もない。おっかしいな……さっきまで〈万能感知〉がしっかりと人の気配を捉えていたんだが、いまじゃあ全く別の場所に居やがる。


「聞いとる?」

「うにゃ?」


 不可思議な出来事に1人頭を巡らせていると、ルナさんに頬を引っ張られた。


「斬られてんよ?」

「そうだな」


 相手の攻撃を受け止めたのは頭。〈万能感知〉から伝わる相手の強さと警報が無かったんで平然としてたが、始めて見る俺の戦略? に慣れてないルナさんは相当ビックリしたようだ。


「平気なん?」

「じゃなかったら死んでるだろ?」

「確かに」

「そもそもあの程度の一撃で殺せると思ってるのが間違いなんだよ。だから……無駄な事をしてねぇでサクッと死ね」


 振り返りざまに石を投げつける。そこに居たのは随分とあつらえのいい服を身にまとった豚みてぇに太ったおっさんだ。正直言って、最上階で待ち受けてっからどんな綺麗で可愛い女性なのかなぁと思ってたのに、いざ蓋を開けてみれば身なりがいいだけの豚のおっさん。俺的落胆ぶりったらそらぁもう……ストップ安を余裕で突き破りますとも。

 だからかね。つい力が入りすぎて豚を剣ごと爆散させてしまった。幸いな事に半分以上残ってはくれたんで、ジトっとした目を向けるルナさんを見ないようにしながらエリクサーをポトリ。


「う……ぐ……儂はいったい」

「1回死んだんだよ。気分はどうだ?」

「貴様はっ! あの時の生意気な小娘ではないか! 何故ここに居る!」

「はて? 人違いじゃないか。俺にはお前みたいな奴と出会ったという記憶は一切ないが?」

「なんだと? この儂を覚えておらんというのか!」

「当たり前だろ。会った事もない奴をどうやって覚えるってんだよ」


 まったくぅ……命乞いをするにしたってもうちょっと言い方ってもんがあるだろうに。まぁ、野郎如きにそんな事をされたところで、よほどの事が無い限りは怒りしかないがね。


「フテブティ。なんで居るん?」

「おぉ……巫女様ではございませんか! やはり貴女様も〈あのお方〉のお言葉を信じて下さったので」

「知り合いか?」

「ん。城で外交を担当してる」

「ふーん。偉いのか?」

「3賢の1人。後2人は背が小さいんと毛が薄い」

「……おぉ。って事はあの2人の知り合いか」


 目が汚れるくらい顔を合わせてるから一応覚えてはいるが、こいつはマジで欠片も思い出せん。本当に会ってんのかのか滅茶苦茶疑問だが、知り合っていようがなかろうがどっちだっていい。


「で? 豚はこんな場所で何してんだ。ここがどんな場所か分かってんのか?」

「知れた事。〈あのお方〉が授けて下さったこの装置で、獣人領を他の種族の圧政から救うための、言わば祭壇であるぞ!」

「圧政ねぇ……そんなのあるのか?」

「昔の話やよ」


 ……どうやらマジらしいな。伊達に歳とってねぇって訳か。

 俺としてはそのモフモフな尻尾を愛でられるってだけでも十分に頭が上がらないんだが、こういうのは異世界人である俺の割って入れる領域じゃねぇ。こういう問題は他人がどうこう言ってはいそうですかってなれるほど浅くはない。

 まぁ、俺がそんなもんを聞かされて躊躇うような奇特な人間じゃないがね。


「で? その為にこれで何するつもりなんだ」

「決まっているだろう。我々獣人族を下等生物だと見下してきたクソ共に我らの積年の怒りを叩きつける! そうして得た優位性をもって獣人という種族の地位向上と外交における平等性を手に入れる!」

「さすが外交担当だな。国の為か?」

「当然だろう。現在我が国は未曽有の危機に瀕しているのだ。ここで他種族から食料なりを入手しなければ遅くない内に滅ぶのは目に見えている。その邪魔をする貴様はどれだけ罪深い事をしようとしているのかを理解しているのか!」


 そう言えば……獣人って基本的に侮られてる立場とか聞いたような気がする。

 他種族より身体能力は高いが、魔法の才能に関しては随分と低いんだったか。原始的な時代であれば無類の強さを誇るのかもしれないが、ここは魔法が様々な役割を占める世界だからな。それが使えないってなるとそりゃあ見下されるか。

 一応すべてが魔法で解決する世界じゃないとはいえ、割合は大きいからな。外交担当として色々と出費が多いんだろう。俺には関係ないけどね。


「大前提として、俺が聞いたのはこの装置は獣人領自体を滅ぼすためのモンだって事だ。これは確かな筋の情報だから、おっさんの他種族への攻撃装置ってのは間違いだ」


 まぁ、獣人領すべてを呑み込めば次は自ずと隣接する領地になる訳だからあながち間違っちゃあいないが、そん時には獣人のほぼすべてが死滅してるがね。


「フン! 貴様の情報こそ間違っているに決まってるだろう。この装置は〈あのお方〉が我々の窮地を知り直接授けて下さった物だ。製作者からの情報以上に間違っていない情報などあるはずがないわ!」

「何モンだその〈あのお方〉って奴は」

「この世の不条理を須く取り除き、驕り高ぶったクソ共に対して平等なる罰を与えて下さる素晴らしいお方であらせられるわ!」

「獣王とは違うのか?」

「ハッ! あんな無能と比べる方がどうかしている。〈あのお方〉の強さ。存在感。行動力。すべてがあんな愚王とは違う。今まであんな男に忠誠を誓っていたかと思うと我が目の衰えぶりに落胆したくらいだ」

「ふーん。それで獣人領を見限って〈あのお方〉とやらの陣営に加わり、こんな所で暇を持て余してたって訳か」

「暇を持て余している訳ではない! 貴様等のようにこの装置に近づく不届き者を殺すために警備をしていたのだ!」


 うーん。こいつの獣王に対する忠誠度がどんなもんだったのか知らんが、随分な心酔ぶりだな。さっきエリクサーを使ったんで、魔法とか状態異常なんかは消してあるはずなのにコレだからな。大したカリスマ性を持ち合わせてんな。


「だがお前じゃあ足止めにもならんぞ?」


 どうやって瞬間移動したのかってアドバンテージは確かにあるが、〈万能感知〉を持ってれば移動先を瞬時に把握できるし、基本性能は投石一発で死ぬ程度の貧弱ボディだからな。逆立ちしたって俺には敵わん。

 普通に事実を語っただけだし、この豚も逃げたりしないように縛り付けてあるんだが余裕の笑みは消えてねぇって事は、まぁ何かしらの奥の手っぽいのがあるに違いねぇ。


「クックック……この儂が足止めだと? 愚かなり!」


 そう宣言すると、目の前から豚の姿が一瞬で消え去り、数メートル離れた場所に何故か片腕を失った状態で立っていた。なんで片腕がねぇんだ? って疑問ももちろんあるが、それより気になるのはあのおっさんがさっきから歯をガチガチと打ち鳴らすって奇行に走っている事だ。


「お前……何してんの?」

「戦意高揚?」

「にしては焦ってるっぽいぞ?」


 10・20と繰り返していく内に、あれだけ勝ち誇ってたように浮かべていた笑みがみるみる焦りが深くなり、最後には何故かこっちを睨みつけてきた。


「貴様! ワシの身体に何をした!」

「別になんもしてねぇよ。なぁ?」

「ん。1回殺したくらい」

「チッ! そんな冗談に付き合っていられるか! このままでは――」

「お?」

「きゃっ!?」


 焦りに焦った豚の上半身が突如として爆散。その中からモノクルを掛けた銀髪の魔王(クソイケメン)と、右に2つ。左に4つの目があり、狂ったような笑みを浮かべているロリボディの可愛い少女が馬鹿デカい大剣を手に現れた。

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