#343 そんな装備で大丈夫か? そんな確認より読書の方が大事ですが?
アニー・リリィさん組と別れて今日で4日目。移動自体は魔物もいなければ通行の邪魔になりそうな木々なんかも無いんで非常にスムーズに突き進む事が出来て、500メートルほど先には4つ目の噴火装置があるであろう場所がある。
「さて。ほいじゃあ行くとしますかね。ルナさんも準備はいいか?」
「ん。問題あれへん」
「じゃあ行ってくっから、ユニもあそこをキッチリ制圧しろよ」
「分かっています。主の不興を買うような真似をするような間抜けではないつもりです」
「当たり前だろ。そんな事をしたら読書禁止月間を設けるところだ」
「……それを聞いて命を賭しても成功させようという気概が生まれました」
ひょいとルナさんを抱き上げ、俺は〈身体強化〉を6割ほど開放したその足で一気に飛び出す。
本来であれば、こういった移動が面倒臭いからここを俺が制圧してやろうと思っていたんだが、ユニもそろそろ本読みたい症候群(適当病名)が発症しているらしく、ここを担当させてくれなかったら全員の回収が5日ほど遅れますよ? なんてとんでもねぇ脅しをかけてきやがったので泣く泣くこの場は譲る事に。
俺・丸男・アンリエットはこの猛暑? で5日程度待たされても何の問題ないが、アニー・リリィさん・ルナさんの3人はこのクッソ暑い? 炎天下じゃそんな長時間は耐えらんないからな。
まぁ、なんかしらの不都合が起きた時に備えて各人には居と食をある程度満足させるだけの物を持たせてあるんで、多少遅れても怪しくない程度の言い訳なら多少は思いつくが、ユニは俺とアニー達のどっちと一戦交えるんだと答えれば間違いなく俺と即答するほど力関係が分かってるからな。余計な発言をされて地獄を見るのはこの世界に生れ落ちてトップ5に入るレベルでシンドイからな。
「まぁ頑張れよ」
「言われずとも」
「じゃあね~」
ひょいとルナさんをお姫様抱っこし、〈身体強化〉を6割くらい解放した足で一気に飛び出す。さっさとこの問題を解決して綺麗で可愛い夜の蝶達とポン♪ ポン♪ なパーティーで盛り上がりたいからな。
――――――
「さて……それではさっさと制圧して読書にでも勤しむとしようか」
ここ数日はほとんど走りっぱなしだったおかげでまともに読書が出来なかったのは非常に精神的負担が大きい。特に、主から齎されるこの世界とは違う世界のとびぬけた知識と技術はワタシの知的欲求を非常に満たしてくれる。
ううむ……。本の事を考えると手が震えるようになってしまいました。これはいろいろと不味いかもしれない。迅速に事を終わらせてこの症状を鎮めなければ。
そうと決めればさっさと終わらせないと。遠くに見えるはこの荒れ地にあって非常に目立つ洞窟。その入り口には2匹の木偶が警戒もゆるく立っているので、全速力で突っ込み、すれ違いざまにその首を爪で切り落とすが、随分と軽すぎて切り落としたかどうかの確認してしまった。
男であれば容赦する必要はないと言われているので、ためらいなく切り落としたのはイイのですが、ここで突如として不安材料が。
「敵襲か!」
「む? 雌の個体ですか」
見張りを殺害する際、当然のように罠を踏み抜いて接近した。主にの足下にすら及ばない下等な木偶共の仕掛け程度で傷つく事はないので、当然のようにワタシの襲来が知れ渡って防衛部隊であろう10数人が一斉に飛び出して来るのは自明の理――だったのですが迂闊でした。ワタシの様な魔物に人類種の美醜の判断が全くつかない事を失念していた。
目の前の雌個体が主の言っている綺麗で可愛い女性に該当するのであれば、あの女勇者の様によほどの事が無い限りは口説くでしょうから殺すのはためらわれる一方。万が一その基準に該当しない個体を差し出したらどうなるか……ううむ。もしかしたらこの世界が消滅するかもしれない。
「え?」
「〈2桁〉が……一撃!?」
「う、うわああああああ!!」
それであれば、原形が分からぬほどに切り刻んでしまうしかない。こうすれば、雌が居ましたが主の眼鏡に叶う個体で無かったので処分しましたとの説明が通り、ワタシが尖を受ける可能背も消え。この世界が消滅してしまうかもしれない未来も回避される。非常に見事な――
「っ!?」
若干の悪寒にすぐさまその場から大きく飛びのくと、不可視に近い何かが大地に突き刺さり大穴が開けられ、上半身が無くなった先ほどの雌の下半身が引きずられるようにその中へと落ちてゆき、再び現れた時にはおぼつかない足取りながらも歩行しており、その上半身には枝のように痩せこけた老人らしき肉体がり、眼球にあたる場所には紫色の炎が揺らめいている。
「なるほど……呪い付きと言ったところか。実力のない木偶が過分な力を得ようとするからだ」
主であればあの程度の呪いなど意に介さないでしょう。まぁ、そもそもあのように程度の低そうな武器を使用しませんがね。あのお方はその肉体自体がもはや兵器ですし。一度見た事がありましたが、世間一般的に爪の先ほどでも採取できれば莫大な富が得られるオリハルコンのみを使った武器防具を、パンをこねるように丸めて両端に球体のついた鈍器を作っていましたっけ。
当然のようにその後すぐにアニーに随分と怒られていたようですが、まかりなりにも世界最高峰の武器をいともたやすく無用の長物に変えてしまう肉体は、主だとしても震えます。
「ぐひょひょひょ……ようやっと所有の邪魔な意思が消えたようじゃな。おかげで自由に動けるわい。しかしちぃと肉が足りぬのぉ。補充するかの」
そう発言した不可視に近い人型の塊が腕を振るい、ついでに殺してあった木偶の死体を掴みあげると、骨の折れる音と肉の引き裂ける音に加えて液体が組み合わさり形状が変化した結果、木偶1つ分が不可視に近い腕の先に取り付き、随分と間合いが広くなった。
「まったく……主はこんな事になると言ってくれませんでしたね」
「ぐひょひょひょひょ。ならばその主に捨て駒にされたんじゃろうて」
「それは違うな」
まぁ、主の事ですから? この程度の障害……障害としておきますか。とにかく、この程度の相手を圧倒出来るくらいの実力は持ち合わせていますし、向けられる殺意も主に時折向けられるアニーやリリィの物と比べるとまるで児戯ですね。苦戦するほどの事はないでしょう。
「お前程度の木偶に、このワタシが負けないという信頼の証だ」
「フン! ぬかせイヌコロが。わしの槍術は負け知らずじゃ!」
そう宣言しながら、いくつかの死体を取り込んですっかりと巨大になった不可視に近い木偶の突きが迫るので悠々と回避、隙だらけの足となった元・死体を爪で切り裂く。
「ぬお……っ」
全力を出すのもどうかと思ったので、3割程度の力だったが苦も無く輪切りとなりあっさりと膝をつく。この程度の実力でよくあれだけの口を叩けるのか不思議でならない。ワタシも主と出会う前はあんな風だったのだろうかと思うと少し恥じますね。
「どうやら大した実力者ではなかったようだ」
「ぐひょひょ……それはどうかのぉ?」
随分と余裕めいた声色だ。一体なにが起きるのかとしばし待ってやると、なんて事はないただの再生する程度。あれだったら丸男の呼び出す魔物の方がよほど手ごわい。傷をつけた途端に修復してしまうなどどうやって殺せばよいのか……まぁ、主は拳一発で粉微塵にしてましたがね。
「やれやれ。その程度の事でこのワタシを相手に勝ち誇っていたのか?」
「フン。たかが仮初の体躯すらどうにもできぬイヌコロがほざくでないわ!」
淡々と事実を語っただけだのだが、不可視に近い枯れ枝は妙に激高して槍を振り回し始める。やはり中途半端な力を持った人類は愚者になるのだな。誰もこれが全力だとは言っていないのだが?
「もういい。もともと無駄な時間だった」
何か特別な能力や力があり、それが主に向けられたら脅威となりえるのかどうかを知りたかっただけなので、それが済んだ以上は無駄な時間の浪費は遠慮したい。全力の爪撃をその全身に叩きつけて細切れにしてやると、不思議と再生する事無く寄せ集めの四肢は泥のように溶け。不可視に近い部分は砂のように崩れ去った。
何故だろうと死体をかき分けてみると、眼球の位置にあった紫の炎――どうやら奥に球体が隠れていたようでこれが本体だったのだろう。ワタシの一撃で真っ二つに割れている。
「さて。面倒な木偶がこれ以上居なければ良いのだが」
ざっと気配を探ってみると、先に葬った雌個体に比肩する存在が確認できるものの、その程度が限界らしい。やれやれ……せいぜい呪いの武器を携帯していないことを祈るしかないか。




