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#31 新しい行き先

 俺は、ワイバーンを退治した礼をしてもらうためにすぐ冒険者ギルドに舞い戻った。それはもう迅速だった。ユニを置いてけぼりにするほどの速度で街を駆け抜けた。

 そうして、もはや扉のなくなったギルマス部屋に飛び込むと、そこにはアニーやリリィさんも当然いたが、俺にとって今はどうでもよかった。ただただ目的を果たすために机でうんうんうなってるギルマスに前に立って告げた。


「さぁワイバーンを退治してやったぞ。今すぐ目的地に案内してもらおうじゃないか」


 鼻息荒くそう告げる。そう! 美女の住まう楽園である桃源郷への旅立ち。そのためだけに目立つのを覚悟で依頼を受けたんだ。営業時間まで待てない。貸し切りにしてもらおうと更に言葉を続けようとした俺に、ギルマスは、ばつが悪そうに視線をそらし、ぼそりと呟いた。


「すまないね。その店はワイバーンの被害にあってしまって、しばらくは営業が出来ないんだ」

「なん……だと!?」


 なんでも色街を含めた歓楽街は南地区に集中しており、目的以外の店もほとんどがワイバーンの襲撃によって営業不可能な状態になっており、少なくとも数か月は時間がかかると言われた。ちなみに人的被害は冒険者と騎士団以外はほぼゼロとの事。完璧じゃないのが少し惜しまれるがお店の綺麗で可愛い女性達は無事との事でホッと胸をなでおろす。

 しかしなんてこったい。人が折角ワイバーンを退治した土産話を手にちやほやしてもらおうと思っていた俺の桃色の一夜が……数ヶ月もおあずけだなんて。


「ま、まぁそう落ち込まないでください。なるべく早く。しかも最優先で復興に当たらせるので」

「いやいや。どう考えても街の外壁が最優先やろ」

「ホンマですよ。そないな事に金使ぉたら住民が怒りますよって」

「マジかよ。はぁ……じゃあ期待しないで待ってるよ」


 いくら急ピッチで立て直すと言ったって、今日明日にどうにかなる訳じゃない。しかも一番優先させなくちゃいけないのは母ワイバーンのブレスと魔法で融解した外壁だからな。


「なんや? そこまで落ち込むなんて珍しいな。一体どんな店に行きたかったんや?」

「アニーちゃん。この街の南言うたら男連中が女の子とお酒を飲んだり精を吐き出すような場所ばっかやよ」

「ん? アスカ女やろ? なんでそないなとこに行きたかったんや」

「それはあても知りたいですなぁ。なんでですのん?」

「綺麗なお姉さんと沢山お知り合いになりたかったからだ!」


 別に全員と関係を持とうなんて大言壮語を口にしたい訳じゃない。ただ34年の1人寂しかった人生の分を一気に取り戻したいだけなんだ。唯一女の子に話しかけられたのって、確か幼稚園くらいが最後だったかな。それも暑いから近寄んないでって泣きたくなるほどの物だったけど。まぁ実際ガキだったから泣いた訳だが。

 そんな悲しみを埋めるために、タダ酒を飲みながら他愛ない会話をする。弱心臓をレベルアップさせるには少しハードだけど、いずれ訪れる本番の為には努力あるのみ! レッツパワーレベリング。


「あてではあきまへんか?」

「もちろんアニーやリリィさんは十分すぎるくらい可愛いし綺麗だけど、やっぱ俺としては色々な女の子達と仲良くしたい。だから2人といえども邪魔立てするなら容赦しない」


 こればっかりは譲れない。わざわざ転生したのだってこれがあるからしたようなもんだしね。俺から女性との触れ合いを取ったらマジでなんも残らない自信がある! そうなったらこんな人生に未練はない。リリィさんの巨山も生で拝む事が出来たし、さっさと死ぬだろう。

 そんな真剣さが全員に伝わったのか、アニーはアホや……なんて呟きながら頭を抱え。リリィさんはほんならええですと言ってギュッと抱きつき。ギルドマスターはあははと乾いた笑い声を上げた。


「好きにしたらええわ。ウチはあんたが死なんかったら特に文句は言わへんから」

「あてはアスカはんとこうして一緒に居られれば満足やけど、やっぱ他の娘達よりかはいっぱい見て触れてほしいわぁ」

「今のところはこうしてるだけで十分満足だ。という訳でここにもう用はない。帰って風呂にでも入るとしますかね」

「ほんならあても一緒に――」

「それはまだ耐えられないんで却下」

「そんなっ!? それやったら帰るまでこうさせてもらいます」


 ワイバーンも倒し、復興が済んだ暁には案内してくれるとの言質も得た。そして魔族討伐の報告も済ませたんだからこの街に用はない。いつまでもいたらまたあの老け顔騎士や戦闘狂なんかに出くわして騒ぎになるのは面倒極まりないのだ。

 いつだって平々凡々。時々女の子とベッドで触れ合ったりできればそれだけで十分満足なのだ。駄神の依頼なんて勇者や魔王をボコってやれば十分にぎゃふん(死語)とでもいうだろうからその辺はあんまり深く考えてない。


「じゃ。俺達はこれで」


 さっさと帰って混浴風呂。サイズから言っていっぺんに皆でって訳にはいかないから、1人もしくは2人づつ一緒に入ってもらう事にしよう。そうすれば長い時間楽しめる。ぐっふっふ……今から楽しみで仕方ないぜ。


「あの……その前に依頼を受けていただいてもよろしいでしょうか」

「断る。面倒は嫌いなんで他をあたれ。それに俺は冒険者じゃねぇしなるつもりもない」


 待ってくれている少女達をこれ以上待たせる訳にはいかない。さすがに今日はこの街に泊まっていく事がアニーとリリィに懇願されて決まっているんだけど、こっちとしてもいつまでも情報の流通が滑らかじゃないオレゴン村に居住を置くつもりはない。

 混浴を楽しんで十分に復興に力を貸したって証拠を集め終わったら、南のニートって街に向かう予定なんだからな。

 だからこれ以上の厄介ごとに関わりたくないと出て行こうとするも、俺達の敵であるイケメン副ギルドマスターのアレット。チッ! 相変わらず何て整った顔立ちをしてやがるんだ。叶う事なら思う存分ぶん殴ってオカルト面に変えて一生女にモテない姿にしてやりたい……。


「何となくそう言うと思っていましたが、こちらとしても引けない用件なのです」

「俺は冒険者ギルドの人間じゃない。そんな相手に強制権はないと言ったのはあんたの上司だった記憶があるんだけど……それでも話を続けるのか? ならば斬って捨てるまでだ」

「っ!?」


 イケメン死すべし! そして面倒近寄るな! そんな思いを眼光に乗せながらアレットを睨み付ける。たったそれだけでユニもひれ伏したんだ。それより実力が劣るブサメンの敵が怯まない訳がない。


「アスカ。そこまでせんでもええやろ」

「ホンマですよ。聞くだけでも聞いたらええんと違いますか?」

「駄目だ。それを聞く事自体が依頼を受ける条件かも知れないんだからな」


 俺のそんな発言に、ギルドマスターはさすがと言えるほど平静だったが、アレットはこんな態度の俺が元々気に入らないのか、僅かながら眉間にしわを寄せて怒気を孕んだ眼で一瞬だけ睨み付けた。もちろんこれについて言及する気はない。したところで認識できたのは俺だけだし、報告したところであのギルマスなら気のせいではないですか? 言うのが関の山だろうからな。


「とにかく。これ以上面倒事を受けるつもりはない」


 できればここでも、憎き魔法使いの足取りを追うための手配書なんかを掲示してほしかったんだけど、それを条件に仕事を引き受けろなんて言われるのは嫌だし、そもそも2人にはここにも立ち寄ってると説明してるからそんな真似は難しいか。

 第一、どう考えても天秤が釣り合わないだろうとしても、相手に付け入るスキを与えるのが危険だと判断しての決定だ。


「そうですか……それでは仕方ないですね。せっかく君の望んでいるいる場所に連れて行ってあげようと思っていたのですが、行きたくないというのであれば――」

「どういう事だ?」

「いえね。ここの街でお楽しみいただくのは確かに難しいですけど、これでもギルドマスターとして他の街にも十分に顔が利くのです。依頼を受けていただけたら、最高のお店への紹介状を一筆したためます」

「……レベルによる」

「そうですね……君ほどであればなにも問題はないでしょうが、リリィ君でも採用条件をなんとか満たすと言ったところでしょうか」

「是非ともその依頼を受けようじゃないか。2人もそれでいいか? いいよな?」


 信じられん。このリリィさんですら採用条件をギリギリクリアーが関の山だなんて。

 しかし。それほどの綺麗どころが集まるような場所ならば、俺の欲を満たすには十分すぎる条件だ。これを受けない手はない。金銭的に入店条件を満たしていたとしても、そう言った採用条件が厳しい店は得てして一見お断りって感じがひしひし伝わってくる。

 つまり。俺がその店を自力で発見したとしても入店できない可能性の方が高い。無理矢理入る事は出来るだろうけど、そんな空気でお酌をされても酒が不味くなりそうだし、何より楽しい会話が出来なくなること必至!

 すまない。オレゴン村の女性達よ。君達との混浴も魅力的ではあるのだが、やはり男としては一度くらい一見お断りの高級店で飲んでみたいのだよ。


「……好きにしたらええわ。っていうかなんでウチはあかんねん!」

「主に口調とスタイルでしょうな」

「ならアスカもやろ!」

「酷なようですが、対等だと?」

「むぐぐ……女の価値は胸やない!」


 やっぱり気にしていたアニーはそう怒鳴りながら地団太を踏んだ。まぁ、確かに高級店って態度と口調じゃないよなぁ。俺も口調で言えば最悪だが、それを抜きにしてもいいほどの美貌だからな。

 そんな訳で、新たに依頼を受けることを決めた俺ではあったが、冒険者になる事は断固として拒絶しておいた。これはどんな絶世の美女との結婚を引き合いに出されても断れる自信はある。俺は本来、動かず風に揺れながら日がな1日をのんびりと過ごせると思っている草木への転生を希望していたんだ。面倒事に強制的に向かわされるデメリットしか目立たないそんな職業になりたいと微塵も思わないからな。


「さて。それではお願いしたいのは輸送です」

「侯爵への嘆願書か」

「やはり君は話が早くて助かります。こちらにはワイバーンの襲撃に関する報告とその原因であるバカ貴族を排除してほしいとの旨を記した手紙。これを届けていただきたいのです。あれほどの魔物を討伐できるのであれば冒険者の横槍など跳ねのけられるでしょう?」

「いいだろう。だがこっちも条件はいくつかある。それを呑め」

「構いませんとも。現状では君しかこの依頼を達成できる人材がいないのですから」


 そこで俺が提案した条件は――


 1.俺に不利益になるような情報が書かれているかどうか、手紙内容の確認をする事。

 2.理由は伏せるけど、とある魔法使いに懸賞金をかけた依頼として掲示する事。

 3.人当たりが良くて実力のある冒険者を3人か4人、永続的に護衛として貸し出す事。(賃金アリ)


 この3つの提案に関して、ギルドマスターは腹の底の読めない笑顔で別に構いませんよと割とすんなり受け入れてくれたんで、今日一日は宿で穴があくまで内容を読み込む事にしたし、依頼の内容の条件は必ず生かした状態で捉える事と、その報酬は魔族の報酬そのままの白金貨10枚と設定したかったが、ギルドマスターに皆がそれしかやらなくなるから勘弁してほしいと言われ、仕方なく金貨5枚に決まった。

 そして最後の提案には、この場にいた全員が首を傾げた。

 そんなに強いのに護衛? なんて言葉が聞こえてきそうだったけど、俺が使うんじゃないと説明するととりあえずは納得してくれた。

 これで、次の目的はマリュー侯爵領首都のエルグリンデという場所に決まった。


 また混浴が遠のいてくが後悔はしてない。

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