#338 依頼成功率100%――ただし二次被害三次被害あり
足早に王都を出発した俺達がまず行ったのは、どっち周りで潰していくのかを決める棒倒し。本来であれば全員で作戦みたいなのを立てて行動するのが普通だろうが、どうせ全部潰すんだから適当で良くね? と俺の鶴の一声で棒を放り投げた結果、反時計回りに移動する事に決まった。
「早いのに揺れない。快適。けど暑い」
「せやなぁ……アスカのおかげでだいぶとマシになってるんやろうけど、相変わらず外は暑いわぁ」
「アスカはん。早ぅコテージ出してくれまへんか?」
「おぉ悪い悪い」
ローブを身に着けているは言え、突然の温度変化はそれだけで体に負担がかかるからな。すぐにコテージを取り出すとアニーとリリィさんは飛び込んでいったが、この暑さにも平然とできるアンリエットや丸男は動かず、ルナさんは警戒するようにじっと扉をにらみつけている。
「なにこれ」
「移動式の家みたいなもんだ。ルナさんには今日から施設制圧までの間に強くなってもらう」
「えー」
「嫌なら構わんよ。死にたいというなら俺にそれを止める権利はない。しかし。俺について来たと言う事は、少なくとも数十人を相手に大立ち回りを強制させるつもりだぞ? 殺しはしないが何十何百と斬られたり魔法で焼かれたりなんてのは嫌じゃない?」
「……頑張る」
運動のしんどさと痛い思いをするしんどさを天秤にかけ、運動の方が楽と踏んだんだろう。渋々と言った様子で立ち上がり、杖を手にしたんで別のコテージを取り出して丸男を伴って中へ。
「おぉ……広い」
「運動できるように特別広く作ってるし、頑丈さも折り紙付きだ」
いくらユニが早いって言っても、車や飛行機と比べるとさすがに遅い(俺なら車であれば勝てる)からな。街から街への往復でどうしたって数日はかかる。
道中にも魔物が出たりするものの、排除するのは俺の仕事。アニー達でも対処は可能だけど進軍速度が著しく低下するんで却下してる。俺の綺麗で可愛い女性とのイチャコラタイムを妨害するなどもってのほかだからな。
まぁ、そんな状況で食っちゃ寝をしてれば当然肉体にかかる重力という名の脂肪が増してゆくわけで、何とかしろと滅茶苦茶マジで迫られた時にこれを作り出し、中にはダンベルなんかの運動に必要になるであろう機材と正しい運動についてレクチャーするDVDが流れるようにもしてるんで、暇さえあればここにはどっちかが居るんだが、しばらく王都を歩き回ってたからその姿はない。
「さて娘。レベルは幾つで何が出来る?」
「レベルは54。魔法は土が3」
「なるほど。それでは土の魔法に弱い魔物を宛がうと致しましょう」
そう告げると同時に、丸男の腹から次々と魔物が出現。少しの間あっけに取られていたルナさんだったが、迫る水色半透明のワニみたいな魔物をひょいと躱し、突き出した杖の先から石礫が突き刺さるも怯む様子もなく噛みつかれそうになたんで、横入りして押さえつけ――
「あ。しまった」
「我が主よ。その魔物はそこの娘に合わせているのですからもう少し加減していただかなければ……」
「こっちだってその辺は考えてたわ」
加減したはずなのに思いのほか柔らかすぎた。押さえつけるつもりで軽く踏みつけるはずだったのに、まるで水風船みたいにパンッ! と弾けて床が濡れた。さすがに弱すぎだろ。
「ふぅむ……54程度ならこの魔物なら十分に対処可能なはずなのですがね」
「距離考えて」
あぁ……そういえば魔法って詠唱が必要だったんだっけ。いちいち何か言うより物理で処理した方が早いからすっかり忘れてたし、リリィさんの活躍の場面とかもほぼ見てないからなぁ。
「じゃあ距離を話して訓練すっか」
って訳で、丸男には100メートルほど離れた場所からまずは5分おきに魔物を吐き出してもらう事に。俺はルナさんの雄姿を眺めつついざって時の肉壁役だ。
少し待ってると、すぐさまトビウオっぽい魚の大群が襲い掛かって来る。
「……〈土槍柵〉」
ちょっと長い詠唱を終えてルナさんの前に現れたのは、土で出来た縦横2メートルくらいの柵に、槍が大量に取り付けられたものが展開。次々に飛び込んで来るトビウオが串刺しになっていくのはいいが、随分と数が多いな。確か俺は5分おきに魔物を吐き出せって言ったはずなんだけどな。
「ったく。ちょいと文句を言わんとな」
「いい。こいつ等は軍隊魚って言う一つの魔物。違反してへん」
「これが一つの魔物ねぇ……ス〇ミーかよ」
「なにそれ」
「似たような生き物だ。それよりも早くしないと破られるぞ?」
さすが弱点属性なだけあって耐えてはいるものの、数百以上のトビウオサイズの奴が間断なく突進してくれば、自ずと耐久値は減る訳で……。
「大丈夫。〈巨撃〉」
次なる魔法が発動すると、地面から現れた巨人の手の平が蚊でも潰すように軍隊魚を呑み込んだ。
「おぉ……凄いな」
「ん。自慢の一撃やけど消耗が大きい」
「そんな時にはこれだな」
ニッコリ笑顔で取り出したのは、マナポーション。ルナさんの総MP量が分かんないんでとりあえず在庫処分目的のために高品質のエクスマナポーションをざっと50個ほど。
「……」
「足りないか?」
「多すぎ」
「まぁ少ないよりいいだろ。次が来たぞ」
今度現れたのは良く知る半魚人っぽい奴。それが現れるなり手近に居た丸男に向かって持っていた槍を突き出そうとしたが、どうやら殺気を叩きつけたんだろう。オーバーなほどに飛びのくとすぐさまこっちに向かって逃げるように突進してきた。
「ギュオオオオオオ!!」
「おぉ。力はあるな」
振り回した槍の一撃よって、今まで耐えていた〈土槍柵〉があっけなく砕け散り、さらなる追撃をと距離を詰めてきた魔物だが――
「〈小穴〉」
その声に応えるように、魔物の足元にちょっだけ大きめの穴が開いてすっころんだところに追撃の〈落石〉の魔法で出てきた岩石が降り注ぐ。
「うーわぁ……容赦ないね」
「魔物に容赦要らん思う」
「確かにぃ」
どうやら、予想してた以上に戦闘慣れしてるっぽいな。相手の速度と距離を鑑みて撃てる魔法と撃てない魔法の判断が抜群に早い。さすが長生きしていると聞いてるだけあるな。こういう判断力はやっぱ長く生きてないとどうしたって身に付かないからな。
とりあえずルナさんは放っておいて大丈夫だろう。丸男にも殺さないようにキッチリと釘を刺してから、ボケっとしてた間に減った料理の補充でもすっかね。
「ええ匂いするなぁ」
「どしたよ。腹減ったか?」
「まぁそれもあるんやけど、一応確認に来たんや」
「確認?」
「成功するんやろうな?」
「多分大丈夫だろ」
増えるペースがどんなもんか知らんけど、山を〈万能感知〉で調査しても噴火の気配は今のところ全くないからな。最悪、突然来るタイプだったら少なからず被害が出るだろうが獣人全体が滅ぶほどじゃない程度には抑えられる自信もある。
「はぁ……自信満々なのはええんやけど、ホンマに失敗だけはせんでな」
「もちろんだとも。この俺が綺麗で可愛い女性をむざむざ死なせるような奴に見えるか?」
「……一応男も必要なんやけど?」
「そんなのは別の領に散ってる連中でやりくりしろ」
人族領の道中に回った町や村でもいくらか獣人の姿は確認できたからな。最悪野郎獣人だけがこの地で全滅しちまったとしても、その種が滅ぶ可能性はない。そもそも六神がそれを許さんだろうから、テコ入れとして妊娠確立の操作くらいやってのけるだろうし、もしかしたらワンチャン噴火を阻止してくれるかもしれんからな。
だからこそ楽観視してるんだが、そんな俺の態度が事情を知らないアニー達からすれば不真面目に映り、故郷と言う事もあって随分ととげとげしい感情を向けてくるんだよなぁ。
「ウチは結構本気で言うてんのやけど?」
「俺はいつでも本気だぞ? やると言ったらやるし、ヤダと言ったら報酬をもらって渋々やって来たが、今まで完璧じゃないまでも大きな失敗はなかっただろ」
「……なんやろう。ウチ的には大きな失敗に見えるんやけど」
まぁ、ギック市の壁を壊したりシュエイの一部を融解させたり獣人領で大規模な爆発を起こしたりと、ちみっと派手になりすぎたなぁと思わんくもないが、結果として依頼された仕事はキッチリこなしてきたんだ。ジト目の文句なんて華麗にスルーさせてもらうぜ。




