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#336 クスリを……クスリをくれえええええ!!

「なるほど。そうきおったか」


 やはり悩むか。

 こっちとしては野郎が禿げてようがチビであろうがどうだっていい事なんだが、当の本人からしてみればアホみたいな痛みに耐えてよく頑張った……感動したっ! ってな思いをして手に入れた代物だ。これがどれだけの時間もつのか知らんが、ここで俺を無給で働かせるなんてゲボが出そうな事をさせたら未来永劫手に入らん代物となってしまうこと請け合いだ。

 まぁ、本来であれば国の要職についてる人間が私利私欲のために行動するのってどうなん? と思わんくもないが、こいつ等にとってはそれだけ俺のくれてやった薬が魅力的すぎるんだろう。

 とりあえず、これで状況は五分――いや、若干俺の方が有利だな。

 こっちは偵察に同行したところで、無給ってゲボ案件にはなってしまうがルナさんと常時行動を共にする事が出来るってぇ心の拠り所がギリギリながら存在している一方で、おっさんズにはこの供給が断たれると多分だがあっという間に元のチビでハゲな見た目が戻ってくる。この差はデカい。

 まぁ、もしかしたら死ぬまでこのまんまなのかもしんないけど、魔物での実験ではそこまで調査はせんかったし、俺も服用はせんかった。一番のコンプレックスである女体が男に戻るのかの期待のかかる一品だが、さすがに性別が変わるくらいの力があるとは思えんからね。実は……品質も70程度と期待を寄せるにはかなりの不安が残るからな。


「さぁどうする。こっちとしては非常に不本意ではあるものの、ルナさんとしばらく一緒に居れるのであれば報酬として最低限ではあるものの基準を満たしてると判断して業務をこなし、全てが解決したうえで酒池肉林の大宴会を楽しむとしようじゃあないか。ぐひぇひぇひぇひぇ」

「凄いですね。我が主人が瞬く間に悪人へと変貌なさいました」

「なに。むしろ今の姿の方がより主を表現するのにふさわしい」

「そーなの。ご主人様はしょっちゅう悪い人になるのなの」

「人聞きが悪いぞお前等。これは立派な交渉だろうが」

「主のしている事は、一般的に脅迫と言います」

「捉え方次第だ」


 俺としては、この程度の交渉は脅しでも何でもない。純然たる事実を淡々と語っているだけ。脅しを材料として使うのなら、エリクサーをうなるほど所有してる時点であの世とこの世の弾丸ツアーを相手からの白旗宣言が出るまで繰り返す事だからな。


「まぁええわい。とにかくこの問題が解決せん限りは大っぴらに騒ぐことは禁止じゃ」

「分かった薬は要らないって訳だな?」


 それならそれで非っっっっっっ常に気が進まないのだが、ダンプカーが乗ってんじゃないかってくらい重い腰を上げて部屋を出て行く。まぁ、このちょんと触れられれば倒れてしまいそうなほどふらついた足取りも、おっさんズが元に戻った時の阿鼻叫喚ぶりを観察できればいくらか回復するだろう。


「まぁ待たんか。ワシは大っぴらにと言ったじゃろ?」

「だが静かにするつもりは毛頭ねぇぞ。何せこの街一番の綺麗どころが揃う店の可憐な花達を愛でまくるんだぞ? 騒がない訳にはいかないだろう。そうしないと彼女達に失礼だ!」


 もちろんこれが平常時であるのであれば節度を持って楽しむ所存ではあるが、今回は完全貸し切りなうえに金に物を言わせてフルメンバーを揃えてもらってるんだ。これで騒がず淡々とお酌された酒を飲むというのは、そのプライドを傷つける行為になるんじゃね? って童貞の俺は思う訳ですよ。

 知識としてああいう店がうわべや形だけのひと時を提供してるに過ぎないって知ってるが、それでも勘違いさせることに関してはそこそこの技術を持ってると思う訳ですよ。全員とは言いませんがね。

 そんな努力に対してこちらが報いる事が出来るのは、どんちゃん騒ぎをする事だけだ。この世界に来たばかりのころはリリィさんの母性が揺れ動くだけでドキドキしていたこの俺も、今では下心満載で自ら一緒に風呂に入らないかと提案するくらいの度胸は出来た。まぁ、いまだに一糸まとわぬ母性に触れる勇気はないんだけどね。

 そんな持論を声高々と発表すると、何故か誰からも共感を得られなかった。おっかしいな。ユニ達からは勿論称賛の声なり拍手なりを貰えないと分かってはいたんだが、同類である目の前のおっさんズからは少なからず共感を得られると信じてたのに。


「別に騒がんでも楽しめるじゃろ?」

「そうだね。というか君……未成年なんじゃないのかい? 歳は幾つだい」

「10だが問題ねぇ。ってか薬が欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ」

「欲しいに決まっとるじゃろ」

「そうだね。あるのとないのとでは世界が違う」

「じゃあ黙って楽しませろ。別に連日連夜大騒ぎする訳じゃねぇんだ。面倒な仕事を健全な精神でこなすためには、ここらで一度安息を得なきゃいかん訳よ」


 ちょいとワザとっぽく見えるのか、俺が肩をトントンと叩いて疲れてますアピールをすると、全員の意見が一致したかのように白い目を向けてくる。おい背後のお前等。一応忠誠を誓ってんだよな? その態度はないんじゃないか。


「常に安息を得てるように見えるのはワシだけか?」

「いや。主は女が絡まない限りは非常に自堕落な生活を送っているから間違いではないぞ」

「ちっちっち……それは違うぞユニ。いつも自堕落にしてるんじゃなくて、綺麗で可愛い女性との逢瀬を楽しむための英気を養っているに過ぎないんだ。そこを勘違いしてはいかんな」

「はいはいそうですか。それよりもさっさと話しをまとめてもらえませんか? 行くにしろ行かないにしろ有意義な読書の時間が減るのは我慢なりませんので」


 ハイ。ユニから注意を受けたんでサクッと話し合いを再開する事に。

 あちらの目的はルナさんの護衛兼何者かが占拠してる火山噴火装置の敵情視察への同行。

 これ自体は俺が行くんであればあっという間に終わる。何せ敵の認知外から〈万能感知〉を展開させればいいだけの簡単なお仕事だからな。

 まぁ、だからと言って俺が無報酬でうんと頷く事はない。たとえ獣人領が滅ぶんだぞ? と言われたところで、綺麗で可愛い女性さえ助ける事が出来ればこっち的には無問題。

 それを受領させるのに必要なのは、例の店での一晩どんちゃん騒ぎ。

 疑似ハーレムを侍らせ、綺麗で可愛い女性獣人にお酌された天上の甘露を浴びるように飲みまくる。そして、あわよくば大小さまざまな母性の象徴を堪能したい。それで騒がずにいられるは薔薇な連中だけだろう。


 ――――――――――


 喧々諤々。

 交差する妥協案。

 手に汗握る舌戦の応酬。

 互いにとって有利な状況に落とすために一進一退の攻防が――


「我が主よ。先ほどから何をぶつぶつ呟いているのでございましょうか?」

「気にしなくていい。また何か変な事を考えているのです」

「変とは失礼な。さっきの舌戦を思い返しているだけだ」

「あれが舌戦と言えるのでしょうか」

「何かおかしかったか?」

「正直に申せとおっしゃられるのであれば、随分と意地が悪い。そう思いました」


 俺の記憶が確かなら、おっさんズは相当に薬を欲していたんだろう。かなり必死になってどんちゃん騒ぎを禁止されてしまい、連絡しに来た女性従業員に申し訳ねぇと事情を説明しつつ、次に店に行った時にまた金を払う旨をしたためた手紙を渡して帰らせたが、偵察に向かう事は頑として譲らなかった。

 仕方がないので、首から『ぼくちん達は下心に負けた愚かな獣人です』と書かれた物をサンドウィッチマンよろしく前後に下げて数日暮らすことを条件に、仕方なくルナさんの護衛と敵情視察を請け負う事にしただけのどこが意地の悪い事なのか分からん。


「まぁ、主にそんな言葉は理解できないでしょうがね」

「何をもって意地が悪いというのかは分からんが、あんな物を首から下げるだけで俺という戦力がルナさんの命の絶対的な安全を守護し、あまつさえどんちゃん騒ぎを後回しにまでしてやったんだ。あの程度で済ませてくれたこの寛大な心に、体液という体液を垂れ流しながら頭を垂れて欲しいくらいだぞ」

「そーなのそーなの。ご主人様は凄い人なの」


 とまぁそんな感じで、滅茶苦茶に面倒臭いのだけれどルナさんと一緒に他の施設の偵察に向かう事に決まったわけだ――ってのは当たり前だが建前だ。この俺がそんな面倒をする訳ないだろ? 初っ端から潰しに行くぜ。

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