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#334 念願が叶ったぜい

「あれがルナさんなのか? 随分と暗いな」


 俺達が来たっていうのに、当の本人は気付いてないかの如く本に集中したままほぼ動きがない。うぅむ……あれでは化粧が濃いから美醜がつけにくいのとスタイルの良し悪しが判断できんではないか。アニー達が俺を騙す真似をするような獣人ではないと思うが、確認させてほしいなぁ。


「ああいう娘やねん。本以外に興味が向かへんのよ」

「あれでどうやって商売の話すんだよ」

「あぁ。それ嘘なんよ。ホンマは勇者召喚のための巫女ですのん」

「な、なんだってぇ~!?」


 まさかあっち側からバラしてくるとはね。まぁ、ここまで来て商人の娘ですなんて言い訳はどう見たって通じねぇ。そもそも商売相手どころかベッドと本棚しかねぇんだ。ここからの逆転劇が描けるのであれば是非とも拝ませてほしいもんだ。俺には通じんがね。


「「……やっぱ気づいとったんか」」


 な、なぜバレたし。このパーペキな表情・声色・動き。そのすべてにおいて、この俺が2人の突然の告白に驚いていると思わせるだけの確信があったのに、秒――いや、瞬で見破られただっとぅ!? しかもやっぱって事は随分と前から疑いをかけていたってぇ事じゃないか。

 これ以上知らんかったふりをする必要もなくなったし、別にいっか。


「うーむ。特段気付かれるような動きをした覚えはないんだけどなぁ」

「まぁ、バレバレ言う程やなかったんやけど、十分怪しかったで?」

「アスカはんは結構わかりやすいお人やからね。なーんか隠しとるんやろうなぁって思ぅてたんですけど、まさかルナはんが巫女や言う事を知られてたやなんて……どこで知ったんですの?」

「あぁ。ちょいと綺麗な未亡獣人と可愛い幼女獣人に金儲けの商品をくれてやった時に冒険者からちょいとな。特徴を言っただけですぐに巫女だって教えてくれたんだが……これが人気者ってのは信じらんないな」


 少々騒がしくしてるってのに、ルナさんは自分の世界に閉じこもってるがごとくこちらに関心を示さず黙々と読書に興じまくってる。正直言って人気者となりえる要素がどっこにもねぇ。


「アホやな。誰があのまんま表に出すっちゅうねん」

「彼女を民衆の前に出す時は、それはもう着飾るし受け答えを記憶させてから行うんだよ」

「そうせんと別のモンを巫女にしろという輩が出てくるからのぉ」

「別の奴にした方が苦労が少なくね?」


 そういった際に随分と労力を割いてるのか、おっさんズの表情が一瞬で疲れ切った感じがしたんでそう問うと、なんでも巫女としての力が最も高いのはルナさんらしく、他の巫女候補に実力をつけさせるよりはこっちの方が苦労は少ないらしい。


「さ。それよりもお望みのルナ嬢だ。少し席を外すから自由にどうぞ」

「いいのか!?」

「変な事しよったらウチ等が黙っとらんで?」

「わ、分かってるって。ちょっとお話して知己を得るだけだって」


 疑わしそうな眼をしながらアニー達が去っていった。さぁて。労働なんて反吐が出そうな事に耐えながらようやく待ちに待った瞬間が訪れたぜ。

 嬉々として近づきどんな本を読んでるのかとのぞき込み――すぐに視線を逸らす。


「……うーん」


 ジーザス。見間違いなら見間違いだと言ってほしいな。

 中身は小説みたいなものだったんだがその内容がなぁ……てっきり同人誌だけかと思ってたんだが、まさかこっちにまで手を伸ばしていたとはね。シルルの萌えの力を甘く見ていたか。

 恐る恐る本棚を確認してみると、発酵具合は随分と進んでるようで臆面もなくBL本がズラリと並んでいる。これは手ごわそうだな。


「?」

「こんにちは」


 ひょいと本を取り上げると、ようやく顔をあげてこちらを見――てないな。その視線の先には本しかないんで強引にその間に割り込んで声をかけると、ルナさんがこっちに手を伸ばして本を奪い取ろうとするんで、阻止する。


「出来れば会話を楽しみたいんだけど?」

「うちにとって会話は苦痛。楽しくない」

「だからってこんなとこに閉じこもってると健康に悪いぞ?」


 よくよく見ると、この部屋には窓1つ存在しない。確か日の光にはビタミンを生成する効果があったとかなんとかって記憶してる割と重要な要素だ。食事は……巫女だから優遇的に良いモンを都合してもらってるだろうがこの状況だと限界もあるだろうから、やっぱ日の光を浴びないと不健康になってしまう。それは良くない。


「ポーション飲んでれば平気」

「それ自体が不健康だって言ってんだよ。全く……なんか臭うぞ。風呂入ってるか?」

「水の制限かかってる。うちにとって都合がいい」

「つまり風呂ギライって訳だな」


 立ち上がった際に毛布で押し込められていた臭いが一気呵成に鼻に襲い掛かって来たんだが、その臭いたるやなかなかに強烈だ。よく見れば髪の毛も脂でペタッとしてる。これはいくら綺麗で可愛い少女であるとは言え、さすがに看過できんぞ。

 それだったら話は早い。サクッとコテージを取り出とむんずと首根っこを掴み、ただならぬ空気を察して逃げようとしていたルナさんを放り込む。


「ここどこ?」

「俺の家みたいなもんだ。さぁ風呂に入るぞ」

「いい。別に入らなくても死なない。それより本。300年ぶりのシルルの新刊。ようやく手に入れた」


 そういえば長生きしてるとか言ってたっけ。しかしそれだけ長生きしてるってなると、この発酵具合も納得がいくな。もはや手遅れと言ってもいいかも知れん。残念だ。


「はいはい。風呂に入ったら返してやるよ」

「要らぬ世話。ポーションは全てを解決する」

「そうかそうか。だったら力づくで入浴させられるか自ら位の意思で入るかの2択を選ばせてあげようじゃないか。君はどっちがお好みなのかな?」

「……じゃあ入れて。脱いだり動いたりするのシンドイ」

「じゃあ遠慮なく」


 まさか志願してくるとは思わなくもなかったが、即答とはびっくりした。まぁ、そのおかげで労せずしてルナさんの裸体を拝む事が出来る訳だよ。そりゃあもう嬉々として抱え上げ、颯爽と浴室に飛び込んで服を脱がせますとも。

 このあたりの事は、リリィさんなんかと毎日のように風呂に入って童貞レベルを下げまくってる俺からすればもはや動揺したり手汗でベタベタなんて情けない事には全くと言っていいほど縁遠くなった。

 だから、細いなぁと思っていたルナさんの肢体が、胸は案外デカかったとか。お尻はもちもちっとしてていつまでも触っていたくなるほどだとしても、べべべ……別に心臓がバクバクしたりしないんだからねっ!


「おー。あわあわ」

「ところで、アニーとリリィさんとはどんな関係なんだ?」

「アニーは友達。リリィも友達だけど相いれない」

「……なるほどね」


 アニーとは友達ってのは納得できんところがあるものの、リリィさんが相いれないってのは納得できる。何せあちらさんは俺と同類なんだからね。

 女子同士の話が大好きなリリィさん。

 野郎同士の話が大好きなルナさん。

 これはまさに水と油な訳で、きっと出会った頃からこんな感じなんだろう。リリィさんの名前を聞いただけで眉間にしわが寄るほど憎き相手なのだろう。

 とはいえ、それ以外の事に関しては概ね仲良くはしているらしい。


「おー。スッキリ」

「うーむ。やはり素晴らしい逸材だ」


 髪を洗い。

 化粧を落とす。

 たったそれだけの事なんだが、見違えるように綺麗になったルナさんがそこに。思わず拝まずにはいられないほどだ。さすがリリィさんが太鼓判を押すだけの事はある。年齢は大分と上らしいが見た目が若々しければ万事OK。


「はふー。あったかいの……気持ちいい」

「そうだろうそうだろう。風呂はイイ物だろう。そうと分かったならちゃんと毎日入るんだぞ?」

「ヤ。面倒」

「御付きのメイドとか居ねぇのかよ」

「さぁ?」


 うーん。さすがに勇者召喚の巫女だから居ないってのは考えにくいけど、この感じだと居たんだろうが読書に夢中で気付いてなかったって線が濃厚かね。あれだけ近くでワイワイガヤガヤしたのに一瞥もくれなかったからな。

 そうして風呂を出て、フルーツ牛乳を天地開闢の頃より伝えられている正式な飲み方で味わい。時間切れとなった訳だが、俺としては非常に満足のいく結果だった。何せルナさんの裸体を拝む事が出来たんだからな!

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