#330 一口飲めばたちどころに元気百倍
「FUOOOOOOOOOOOOOOO!!」
どうやら効果があるらしい。エリクサーをぶっかけられた人魂が膨らみながら形を変えた姿は、モヒカンに素肌革ジャン。下はピッチピチのエナメル製パンツ。これで親・人差し・小指を立てながら悲鳴に似た叫びをあげてのテンションアゲアゲって感じの何かが誕生した。
「うーん。成功なのかねぇ」
「楽しそうだから成功だと思うのなの」
「アホ抜かせ! ありゃあどう見ても失敗じゃろうが。下級から一瞬で中級になるほどのマナ……ホンマにエリクサーやったんかい。それをこんな風に使うワレの神経疑うぞ」
「ご主人様は元々おかしいのなの」
「誰がおかしい人間か」
むにゅむにゅとアンリエットのほっぺを押しつぶしながら苦言を呈するが、両者には全く聞き入れられないし、パンキッシュ精霊はファ〇クと言いながらヘドバンを繰り返す姿を、カサンドラが恨みがましい目で睨みつけてくるが無視。
「さて。実験も見事成功した訳なんで、強行突破します」
「待てコラ! あれが成功な訳なかろうが。ってか何の意味があったんじゃい」
「やれやれ。説明してやるからよく聞いておけ」
と――俺の素ン晴らしい作戦内容を話してやると、アンリエットは手伝うと鼻息荒く手を上げるが、カサンドラはどうも乗り気ではないようだ。
「姐さんの無事が確保でけへんのやな?」
「そりゃそうだ。どうなってっかまでは知らんが反応が随分と弱いし、ここに来た目的は十中八九それだと思われてるだろうからな。まず間違いなく人質として交渉のテーブルに出される」
そもそもこんな荒野を駆け抜け、隠し扉をくぐって最奥まで突き進んで来ようとしてんだ。それ以外の選択肢が真っ先に思いつく方があたおかと言わざるを得ないし、現時点で存在が消されてないなら消す方法がないのか理由があって消さないの2択の可能性が高い。つまり、エリクサーをぶっかけるチャンスがある。
「大丈夫なんじゃな」
「ご主人様に任せれば全部うまくいくのなの」
「あれのどこがうまくいってる言うんじゃボケが」
「ファ〇ク! ファ〇ク! ファ〇ク! ファ〇ク! ファ〇ク!」
「随分と攻撃的な精霊になっただろう? 火属性としては願ったり叶ったりだろう」
「あんな精霊と誰が契約したい言って来る言うんじゃアホ!」
「分からんぞ? 何せこの世界には多くの種族が居るからな。その中に頭のおかしい――じゃなくて、あいつと心を通わせる奴が出てくるかもしれん。人の可能性は無限大だ」
なんて耳障りが良さそうな御託を並べ、カサンドラの「頭のおかしいて言うたじゃろ」って追及に耳を貸さず、無遠慮に扉を踏み抜いて地下へと降りるとすぐに音が鳴り響き始めたが、気にも留めずに歩を進める。ちなみにパンキッシュ精霊にはご退場いただいた。頑張っていい契約者と巡り合うんやでぇ……ほろり。
「なんじゃろうのぉ。目にゴミでも入ったんか?」
「きっと泣いたフリなの。ご主人様は時々よくわからない事をするのなの」
「侵入者だ!」
「殺せ!」
「やれやれ。理由も聞かずにいきなり殺しにかかって来るか。正当防衛~」
武器を手に襲い掛かって来る黒づくめの相手に石を投げつけると、一瞬だけ何かが光ったような気がしたが、間を置かずに頭部が爆散したんで頭の片隅に置いておきながらさらに奥へ。
その最中にも、アンリエットに向かってきた相手を食べさせたり、カサンドラに火魔法をぶち込んでもらったりと検証重ねた結果、やはり何かしらの障壁みたいなのが常時展開してて、俺の一撃かアンリエットの食事くらい威力があればどうって事はなかったんで、今度は死体を漁って正体を見極めてみると事に。因みに装備はミスリルの奴を持ってるのが時々発見できたし、何故か死体も回収されてたんでキッチリ横取り40万っと。
「残虐じゃのぉ」
「原理が分かれば対処の仕方も分かるかもしれんだろ。お? これかな……」
死体解剖をして見つけたのは、心臓部に巻き付くように設置されている紫色の蛇を模したリング状の何か。人体模型なんかで内部に触れる機会のある俺からすれば異物と言わざるを得ないが一応確認してみるも両者共に知らんとの回答。
「……次に見つけた奴に聞いてみるか」
そうして見つけた相手に懇切丁寧に問うてみた結果、俺の予想通りこれで間違いないらしい。
制作者不明なうえに装備の際に3割の確率で命を落とすらしいが、その効果は絶大らしくあらゆる攻撃を無力化してくれるらしい。まぁ、効果のほどはすでにあらゆるという点では破綻してるが言わぬが花って奴よ。何せ説明してる本人がボコボコだったからな。
「さて……行くか」
「そうじゃのぉ」
「たーくさん食べるのなの」
必要最低限の情報は手に入った。これを装備している限り、何人だろうと手も足も出ないという確信を得られるだけの実践を経て来てんだろう。さして殺気を隠す事もなく、身を隠して不意打ちを狙おうとすることもなく。にやにやとした笑みを浮かべながら堂々と姿を現し、俺の投石やアンリエットのもぐもぐタイムの犠牲となってゆく。
「なんじゃ? 急に人が来んようになったのぉ」
「むぅ……全然食べ足りないのなの」
「俺からすりゃ遅すぎるくらいだけどな」
大体80くらいの連中を無力化したくらいかね。ここらでようやくヤバい奴が来たみたいな空気を感じ始めたのかピタッと近づかなくなり、殺気もほんの数分前と比べて随分と『小さく』なった。ゼロじゃない限りは〈万能感知〉から逃れられんし、逃すつもりは毛頭ない。
「なんじゃろうなぁ……ワレと居ると今まで見てきた種族で強者言われる連中がかすんで見えるのぉ」
「ご主人様はすっごく強いのなの。そんじょそこらの奴と一緒にしちゃ駄目なの」
別に強さっぽい物を見せてるつもりはなかったんだが、別に不愉快な納得じゃないみたいなんでそのままにしてさらに突き進むと、どうやら終着点に全軍を終結させての一大決戦をおっぱじめようって魂胆らしい。
「どうする?」
「どうて言われてものぉ……」
「ご主人様にお任せするのなの」
「じゃあ遠距離攻撃で」
あっさり決まった基本方針を胸に、待ち構えてる連中に向かって石を投げる。勿論目の前には壁があって射線なんざ通ってないが、先端を尖らせたそれをジャイロ回転を加えて投げるだけで即席の弾丸の出来上がり。労せず死体のカウント数が増えていく。
「うわぁ……卑怯すぎじゃろ。というか当たっとるんか?」
「被害は最小。成果は最大。最も効率のいいやり方だろうが。外す方が難しい」
「そうなのそうなの。カサンドラは文句が多いのなの」
「サラマンドじゃ!」
程なく連中が動き出したんでアンリエットをけしかける。相変わらずの喰いっぷりでゴキゴキとかグチュグチュとかって音が聞こえるけど、気にも留めずに部屋の中に。
「おおっ!? こ、これは……」
中はいたって普通の部屋で、辺りには結構な数の死体が転がり、中央には魔法陣が刻まれイフリアが肌色多めな格好で寝そべっている。
「来ちまったかい」
「まぁ、綺麗で可愛い女性が助けを求めているとイヌコロに聞いてな。それよりも、寝るならベッドとかの方がいいと思うぞ」
「そう見えるかい? これでも捕まってマナを吸われてんだけどね」
「そうなんか。どうすりゃいい? ぶっ壊すか? それともマナを取り込むか?」
「ちょお待たんか! ワレぇ姐さんに本気であれやる気ぃなんか」
「当然だろ。ぐいっと飲み干せばあっという間に元気になれるぞ」
それで今の状況が好転するっていうのなら、やらない手はない。
「さすがに見過ごせんわ! 姐さんもあないなったらオジキになんて言え言うんじゃ!」
「普通に今見ている姿は本当のイフリアだったんですとでも言えばいいだろ」
「ちょ、ちょっと待ちな。アンタ等の話を聞いてると、随分と危険な香りがするじゃないか」
「気にすんなって。ちょーっと精神が高揚して性格が変わるかもしれん程度だし」
「いやいや! それって結構危険じゃないか! あたいはお断りだよ!」
「だがマナがあればなんとかなるんだろう? だったら飲まないと」
「飲んだら飲んだで別の危機が訪れるじゃないか!」
「文句の多い精霊母だな。まぁ、飲まんかったとしても方法はある」
幸い相手は動けない状況らしい。であれば、ぶっかけてやればいい。勿論以下略。




