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#328 役立たず以上親友未満

「さて。注文通り大人しくさせたから満足だろ?」


 改めて確認すると、将来何かしらの建物が立つ予定かもしれん場所に大なり小なりクレーターが生成されてるが、まぁ……そこら辺は目をつむってもらうとしよう。


「……知り合いなんですの」

「どっちも身内だ。ちょっと1人で仕事をしていたんだが、アンリエットが暇そうにしてたんでちょっと丸男に遊び相手をしてもらってたんだよ。満足したか?」

「丸男殺せなかったから全然不満なの」

「ふふふ。アンリエット如きに殺せるほど弱くないので」

「随分と物騒な発言が聞こえましたが、つまりなんですの。この騒ぎの原因は貴女であると判断して間違いないのですわね?」

「だな。誰かに何か言われたら工事中だったとでも言っておけ」


 この程度で騒ぎになるというのがあまりよく分からんが、随分と激しく遊んでいたのは事実だからな。別にいい訳をするつもりはない。悪い事をしてる自覚はないし、そもそも外壁を建築してんだから轟音なんざすでに腐るほど響き渡ってるはずだろうに。普通ならおっさん共が先触れくらい出しててもおかしくないはずだが、その辺もあの勇者のデバフのせいだろう。今度会ったらまた引っ叩いてやる。


「了解しました。ギルドにはそのように報告させていただきますわね」

「そうしとけ。文句を言って来るようだったら城で働いてる……えっと……名前は知らんからハゲのおっさんかチビのおっさんに伝えとけ」


 とりあえず責任をおっさん共に擦り付け、さっさと逃げだす。別に急いだところで何か急用がある訳でもないが、グチグチと文句を言われるのは気に入らないからな。


「あ」

「お?」


 逃げるように門をくぐり、飯の補充でもするかと真っすぐ王城に向かっていると、アニーとリリィさんとばったり出くわした。隣には見ず知らずの野郎が。


「ちょっとアニー。その男誰よ」

「なんで急にそないなしゃべり方んすねん! どこの彼女や!」

「いいね。ナイスツッコミ!」

「ナイスツッコミ違うわ! ってかアスカもその後ろの男誰やねん。アンタが男連れなんて明日は精霊山が噴火してまうかもしれへんな――って!」

「はいそこまで~」


 どうやら丸男相手に〈鑑定〉を使用したらしく、即座に戦闘態勢に入ろうとしたのでこっちも素早くそれを押し留め、少し離れた場所へ。あのお嬢冒険者連中から逃げるためとはいえちょいとミスったな。


「どういうつもりや! アレ魔物やないかい!」

「おいおい。初対面の奴にいきなり〈鑑定〉たぁ穏やかじゃないねぇ。どういう風の吹きまわしだ?」

「質問に答えんかい!」

「やれやれ。カリカリすると胃に悪いぞ? あれは丸男って言って俺の優秀な部下だ」

「部下ぁ? 何で魔物やねん」

「奴は無尽蔵に魔物生み出しての経験値稼ぎに非常に役に立つからな。手放すつもりは欠片もないぞ」


 あんま増えてる感覚はないが、最初の街の周囲をうろついてスラ〇ムを狩るかの如く、牛歩の歩みで長い目で見ていく所存だが、必要なのに変わりはない。


「……大丈夫なんやろうな?」

「ああ。アンリエットと何故か少しだけ険悪だが、表立って暴れるような真似はしないと思うぞ?」


 何故仲が悪いのかはさっぱりだけど、俺が止めろと言えばすぐに止めるんだ。それであれば問題らしい問題はどこにもない。むしろ丸男の正体がバレてしまった以上、いちいちぶっ殺す手間も最近はウザいと思い始めて来てたんで、これを機に馬車に常時同席させておきたいなぁと。


「はぁ……アスカと一緒に居ると常識っちゅうもんが壊れていくわ」

「なぁに。慣れればいいだけだよ慣れれば」

「慣れてもうたらウチは生きて行かれへんようになるわ!」


 最後にハリセンの一発をもらい、再び皆の居る場所に――と思ったらすぐにリリィさんが抱き着いてきたかと思えば、頭頂部に鼻をこすりつけて凄ぇ荒い呼吸を繰り返してるがとりあえず無視。


「で? アニー達はこんな所で何してたんだ」

「ちょいと仕事で話しててん。アスカ達はどこで何しててん」

「俺達は床に額をこすりつけん勢いで頼まれて建築作業だな。外に出て王都を広げてる最中だ」

「あぁ……そういえば最近外がうるさい言うんを聞いとったけど、アスカが原因やったんか」

「おう。ちょっとうるさすぎだって言われたがな」

「ふーん。ちゃんとやりすぎてないやろうな?」

「多分大丈夫だろう。どんな壁を作るのかとかはあっちに決めさせたから、アニーがこりゃイカンって思ったのならおっさん共に文句を言え。俺に過失はない」

「ま。ここ出て行く時に嫌でも目にするやろうからそん時に判断するわ。ほんならウチ等はまだ仕事があるから行かせてもらうわ」

「おう。ちゃんとルナさんの事も忘れんなよ」


 アニー達と別れ、さっさと宿に帰って飯作りに精でも出すかねと大通りを闊歩していると、十数人からなる騎士の中隊規模が馬じゃなくて随分と頑丈そうな皮膚に覆われたトカゲ――いや、むしろドラゴンっぽい生き物にまたがって大通りを悠然と歩く光景が。


「なんだありゃ」

「ライド・ラゴンと呼称されている魔物でございますね」

「あんまり美味しそうに見えないのなの」

「あんな乗り物も居るんだな。馬よりいいのか?」

「申し訳ございません。魔物を転送する能力発揮のために創造主より知識として与えられているのは、名称と形状程度ですので、その特徴までは……」

「まぁいいさ。しっかし……市中見回りにしては随分と物々しいな」


 装備品もがっつり身に着けてるし、何よりその規模よ。いくら王都が広いからっつっても、中隊規模がひと塊で見回りとは考えずらいし、なによりあの勇者の手先であると〈万能感知〉が教えてくれてるからな。また何かおっぱじめるつもりらしい。

 さすがに獣王にまで情報が渡っている王都拡大事業を邪魔するなんて馬鹿な真似はしないだろうけど、そうしたらそうしたで連中を猫かわいがり(もちろん暴力的な意味)をした後に勇者も引っ叩いてやる。今度はビンタじゃなくてお尻ぺんぺんだな。

 そんな連中と別れ、城に。いつものように顔なじみとなった門番に軽く挨拶を済ませてそのまま通り過ぎようとしたが――


「ちょっと待て。そこの男は宿泊帳に記載がないぞ」

「書き忘れてただけだ。ってかあんだけの大金支払わせといて1人2人増えたくらいでいちいち文句を言うなよ。ケツの穴の小さい男だ」

「こっちは王族の命を守る仕事をしてんだお前等が知り合いだったとしてもキッチリさせてもらう」

「へいへい仕事熱心だねぇ」


 面倒なのは嫌いなのでさっさと丸男の名を台帳に記入し、追加の料金を支払う。


「そういえば、さっき変なのに乗った騎士連中を大通りで見かけたんだが、あれなに?」

「ああ。あれは外に行く連中だ」

「今更異常気象の調査ってか?」

「さてね。こっちも詳しい事は一切知らされてないもんでね」

「役に立たない門番だな。それで? 店からの連絡はどうなってる」

「来てねぇよ」

「そうかい。まぁ、もし連絡が来たらお前じゃなくてその店の娘を俺の部屋まで来させろよ」


 キッチリと要望を伝えてから部屋に戻り、軽く飯を食いつつ調理調理を始めたんだが――。


「むぎぐぐぐ……」

「どうしました? 先ほどからうなってばかりではありませんか」

「丸男」

「はい。準備できております」


 名を呼ぶだけで俺が何を要求しているのかをしっかりと理解してくれる丸男のおかげで〈調理〉スキルが十全以上に力を発揮していつもと比べて5割増しに素早く料理が出来る一方で、アンリエットの機嫌が目に見えて低下してゆく。

 理由は勿論手伝いの戦力にならないからだろう。つっても、アンリエットにはもともとそういった事をあまり期待してないんで、別に出来なかろうが何とも思わないんだがなぁ。それを本人に伝えたところでどうにもならんから無視。後で宥めるつもりだがね。


「うん?」

「いかがなさいました」

「なんか近づいてくるな」


 〈万能感知〉が警戒音を発したんでちらっと眼を向けてみると、何やらすごいオーラを発する存在が猛スピードで近づいてくるのを捉えていた。なーんか嫌な予感がするなぁと思っていたら、それが王都の入り口――正確に言えば門の辺りで反転し、また門に向かって接近するを繰り返している。

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