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#326 復活のA

「あちし復活なの~!」


 朝起きるや否や、そんな声が室内に響き渡る。〈時計〉を確認してみると、まだ朝の11時。起きるには少し早い――が、ちらっと見えたユニのすがるような目と重なったので、仕方なく起きる事に。


「おはようアンリエット」

「おはよーなのご主人様。お腹空いたのなの」

「じゃあ飯にすっか。何が食いたい?」

「お肉とお菓子なの」

「朝から元気だなぁ。ユニはどうする?」

「すでに鞄の中から適当な物を選択して頂いてます。アニー達も同様で、すでに出かけていますよ」

「相変わらず忙しそうにしてんなぁ」


 こうして考えると本当に不思議だ。一行商人が勇者召喚の巫女と知り合いって、昔なじみにしたって若干怪しさが残る関係性だからな。そんなアニー達が何をしてるのか微妙に気になるなぁ。今日は予定を変更して1日ストーカー体験でもやってみるか?


「あぁ……そういえばカビ臭い連中が、主が起きたら来て欲しいと言っていましたよ」

「んなの無視だ無視」

「ルナとやらの件で進展したとの事ですが」

「よし行こうすぐ行こう今すぐ行こう」

「ご飯が先なの」

「……そうだな。そうするか」


 うーむ。本来であれば全てをほっぽり出してもおっさん共のところに向かうところだが、ここまでロクな報告があった事が無かったからな。大した期待がないってのもあって、のんびりまったりとアンリエットの朝飯を作りつつ、随分と減ってきた料理のストックの補充の味見で腹を満たしつつ、気が付けば数時間。


「なんだ起きてるじゃないか」

「んあ? 何か用か」

「いやいや。起きたら連れてくるように言いつけておいたんだけど、いつまで経っても来ないから様子を見に来てみれば……そちらの従魔さんにも伝言を頼んだのですが?」

「ワタシはキチンと伝えた。主がどうやら忘れていたようだが、貴様等の思惑などに興味はないからな」

「あぁ……そういえばそんな事を聞いたっけか」


 飯作ったりアンリエットと戯れたりとかしてる内にすっかり忘れてた。

 最近他の綺麗で可愛い女性にばかり目がいってたせいか、アンリエットが少しだけ機嫌が悪そうだったんで過度ともいえるほど頭を撫でたりぎゅっと抱きしめたり力比べをしたりと十分すぎるほどの時間を過ごした結果、テンション爆上がりまくりでちょっと押さえつけてないと暴れまわりそうなくらいに興奮しまくってる。


「主……」

「わーってるよ」


 ユニの今まで見た事もないマジな目に、ため息混じりにそう答えてアンリエットごと部屋を後にする。こんな状態のまま2人っきりにすれば、まず間違いなく有り余る興奮で暴れまわってボロ雑巾になる未来が鮮明に確認できるからな。

 むふーむふーと鼻息の荒いアンリエットを従え、ちんたらした歩みで別の一室に通されると、そこには昨日引っ叩いた勇者とチビのおっさんが。


「いい若者がいつまで寝ておるんじゃ全く」

「人がどれだけ寝ようがお前には関係ねぇだろ。で? そっちの勇者はなんでいるんだ」

「……」


 無視か。しかし昨日と違って随分と表情に違いがみられる。

 単純に超不機嫌面だ。理由は分からんが、どうやらこのおっさん達の前では分厚いぶりっ子の皮をかぶるような真似はしないらしい。


「そちらの勇者――ヒナ・ナカガワがお主に暴力を振るわれたと多くの者達から連絡が上がっていてのぉ。今回はその真偽を確かめたくてのぉ」

「ルナさんの事だって聞いたから来たんだが?」

「答えによっては、便宜を図った連中が譲った順番を返せと言って来るぞい」

「別にいいぞ。そうなれば正攻法じゃない方法をとるだけだし」


 人族領でちょーっと暴れすぎて指名手配を受けたんで、わざわざアニー達の回りくどいやり方に乗っかってるだけだ。

 しかし。それを邪魔するというのであれば俺は全力をもってそれらを蹂躙してやろう。最初はアニー達にバレないようにする努力はするつもりだが、物事には限度があるしバレない程度で大人しく従わなければ自ずと派手になっていく。


「ええのか?」

「なーに。いくらでもいい訳は作れるからな」


 一番簡単なのはダンジョンから現れた魔物が王都を破壊しつくしたとでも言い、丸男にデカくて強そうな魔物。なんて注文を付けたものを用意させればいい。

 これであれば、大立ち回りで暴れまくったとしても魔物が原因だと言い張りその現物があるんだとすれば頷くしかないだろう。

 まぁ、アニー達からは大不興を買うだろうがあっちもあっちで俺をだましていたことを指摘すれば多少は大人しくなるだろう。

 あれ? そう考えれば今すぐにでもやっちゃった方がいいんでないか? どうしよっかなぁ~。やったろうかなぁ~。


「ってかさぁ。アンタなんな訳?」

「……質問の意図が理解できないな。それにかろうじて答えるなら人間だ。とでも言っておこうか?」

「チッ。腹立つわね……わたしは勇者なのよ。それを相手にそのクソ生意気な口をきくだけじゃなくて引っ叩くってどういう神経してるわけ? この世界の人間ってそんな事すらわからないほど馬鹿なの? ムカつくから死んでくんない?」

「ご主人様に向かって生意気なの! 許せないのなの!」

「はいはい。いま大事な話をしてるから暴れるな」

「ぶぅ……あのおばさん嫌いなの!」

「お、おば……っ!?」


 俺からすれば普通に守備範囲だが、アンリエットにとったら十分おばさんって扱いらしい。普段であれば綺麗で可愛い女性に対してなんちゅうことを言うんだと滾々と説教を始めるところであるが、別に好かれようとも思わんので特に何も言わずにアンリエットの頭を撫で、話を進める。


「さて。まぁ簡単に言うと俺はこいつを殴った。理由は気に入らんかったからな訳だが、それに対してお前等は何を突き付けてくる?」

「決まってんじゃん。アンタみたいな無礼で勇者を勇者とも思わないクソガキに生きる価値なんてある訳ないじゃない。せいぜいその処刑で獣人共を楽しませなさい」

「やっぱりこのおばさん殺すのなの」

「止めとけ止めとけ。あんなの食ったら腹壊すぞ」

「むーっ! ご主人様はあんなおばさんが好きなの!」

「はっはっは。あんなのを好きになるほど俺はゲテモノ好きじゃないぞ」


 けたけたニコニコと笑いながら勇者の悪口を言いまくっていると、さすがに堪忍袋の緒が切れたのか近くにあったソファを蹴り壊したんだが、俺と比べると壊れ具合も弱いんでやっぱ雑魚なんだろう。


「さっきから黙って聞いてれば……アタシ勇者なの! アンタみたいなクソガキに馬鹿にされていいような存在じゃないんだけど!」

「だったら勇者らしい働きをしろよ。知らんの? 王都の外が異常気象で魔物すら逃げ出すほどの環境になってる事を」

「知ってるわよ。それが何だって訳?」

「分かってんなら解決しろよ。顔も名前も知らん獣人達のために仕事をしろ。それが勇者ってもんだろ」

「嫌よ。あんな暑い所に居たら肌が焼けちゃうじゃない。そのせいでシミが出来るなんてとてもじゃないけど耐えらんないわ」

「おいおい……なんだそのクソみてねぇな理由は。おいおっさん共。こんな理由でろくにレベル上げもしねぇ事にお前等は納得してるわけ? だとしたら救いようがないくらいに頭悪いな」


 信じらんねぇな。そんなゴミクズな理由で職務を放棄する勇者も勇者だが、それに対しておっさん共が文句ひとつ言わないでさも当然みたいに受け入れてるってのは、馬鹿を通り越して哀れに思えてくるな。ちょっと六神たちに面と向かって選考理由を問いただしたくなる程のハズレばっかじゃねぇか。


「勇者は全種族の希望じゃ。その灯を絶やさぬためには多少の問題も呑み込まねばいかんのじゃよ」

「つまり。誰もこいつを罰するつもりがない。そういう事なんだな」

「そうだね。現状、獣人領は酷い有様だけど暮らしていけないほどじゃないからね」

「なるほど。つまりその思想に染まらない領民は死んで同然って訳か」

「当然でしょう? このあたしを敬わない奴なんて生きる価値がないじゃない。どうしてそんな連中に情けをかけなくちゃいけないのよ」


 確かに一理あるね。そもそもその思考回路は俺に近い。なんで勇者って肩書だけで見ず知らずの他人のために命を張らなきゃならんのだってのは全くの同意見だ。

 とはいえ、俺とこいつで決定的に違うのはスタンスだ。

 面倒な事が嫌だから勇者って肩書の恩恵も受けない俺に対し、この勇者は面倒を嫌がってるくせに恩恵を受けようとしている腐った根性の持ち主って事だろうな。

 とりあえず腹の中を多少知る事が出来た。その結果として、こいつは他の連中とそう変わらん役立たずって事がはっきりと理解できた訳だが……まだ少し確かめたい事もあるんで、ちょっと試してみるとするかね。

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