#325 人の目があるってのはやりずらいもんだ
「で? どうな訳よ。これだけのモンを提供するから、2・3日中にこの店に在籍してる綺麗で可愛い女性を全員集めての酒池肉林を提供してもらえませんかね?」
俺が出せるモンは出し尽くした。さすがに今すぐ全員集合させろってのは無茶すぎる要求だし、なにより色々とあったせいで寝る時間が迫ってるせいもあって楽しむ時間が少ない。そうなるよりは、多少時間がかかってもフルメンバーを侍らせて豪勢にぶち上げようぜぇ~♪ ってしたほうが楽しいはずだ。
「断ったらどうなるのかしら?」
「残念ながらほかの店をあたるだけです。こちらには優秀な案内役が居るので」
最高ランクの店で飲めないってのは非っ常に残念な事ではあるが、綺麗で可愛い女性を相手に無法を働くほど器は小さくねぇ。まぁ……女勇者は別だ。
じっと妖艶美女の答えを待っていると、〈万能感知〉に引っかかってた別の反応が近づいてくる。多分だけどいつまでも帰って来ない事に疑問を感じての行動だろう。扉の奥から現れた鬼みたいな奴の手にはトゲトゲした物が付いたトンファーが装備されてんだからな。
さらにその背後には少女がいて、こっちもメリケンサックみたいな物を着けつつ睨みつけている。
「輩……って訳じゃなさそうだな。何だこの大荷物は」
「お金に食料に水まで……盗んできたの?」
「失敬な。俺は客になる予定の存在だ。ここにあるのは綺麗で可愛い女性との大宴会をしたいがための手付金ってところだな」
「……何が目的だ」
「どいつもこいつも2言目にはそれかよ」
「そりゃそうだろ。これだけの物があれば、この店どころか王都中の店の権利を買っても有り余るんだからな。それをたった――っていうのもなんかおかしいけど、1店で飲み食いするためだけに使うってなるとそう考えるのも無理ねぇて」
「ふーん」
俺からすれば欠片もおかしくない量と金額なんだがな。やっぱこういう時にアニーなんかが居ないと困たことになっちまうようだ。
「だったらいくらが適正でしょうか?」
「そうねぇ……うちの売り上げ平均額である金貨5枚ほどいただければ普通のお客様と感じる事が出来るわねぇ。今更だけど」
確かに。すでに一生拝む事が無いんじゃないかってくらい大量の白金貨が転がってるからな。今更適正価格を提示されてもなんだかはした金に感じてしまうのは仕方のないとだろう。
「じゃあ金だけ支払いますんで、宴会の件は頼みますね」
「ちょっと待ってよ! それ全部持って行っちゃうの?」
「そりゃあ……そうだろう」
適正金額を渡した今、最上級に近い食材も、毎日風呂として使っても有り余るほどの潤沢な水分も、無用の長物だ。放っておいたら食材は勿論水だって腐るらしいと小耳にはさんだ記憶がうっすらとあるんで、キッチリ〈収納宮殿〉に放り込んでおく。
「あぁ……もったいない」
「手付金で買えばいいだろ。十分な額渡したんだから」
「貴女全然分かってない。今がどれだけ食材だったり水だったりを手に入れるのに苦労するのかが」
「そりゃそうだ。俺と君達じゃあらゆる面において規模が違う」
獣人領・王都の歓楽街じゃあテッペンかもしれんが、世界という括りで見れば俺は間違いなくテッペンに居る。本気を出せば経済を破綻させて商人ギルドを単独でぶっ潰す事も出来る。まぁ、それをやったら途中でアニー達に気付かれて精神が崩壊するレベルでバチ切れされるだろう。
「お前何者だよ」
「愛の探究者だ。と言う事で、準備が出来たら城に泊まってるんで来てくださいね。勿論綺麗で可愛い女性を希望するんで」
「分かったわ。じゃあ日取りが決まったら娘を行かせるわ」
とりあえず予約は済んだ。後はここで飲む事を楽しみにテンションを上げつつ外壁建設を淡々とこなしていけば、いつ訪れるとも分からんルナさんとの出会いにやきもきする必要もなくなるだろう。
「……おい」
「んぁ? 気持ち悪いツラ近づけんな」
せっかくルンルン気分でいるってのに、門番のクソ野郎が肩も触れ合うような至近距離まで迫ったかと思うと何故かささやくように語り掛けてきやがった。滅茶苦茶気持ち悪くて咄嗟に殴らなかった俺のダイヤモンドな理性に対して心酔してもらいたいくらいだ。
「違ぇわ! 気づいてんのかどうか確認だよ」
「……今更?」
どうやらこの門番、城門を出たあたりからずっと一定距離をついて来ていた有象無象にようやく気付いたらしい。まぁ、門番なんかに求められるのは観察眼の方が重要だろうから、気配察知なんつぅそういった能力はあんま必要ないだろうしな。
一応綺麗で可愛い女性もいるかもと排除しないでおいたんだが、集まりに集まって今では50人近い数がここら辺に集まっている。想像通り中には女性の姿も確認できるところを見ると、うーん……百合展開が繰り広げられてたのかもしれんけど、ごく弱い殺気が充満してると言う事は違うんだろう。
「気づいてたんなら言えよ!」
「言ってどうなる? お前に50人からなるならず者どもを何とかできる実力があるのか?」
「50っ!? そうれは……無理だな」
この王都でこれだけの人数に恨まれるようなことをした覚えはないから、まず間違いなくあの勇者のバフがかかってるはずだ。しかし男だけにしか効かないと思ってたんだが、女性にもかかるとは思いもせんかったな。まぁ、綺麗でも可愛くもないんでこっちとしてはほっと胸をなでおろせる。
なーんて事を内心思っていると、1人の野郎が悠然と歩み寄って来る。
試しに横にズレてみるも、相手も同じ動きをしてくるんで狙いは俺と判明。仕方なくそのまま歩き続け、良きところでそいつを軽く蹴っ飛ばすだけでくの字に折れ曲がって吹っ飛び、地面を何度もバウンドして、数人の集団に突っ込んだ。
「おおおおおおおおおおい!! いきなりなにしてんだお前ええええええ!」
「今の見てなかったのか? あいつがあからさまに俺の進路を妨害したろ。だから排除しただけだ。なーに死んじゃいないさ。そうなるように加減してやったんだからな」
「いやいやいやいや。どう考えたって死んでんだろ。人があんな簡単に吹っ飛ぶのを始めて見たぞ! そもそもそんな理由で蹴っ飛ばしていいってなる訳ねぇだろ!」
「うるせぇなぁ。どうせ全員蹴散らす予定なんだ。今更だろ」
今の一撃を皮切りに、周囲に隠れていたり普通に距離をとっていた連中が一斉に武装して襲い掛かって来る。中にはもちろん魔法の詠唱を開始してる奴もいるんで、そういうのには石を投げて真っ先に喉を潰して一時的にこの世からご退場。
「おいいいいい! あれ死んでるだろ! 絶対に死んでるだろ!?」
「普通に倒れただけだ。辺りが暗いから見間違えてんだよ」
「嘘つけええええ!」
「だったら確認してきてみろよ」
そう言いつつ、襲い掛かって来る勇者の下僕共を次々と押し付けてゆく。実力的には門番の方がいくらか劣るんで、平たく言えば出来るもんならやってみろ。って感じだな。その間に死体に近寄って復活させちまえば、晴れて無罪放免よ。証拠はないんだからな。
って訳なんで、武器を手に襲い掛かって来る野郎共をちぎっては投げちぎっては投げを腿と脛の両方の骨をバッキリへし折りながら繰り返し、死体にエリクサーをかけてからのテニスボール押し込みで詠唱を強引に封じてやるだけだ。
「こんなもんか」
バフがかかっているとはいえ、本来の性能が低けりゃ脅威でも何でもない。女子を残して全員両足の骨が折れて立ち上がれしらしない。
「なんだよこいつ等……全員近衛兵並に強いじゃねぇか」
「そんな事よりよく見てみろ。ちゃんと生きてんだろ?」
自分の目で見て分かるように、こっそり生き返らせた魔法使いどもを連行して門番の前に転がす。
「……確かに生きてるな」
「ったく。今度からはちゃんと確認してから言えよ。あの店を紹介したって利がなかったら蹴っ飛ばしてるところだぞ」
これでありもしない嫌疑は晴れたんだ。さっさと城に帰って飯を食ってアニー達から進展を聞いて寝たい。
「おい! こいつらどうすんだよ」
「別に手柄にしてもいいぞ? これだけの数しょっ引ければお前の評価も上がるんじゃねぇの?」
「……縄かなんか持ってるか?」
「ちょうどいいのがある。安くしておくぞ」
「金取んのかよ!」
って訳で、門番に結束バンドをそこそこの金額で売り付け、門番は50人からなる暴漢を業務時間外に捕らえるって功績を入手した。




