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#322 OHそれ見よ

「……」

「じゃ」


 突然の出来事にピタリと時間が止まるが、俺はしたい事が出来たんで大変満足して厨房を後にする。スッキリしたんで次は王都を1回り大きくする仕事に従事するとしよう。若干ルナさんも同席してないかなぁと期待してたけど、どうやら寝てる間とかじゃなくても何かしらの仕事をしてるようだ。ガッカリ……。


「ちょっと待てそこのクソガキィ!」


 ようやく再起動を果たしたうちの1人――コック服がパッツンパッツンなほどマッチョな野郎が怒鳴り声をあげながら駆け寄り肩に掴みかかって来たんで仕方なしに足を止めて振り返ってやると、怒りの形相で殴りかかってこようとしてたんで、ひらりと避けつつ反撃で蹴り飛ばす。


「まったく……野郎が俺の後ろに許可なく立つからだぞ」


 俺は悪くはない。むしろ今の蹴りで死んでた所を銀河を包み込まんばかりの深い深い慈愛の心で生かしといてやったんだ。感謝のあまりに俺を神格化するほどの気持ちを持ってくれんといかん訳よ。

 さて……さっきの奴みたいにまた追いかけてこられるのも面倒だからな。さっさと王都外に仕事という大義名分を盾に逃げるとしようかね。どうせこの世界レベルの連中に俺を捉えられるなんて――


「おおおおおおおおおお!!」

「あ?」


 急接近に反応して咄嗟に身をよじって回避行動をとったが、たかが厨房に居るにしては随分と常識外れの脚力で迫り、違和感を感じるほどの威力で床にヒビを走らせたので即座に〈万能感知〉で男を調べてみると、異常らしい異常は見つからなかったものの随分とバフがかかっているのが見て取れる。


「勇者様に仇名す存在は死ねええええええ!!」

「殺す! 殺す! 殺すうううううう!」

「なるほど」


 つまり……このバフの正体があの女勇者が貰った能力って訳か。勇者全員が男と限らん以上、効果が及ぶのは野郎だけじゃないのか? いや、あの女の真っ黒具合からするとそっちの線の方が濃厚な気がする。

 とはいえ――


「とりゃー」


 俺が敵わない程度じゃない。こっちだってその気になれば城1つぶっ壊すなんてそう難しい事じゃないからな。襲い掛かって来るって言うなら容赦しなけりゃいいだけだ。都合よく相手も野郎だけしかいねぇから遠慮はいらない。もともとしないけど。


「さて……」


 邪魔者はすべて排除した。この瞬間に獣人の勇者も敵認定と相成った訳だが後悔はしねぇ。アレ1人のために多くの奇麗で可愛い女性と関係が持てなくなりそうな予感ビンビンだからな。

 とりあえず後の始末はこれからやって来るだろうおっさん共にでも任せて、俺は俺でパパっと外壁工事でも済ませちまうとしますかね。


 ――――――


「さて……ここらへんでいいか」


 雑な地図を睨みつけながら適当な場所に辺りをつける。少々広く取りすぎてるような気がしないでもないが、狭いよりは広い方が絶対にイイ。大は小を兼ねるともいうし、どうせルナさんと出会えるようになるまで暇なんだ。乗り気じゃない仕事だが暇つぶしには持って来いと信じたい。


「せぇ……のっ!」


 まず1つ目と言う事で、創造したのは高さ20の幅5メートルの外壁(例の魔法陣付き)を何かがぶつかった衝撃で倒れたりしないように地中服深くにしっかりと埋め込んでいくぅ。


「ふむ……問題ないみたいだ」


 外壁を創造するにあたって一番の問題は、なにはなくともその重量と耐久度だ。

 持ち上げるだけであれば、〈身体強化〉をフルに開放してやれば大抵の建物は持ち上げられっけど、その握力には耐えらんねぇ。

 逆にそっちに意識を向けると、今度はちまちまと外壁を作っていかなくちゃなんない。暇つぶしを兼ねてると言ってもさすがにちんたらはしたくねぇ。何せこの世界にはまだ俺という白馬の王子様の登場を今か今かと待ち望んでいる綺麗で可愛い女性がごまんと居るんだからな。

 それからも、高さは変えずに幅だけを5メートル間隔で増やしていき、おおよそ50メートルくらいであればバランスがいいので、ガンガン創造してはズンズン突き刺し続け、10キロほどの壁が出来たところで乱入者が現れた。


「小娘。こんなところでいったい何をしている」

「……」


 声質から即座に野郎と判断。振り返りもせずに淡々と外壁を創造しては突き刺してゆく。


「答えろ。誰に許可を得てこんな事を行っている」

「……」

「おい小娘。聞いているのか」

「……」

「なぜ問いに答えぬ!」

「答える義理がねぇからだよ馬鹿」

「口が利けるのではないか。何故問いに答えぬ!」

「人の話聞いてねぇのか? お前みたいな見ず知らずの野郎に俺が何をしてるかなんて答える義理はねぇって言ったんだよ。獣人のクセに獣人語も理解出来ねぇのか? 残念な生まれなんだな」


 一目見れば仕立てのいい服を着ていることは明白。それだけである程度は金を持っている野郎というのは理解できるが、それがどの程度のレベルかまでは知らんし知りたくもねぇ。勿論、この世界で金があると言う事はそれだけ勉学に消費できる余裕があると同類。それを指して無能と言ってのけてやったんだ。挑発としては申し分ないだろう。


「そうか。聞いておらんかったか。余は獣王国国王のレオルド・グリフィリスだ」


 うーん。嘘は言ってないらしい。まぁ、王家を騙る――特にこうも堂々と自分は王様だなんて言ってのけられるような馬鹿は、王都であろうとなかろうと本人以外には非常に少ない。


「あっそ。その王様が俺に何の用だ。ここでこうしてる事はハゲとチビのおっさん等から聞いてんだろ?」

「然り。余も初めに聞いた時は我が耳を疑ったものだ。何せ王都を一回り拡大するのがお主のような小娘だというのだからな」

「そんな事を確認するためにここまで来たってか。わざわざご苦労なこった」


 俺のイメージでは、王様ってのは基本的に子づくりばっかしてるイメージだ。

 実に裏山な生活であるが、やっぱ仕事としてヤるのと抱きたいから抱くのではモチベーションに格段の差がある。特に野郎ってのはそれが顕著だ。

 綺麗で可愛い女性が貴方に抱かれたいから抱いて――と、自分が王妃となりたいから孕ませろ! とでは腰に下げられた刀の切れ味が違う。中にはそっちの方が切れ味が増す受け身な奴もいるが、俺は断然前者の方が硬さ・持続力・回復力が増す。

 まぁ……何が言いたいかというと、さっさと城に戻って腰振ってろやって事だよ。


「たった数時間で王都と目と鼻の先に常識では考えられぬ速度で建造されていると城下では騒ぎになている。王として出向かねばその基盤に揺らぎが生じる」

「よくそんな面倒な職に就いてられるな。俺だったらごめんだわ」


 誰とも知らない他人のために、自分の時間が浪費される。そんな事に尽力して得られるのは多少の贅沢と数多の綺麗で可愛い女性とそこそこの権力。俺的にはその程度じゃあマジで割に合わない。だから王侯貴族と付き合いたいと思わないんだよなぁ。


「臣民を守るが王の務め。理由が分かれば用はない――と言いたいところだが、お主は我が国の勇者に対して無礼を働いたそうではないか」

「ああ。気に入らんかったから引っ叩いたぞ」


 どす黒い反応。あれだけでもあの女勇者が相当な猫をかぶっていることは必定。精霊なんかにはその本性がバレているようだが、他人の真偽を知れないのであれば彼女の本性を知る事は難しい。きっとそういう事に特化したスキルを入手してるだろうからな。


「さすがに勇者に手を挙げた存在を見て見ぬふりというのは外聞が悪いのだ。手合わせ願おうか」

「礼は何を出す」

「なんだと?」

「こっちは見ての通り仕事中だし、そもそも野郎に無償で何かしてやるほど器のデカい人間じゃないんでね。俺とやりあったって実績が欲しいなら勝手に斬りかかって来いよ」


 どうせワンパンで終わる簡単な作業だ。それであれば、相手に多少満足感を与えてから叩きのめした方が後腐れもなさそうだし余計な時間を使わんです済むだろ。


「……本気で申しておるのか? 余は獣人族の頂点・獣王であるぞ?」

「俺は地上最強の生物だ。お前程度に撫でられたところで痛いなんて欠片も思わんから気が済むまで斬りかかってこい」

「いいだろう……その思い上がった性根を叩きなおしてくれるわ!」

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