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#321 俺がしたい事が最優先事項だ

「あふ……っ。よく寝た」


 昨日は昨日で色々あったからな。随分とぐっすり寝たなぁと思ったらまさかの12時間睡眠。脇にはアンリエットが抱き着いてよだれをべっとりと服にしみこませてきており、テーブルの上にはアニーとリリィさんの置手紙。また忙しくしているようだが、昨日変異種の大地牛をぶち殺した事で上の連中にいくらか恩を売る事が出来たようで、順番を譲ってもらったよと喜ばしい一文が。


「まぁ、嘘だと分かってんだけどね」


 ルナさんは巫女。役割は勇者召喚に関する事をしている。ってなると、もしかするとルナさんと生理的に好かん女勇者は割と近くで行動を共にしてんのかねぇ。

 それにしても……短くなったとは書いてあるが正確な日時が記されてないな。これだと1秒ともとれるし今日ともとれる非常にあいまいな書置きだな。


「ようやく起きましたか。5時間ほど前にかび臭い肉共が面会を求めてきました」

「別に起こしてくれたった構わなかったんだぞ?」

「一応起こしたのですが、野郎と会話するための早起きなど反吐が出る! と仰られましたが?」

「全然記憶にないが間違いなく言いそうだ」


 今すぐ会えるぞというのであれば0.2秒で覚醒する自信はあるが、恐らく外壁に関する事だろうと想像に難くないので追い払ったんだろう。寝てた俺……GJっ!


「なぜ親指を立てているのか理解できませんが、女漁りのための事なのでしょう? 素早くアンを連れて部屋を出て行ってはいかがですか?」

「だなぁ……面倒だけど行くとすっか」


 とりあえず会わせてくれる事は確定してんだ。野郎と話すってだけでも気が滅入るが、相手がブサメンってのは救いだな。これが綺麗で可愛い女性の目をハートにするようなイケメン野郎だったら、ピクセルレベルで視界に捉えたらうっかり殺ってしまいそうだからな。

 さて。そうと決まれば優雅に遅めの朝飯を食い、アンリエットを運ぶのに役立ちそうな宙に浮く魔道具台車を創造してから部屋を出て、近場を通りかかったメイドたんにナンパ(8割)を交えた会話でおっさん共が居る場所へと案内してもらった。


「随分と遅かったね」

「悪い悪い。特に時間を決めてなかったから俺に合わせてんだと思ってな」

「こっちはこれでも忙しい身なんじゃぞ? そんな訳なかろうが」

「だったらさっさと何が良いのか言え」

「一番低品質ので頼むよ。どのくらいいけるんだい?」

「ルナさんに会える期間が短ければ短いほどやる気になるが?」

「じゃあこの地図を見てもらおうか」


 どうやら無視する気らしい。まぁそっちがそういう態度で来るのは一向にかまわんけど、ルナさんとの逢瀬を邪魔するようであれば、この王都を1日で廃墟にしてやろう。勿論綺麗で可愛い女性は安全な場所に逃げてもらう。


「今の外壁がここで、お主にはここらあたりまで拡大させてほしいんじゃ」


 広げられた地図には王都の全景と、それをぐるりと囲むように点線が記されてる。大体一回り位大きくしたいらしいな。


「はいよ。じゃあさっさと行ってぱっぱと終わらせっから、そっちもキッチリやる事やっておけよ」

「分かっているさ。今多くの貴族達に順番を譲ってくれるように頼んでいるところだから」

「じゃあどのくらい短くなったか言ってみろ」

「そうだねぇ……10人分くらいかな。今回の件を遂行してくれたら更に10人の貴族が順番を譲ってくれる予定ではあるよ」

「少なくね?」


 変異種の大地牛をぶち殺し、ついでに下級民とやらの救助もしてやり、トドメと言わんばかりに王都利用可能領域を1回りデカくしてやろうっていう人物に対してたった20人分の譲渡ってのはさすがに調子乗りすぎ。気が付いたら机押しつぶしてたし。


「落ち着け。ルナ嬢は1日の活動時間に制限があるんじゃよ」

「なんだよ制限って。病気かなんかなのか?」

「……まぁ、お主はすでに知ってると思うが、この国には勇者が居るんじゃよ」

「その娘が随分と食に厳しくてね。ルナ嬢はそれらを献上するために忙しい身なんだよ」

「そういう事か」


 つまりあれだ。どういう理屈か分からんが、ルナさんは件の女勇者の側をあまり離れられない状況って事らしい。まぁ、ウナギが食いたいと雑魚を寄越したことから全部が嘘って訳でもないんだろうが、そもそもの大前提が違ってるからな。

 うん? そういえばこいつ等もルナさんが商人って線で話が進んでるな。アニー達に聞いたにしては随分と聞き分けが良すぎねぇか?

 一方は一介の商人。

 一方は国の重鎮。

 接点がなさすぎる気がしないでもないが、そこら辺はなんでルナさんと渡りがつけられるん? って疑問も解決しなきゃなんないから放っておこう。余計な事を突っついてさようならされたら悲しいからな。2度とあの大山に顔をむぎゅっとされなくなると思うと……ヤバい。泣いちゃいそうだよ。


「どうしたんだい?」

「急におとなしくなり居ったのぉ」


 しかし。どっちにしたって俺の恋路を阻んでいるのは何を隠そう生理的に嫌悪感がありそうな女勇者って事だ。そうと決まれば今すぐにでもそいつの根性を叩きなおしてやろう。


「よし!」

「おいお主。どこに行く気じゃ。そっちに出口はないぞい?」

「決まってんだろ。その女勇者をぶっ飛ばしてルナさんの好感度を稼ぐ!」

「止めんか馬鹿モン! 勇者は来たる魔王討伐になくてはならぬ存在なんじゃぞ! お主のせいでそれが失敗したらどう責任を取るつもりじゃ!」

「知らん。俺は俺のしたい事だけに全力を注ぐ人間だ。それを邪魔するというのであれば、魔王だろうと野郎であれば殺し、綺麗で可愛い女性であれば、ベッドで一夜を共にしたいねぇ」


 いつ5人の勇者を相手に激闘を繰り広げるようになるか分からんからな。そうならない内に1回くらい顔を出してみるのもいいかもしれんな。それで綺麗で可愛い女性であれば既知を得たいと思うのは雄の本能だよ。はるかな太古から優秀な遺伝子を残したいと性欲が備わり、受精率が高いであろう若い女性にそれが向くのは動物として至極当然な訳です!


「君は凄いね。魔王を相手に寝たいというのかい」

「狂っておる。魔王を相手に色欲を持つなど……」

「お前等の同意など必要ねぇよ。って訳なんで、俺は俺の自由のために女勇者を殴る!」

「そんな事より先に外壁を作る方が先じゃ!」

「別に急ぐほどの事でもないだろ。一発だけで済ませっから」


 この世界一般的な壁だ。元からデカかったであろう王都を1回り拡大しろなんて、本気出せば一週間もかからんが、それだけの間中女勇者に対してイライラを溜める方が精神衛生上よくないからな。だったらサクッと一発殴ってスッキリしてから始めたい。

 一応〈万能感知〉を頼りに多くの獣人が集まってる場所を頼りにズンズン突き進むと、当たり前だが新興の邪魔をしようとしてくる連中が居る訳で……


「何者だ!」

「人間様だ!」


 殴って進み。殴っては進みを繰り返したどり着いたのは野郎の汗と例のイカっぽい臭い漂う兵舎っぽい場所。確かに大量の獣人が居る事に間違いはないが、女勇者がこんな異臭が立ち込める焼却消毒したくなるような場所にはいないだろう。

 まったく……弱すぎる勇者がこんなに探すのに苦労するなんて思いもしなかったな――とさらにイライラを溜めながら次なる場所を覗いてみると、今度は厨房。


「あのね。わたし……どういても貴方の作ったウナギが食べたいの。だ・か・ら・作ってくれたら陽菜がすっごく気持ちよくなれるご褒美をア・ゲ・ル」

「が、頑張らせていただきます!!」

「おれもやらせてもらいます!」

「ボクも一生懸命作ります!」

「はっ! テメェ如き追い回しに何が出来るってんだよ」

「なんだと! そっちこそただの皿洗いじゃないか!」

「あぁ!?」


 うーわっ。意図せず勇者っぽい奴を発見したけど、確かに外見は滅茶苦茶イイ。

 茶色のゆるふわボブカットにくりっとした目に桜色の頬にアヒル口。程よく大きな胸にキュッとくびれた腰にすらっとして白い足。服装も胸は半分以上出てるしスカートの短さも見えそうなギリギリに感じて野郎共の視線はさっきから胸かスカート辺りと顔を頻繁に交差してやがる。

 そんな美少女から気持ちいいご褒美なんて言われた日にゃあ……野郎は前かがみ不可避だっての。何てあざとい女だ。とはいえ、俺だって〈万能感知〉で恐ろしいほどの漆黒と分かって無ければ、あの輪に加わって気持ちいいご褒美ってのを獲得するために創造出来うる限りのウナギをご馳走したところだが、溜まりに溜まったストレスがあるんでそんな事はしねぇ。


「おいそこのぶりっ子」

「えーっ。陽菜はぶりっ子なんかじゃないよ? それよりお嬢ちゃんは――痛っ!」

「ふーい。スッキリしたぜぇ」


 グーで殴ろうかなぁとも思ったが、顔は止めとけボディボディより断然顔面に行きたかったんで、インパクトの瞬間だけ〈身体強化〉をオフにして被害を最小限にとどめたが、こっちとしては随分とすっきりしたんで大変満足じゃ。

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