#320 不穏……らしい
「この匂いを発する物を押収する!」
ドアを蹴破って突入してきたのは、誰かも知らん野郎連中がざっと10人ほど。それが剣だの槍だのを手にぞろぞろと侵入。先頭の馬鹿がそんな事を口走ったが、当然のように無視――というかユニがそんな行動を見逃すはずもなく蹂躙。一応殺すなとは言ってあるが、1人か2人くらいは腕や足が取れかけていてもそこは加減間違いって事で勘弁しろや。
「で? お前等は何しに来たんだ」
ユニにボコボコにされている間に、アニーとリリィさんは明日も早いからとコテージに引っ込み、アンリエットはベッドでぐーすか。残った俺は仕方なしに受け答えをする事に。
「さっきも言っただろう! 城中に漂うこの匂いの元を勇者様がご所望なのだと」
「ふーん。そういう事か」
どうやら役立たずの女勇者がこの城にいるらしく、どこからか漂ってくるウナギの匂いをかぎ取り、当たり前のように食いたくなったんでこいつらにお願いと言う名の命令をしてここまでノコノコやって来たという訳か。
「分かったようだな。ならさっさと用意しろ」
「だが断る!」
「なんだと! 貴様の様な者が勇者様の命に背くというのか!」
「貴様こそ誰に向かって生意気な口をきいている!」
「まぁ落ち着け。とりあえず勇者とやらに伝えとけ。食いたいならテメェが来いってな」
「それは無理だな。勇者様は大変に忙しいお方。たかが食い物1つのために御自ら参じる事はあり得ぬ」
「じゃあ作らん」
交渉決裂って訳で野郎共を部屋の外に蹴り出し鍵をかける。なんか文句を言ってるようだがバリケードとして自販機サイズのダマスカスを積み上げれば、扉をぶっ壊して入って来たとしてもそこまで止まり。
さて……とりあえず勇者がここに居る事が意図せず分かってしまった訳だけども、〈万能感知〉で探ってみてもどれがそれなのか分からんぞ。それだけ実力がこの世界の奴等と変わらないレベルって訳か。どんだけ雑魚なんだよ。
「さて。俺は寝るが、また馬鹿な連中が来るようだったら起こせ」
「そうもいかないようですが」
「失礼するでござるよ~」
「シルル様。護衛であるわらわより先に入室するのは控えていただけませぬか? あの人間がいつ貴女の命を奪うか分からぬのですから」
せっかく寝ようと思ってたってのに、別角度からの招かれざる客がやって来やがった。
「なにしに来た魔族共。主は就寝の時間だ」
「なにを言ってるでござるか。アスカ氏がこの位の時間に来いと指定して来たナリよ」
「その通りだ駄犬。わらわ達がこの時間に来たのはそこの間抜け面を晒している小娘の要求に従ったまでの事。それを邪魔する貴様は主の意に背く役立たずだな」
「ぐ……っ」
ここまでか。まぁ、最初から追い出すつもりはなかったから別にいいんだけどな。
「で? 今日は何が欲しいんだ」
「勿論作画に必要な物一式でござるよ! いやー拙も試行錯誤を繰り返して作ってきたでござるが、やはり日本の技術は世界一ナリよ。おかげで執筆活動がはかどってはかどって仕方ないでござるなぁ」
鼻息荒くそう宣言する腐魔族は、目を爛々と輝かせながらもその下にはたっぷりとクマが生成されている。どうやら日本製品にテンションが上がりまくってほとんど不眠不休で書きまくったんだろう。結構な数くれてやったはずなんだがな……。
「食い気よりそっち優先かよ」
「愚問でござるよ。拙は世界中の女性にBLを腐教するのが目標故、命より優先するのは当然ナリ」
「戯れでもそのような事を仰らないでいただけませぬかシルル様。貴女様がいなくなってしまわれるとわらわ達が生きる意味を失ってしまいます。貴女様には教祖としてまだまだわらわ達を導いていただかねばいただきたいのです」
「あんな男同士の閨話の何が面白いのか。ワタシには理解出来ん」
「フン。駄犬如き頭ではあの崇高で至高な内容も理解できぬか。全くもって嘆かわしい」
「はいはいその辺にしとけ。あとお前もキッチリ飯を食え」
「……分かったでござるよ」
いつも通りの〈真実の血〉と漫画執筆に必要だというもろもろをドサドサ創造してゆく。さり気にメディスも輸血パックを寄越せと言われたんで、それは無視――しようと思ったけどついでに魔王の現状でも聞いておくかと情報料として提出する提案をしたらさすがにそこは線引きがしっかりしてるようで駄目だとさ。
「むほほ~♪ これでござるこれでござる」
「じゃあ全部で白金貨5枚な」
「了解でござるよ。それにしても獣人領はこんなに暑かったでござろうか? まるでコミケでござるよ」
「誰かが精霊閉じ込めて獣人領ごとどうにかしようとしてるっぽいらしいが、お前等じゃないのか?」
「少なくともシルル様に使える者の仕業ではないな」
メディスが言うには、シルルの配下連中は〈真実の血〉で栄養を得、日本製の画材を手に入れた事によってテンション爆上げ状態で突き進むシルルに引っ張られ、誰も彼も萌えを原動力とし、三大欲求をすべてねじ伏せての執筆活動に大忙しとの事。それじゃあ無理だな。
「じゃあ、他にこんな事をしそうな奴はいるか?」
「そうでござるなぁ……拙者には思い当たる節がないでござるよ。メディスはどうナリ?」
「数人思い当たりますが、全て別の場所で暗躍しておりますので該当しませぬ。そもそも魔族に靡くような精霊は闇の属性位なものだからな。そのような芸当が出来るのは魔族以外であろう」
「なるほど」
嘘は言ってない……か。まぁ、さすがに人類と魔族が手を組んで一つの種族を滅ぼすって理由が思いつかんからな。何せこの世界には魔王が居て、それをぶっ倒すってイベントは全種族一丸となって行う大規模な奴を定期的にやってんだ。
実際は六神連中の手が入るから勝ちも負けもないだろうけど、この世界の連中なら1つでも欠けたら負けると本気で信じてるだろうし、その線はないだろう。
「役に立ったであろう? ならばいつもの血を寄越すがよい」
「強欲だな。大した仕事もしてないくせに報酬を要求するとは……そちらの主もたかが知れているな」
「なんだと?」
ユニとメディスの間にピンと緊張の糸が張られるが、俺とシルルの間にはそういったものがない。どっちも自分を馬鹿にされてキレるような人間じゃない。怒りのボルテージは別にある。
俺であれば綺麗で可愛い女性を他の野郎に取られる事。
シルルであれば、まぁ……カップリングとか絵のダメ出しとかかね。とにかく馬鹿だアホだと言われてもへのへのぷーだが、騒がしくしてアニー達が起きて来た時に言い訳するのは非常にシンドイので、ガンくれあってる馬鹿共を互いに引きはがし、輸血パックを顔面に投げつける。
「真実かどうかの精査が出来ないから1つだけくれてやる。有難く思え」
「なにを言うか。本来であれば魔族の情報は貴様等に人類にとって値千金の価値があるのだぞ。それを発ったそれっぽっちで得ようなど片腹痛いわ!」
「じゃあ要らんと言う事――「それでも礼は礼だ。受け取ってやるぞ」で」
そう言い、慌てるように飲み始める。俺としては美人の唾液が付いた状態であればかなりの御褒美だが、さすがに血を呑む趣味はないんで〈写真〉で楽しむにとどめる。
「ところでアスカ氏。パソコンはまだでござるか?」
「全然無理。ちっとも創造できる気配がねぇ」
「残念でござるな。じゃあそろそろ拙者達はこれで――」
「ちょっと待った。そういえばマリアって今どうしてるか知ってるか?」
あれから何の連絡も寄越さないからな。別に心配という訳じゃないが、アンリエットに聞かせてやると多少なりとも元気になるかなと思ってな。
「マリア・ベルゼでござるか? 確か少し前に自領の暴動鎮圧の最中に行方不明になったと聞いてるでござるよ」
「行方不明ねぇ……らしいっちゃらしいが、しょっちゅうある事なのか?」
「どうでござろう。拙者は引きこもりでござるから顔を合わせた事もあまりないので知らんナリが、あのお方は自由奔放と聞いているでござる。またこの星のどこかを飛び回ってるのではないかと」
「ふーん……ちなみに今回の暴動がどうなったか知ってるか?」
ちらっと輸血パックちらつかせれば、メディスがあっさりと食いつき「いまだ沈静化の目途が立っていない」との事でさらにそれが普通なのかと聞けば「異常」だと。
普段であれば、マリアが自領に帰ればすぐさま暴動の波は一瞬で鎮静化――というか、領民魔族対領主って構図になり、燃え尽きる最後のろうそくみたいな感じで一瞬だけとても騒がしくなるのだが、今回は帰還の情報は大方の魔族に伝わっているがそれがまだないらしい。
妙だな。菓子と漫画こよなく愛するあの馬鹿の事だ。俺達の下を去る際にもすぐに帰ってくると宣言してやがったからな。それをせずに行方不明になるなんて……よほど魅力的な菓子を作る奴が現れたようだ。
「さすがにそうじゃないと思うでござるよ」
「人の心の声に突っ込みを入れるのはどうかと思うぞ?」
「まぁ良いではござらんか。しかしそう考えると確かに妙でござるな」
「現状で魔族の最高戦力ですからね。改めて考えてみるとそれほどのお方が行方知れずとなるのは確かにおかしいと申せますが、何が起こったのかの確証がありませんので何とも」
「やはり俺の案だろ」
「「「それは絶対にない」」」
むぅ……俺としては奴の性格を鑑みたうえでの発言だったんだが、まさかユニまで一緒に突っ込みをぶつけられるとは思わなんだ。解せぬぜ。




