#319 精をつけるならやっぱこれだろ
「王都よ! 私は帰って来たああああ!」
「うるさいですわよ」
核ミサイルを撃ち込みたくなるような名ゼリフを叫びながらダンジョンを飛び出すと同時に、何故か待ち構えていた縦ロールに文句を言われた。
「別に俺がどこで何を叫ぼうが自由だろ」
「場所を考えなさいと申しているのです。子供が寝ているのですよ」
見てみろと言わんばかりに指をさすので仕方なく目を向けてみると、そこにはぐでっとした見目麗しく肌色多めな綺麗で可愛い女性の方々と布団にくるまって寝てるガキ共。この俺を差し置いて膝枕だとぅ!? ガキの分際で何と生意気な……っ。
「知るか。こんな所で寝てる奴が悪い」
「なっ!? 魔物の脅威から逃れるために必死に駆けた子供に向かってよくそのような事を言えますわね!」
「うるさいぞ。子供が寝てんだろ?」
「むぐ……っ」
さて。体よく縦ロールを黙らせたわけで、ここに居る必要もなくなったんでパーティーチャットをアニーにつなぐ。
《もう終わったんか?》
《当然だろ。で? ルナさんにはいつ会える》
《今回の事を解決してもろた礼やったとしてもまだかかるわ》
《……あんま遅いと王都ぶっ壊すぞ》
《わーっとる。これでも急いどるんやで?》
《俺にはそうは見えんがな。せいぜい瓦礫の中からルナさんが出てくる事が無いように頑張れ》
さて。とりあえず釘は差しておいた。巫女ってのが滅茶苦茶大切ならそうなる前に何とかするだろ。あえて期限を明言しなかったのは当然急かせるためだ。一応明日の結果次第で王都の一部が瓦礫になる予定だからな。色よい結果を期待しようじゃないか。
「ちょっとそこの貴女。ダンジョンでわたくし達の他に人の姿を見ていませんか?」
「さぁな。殺した大地牛の口の辺りが真っ赤だったから食われたんじゃねぇの?」
事実であって事実じゃない。何の得もなく馬鹿正直に答えてやる義理はないからな。
「そうですの――って、あの魔物を倒したのですか?」
「当たり前だろ。それが目的だったんだから」
「信じられませんわね」
「別にお前等に信じてもらわんでも結構だ。そんなものに何の意味もないからな」
この娘が貴族っぽくなければ何としてでも証拠を突き付けるところだが、そうじゃないから受け答えにも棘が出る。なんで、アニーが解決したという俺の言葉を信じれば、それだけで十分。それだけの実力を示してきてるから疑う素振りもなかった。まぁ、綺麗で可愛い女性がかかっている以上はマジでやらせてもらうってのも分かり切ってるんだろう。
そんな訳でさっさとダンジョンから立ち去る。結局ロクな女性がいなかったな。やはり魔物と戦っていくには綺麗で可愛い女性は不向きって訳か……高い授業料だったぜ。
《アスカー。またええか?》
《今度はなんだよ。ダンジョン最下層にでも行って来いってか?》
《そうやない。なんでもダンジョンにドエライ魔物が出たいうてんねんけど》
《あ? なに言ってんだお前。それが出たからわざわざ俺に頼んだんじゃねぇのかよ》
《違うわ。ウチはダンジョンに閉じ込められとる下級民呼ばれる連中の開放を頼んだんや》
どうやらわざわざ面倒な事の方も片づけちまったようだ。まぁ、説明不足のアニーへのお仕置きは後でするとして、とりあえずアンリエットのところに戻ろう。夕飯まで時間は十分にあるものの、城のどこを壊すかの下見をする予定が急遽入ったからな。サクッと帰って下見をせんといかんのだ。
「うん? なんか数が減ってねぇか」
廃教会に戻ってみると、〈万能感知〉でそこそこ会った反応が3割くらい減ってんな。
「ダンジョンで行方不明と言われていた彼等の親が帰って来たのですよ」
「ふーん。お前の親は帰ってこなかったのか」
「ええ。父はどうしようもないクズでしたので、むしろ帰ってこない方が助かります」
「そうかい。じゃあまたな」
いまだ起きる気配のないアンリエットを抱えて城へと戻るが部屋には戻らん。そうするとユニがグチグチ文句を言ってくるだろうからな。多少怪しさが出るが、背負ったまままずは城壁をぐるりと見て回る。
「うーん……この辺かなぁ」
当りを付けたのは外壁の角。どうやらここら辺は武器庫としての機能もあるらしく、内側には武器の反応が大量だ。ここを瓦礫で埋めれば随分と迷惑がかかること請け合いだろう。
さっさと目的地が決まったんで部屋に戻ってみると、出て行った時と大して態勢が変わっていないユニがLEDのライトの明かりを頼りにまだ本を読んでいた。
「まだ読んでたのかよ」
「随分と速い帰りですね。失敗したのですか?」
「一応は成功したよ。その後に余計な労働をさせられたせいで疲れたから帰ってきた」
「主でも疲労を感じる事があるのですね」
「まぁな。で? 誰か来たか?」
「ええ。掃除係が2匹来たくらいですね。もっとも、ワタシの姿を見たらすぐに逃げ出しましたがね」
とりあえず異常はなかったらしいとの事なので、アンリエットをコテージに放り込み、俺は俺で部屋のベッドでぐっすり。
――――――――――
「――カ。アスカ起きんかい」
「んが? もうそんな時間か」
アニーに揺さぶられて目を覚ますと、どうやら4時間くらい寝てたみたいで随分と肉体的にも精神的にもすっきりしてるおかげで機嫌はいい。
「うへへ。アスカはんの寝顔はやっぱ天使やったわぁ♪」
「ホンマやね。アンタは黙ってたらええ女になるで」
「そんな予定はねぇよ。それよりも飯だな?」
「せや。1日中動き回っとったからガツンと肉が食いたいなぁ」
「あても肉がええですな」
「ワタシは動いていないので最低限のカロリー摂取量に抑えてください」
「へいへい」
さて。俺もすでに王宮の料理は堪能したからな。結果は残念だったから今日からは俺も自分で作った料理を自分で食う! そして今日は無償にウナギが食いたくて食いたくて震える~。
アンリエット・アニー・リリィさんは肉がご所望との事なんで、今日はミルフィーユカツに。
ユニは動いていないとの事なんで、朝と昼に食ったカロリー数から逆算して塩サバ定食を。
そして俺な訳だが、当たり前だがウナギを食う!
若干時間がかかるのがネックだが、まともなウナギを食うためには時間が必要だからな。まずはウナギ捌くところから――
「っ!? な、なんやその気持ち悪い生き物は!」
「蛇……にしては鱗もあれへんしヌメヌメしとりますなぁ。なんですのん?」
「ウナギって生きモンだ」
「「ウナギ!?」」
急に大声を出したかと思えば、2人ともに興味津々と言った様子でウナギを眺め始める。
「これがウナギなんか……」
「知ってんのか?」
「勇者様の残した日記にウナギの事が記されてるんよ」
なんでも前の魔王討伐の際に現れた獣人族の勇者の好物がウナギだったらしく、かなりの割合がそれの探索について記されていらしいがついぞ見つけること叶わずだったらしく、結果としてウナギと言う食材とかば焼きと言う料理だけが伝説として残った――と言う感じらしい。
「ふーん」
そんな話に耳を傾けながらも手早く捌いていく。因みに背開きな。
「ほえー。上手いモンやなぁ」
「スキルだスキル」
捌いたウナギに串を打ち、まずは白焼き。そこから15~30分ほどいったん蒸してからたっぷりとタレに漬け込み、焼いては漬け込み焼いては漬け込みを2・3度繰り返せば完成だ。
「ほぉほぉ。随分と美味そうやけど、それがかば焼きっちゅう料理なんか?」
「これはうな丼で、この上に乗ってるのがかば焼きだ」
「うん? それやったらうな丼やのぅてかば焼き丼になるんやないん?」
「かば焼きってのはうなぎだけじゃないからな。それらについては気が向いて作った時に説明する」
早速一口。うん……タレは急ごしらえなんで奥深さとかは感じないが美味い。やはりウナギは炭火に限るねぇ。皮はパリパリだけど身はふっくら。おまけにどんぶりに3匹分乗せるという暴挙……最高すぎるぜ。
「な、なぁアスカ」
「断る」
「ま、まだ何も言うてへんやろうが!」
「どうせこれが食いたいんだろ?」
なにせ獣人族に伝わる伝説の料理だ。食いたいという願いには最大限答えてやりたいのはやまやまだけども、タレに研究の余地がありすぎる。もう千匹は焼いた身や骨ぶち込んでエキスを抽出しないと最低限納得のいく味になら無ねぇっぽいからな。
「どうしてもあかんのやろか?」
「これの出来は60点くらいだからな。そんな半端料理を女性に食わせるほど女好きレベルが低い訳じゃないからな。タレが完成するまでは誰にも食わせるつもりはねぇ」
とりあえず、タレとして最低限の形は整った。後はここから焙った骨だったり焼いて脂がたっぷり染み出した肉を何百何千とくぐらせないと、濃厚なあの旨味は出てこないからな。
って訳で諦めてもらい、特に見せびらかすようなこともせずに淡々とうな丼をかきこんでいると何やら集団が近づき、ノックもせずに扉が蹴破られた。




