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#314 期待外れすぎだろ!

「さて。楽しめたか?」

「すっごくすっごく楽しかったのなの♪」


 手始めに反抗的な奴の頭をつぶしたおかげで、下の馬鹿連中も大人しく従ってくれたんで万事滞りなくアンリエットの遊び相手を務めたが、やはり十分なエネルギーを蓄えた状態だと常人ではもたなかったようで、そこらじゅうで倒れたまま立ち上がる奴は居ない。

 ユニからアニー達が帰ってきたという報告も受けたんで、ここらで帰るとするか。


「じゃあそろそろ帰るとするか。また明日も来るからせいぜいしっかり休んでおけよ」

「またねなの~」


 いつもならもうちょっと遊べるなんて駄々をこねるところだが、どうやらかなり満足したようで帰還の指示にも文句ひとつ漏らさず俺の後ろをついてくる。

 今日は満足いくくらいの運動が出来ただろうが、きっと明日は無理だろう。随分とエネルギーを消費しただろうし、急に元気をなくしてさっきから腹の虫が何か食わせろと訴えまくっている。こりゃ帰ったらすぐにでも飯の準備だな。


 ――――――――――


「はぁ……相変わらずおかしな思考回路しとるなぁ」

「ホンマですよ。普通に教会に行っとったらよかった思います」


 どこに行っていたのか説明するなりこれだよ。

 教会に行けばこんな時間まで遊び倒せらんなかったし、労働力と資金稼ぎをしている連中を王都中走り回るなんざ論外。俺としては最低限な労力で大きな効果を得られる方法をとっただけ。事実、金貨1枚とエリクサー1000ミリグラム配合のハイポーション5本程度で夕暮れ時まで遊び倒す事が出来たんだからな。


「そんな事よりルナさんだよルナさん。こんな時間まで帰ってこなかったんだ。会える算段はついてるんだろうな?」

「そっちはもうちょい待ってや。ギルドに頼んで今ルナの側付きに会えるように頼んどる最中や」

「あの料理はやっぱええもんですわ。ギルドの連中も大層楽しんでくれましたわ」

「そうか。で? ここの料理はいつになったら来るんだ?」


 夕暮れ時になって1時間。俺達だったらすでに飯を食ってる時間なんだが、せっかく世界基準で大金を支払ってやったんだ。飯の1つや2つ食おうと思っているのに、〈万能感知〉で探ってみてもまるでその動きがない。


「諦めて食事をとったらいかがです? もはや待っているのは主だけですが」

「そーなの。きっとご主人様の料理より不味いのなの」

「うるへー。俺はここの飯を食うって決めてんだ」


 まぁ、あと30分くらいなんも動きがなければ厨房に乗り込んで飯を作るようにその魂に優しく教え込んでやる予定だがね。

 ――なんてことを考えていると、何人かがこの部屋に向かって近づいてきている反応がある。


「ここにアスカという者は居るか?」


 入って来たのは野郎ばっか。しかもデブ・ハゲ・チビと3種揃ったおっさんで、俺のやる気ゲージはストップ安一直線ですとも。


「なんだお前等は。女の部屋にノックもせずに野郎が入ってくるたぁいい度胸してんじゃねぇか」

「失礼。わたしは――」

「野郎に興味はねぇ。用件を言え。ついでに飯をさっさと持ってこさせろ。俺ぁ客だぞ?」

「貴様! 我々に向かってそんな口をきいていいと思っているのか!」

「思ってるからきいてんだけど? ってかさっさと要件を言えよ。腹減ってイライラしてんだよ」

「アスカぁ……さすがにその態度はどうか思うで?」

「その人等はルナはんに近しいお方たちですよって」

「なにぃ! そういう事は速く言えよ。ようこそようこそ」


 なんだよ。最初からそう言ってくれれば態度も違ったってのに。やれやれ。野郎だからってこっちも軽率すぎたな。


「「「……」」」

「えらいすんまへんな。アスカはいつもこんな感じなんや。許したって下さい」

「当然だろう。俺は世界中の綺麗で可愛い女性と楽しい夜を過ごすために日々出会いを求めているのだ。その中の1人としてルナさんは是非とも俺という存在をキッチリと覚えておいてもらいたいと思えるほどの人だからな」


 という訳なので、おっさん連中に質の高い紅茶とクッキーを用意する。ここでの俺の印象がそのままルナさんに伝わるんだと思うと、野郎に貢物をするという反吐が出そうな行為も許せるというものだ。


「ごほん。たしかにわたし共はみ――ルナ殿と商売に関して話し合いをする間柄でして」

「ほぉほぉ。つまりはあんた方がルナさんとの橋渡し役って事か」

「まぁそんなところだ」

「じゃあ今すぐ会わせてくれるのか?」

「それは無理だ。我々も彼女に多くの品物を依頼しているからな。恐らく数か月は無理だろう」

「なるほど……つまりテメェ等は俺を虚仮にしに来たって訳か」


 やれやれだ。せっかく人が下手に出てると思っていい気になりやがって。この俺に対してルナさんに会ってる自慢をするたぁいい度胸してやがるぜ。


「止めぇ!」

「お? いきなりなにすんだよ」

「殺気ダダ洩れや。抑えんかい」

「……おっと失礼」


 しかし俺の気持ちも分かってほしいね。綺麗で可愛い女性とキャッキャウフフを生前の俺より若干だけ見た目がマシな程度のおっさん共が自慢してんだぞ? これで殺気を出すなって方が無理がある。


「……ふぅ。話には聞いていたが、ここまでとはな」

「すんまへん。あてらもまさかそっちがそないな事言うとは思わんくて」

「いやいや。たったあれだけの事で己が死を幻視するほどの経験をするとは思いもせなんだ」

「愚か者どもめ。主の女好きを甘く見ると命など簡単に散るぞ」

「お馬鹿さんなの」

「ははは……」

「で? わざわざそんな自慢だけをするためにわざわざ来たのか?」

「いえいえ。我々はそちらのお嬢様方に商談を持ち掛けられましてな。こちらの条件を呑んでいただけたら商談の順番を譲ろうと思いまして」

「ほぉほぉ」


 まぁ、すでにルナさんが見ことかっていうのは知ってるんだが、ちょっとそれを暴くに大事になり始めてきた感じだな。俺としてはそういった事に対する反応を見てみたいと思う今日この頃だが、それをするとアニー達の好感度が激下がりするような未来が何故か脳裏をよぎった。


「どないしたん?」

「い、いや……」


 俺がルナさんを巫女だと知ってるぞって暴露するのはやめておこう。そうするだけで心は平穏だし、アニー達の好感度が下がるような事もない。

 背中を流れる冷や汗を無視してその商談とやらを聞いてみると、どうやらこのおっさん連中はこの街に人が溢れすぎて困っているとの事で、それをどうにかしてくれるのであれば、今からだと数年待ちにもなるらしいルナさんとの商談を、半分に減らしてくれるとさ。


「ケチ臭いな。たった半分かよ」

「なっ!? 彼女との商談の席に座る期間を半分にすることのどこが不満だというのだ!」

「謁見?」

「フテブティ……やはり君を同席させるべきではなかったね」


 チビおっさんが指をぱちりと鳴らすと、今まで天井裏に潜んでいたつもりの連中がデブおっさんを拘束。あっという間に部屋の外へと連行していった。


「さて。邪魔者が消えた所で再開しましょう」

「俺の疑問に関してはどうするつもりだ?」

「答える義理はない」

「ほぉ? 死にたいのか?」

「いいのかい? そんな事をしたらルナさんに会うのに年単位の時間が必要になるぞ」

「無理やりにでも会えばいいだけだ」

「ほっほ。そんな事をすればルナ嬢は何を思うかのぉ。心根の優しい娘じゃ。傷つくじゃろうて」

「むぐ……っ」


 確かに。アニー達からはけばけばした派手な格好をしてるが、性根は読書が好きな内気な女性だと聞いている。ううむ……そう考えると、たとえエリクサーで無かった事にしたとしても、こいつ等がバラした時の事を考えるとうかつな動きは出来んな。


「さて小娘。どうするんじゃ?」

「そうだな。1週間――7日以内に会えるってなるならその条件を呑んでやってもいいぞ」

「さすがにそれは無理と言わざるを得ない。彼女は非常に忙しい身の上でね。半期にするのにもこちらはとてつもない労力を使ったんだよ」

「じゃあへぼい外壁でいいな」

「外……壁?」

「あ? 人が多くて困ってるってんなら、土地を広くすりゃいいだろ。それだったら新しい壁を外側に着けりゃいいだけだろ」


 暑さ対策の皿なんかを作った時に、色々と作れることは知ってる。その中で品質を50くらいまで上げると一般的な城壁みたいなレンガ造りの物が創造出来るのは実践してないが確認は済んでるからな。〈身体強化〉で埋め込んでいけばすぐに終わんだろう。


「……本気で言っておるのか?」

「まぁ、アスカやったら不可能やあらへんな」

「っちゅうか、そないな事くらい数日で終わるんちゃいます?」

「当然だろう。全てはルナさんのためだからな。どうする? 7日にするなら普通。明日になるんだったら最高峰の物を建ててやるぞ」

「……実物を見てからじゃ。そうでなければ判断できぬわい」

「いいだろう。じゃあ今日は帰れ。ちゃんと厨房に飯持って来いっていうのを忘れんなよ」

「そうだね。忘れずに伝えておくよ」


 なんか随分と元気が無くなったように感じる2人の背中に哀愁を感じたが、特に言葉をかける事もなく椅子にぐでっと体を預け、ただひたすらに料理が来るのを待ち続けた結果、運ばれてきた料理は王宮の物と考えてもそこまで美味いモンじゃなかったと言っておく。

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