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#313 リアルチャンバラごっこ

「ここだ」

「わー。ぼろっちいのなの」


 誰かに見つかると確実に止められるからな。人目を避けるように裏路地へと侵入。いくつかの隠してあるらしい通路を平然と通り抜け、人の接近を知らせるであろう幼稚な罠を解除しながら進んでたどり着いたのは教会。それも人が訪れなくなって随分と経ってるであろう廃墟同然の物。

 そんな建物の中に、ギック市と同じようにガキ連中がごまんと詰め込まれてやがるし、一部の連中からはダダ洩れの殺気が〈万能感知〉ごしに確認できる。さて……遊びの時間の始まりだ。


「さぁアンリエット。この中にはお前の遊び相手がたくさんいる。きっと武器を使って意地悪をしてくるだろうが殺すんじゃねぇぞ?」

「ご主人様はどうするのなの?」

「俺はお前の邪魔をする。少し後ろをついて歩いて、時々石を投げる。それに1回当たれば左腕。2回当たれば右足。なんて具合に行動に制限を付ける。最終的に動けなくなればアンリエットの負け。その前に一番奥にまでたどり着ければアンリエットの勝ちだ。いい肉を食わせてやる」

「むふーっ。頑張るのなの」


 やる気十分と言った感じか。俺としても申し分はないが、1つの事に熱中しすぎると別の事を忘れちまう可能性があるからな。そこら辺に関してはこっちでキッチリと手綱を握っておかんとなと気を引き締めつつ、開始の合図を出すと同時にアンリエットが早速飛び出して扉を蹴破った。


「射てぇ!」


 教会内に飛び込むと同時に無数の矢が飛来するも、アンリエットは右腕を本来の姿に戻して横薙ぎ一閃で喰らい――はしなかった。どうやら不味かったらしいな。

 ちなみに俺は何もせずぼっ立ち。ガキが射った程度の矢ごときで傷つくようなやわな肉体じゃないからな。事実、触れた矢の方が無残にも壊れている始末。早速一つ目。


「はわぁ!?」


 いい反応だ。こんなに早く1発目が飛んでくると思わなかったんだろう。素っ頓狂な声を上げ、不格好な回避となったがとりあえず当たりはせんかった。まぁ、当てるつもりもなかったけどな。


「いい反応だ」

「ふふん。あちしだって成長してるのなの」

「ほぉ? それは楽しみだな。せいぜい俺を失望させるなよ」


 という訳でお遊び開始。

 いったいどのくらいの加減をするのかと観察してみると、普通に四肢をへし折ってやがった。まぁ、アンリエットの実力から考えれば随分と加減してるみたいで一安心だが、その威力が将来綺麗で可愛い女性に向けられるのはいただけないな。そこで俺の投石攻撃ですよ。

 これのおかげで意識が嫌でも俺に向くし、野郎に対して襲い掛かる時と将来奇麗で可愛い女性になりそうな美少女に襲い掛かる時で明確な差を見せつければ、どれだけ足りないおつむをしていたとしても気づくだろう。


「やぁ~なの」

「え~いなの」

「てりゃ~なの」


 非常に間の抜けた気合の声と共に、ガキ共が激痛に悲鳴を上げる。そりゃあ足や腕がへし折られりゃ大人だろうとうめき声をあげるんだ。子供が我慢できる道理はねぇ。まぁ、大人しく言う事を聞かせるにはこうするのが一番手っ取り早いからな。エリクサーもたんまりあるし、野郎相手なら心も痛まんしな。


「みぎゃ!?」


 まぁ、だからと言って油断しすぎると投石の餌食になる訳だ。まず一発。


「ちなみにルールを破ったら飯のグレードが下がります」

「むぎゅ!? ひ、酷いのなの! そんな罰は遊びじゃないのなの!」

「文句は一切聞き入れんぞ。アンリエットはこのくらいしないとすぐにルールを忘れるだろうからな。って訳なんで、この瞬間から右手使ったら肉から野菜オンリーになるザマス」

「すっごく下がるのなの!?」

「嫌ならがんばれ♪」


 ニッコニコな笑顔でそう告げてやると、アンリエットだけじゃなく、こっちを殺そうとしてる連中までもがうわぁ……なんて声を出しやがった。失礼な。この顔だけは超絶美少女のエールに対して怪訝な顔をするなどぷんぷんだぞっ。


 ――――――――――


「ご~るなの」

「おめでと~う」


 侵入開始から20分。さほど大きくない教会だったから制圧も楽勝だったが、アンリエットはあれからもう一発の投石が直撃。左足を使ってはいけないとの事なんでけんけんでの移動は少し面倒だったんだろう。到着と同時に走り回ってる。


「楽しかったか?」

「うーん。あんまりなの。遊びっぽくなかったからなの」

「まぁ、正確には遊びじゃなく、こいつと話をする必要があったからだ」


 そう説明しながら引きずり出したのは、ガキ連中の中に会って随分と年老いたジジイ。一応法服を着てるからどれかの信者なんだろうが、小さなワイン樽を抱えて真昼間っから酔いどれてる。こんなだとまともな話が出来なそうなんで、状態回復の最高峰――の2歩手前の〈万能薬〉の入った瓶を叩きつけて中身をぶちまける。


「……なんじゃい小娘。せっかくのいい気分を正気薬などで消し去りおって」

「今のは足洗うくらいに使う万能薬だ。それよりもお前がこいつらの頭だな?」

「それを知ってなんとする」

「こいつの運動不足解消のための遊び相手が欲しくてな。至って健全な話し合いをしようとしたところ襲われて、仕方なく無力化させてもらった次第だ」

「あれだけ暴れておいてよく言うわい」

「死者が居ないだろう? 遊び相手が少なくなるのは非効率的だからな」


 アンリエットの体力は、レベルの高さもあって桁が違う。こんな街の中で盗みを働いてる連中全員を酷使すればあっという間に使い物にならなくなってしまう。そうなる時間を一秒でも短くするためならば、人柱は多い方がいいからな。


「こんな物騒なところに遊び相手探しか……随分と狂っておるようじゃな」

「なにを馬鹿な事を。狂っているからこそ人は生きていけるんだぞ? じゃなかったら殺害なんて行為を無視して肉や魚なんて食えねぇだろうが」

「かっかっか。随分と突飛な発想をしておるな」

「俺的には普通の思考回路だから気にするな。それよりもガキ連中を借り受けたいんだが?」

「1人銅貨5枚でどうじゃ」


 ふむ。てっきりそう少しボってくると思っていたがどうしてか良心的な値段だな。ここに居るのは全部で50ほど。はした金だな。


「じゃあこれで十分だな」


 まどろっこしい交渉は嫌いなんでな。ポイっと金貨1枚をくれてやると、ジジイは喜色満面の笑みを浮かべながらそれを受け取ると、サイファとムルネなる2人の男女を呼びつけた。


「こいつが今日の依頼主じゃ。しっかり指示を聞くのじゃぞ」


 それだけを伝えると、ジジイはひょこひょことした足取りで教会を後にする。ふむ……あの様子だと金貨で酒でも買いに行くんだろう。まぁ、気持ちは分からんでもない。

 そんな背を追いかけるのをやめてガキ2人に目を向ける。野郎は論外だが、ムルネって少女は……ギリギリセーフだな。


「わたしはムルネといいますこっちはサイファ。今日1日貴女の指示を他の子たちに伝えますので何なりとご命令を」

「じゃあこいつの遊び相手をしろ」

「はぁ? なんでんな事をこのおれがしなくちゃ――痛ぁ!」

「司祭様の指示よ。ちゃんとしなさい」

「うっせぇなぁ。なんでこんなガキの命令を聞かなきゃなんねぇんだよ。しかも人種だぜ?」

「依頼主だからよ。たとえ人種だろうと金銭のやり取りがあった以上は従うの」

「けっ。おれはすぐにでもダンジョンに潜ってSクラスの冒険者になるからな。いつまでもあんなジジイの言う事に従う必要はねぇんだよ」


 うぅ~む。どうやら戦闘力に自信があるらしいが、所詮はガキ。たかがお山の大将で図に乗るとはね。ここは大人として自分がどれだけ劣っているのかを知らしめてやる必要がありそうだ。

 アンリエットの遊び相手の観点から見ても、反抗心の強いこの馬鹿を屈服させれば後の仕事が楽になるからな。


「面白いな。アンリエット1人にあそこまで無残にやられておきながらどこにそんな自信が持てるのか……俺には理解できない思考回路だ」


 そもそもこいつが戦場にいたかどうかの記憶すらない。俺が見ていたのは将来有望そうな美少女達とアンリエットだけで、野郎どもの動きについては完全にノータッチ。見た感じは……不参加かな。どうやら口だけの軟弱者らしい。


「んなだとぉ……っ!」

「怒るな怒るな。誰でも己の実力を高く見がちなのは世の常。怪我が見られないところ、大方、瓦礫に隠れて震えていたんだろう? それでなおその大口。まさに稀代の大馬鹿だな」

「テメェ!」


 十分なくらいに挑発した結果、サイファは年齢に比べて確かに若干早いくらいの動きで距離を詰めつつ剣に手をかけるものの、アンリエットはあっという間に察知して食らいつこうとするので視線だけで止めさせ、あっという間に四肢を拘束。


「さてムルネ。ここに俺の知る子供の遊びを書いておいたから、指示に従う連中でアンリエットを楽しませておけ」

「かしこまりました。それで貴女はどちらへ?」

「なに、ちょっと躾をな」


 そう言い残し、俺はコテージ内へ。そこからたったの10分。野郎に使うにしてはかなりの量を浪費したが、随分と従順になってくれたよ。まぁ、ムルネやアンリエットからはサイファに憐みの目が向いたがね。

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