#312 遊び相手を決めるのは……私達です!
「はぁ……あれだけ待たされてあんだけの大金を払って泊まれるのはこんな部屋かよ」
「これでも一般市民の貴様らが宿泊できる最高級の部屋だ。文句を言うな」
散々待たされ、門番や騎士の連中がひーこら言いながら何の意味もない荷物を運ばせたのは、コテージで常用してる部屋の2ランクくらいグレードダウンしたような部屋。一応数は伝えてあるんで人数分のベッドも置かれてっけど、あからさまに急遽運び込みましたって感じがありあり。
「……随分と埃っぽいな。掃除もまともにしてねぇのかよ」
「お前は性格のひん曲がった姑か! こんなバカ高ぇ値段で泊まるのは貴族ぐらいで、そもそもこんな状況の中ここまで来るような余裕のある領主はいねぇ限りはここらに用のある奴なんて居ないからな。掃除なんてロクにやる訳ないだろ」
「やれやれ。そんな手抜きな宿のくせに値段はキッチリ白金貨3枚か。ちょっと客を馬鹿にしすぎだろ」
「こっちはしがない平騎士だからな。いくら文句を言われたところでなんとも出来ねぇよ」
チッ。もうちょい責め立てて楽しめるかと思ったが、意外と図太いっつーかやる気がないっつーか面白みに欠けるんだよなぁ。これがアニーだともっと突っ込みが飛んでくるんだが、所詮は固定給の騎士か。必要以上の仕事はしないってな。
「あっそ。まぁ文句は後で言いまくるとして、追加で宿泊日数を増やす場合はどうすりゃいいんだ?」
「そん時は入り口に来い。手続きはそこでしか出来ない決まりだからな」
「……ちょろまかしたりすんなよ」
「じゃあな」
くくくのく。まぁ、こんな図太い神経をしてるやつが固定給だけで満足するようなタマな訳ねぇよな。俺からすれば白金貨3枚なんてはした金だけど、この世界を普通に生きてる連中にとっては目ん玉が飛び出るほどの額。くすねたくなるんだろう。これをネタにしばらくイジッてやろう。
「さて。暇になっちまった」
「ではいつものように女漁りにでも向かわれたらどうですか?」
「うーん。さすがにアニー達が帰ってきてないのに出て行くのもどうかと思う訳だよ」
「別に、ワタシが「単独」でここに待機しておりますよ?」
うん? 今……単独ってところに随分と力がこもってたような気がするぞ。あぁ、きっとアンリエットを連れて行けと言ってるんだろう。
今回、いつもは獣舎的な場所と違って俺達と同じ部屋に押し込まれたユニにとって、アンリエットと同室ってのはなかなかにシンドイものがあるんだろう。ナンパは出来なくなっけど、苦労をねぎらう意味も込めて連れて行く事にしよう。
「じゃあ行くか」
「わーいなの。ご主人様とおさんぽなの~」
って訳で、アンリエットを連れて王都の街へと飛び出す。
王城が近いって事もあって、近くに立ち並ぶのは大体貴族の屋敷ばっかなんでロクに店もないんでその辺りはさっさと通り抜け、多くの人が行きかう城下町へ。
「うむ。やはり薄着の綺麗で可愛い女性は素晴らしい」
無数に広がるケモ耳女子達。あの街と違って血眼になって食料を奪い合うような殺伐とした姿がどこにも確認できないから、きっと100人に声をかければ10人くらいはカフェでお茶くらいは付き合ってくれるだろうけど、今日はアンリエットと散歩すると決まったからな。
「ご主人様。どこに行くのなの?」
「そうだなぁ……まずは食い物屋を覗いてみるか?」
「ご主人様の料理じゃないと美味しくないのなの……」
「じゃあ服とか買うか?」
「これじゃないと動きづらいのなの」
「ふぅむ……ってなると遊ぶくらいしかなくなるな」
「わーい。遊ぶのなの~。何して遊ぶのなの?」
「うーん」
一応俺もガキだった頃があり、もちろん外で遊んでいた。そのころにやっていたものがいくつかあるが、大体は大人数じゃないと面白くも何ともねぇんだよなぁ。
「よし。まずは遊び相手を探すぞ」
「ユニじゃダメなの?」
「あいつはアニー達が帰って来た時に必要だからな。それよりさっさと行くぞ」
「はーいなの」
これだけのデカい街だ。ガキの10や20は探せばいるだろう。そこであれば将来有望そうな美少女もいる可能性がある。これであればアンリエットと遊びをしながらもナンパが出来るまさに一石二鳥の作戦。天才過ぎるぜ。
さっそく手近なガキを探そうと〈万能感知〉を使おうと思ったんだが、タイミング良く数人が目の前を通り過ぎていたんで追いかけようと数歩歩み始めた時、横合いから突進してきた悪人面の黒率30パーセント程度の悪人見習い的な罪人がぶつかってきて尻もちをついた。
「なんだオメェ等。奴らの仲間か!」
「あ? 人にぶつかっといてその態度はいただけねぇな。まずはごめんなさいだろうが」
「黙れクソガキが! 人の金盗んどいて何が謝れだ! 死ねやぁ!」
どうやらさっきのガキ連中はこいつから金を盗み、逃げてる最中に俺が発見。追いかけようとした所をたまたま遮る形になったのを勘違いして逆上。剣を抜いて襲い掛かってきたわけだが、まぁ問題にならないほど弱い訳で。
「正当防衛~」
振り下ろされた斬撃を避けながら懐に踏み込んでの発勁で吹き飛ばす。一応加減したつもりなんだが、随分と派手に小さくなったのには多少冷や汗が出たが、被害者に女性が居ないと分かればそんな気持ちは一瞬で消し飛ぶ。
「納得できないのなの。あんな奴ガブッとしちゃうのなの」
「まぁまぁ。誰にでも勘違いってのはあるモンだ。第一、そんな事をしちまったらさっきの騎士がすっ飛んできて遊ぶ時間を奪っていくぞ?」
「はっ!? それは駄目なの! あちしはご主人様といっぱい遊びたいのなの!」
「じゃああいつは無視してさっきのガキどもを探すか」
「分かったのなの~」
なんて感じでアンリエットを宥め、その場を後にする。結構な目撃者は勿論いたが、剣を抜いた大人が10の子供に襲い掛かったんだ。どっちが悪いかなんて一目瞭然だろう?
そんな事件現場を数百メートルも離れると、いつもの日常が広がっていた。直に伝播してくっかもしんないけど、俺という存在はそこまで広がったりしないだろう。一応その可能性を考えてこっそりカツラをかぶっておいたからな。
さて。子供を探すという件だが、そこら辺にいる綺麗で可愛い女性に尋ねたところ、いくつかの場所があると判明した。
まず一番集まるのは何といっても教会。ここではファンタジーテンプレの例に漏れず、学校の役割を果たしてるみたいでこの時間だとこの町に住む子供の2割はそこにいるとの事。
次に多いのが教会に通えないくらい貧しい子供。これらは家の手伝いとして家事をしていたり見習いとして町中を走り回っており、俺達が望む遊び相手としては適さない。
最後に、さっきの馬鹿が喚き散らしてたように犯罪に手を染める連中。働き口があるのに働かずに犯罪に手を染めるので非常に手を焼いているとの事。
「この状況で労働?」
どうにも腑に落ちなかったんで、この際聞いてみる事に。すると、どうやらこの王都にはダンジョンがあるらしい。規模は15階層と大した事はないらしいが、肉の確保が出来ると言う事で栄養面に目をつむれば飢える事が無いので、戦える獣人の大部分は毎日そこに収納されているらしい。
盗みを働く悪ガキ共は、そんな労働に従事しないか従事した結果、帰還を果たせなくなった連中の孤児って事だとさ。
「とにかく。あの連中は騎士様達が捕縛しようと動いてるから、あんたたちもあんま裏通りとかに行ったりするんじゃないよ」
「分かっておりますとも。それでは名残惜しいですがわれわれはこれで失礼します」
さて……目的地は教会がいいかなと思いもしたが、勉学を学ぶところでもある以上、アンリエットを満足させるには至らないだろうとなると、やっぱ選択肢は裏通りの孤児連中になるな。こっちであれば金銭次第で飽きるまで遊び倒すことが可能だろうからな。
「よし。さっきの連中と遊ぶか」
「分かったのなの」
指針が決まれば、後は目的地に向かうだけだ。




