#309 1位はご存じユニです
「くぅ……くぅ……」
あれからさらに数時間ほど追いかけっこに興じた結果。駆けずり回って体力を使い果たしたアンリエットは電池が切れたかのように突然ぶっ倒れ、眠ってしまった。
何度も転ばせたせいで服は土埃まみれで綺麗なところを探す方が難しいが、それを背負う事にためらいはない。ここしばらくあんま相手してやれんかったからな。これで少しでも解消できてればいいなと考えつつ、当初予定していた事をさせるためにいつもの場所へ向かうと、相変わらずの大盛況ぶりでまた警告をするかと思った矢先、モーゼの十戒のごとく人垣が割れて労せずにイルザさんの家に到着。
「おねーちゃん。いらっしゃい」
「邪魔するよ。悪いけどベッド貸してくれ」
「それは構いませんけど、いったいどうしたんですか?」
「ちょっと遊びまわってな。起きたら呼んでくれ」
そう言い残して外に出ると、どっから情報を手に入れてるのか分からんが狂信者がすぐそばに控えていた。
「此度はどのような用件でございましょうか」
「お前らって冒険者なんだよな?」
「全員ではございませんが、この街を囲む4割は冒険者資格を有しております」
「なら仕事をくれてやるから呼べるだけ呼んで来い。その際に試験がある事をキッチリ宣伝しておけ」
「申し訳ないのですが、そういった依頼に関する受付については揉め事が起きないようギルドを通す決まりになっておりまして……」
「知らん。とにかく数を集めろ。最低1000出てこなかったら御神体の販売を停止するとバラ撒け。そうすれば玉石混合だが数は集まるだろ」
俺としてはあの親子が笑って過ごせるような日々を与えるだけで満足なんだからな。この商売が駄目になっても他の商売がまだまだあるからな。
俺の毅然とした態度? にマジなんだと認識した狂信者は慌てて俺が冒険者を呼んでいる旨と1000人来なければ御神体の販売中止という強烈らしい脅しが功を奏し、1時間もしない内に1500人ほどが試験会場とへと集まっていた。
「あーあー。本日は晴天なり。今回の招集によく集まったな。早速だが試験を行う。ここにある赤い石をどんな方法でもいい。破壊する事が出来た奴には最低金貨1枚の仕事をやる。早速始めろ」
赤い石ってのはもちろん下級精霊を閉じ込めてたあの装置。それに分かりやすいようにペンキで色づけしただけだ。ついでにぼろでなまくらな武器じゃどうにもならんだろうから、一応ミスリル程度までは無償で使い放題って事で適当にバラ撒き、見込みがありそうな奴には上位種の武器を貸すとしようと考えながらぼーっと見学。
「……全然駄目だな」
開始5分ほどで大体の実力が分かったが、まぁ使えない奴の多い事多い事。斧だの槍だのに関しては上手い下手が全く分からんが、剣に関しては〈剣技〉のスキルがあるおかげでハッキリと分かる。今のところ使えるのは1500居て2・30。もしかしてミスリルじゃ足りないのかと振り抜いてみると、ヒヒイロなんかと比べて多少は手ごたえが残るけど斬れない事はない。
結局。俺の一閃がトドメ的な形となって大部分がリタイア。そもそもここに人が集まらなきゃ御神体が買えなくなると言われてきたからだろう。思ったよりマジになるような奴がいない。この位が限界だろう。
「さて……残ったテメェ等にはより優秀な武器を使わせてやる」
「こ、これは……」
「えーっと。こっちがダマスカス。こっちがオリハルコンでこっちがヒヒイロカネだ」
「「「……」」」
「どうしたよ。さっさと試してみろ」
この程度でボケっとされると面倒で仕方ねぇ。適当な奴のケツを蹴っ飛ばして正気に戻して振らせてみると、時間に差異はあれど全員が破壊可能出来ると分かった。
「なんなのですかこれは。ダマスカスやオリハルコンですらまともに両断できないとは思いも致しませんでした」
「ちぃと特別な奴でな。テメェ等にはこれからその石の破壊活動をしてもらう」
どうせ精霊なんざ見えねぇんだ。適当に石と言っておきゃあ納得すんだろ。
「ここを離れろっていうのかい?」
「当たり前だろ。そん代わり報酬は大放出。一か所ぶっ壊す毎に金貨5枚くれてやるよ」
「き、金貨……それも5枚も?」
「ああ。だが、それだけ危険な仕事だと認識しとけよ? 餞別代りに今持ってる武器はくれてやる。どの道それがねぇとどうにもなんねぇんだからな」
俺の発言に2・30人がどよめく。まぁ、一応この世界でも入手が非常に困難とされてる武器をポンとくれてやるんだ。普通に考えりゃ頭おかしいと思われるのも無理はないか。
「質問を。この依頼が危険だとおっしゃっておりましたが、どれほどなのでしょうか」
「まぁ、普通に殺されるだろうな。受ける受けないは自分で決めろ」
何故獣人を滅ぼそうとしてんのか皆目見当がつかんが、それを邪魔しようってんだ。どんくらいの実力者が揃ってんのか興味もないが、こいつ等が勝てる保証なんかねぇ。まぁ、しょせんは野郎だからな。いなくなってくれれば、その分が俺に還元されるって寸法よ。
少し待ったがリタイアはなし……と。これくらい居れば何とかなるか。本来なら1500なんて圧倒的な人海戦術で諦めさせたかったんだが、これで我慢しよう。
さて、数は決まったが安全を考慮するならレベル上げが必須だ。武器が良かろうが実力が無けりゃむざむざ殺されに行かせるだけで時間の無駄だろう? こっちは楽して相手の信用を得たいんだからなって訳でしばし武器を選んどけと言って裏で丸男の死体を取り出して復活させて事情を説明。
「ふむ……この魔素の濃さで行動できる魔物には制限がかかるのだが?」
「明らかにおかしいってくらいならこっちで弱らせっから。可能ならチビでトロいのが希望だ」
「承った。では参るとしよう」
丸男を引き連れて狂信者共のところに戻ってみると、目を覚ましたらしいアンリエットが連中を相手に追いかけっこに興じていたが、俺の姿を発見するとすぐさま飛びついてきた。
「あ。ご主人様おはようなの。あと丸男。何でいるのなの」
「ごきげんようアンリエット。この身がここにあると言う事は主人が必要としてくれていると言う事に他あるまい? やはり3位と言ったところか」
3位という意味不明なワードに俺は首をかしげたが、アンリエットはあからさまに不機嫌な表情に。
「お前が3位なの。あちしが2位なの。勘違いするななの」
「おやおや。幼い頭では理解できぬか。この身が毎晩主人のために働いている事がどれだけ助けになっているかを。それに比べてアンリエットは食べて寝ているだけ。役に立っていないではないか」
「むぐぐ……うるさいのなの!」
「はいはいそこまで。何を争ってるか知らんがマジになるなら空の彼方に投げ捨てんぞ」
〈身体強化〉をフルに生かせば、二人とも宇宙まで投げ飛ばあすなんて造作もないからな。2人も俺の実力をある程度把握してっからかそれ以上言い争う事も無くなったが、本来であれば丸男だけでいいんだが何故かアンリエットがくっついて離れようとしないんでそのまま連れて歩くことに。
「さて。お前等は晴れて俺の依頼を遂行するために働いてもらうんだが、いかんせん実力が大きく不足している。なのでレベル上げの専門家である丸男に来てもらった」
「ご紹介にあずかりました丸男です。この度は完全にお得意様であるアスカ様の厚意と言う事ですので引き受けましたが、ここまで低レベルな者を鍛え上げるのは骨が折れますよ」
丸男の物言いに不満なんだろうが、エリクサーで強化しまくった結果。かなりの実力を持ち合わせるようになり、それに付随して俺の望むレベルの魔物をポンポンと生み出せるようになってくれて非常に助かってるわけよ。まぁ、相変わらずレベルは上がりませんけどね!
「して。いかほどまでに上げればい良いので?」
「この石がある程度楽に斬れるようになるまでだ」
「ふむ?」
たかが石? といった疑問が見えていたが、軽く触れるだけでそれがどんな物なのかを理解したのか随分と表情がゆがんだ。




