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#308 うふふぅ~。捕まえてごらんなさぁ~い

「さーて。どうしたもんかね」


 あれから特に怪しまれる事無く町へ戻ってきたわけだが、これは大変に困った事になった。

 現在のところ、精霊自身であれを破壊するには精霊母の全力レベルで魔法をぶっ放さないとどうにもならんってことが分かったが、それは同時に俺が何とかしなきゃならんという宣告でもある訳だ。

 世界中にはまだまだ俺という存在を知らない綺麗で可愛い女性が来るのを今か今かと待ちわびてるんだ。そんな彼女達を無視して異常気象の解決するってのはさすがに気が進まん訳よ。


「手伝ってくれるんじゃないのかい?」

「メンドイ」


 あの1件で恐らくほかの場所も警戒されるようになるだろう。四六時中張り付くってのはこの気温の中でそれをするのはなかなか地獄だけど、やらなければまたこういった事が起こる可能性が否定できないからな。どこの誰だか知らねぇが、誰を相手に綺麗で可愛い女性の薄着を封じ込めたかをDNAにまで刻み込んでやるよ。


「そんな簡単な言葉で片づけるんじゃないよ! あんたがいなけりゃどうやって舎弟共を救い出せってんだい。獣人領がどうなってもいいってのかい!」

「おぉそうだ。勇者に頼めばいいんじゃね?」


 現在、絶賛魔王出現中のため、各種族に1人づつ勇者が居る。今のところ百発百中でロクでもない奴だからな。使い物になりそうにないが、面倒極まる役目を押し付けるにはちょうどいい人身御供よ。


「あたいはあの女は好かないよ」

「なに? ここの勇者は女性なのかね!」

「そうだけど戦闘はからっきしだね。表じゃ媚売ってるくせに裏はそりゃあもう酷いのなんのって。あんなのが勇者として選ばれたなんてあたいは信じないね」

「そんなに酷いのか……」


 一瞬お近づきになりたいなぁと思いはしたが、そこまで酷い相手となると話は別だ。六神はこの世界をどうしたいんだろうな。

 ま。とにかく今は飯だよ飯。かなり時間はかかったけど、ギリギリ昼食に間に合い、焼き立てのパンとホッカホカのスープにちょいと不格好なサラダなんて取り合わせのランチは、相も変わらず美人成分たっぷりで至高の一品でした。


 ――――――――――


「やっぱあの騒ぎはアスカ等やったんか……」


 部屋に戻り、早速ここを出て行ってからの出来事をざっと説明すると、出て行ってすぐだからな。身内は全員俺関係だと理解してたらしくさほど怒られんかった。まぁ、正座はデフォなんすけどね。俺が悪い訳じゃないのにこうなるのはちょっと解せぬ。


「ここまで届いてたか」

「そらぁもう。いきなり真っ白な光が膨れ上がった思うたら地面は揺れよるしどえらい爆音が1分くらい続きましたんや。まだ事情知っとったから落ちついとりましたけど、エメラはん達はそらぁもうえらい取り乱しようでしたわ」

「そりゃすまん事をしたな」

「しっかし信じられへんな。あんだけ事をせんと壊れへんて……一体誰がどうやって造ったんやろうな」

「そこら辺は全部謎だ。まぁ、あんだけの事をすればあっちも動かざるを得ないと思うんだがな」


 あと5日以内に動いてくれれば、こっちとしても情報を抜き取りやすいんで願ったり叶ったりなんだけれど、さすがにあんな馬鹿デカいクレーター見せつけられた日には判断が難しいだろう。特にあのミサイルが落とされたような爆撃。あれが連発出来るのかどうかを判断するだけでも時間がかかるだろう。組織ってのは得てしてそういモンだからな。


「動かんかったらどないするん?」

「これ幸いと壊してもらうだけだが……勇者は動くか? それと実力はどんなもんか分かるか?」

「まず動かないだろうねぇ。あたいも舎弟を送り込んでこの状況を何とかしろと伝えたにもかかわらずこの有様さ。実力は悪くないけど近衛の方が何倍も強いだろうさ。それに魔法使いだからね。まず役に立たないだろうね」

「そうかぁ……」


 まぁ、先に会った2人が物理系だったからな。バランスを考えると居なきゃおかしいが、よりにもよってここかぁ……相変わらず運がないな。それとも……それも織り込み済みか? いや、1年であんだけのレベルのモンを作るのは無理すぎるか。


「おい! イフリア様が直々に頼んどんのじゃ。返事ぐらいしたらどうなんじゃコラ!」

「はいはい聞いてますよ。その線はメンドイからナシだって言ってんだろ。冒険者とかに依頼出せば――って、ちょうどいいのが居たな」


 この街のすぐそばに、暇を持て余して自家発電に興じるくらいしか能のない同類が居るではないか。

 連中であればすでに俺の支配下と言ってもいい存在。動かすために金を積んでもいいし、例の御神体をバラ撒いてもいい。どっちだろうと俺の懐は全く痛まないからな。それで俺の人生という時間を浪費しないで済むならいくらでも放出しますとも。


「なんや怪しいな。誰を思い浮かべとるんか分からんけど、こっちに迷惑掛からんやろうな?」

「さてね。俺はルナさんに会えてない時点で迷惑が掛かってると認識してるからな。そのくらいは目をつむって欲しいか今すぐにでも会わせてもらいたいね」

「アニーちゃん諦めるんや。アスカはんが動けば必ず騒ぎになるんやから」


 とりあえず、今後の方針としては街の外にいる連中にこの話を持ち掛けるという方向で幕引き。イフリアと犬2匹は住処である火山へとようやく帰っていったが、また明日来ると言っていた。そうポンポン離れて大丈夫なんか? と問えば今回救った下級精霊が戻れば多少は平気との事。


「あー……暇だ」

「だったら精霊母の願い受け入れたったらよかったやん」

「それとこれとは別」


 今は昼を過ぎたばかり。エメラさん家族は後片付けをしたり夕飯の買い出しをしたりと忙しそうにしてるから邪魔したくない。かといってナンパが出来るような状況じゃいまだにないからな。外を出歩いて綺麗で可愛い女性に無視されるのは非常にクるものがあるからなぁ。


「ご主人様。暇ならあちしと遊んでほしいのなの」

「ん? たまにはそうするか」

「わーいなの。いっぱい遊ぶのなのー」


 という訳で、アンリエットを引き連れて裏庭に出ると、珍しくぐーすか寝ているユニの姿が。邪魔するのもどうかと思ったんで、どっちもあまり暑さを感じないんだ。目いっぱい体を動かせるまtの外に場所を移す。


「それで? いったいどんな遊びをするんだ」

「追いかけっこなのー。あちしが追いかけるからご主人様逃げるのなのー」


 言うが早いか、アンリエットが猛スピードで距離を詰めてきたがその程度であれば反応できないほどじゃないんでひらりと躱しつつ脛を蹴り上げて一回転。


「はわわ~♪ 凄いのなの凄いのなの」

「なんだ。もう満足しちまったのか?」

「全然なの。まだまだ行くのなの」


 くるっと一回転したことに気をよくしたのか、きゃいきゃい言いながら俺を捕まえようと飛び込んでくるんだが、そう簡単に捕まってやると調子に乗りそうだからな。一定の距離を保って走り続けたり。突然距離を手の届く位置にまで縮めて回避に専念したり。転ばせたり軽く頭を叩いたりと意地悪をしながらあとちょっとを演出しつつ駆けずり回る。

 そんなやり取りを1時間ほど続けた辺りでちょいと休憩をはさむ事に。


「むぅ~っ。全然捕まえられないなの。ユニはもっと簡単だったなの」

「俺とユニを一緒にするな。俺の方が全てにおいて数倍も数10倍も強いんだからな」


 リンゴジュースを飲みながらふくれっ面をさらすアンリエットの頭を少しだけ乱暴に撫でまわす。こうする方が好きなのか、優しく撫でる時よりも嬉しそうに頭を擦り付けてくるんでこの位の力に収まっている。


「甘いの食べたいのなの」

「じゃあこれなんてどうだ?」


 リンゴジュースに合わせてアップルパイを取り出すと、アンリエットは目にもとまらぬ速さで1ピースを口の中に放り込み、顔をとろけさせる。


「甘くてささくとろとろしてて美味しいのなの~」

「うん。カスタードの濃厚な甘みとリンゴの酸味が程よくマッチして美味いな」

「えねるぎー満タンなの。今度こそ捕まえるのなの!」

「はっはっは。頑張ってみろ」


 軽い休憩を終え、再び追いかけっこが始まる。

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