#306 こういう扱いもたまにはイイ
「――とまぁこんな感じかねぇ」
「な、なるほど」
うーむ。大体の流れは理解できたけど、随分と体力を消耗したな。
流れを説明すると、ここから北に数100キロ進んだ先にある火山でイフリア達は暮らしているらしいんだが、ある日を境に下級の精霊の数が減っている事に気付いたらしい。
最初は別の場所にでも行ったか、時折やって来る人類達と契約でも結んだのかと気に留めてなかったらしいんだが、それが普通では考えられない速度でと気付き始めた時にはもう手遅れで、火山に暮らしていた精霊の4割が居なくなっていた。
これがどのくらい大事なのかと言うと、火山全体の気温が際限なく上昇するだけではなく最悪の場合は大噴火が発生し、ここら一帯はマグマに飲み込まれてしまう上に噴火口の近くにあるダンジョンがスタンピードを起こすらしい。
理由としては、精霊はマナが豊富な場所に居を構え、人類に危険が及ばないようにするストッパーのような役割も兼ねているらしい。だから、火山から精霊が居なくなるとそこのマナが異常な高まりを続けて先に述べたような災害が発生するとの事。この異常気象もその前触れらしいんだとさ。
と、補正をフル回転させてなんとか理解できた訳だけど、説明がほぼ擬音ってのはさすがに考えもしなかったな。一応自覚してくれてたからまだ覚悟できたたけどよぉ、あれで説明得意なんですわ。なーんて言われた日にゃあ危ないところだったぜぃ。
「分かったならさっさと行くよ!」
「待った待った。仲間にちゃんと事情を話してくるんで」
「面倒だね。後で話しゃいいじゃないかい」
「そんな怖い事が出来たら苦労はしませんよ。ちょっと待ってて下さいな」
「ならあたいもついてってやるよ」
って訳で、ヘッドロックを決められながらアニー達の泊まる部屋へ。
「邪魔するよ」
「うえっ!? な、なんやいきなり! ノックぐらいせんかい! って誰やねんその女」
まぁ当然の質問だが、どう言ったもんかねぇ。
精霊母だよーんなんて言ってみたところで信用されるような暮らしはしてきてねぇし、だからと言って適当な言葉を並べたところでなんで連れて来たん? って話になるからどうしたもんか。
「あたいは火の精霊母・イフリアさ。おまえさん達かい? この娘の仲間ってのは」
「そう、やけど……ホンマに精霊母なんか?」
「一応そうらしい」
「なに言うとるんですか! こないな量の魔力発しとるお人が普通の人間なわけありまへんて。はわぁ……精霊母なんて初めて見ましたわ。ホンマに実在しとるんですね」
「それで? その精霊母がアスカ連れて何の用なんや?」
「ここに来る前に透明な何かを斬り倒したのは覚えてるか?」
「ああ。放送で言うとったアレやな。それが何なんや?」
「実はな――」
「あぁ。それは俺が」
イフリアに説明を任せると十中八九理解出来ないだろうからな。
な訳なんで、一応なぜあんな中に精霊が居る事と異常気象の関連性を説明。
「――って訳でな。ちょっと薄着のケモ耳女子がナンパ出来るようになるための手伝いをしようと思ってな」
「アスカらしい理由やな。ホンマやったらウチとしては別に構へんけど、いつ頃になるんや?」
「さぁ? 別に全てを俺1人で解決するわけじゃねぇし、ある程度見切りが付いたらほかの連中に任せてさっさと王都に向かうつもりだからな」
ここに来た目的はあくまでルナさんに俺という存在をお知らせするためであって、まかり間違っても世界平和なんかじゃない。まぁ、薄着の女性が早く見たいってのもあるけど、獣人領全体の問題を1人で解決してやるような時間はかけらんねぇっての。
「待ちな。それじゃあなにかい? あたい等のシマぁ荒らす馬鹿をほっとくいうのかい?」
「そこら辺は自分達でやってくれや。俺は世界中の綺麗で可愛い女性と一夜を共にするという夢があるんでな。そこまで面倒見る気はねぇ! というかいくつか場所を教えてやるだけでも感謝してほしいくらいだぞ?」
いくら睨みを利かせようが、〈恐怖無効〉を持ってる俺にとっちゃそのまま踏んづけてくださいハァハァ的な返答が出来るくらい余裕だぜ。無かったとしても綺麗な女性に見つめられてると脳内変換すれば無問題。ぐふふ……。
「お前さん方。この娘はいつもこんな感じなのかい?」
「そんなんや」
「そんなんですわ」
「はぁ……苦労しそうじゃな」
「実際にしとるんよ。このアホのせいで色々ととんでもない目ぇ合っとるんや」
「その分いい思いもさせてやってんだろ。飯とか売り物とか」
「そうやでアニーちゃん。アスカはんをぎゅっと出来るだけでも十分に役得なんやからね」
リリィさんにギュッと抱き着かれながら、とりあえず〈万能感知〉を最大範囲にし、あの時の妙な反応のみを表示するようにすると……結構あるんだな。
〈収納宮殿〉から獣人領の地図を取り出して現在位置を確認。照らし合わせて丸を付けていく。
「とりあえずここら周辺にある場所に印をつけたんで、頑張って」
「本当にここに舎弟共が居るのかい?」
「じゃあ1つくらいはぶっ壊してみせるからついてきてもらえますか?」
疑うのは当然か。本来なら行きたくないんだが、今はべらぼうに暇だからな。1つくらいであれば壊すために出て行っても時間つぶしくらいにはなるだろう。
「珍しい事もあるモンやな。アスカがなんも欲しがらんと無償で誰かん願い聞き入れるなんて……明日は槍でも降るんと違うか?」
「なにを言うか! これもすべては薄着の獣人をナンパするためだ。おまけにべらぼうに暇だからな。ボケっと惰眠を貪ってるよりずっと有意義だとは思わんかね」
「まぁ、せやな。ほんならエメラ達にはウチから説明しといたるわ」
「おう。万が一にも夕飯に間に合わないような事があったらちゃんと残しとくように言っとけよ」
「任しといて下さい」
「じゃあ行きますか」
という訳で、三度こっそり街を脱出。アニー達に暇ならついてくるかと問うてみたが、灼熱の大地を歩き回るのは相当嫌なようでそっと視線を外し、アンリエットは面白くなさそうだからいいと言ってベッドへ。まぁ、やかまし犬とびくびく犬はセットで連れて来たけどな。
一応ユニにも聞いてみたが、本を読みたいのでとあっさりと断られた。まぁ、1人の方が色々と動きやすいからいいんですけどね。
「で? なんだってあたいがお前さんを運ばなきゃいけないんだい?」
今現在、俺はイフリアさんに荷物みたいに抱えられながら上空3メートルくらいを目的地に向かって突き進んでいる。出来れば背中から抱き着いてあわよくばさらしで押さえつけられながらも大きな存在感をアピールしている胸の感触を確かめれるかもとか期待したんだが、そんな思いが顔に出てたのか荷物みたいに扱われてる。
「精霊が捕らえられてるモンに警報装置みたいなんがあるっぽくてな。破壊に際して出来るだけ証拠を残したくないんでね。主に足跡とか」
「それであたいに運ばせるってかい? 契約もしてないくせに随分と精霊使いが荒いじゃないか」
「これも舎弟を救い出すため。それもとなにかな。下級精霊なんてどうでもいいと?」
「お前っ! 姐さんは精霊母なんじゃぞ! なに生意気な口聞いとるんじゃ!」
「関係ないね。今のところは俺の助けがなきゃなんも出来ない精霊にすぎんからな」
「すご……ひと……に、せいれ……敬わない」
「あっはっは。生まれてこの方こんな扱いされたのはいつぶりかねぇ。ん? そういやぁこの前ウィンディアに面白い子供がいるって聞いたねぇ。お前さんかい?」
「多分俺だな。あん時は酷い目に合った。いきなり精霊攫いがどうのこうとか言って話もろくに聞かずに襲い掛かって来たからな」
あの時は大竜巻に閉じ込められてちょっと痛い思いをしたり、見えそうで見えないギリギリの衣装にやきもきしたり、お――姉さんと呼ばないと命の危機を感じたりなんかの話をしているとようやく一番近場の奴が視界に収まる距離になったんだが、勿論視認できないんで〈万能感知〉頼りになるだろうと思った矢先、当りを付けている場所に複数の人の姿が確認できる。




