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#300 もっと褒めてもエエんやで?

「たっだいまー」


 取りあえずの確認事項がすべて埋まったんで気分良く宿へと戻って来てみると、昨晩とは違ったものだけど同じく美人成分が過分に含まれているであろう芳しい香りの混じった料理の匂いがふうわりと漂ってくるんで、導かれるままに食堂に顔を出してみると、そこにはすでに目を覚ましていたアニー達が。


「こんな朝っぱらからどこ行ってたん?」

「またまた~。この俺が行動すると言ったら1つしかないだろ?」

「迷惑かけたりしてへんやろうな」

「誰に言ってんだ。この俺が綺麗で可愛い女性に迷惑をかけるなどあり得ない事だぞ?」

「ウチ等はその綺麗で可愛い女性に入っとらんのか?」

「入ってるに決まってるだろ。迷惑ってのは一方的に悪い事をするんであって、アニー達には利益を提供してるからな。多少の不利益が被るのは仕方のない事だ。金代わりと思って甘んじて受け止めないと」


 日々の食事。

 快適な移動。

 無償に近い莫大な利益。

 命の危機のないレベル上げ。

 ――とまぁ、俺が挙げられるものだけでもこれだけあるんだ。それほどの利益を貰っておきながら、一切の迷惑をかけられたくないなんてのは虫が良すぎる話だとは思わんかね。

 もちろん言葉にしちゃあいないが、ニッコリ笑顔で無言の圧力をかければ、利に聡い2人であれば十分に理解してくれるとボクチンは信じてるよ♪


「……はぁ。1つだけ言うておく。犯罪に手ぇ染めたらさすがに怒るで」

「ふふん。この俺にそうとわかる証拠が残るとでも?」


 殺人であればエリクサー。

 器物損壊であれば〈万物創造〉と、大抵の犯罪であれば自分の手でもみ消す事が出来る以上、恐れる事など何もない。絶賛指名手配中だけど、あくまで世界中の綺麗で可愛い女性との知己を得る方が最優先なだけであって、本気を出せば2日で取り消す事は難しくないのだよ。


「アスカはん。あんま悪い事したらあかんよ?」

「「っ!?」」


 あ……これ、ヤバい奴だ。そう脳が理解した時には既にDO・GE・ZAをしていた。まぁ、駄神みたいなアクロバティックな物と比べればいたってベーシックな物なんで芸術点は皆無の一言に尽きるが、誠心誠意の反省点は高いと思いたい。


「うふふぅ~。どないしてそないな格好しとるん? あてはただ悪い事はあかんよていうただけですよ」

「い、いやぁ……体が勝手に動いちゃってさぁ。あはは……」


 ふぅ。危ない危ない。ちょいと調子に乗りすぎたな。さすがに犯罪しまくるぜ! 的な発言はイカンかったな。もう少し調子に乗ってたらもう1人のリリィさんが現れてとんでもない目に合う所だった。無事でいることに喜びを見出し、アニーと2人。無言で抱き合う。


「あーっ! アニーちゃんばっかズルい! あてもあても~」


 そう言って背後からぎゅーっと抱きついて来る。うし。どうやら危機を脱したようだ。今度からは発言にもちゃんと気を付けよう。じゃないと命がいくつあっても足りん。


「……朝から何しとんねん」

「そうだな。今日も生きていられる事への感謝かな」

「訳分からんわ。それよりも飯出来たで」

「うひょう! 待ってました~♪」


 ニコニコ笑顔で席に着き、並べられた料理に目を向ける。

 献立は、焼き立てのパンにひとかけのバターと酸味強めのジャム。ベーコンっぽい物をカリカリに焼いた物をかけた葉物のサラダに別皿でドレッシング的な物が添えられ、カップには具だくさんのコンソメスープっぽい物。これが今日の献立。

 まずはスープ。

 ……うん。やっぱ基本の塩味しかしないけど、鶏ガラや野菜くずから取ったと思う濃厚な出汁が出ていて、それだけでも今まで食って来たこの世界の料理としては完成度がかなり高い。恐らくは、安宿を経営してるって事で材料をできる限り無駄にしたくない精神で試行錯誤したんだろう。実に美味い。

 それだけにパンとサラダはいただけないな。

 一応焼き立てなんでそれなりに食える物ではあるけど、やはりか弱い超絶美少女の顎で噛み砕くとなるとそこそこ時間がかかるし、サラダは野菜よりベーコンが多いからどっちがメインだよ! と余裕で突っ込める。

 それでも、エメラさんとシフィの美人成分がたっぷりと含まれているという事実だけで、俺の採点は100なんて限界を突破する勢いだ。


「うん。やっぱここの飯は美味いわぁ」

「ああ。美人が作ると言うだけでも十分美味いのに、本当に美味いと言う事も加わると、俺にとってはまさに天上の味わいだよ」

「ほんならあてが作った料理も食べてくれてもええんと違います?」

「エメラさんは本当に料理が上手いんだな」

「当然に決まってるやろ。うちのおかんの料理の腕は獣人界でも10本の指に入るんやからな」


 確かに。このスープだけでもエメラさんの腕が非凡な物で、シフィが自慢げになるのがよぉく分かる。これだけでも屋台で販売すれば十分に商売として成り立つくらいには美味くて、俺としては大変に満足のいく料理なんだが、不満を持っている人物? が一振り。


「でも、ご主人様のご飯の方がずっとおいしいのなの」


 ――と、眉間にしわを寄せながら朝食をパクつくのはアンリエット。文句を言いながらも食ってる辺りに説得力が感じられないからか、エメラさんはさほど気にした様子はないが、シフィが突っかかる。


「何言うてんねん。おかんの飯メッチャ食うてるくせに偉そうにすんなや」

「ふんだ。それはご主人様がご飯を作らないならなの。そうじゃなかったら食べないのなの」

「なんやてぇ! あんなガキにおかんより美味い飯が作れるわけないやろが!」

「お前馬鹿なの~。ご主人様はあちし達のご飯をいっつも作ってくれてるのなの。その歳で手伝いくらいしか出来ないお前とは違うのなの~」

「むぎぎ……言ったらアカンこと言うたなぁ!!」

「「ハイそこまで」」


 これ以上行くと物理での喧嘩に発展しそうだったんで、メラさんと一緒にそれぞれの陣営を暴力によって強引に停止させる。ちなみにあちらは首根っこを掴む程度だけど、こっちは悲鳴が上がるほどのアイアンクローだ。


「みぎゃあああああ!! 痛い! 痛いのなのおおおおおお!!」

「お前はもう少し自分がどんな存在なのかをよく考えろ」


 いつもは漫画を読んだり日がな一日ぐーすか言ったりしてるだけだけど、レベルで言えば100を超える特殊過ぎる剣なんだ。戦闘経験がなさそうな安宿の一人娘を相手に手を上げるなど、常識的に考えてもスプラッタ案件だし、何より綺麗な少女と言うだけで護衛対象だ。


「ごめんなさいなのおおおおおお!」

「……よかったやないか。うちやなくてお客はんが近かったらシフィがあれの餌食になっとかもね」

「……せやけど納得いかんわ! おかんより料理の美味い料理人が居るんは分かるけど、あないなガキがその1人やなんて信じへん!」

「わがままな娘やわぁ。申し訳ないんやけど、なんか作ってもらわれへんやろうか」

「別にいいですよ」


 美人たっての願いだ。それを断るなんざ男が廃るぜ。なので〈魔法鞄〉に押し込んである料理を何品か適当に取り出してテーブルに並べる。一応公平を期すためにほどほどの食材で作った――いわゆる野郎相手の情報収集のための道具である。


「わーい。いただきますなのー」


 我先にとかぶりついたアンリエットには、ほとんど何を言っても無駄だからな。低レベルの魔物程度であれば直撃箇所を中心に爆散する程度の威力のデコピンを叩きつける程度で済ませる。

 まぁ、この程度だと特に痛がる素振りも見せないけどね。


「さて。先に食った馬鹿が居るけど、料理はそこそこ備蓄してるんでな。アンリエットの言ってる事が真実かどうかは自分の舌で確かめてみろ」

「言われんくてもそうするに決まってるやろ!」


 取りあえず。一番腕の差が分かりやすいだろうとエメラさんが作ってくれたものに近いスープを差し出すと、自由を取り戻したシフィはひったくるようにカップを手に取り一息で半分近くを口へと運び、エメラさんも一口。


「あら。確かに美味しいですなぁ」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 ひゃっほい。やっぱ俺の作ったものが綺麗で可愛い女性の中に入っていくと言う光景はいつ見ても興奮しますなぁ……ぐへへ。なーんて事を表面上は出さないでぼけーっとしてると――


「どこに変態的要素があんねん。気持ち悪いわぁ」


 と、アニーに一瞬でバレました。解せぬ。

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