#299 正体見たり
とりあえず信者鞍替えの是非は理解した。余計な情報も手に入ってしまったけど、口に出さなければなんの問題もない。それよりも大事な大事なアタック――じゃなくて商売ちゃーんす。
「さて。ところで物は相談なんだが、新商品を試してみないか?」
「……なんですと? あの御神体の他にもまだ神が存在すると言うのですか!?」
「ふっふっふ。俺も甘く見たらいけねぇなぁ。世の中には性に貪欲な奴が千や万はいるんだぞ?」
とりあえず創造できる限りの例のブツを並べてゆく。最高品質としてラヴドールが鎮座しているが、これこそ世に放ってしまった日には人類が絶滅してしまう恐れがある。そのくらいの分別はつくんで、一体だけ創造してあるがアニーにも見せていないまさにパンドラの箱――この場合は穴か?
とにかく。出せるのは形状が違う同品質の物に限る。これだけでも十分に絶滅に加担してんだろうが、清潔でない環境での性行為はそれ以上に病的リスクがデカいからな。救済措置みたいなモンだ。
「これは……色彩に差があるだけでは?」
「ちっちっち。これだから素人はいけねぇなぁ。1つ1つ確かめてみな。もちろん指でだぞ」
こんな所で野郎のイチモツなど拝みたくはねぇからな。
そうして1つ1つ確かめる狂信者は、指を入れるたびに「おお!」とか「こ、これは!?」なんて驚きの声が上がるが、思った以上の反応じゃない。
「なんか不満か?」
「いえ……ご神体に不満などあろうはずが――」
「俺に嘘が通用すると思ってんのか?」
「っ!? そ、それでは失礼を承知で奏上いたします」
俺の脅しにあっさり屈した狂信者は、恐る恐ると言った様子で語り始めた。
その内容は、随分と長ったらしく遠回りな内容だったが、要点を纏めれば穴が緩いって事らしいので改めてそれを確認してみると、なんも考えずに創造したせいかサイズがキモデヴ時代の俺に合わせたサイズに調整されてたのにようやく気付いた。これでゆるいとは……勝ったな。
「なるほど。だったら別商品を用意せねばならんか」
優越感に浸りながら、要望に応えたご神体を複数創造。それはもちろんあのタマゴ型だ。
「これは……鶏卵でしょうか」
「馬鹿者。それに似せているだけだ。これぞあらゆる大きさの野郎だろうと受け止めてくれるぞ」
「はぁ……」
「信用ならんようなら1つ使ってみろ」
百聞は一見に如かずともいうしな。シュエイで使ったオンボロのコテージに狂信者を蹴り込んで待つ事数分――詳しい使用感などは口に出しはしなかったものの、相当に具合が良かったんだろう。妙につやつやとしていた。
「このご神体はあちら以上に売れましょうぞ。もちろん。あちらもあちらで素晴らしい物でございます」
「当然だろうが。さて、そうなると全てをあの母娘に任せるのも荷が重いか」
当初はカップ型1つを販売する予定だったけど、卵型もとなるとさすがに2人で経営するのは難しくなるな。在庫に関しては〈魔法鞄〉があるから問題ないとしても、それ以外が重労働過ぎるし何より猛暑過ぎるからな。男に戻る前に過労死か熱中症で命を落としてしまう可能性が高いのでそれはナシだ。
「それでしたら他の連中を用立ていたしましょう」
「大丈夫なのか?」
「報酬次第でございますが、そう難しくはないかと」
「なら任せる」
特にこれで金を稼ぎたいって訳じゃないからな。
最後に、これらの御神体は使い捨てタイプであり、連続使用に際しての怪我や病に関して当社は一切の責任を負いませんと記した注意書きを掲げる事も忘れずに――っと。
「うし。とりあえずこんなもんか」
卵型も銅貨5枚で売る事に決めたし、注意書きもキッチリ見える位置にでかでかと掲げれば、万が一訴訟なんかを起こしてきた場合でもこれを読まんかったお前が悪いって反論がキッチリ出来るようになるからな。
さて。時間的にはもうちょい余裕があるとはいえ、そろそろ帰らんと朝飯を食いっぱぐれるかもしれんからな。最後にどうしても確認しておきたい事だけ確認しておくか。
「さて……最後にテメェ等に1つ聞く。ルナと聞いて真っ先に思い浮かぶのはどこの誰だ」
大店の娘ってのは嘘だと分かってるから、知りたいのはこいつらレベルでも知ってるほどの有名人かどうかって事だ。もしそうなんだとしたら、アニー達にはちょっとしたお仕置きをしなくちゃなんなくなる。
「ルナ?」
「聞いた事あるか?」
「アレじゃないのか?」
「娼館の娘だろ?」
「他にはギルドの受付にもいたよな?」
「新人の冒険者にもそんな名前の奴が居たな」
次々に知っている人物像があげられるが、どいつもこいつもアニー達が懇意になるほどの相手じゃない。娼館なんて行かんし、ギルドなら商人の方。冒険者――は無きにしも非ずだけど、ここ数年来てない冒険者の、それも新人ってなるとさすがに無理がある。どうやら情報が足りないらしい。
「そうそう。そいつは銀狼族で京美人とかなんとか――」
「ああ。それなら巫女様の事じゃねぇか?」
「そうだそうだ。巫女様もルナって名前だったな」
ビンゴ。さらに情報を与える事でこうもあっさり全員が口を揃えるって事は、第一候補ってところか。まぁ、それでも確認するって事は大切な訳よ。
「ほぉほぉ。ちなみに王家御用達商人ってのに居たりしないか?」
「王家御用達商人?」
「確かにそいつ等はこの街に居るが、連中に娘はいないし銀狼じゃなくて栗鼠族だぜ?」
「ふーん」
確認は終わった。これでアニー達にお仕置きをする立派な理由が出来た訳だよ。後はそれをどんなタイミングで切るかだけども、まぁ間違いなく今じゃあないから心にとどめておこう。クックック……。
「で? その巫女とやらはどの程度の立場な訳」
「うーん。どうなんすか?」
「平時であればどうってこたぁねぇよ。ただのお飾りだ」
「そうじゃなければ?」
「王より重要だよ。何せ勇者召喚の力を持ってんだからな」
「ほぉ?」
つまり、現状では獣人領の最高権力者って訳か。これを最初から知っていたとなると、アニー達はそれを承知で俺にこのカードを切って来た事になる。万が一知らんかったとしても、こんな場末の冒険者くずれ共まで知ってるような情報だ。ルナさんにそんな力があるのを知らんわけがないし、マリュー侯爵の依頼の際に勇者の出現を知った時点でこの手は使えないと判断できるはずだ。
「ま。じっくりいたぶるとするか」
「何をですか?」
「あぁ。こっちの話だから気にしないで。それよりも飯や水はどうしてんだ?」
「日に3度ほど商人がいらっしゃいますので、そこで購入しています」
「じゃあ別に大丈夫か。取りあえずあと6日はここにいるから、困った事があれば連絡をくれ。裏通りにある、歩くだけで兵士に刃を向けられるような顏をしたおっさんがやってる宿――って言えばわかるみたいだな」
俺の淡々とした説明に、母娘はどうやらエメラさんとシフィを思い浮かべているんだろう。割と平気な顔をしていたが、未だにご神体を複数購入しようと家屋をなぎ倒さんばかりの勢いで迫る野郎共の顔色は一様にすぐれないが、十分に伝わった様なので悠々と立ち去る。
「さて――最後に見るだけ見てみるか」
宿に帰る前、連中から搾り取った王家御用達商人の店舗のある場所へと足を向けてみる。
確か大通りでも飛びぬけて下品な建物だ――と言っていた情報をもとにたどり着いたのは、3階建てくらいの巨大な建物に、その入り口の左右に金色のでっぷりと肥え太ったおっさんリスが偉そうに腰に手を当てる前ならえの先頭みたいなポーズの像がある。
建物自体はそこまで下品と思わないものの、看板にデカデカと『王家御用達の店』なんて書かれてりゃ、下品だと思うしなにより自慢がえげつない。




