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#297 色々と美味しゅうございました

「さて奥さん。まずは名前を窺いましょう」


 さりげなく椅子に座る事を勧めると、母親はおっかなびっくりと言った様子で腰を下ろし、幼女は泣きつかれたのかくぅくぅと寝息を立てている。


「イルザと申します。この子はミルザです」

「結構。それじゃあ手始めに先程の商品を10000ほど卸すので、ああいった馬鹿連中に販売していただきたいのですが可能ですか?」

「わ、私が……ですか?」

「ええ。アレがあれば金銭を稼ぐのに苦労はしませんし、何よりかなりの安全があっちから尻尾を振って来るようになるのですから」


 アレを一度でも使えば、もう安い娼館なんてのは廃業に追い込まれるし、その販売権を我が物にしようとする馬鹿な奴が10や20は居るモノだ。

 しかし。それを許すほど他の馬鹿も馬鹿じゃない。誰かが抜け駆けをしようとすれば残った全員でそれを阻止する。恐らくはこういう流れになるはず。それほどまでにアレはいい物だし、ソフトやハード。ディープスロートなんて物まで戦列に加われば、大抵の野郎共は従順に尻尾を振るだろう。いやはや。日本人のむっつりスケベ具合には脱帽だよ。

 ――とまぁ、こんな説明をザックリとイルザさんにしてあげると、あまり納得のいっていない表情をしていたんで、取りあえず今日は契約云々はナシにしてまた明日くる事と、もしあれを販売してほしいと言う輩が現れたなら、1つ辺り銅貨5枚で売りつけてやれって事と、母娘に無体を働いたら怖い悪魔がこうするよ。と野郎の股間に目を向けながらチョキチョキと指を動かせばいいと言い残し、外壁を飛び越えて街の中に帰還。


「さて。そろそろ飯の時間かね」


 一体どんな料理が提供されるのか楽しみだよ。

 ウキウキ気分でスキップをしながら大通りを歩いていると、ふと道すがらで出会ったうさ耳女騎士の後姿を発見。まぁ、ユニに及ばんとは言えあの距離をもう戻って来たか。随分と焦っているように見えるねぇ。さて……声を掛けようかね。


「お姉さんおかえり~。でいいのかな?」

「む? 貴殿はあの時の……何用か」

「大した事じゃないよ。剣を突きつけられるほど急いでた用事は終わったのか気になったんでね」

「それなら終了している。内容は口外出来ぬが、問題はなかった」


 〈万能感知〉を見る限り、どうやら、あれは壊しちゃいけないものだったらしい。急いで逃げる必要があったんで、〈万物創造〉のリストに入れてない。つまりは修理も出来なければ代替品を献上する事も出来ない訳だ。

 まぁ、そんな事をすれば何故そんな事を知ってるんだと自白するようなモンなんで何も言わんけど。


「ふーん。それは良かった。こっちもいきなりあんな乱暴されると思わなかったからね。どんな重大事をやらかしたと勘違いされたのかと思って心配したんだよ」

「人族が現在の獣人領を歩き回るなど異質であるからな。怪しいと判断するのも当然と言える」

「そーなのか。ところで、獣人領のこの暑さって解決の目途が立ってたりすんの?」


 食料品の高騰に居住の過酷さを考えれば、一定の地位に居る連中なら王から原因究明をするように指示されていると思うんだよねぇ。アレがその一端を担っていたんだとしたら、それはそれで問題だな。


「知らぬ。王宮からの沙汰は何もない故、進展しておらぬのだろう」

「自分達で解決する気は?」

「ある訳が無かろう。騎士はこの街の秩序を守護するが任務。それを放棄するは団規違反となる」

「街を離れておいてよく言うよ。とにかく問題がないならゆっくりしてられるって事で。じゃあね」


 最後のチクッとした一言に、うさ耳騎士の眉間にしわが寄ったけど、そうなる事は両了承済みな俺はそそくさと人混みの隙間を縫って逃げ出していた。


「おいっすぅ~。帰ったぞ~」

「おう。随分と遅かったやないか」


 ぬるりと扉を開けて入ると、なんでまだ受付やってんだと言いたくなる顔面凶器がどっかりと鎮座している。てっきりエメラさんかシフィが出迎えてくれるんだろうとばっかり思ってたから、正直かなりガッカリだよ。


「さすがに目の前でそうもガッカリされんのは傷つくんやけど?」

「そんなタマじゃねぇだろうが。で? 嫁と娘はどうした」

「料理しとるに決まっとるやろうが。っちゅうかもうできてお前んトコの連中は皆食っとるで」

「迷惑かけるねぇ。とっときな」


 追加料金として白金貨1枚をカウンターに置くと、顔面凶器がそれに対して効く訳のないメンチを切り始めたんで、興味のない俺はさっさとエメラさんとシフィの手料理を味わうとしますk――


「待てや小娘。なんでお前みたいなガキがこないな大金を持っとんねん」

「稼いだからに決まってんだろ」

「だから言うてこんな大金貰われへんわ。理由があれへん」

「すぐに分かるからついて来――と言うまでもなかったか」


 顔面凶器を引き連れて食堂に顔を出そうかねと思った矢先、シフィが慌てた様子でこっちに向かってきて、いきなり胸倉に掴み掛って来た。一応客人なんだけどなぁ。


「この犯罪者がぁ! 詰所にぶち込んだらぁ!!」

「穏やかじゃないねぇ。一体この俺が何をしたって言うんだね? 胸に触れてなければ服を捲って下着を覗いた訳でもない。とても犯罪めいた悪事を君にやった覚えはないぞぉ?」


 理由が分かっているだけに余裕がある。一方で娘の突然の激おこぶりに、顔面凶器をもってしてもおたおたしていると言うのが一目で分かるほどに困り顔をしてる。


「お、おいシフィ。何があったんや」

「おとんも食堂行けば分かる! あんなんに7日も居座られたらこの宿が潰れてまうわ!」


 悲鳴のような怒声に顔面凶器も首をかしげながら食堂へと進む。ちなみに俺は胸倉をつかまれた状態からヘッドロック状態へと移行しており、程よい大きさのぽよぽよ感触が歩くたびに頬にぶつかってくるんで、それはそれは幸せな時間ですとも。


「おかわりなの~」


 いざ食堂に乗り込んでみると、予想通りにアンリエットが不満そうな顔をしながら大量の皿を積み上げ、その傍でエメラさんがうんざりとした表情をしているのがとても印象的だったんだろう、顔面凶器が慌てて側に駆け寄る。


「どないしたんや」

「あの娘が飯を食いすぎてもうて材料が残っとらんのです」


 そう告げるテーブルの上には、料理が乗っていたであろう形跡のある大量の皿が並べられている。あの位の量はアンリエットにとっては前菜にもならん量だ。


「あれを1人で全部食ったんか? どないなっとんねん」

「アンリエットは大食いだからな」

「そんな説明で済む問題やないやろうが! あんなん食われてもうたらウチが破産するやないか!!」

「落ち着け。こうなる事を予測して、そこの顔面凶器には追加でキッチリで金を払ってっから」

「……いくらや」

「白金貨1枚だよ」

「許したる」


 その金額のおかげで割とあっさり許してくれ、本物を見た事が無かったんだろう。全員がそれに驚きの表情をしてるんで、胸の感触は名残惜しいが不満そうに料理を食べるアンリエットの背後に。


「さて……俺の分はどこにあるんだ?」

「ひゃうっ!? ご、ご主人様……お帰りなさいなの」

「ただいまぁ。それで? 俺が楽しみにしてた綺麗な女性の手作りご飯はどこにあるのかなぁ?」


 わしわしと首がめり込むんじゃないかってくらいに撫でてやると、アンリエットもついうっかり俺の分まで食っちゃった後ろめたさがあるんだろう。痛そうにしているが逃げるようなそぶりはない。もしあったとしても逃がさんけどね。


「そのくらいにしといたり。エメラの飯は少し待っとったら出て来るやろ」

「そうは言うけどな。俺は綺麗な女性の手作り料理と言うモノを楽しみにしていたんだ。それが遅れたと言うのは、これは立派な背信行為だぞ?」


 少なくとも、俺にとってはそう言い切るだけの生活をして来たつもりだ。その罪状は、本来であれば飯抜きの刑を与えてやるところを、首の骨が1つ2つ圧し潰れるんじゃないかってくらいに頭を撫でているだけで、本来が剣のアンリエットには何故か痛いと感じるだけで害は全くないし、そもそも俺には愛用の武器がいくつもあるんでな。

 結局。俺が追加で支払った金で買い物を済ませたエメラさんの手料理が食えるまでに1時間以上余計にかかったものの、味としてはこの世界においてはかなり美味な部類に入るものだった。

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