表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/357

#288 身の程知らずが……

「で? 確か税を徴収するために健康そうな騎士が来てたって話だけど、そいつはどんな奴だった」


 ガキの病気話をいつまでも聞いてやるほど気長じゃないんでね。バッサリ断ち切ってこっちの話へとシフトチェンジ。


「どんな奴って……いつも通り高そうな鎧を着て金ぴかの剣を腰に下げた豚みたいなクソ野郎だよ」

「マグワイの奴か。まだ生きてやがったか……」


 ガキの説明におっさんが心底嫌そうな顔をしたのでどんな奴か聞いてみると、貴族である親のコネで隊長職についた親の七光りのカス獣人らしい。

 実力は、おっさんであれば素手ですら圧倒できるほど弱いくせに、プライドだけは貴族として与えられた子爵って爵位以上に高く、同時に欲の皮が突っ張っているために平気で税をちょろまかしたり向かった先の綺麗どころをありもしない罪で捕らえては、無罪とする条件として肉体を要求するのだそうな。

 どうしてそんなクズがいつまでも隊長としてのさばっていられるのか。それはモチロン蛙の子は蛙って奴だから――つまり親もクズだからに決まっている。

 こちらもこちらで領地の住民に対して高い税をかけてギリギリまで絞り取り、そのほとんどを己の家族のための贅沢に回し、寄り親に対しては不作を言い訳に少額の税しか流していないのに、妙に知恵だけは回るせいでその証拠すら掴ませないで、こいつを下部組織として取り込んでしまった伯爵も困っているんだとか。


「なんでそいつが仕える上の人間が困ってるって寒村のお前が知ってんだよ」

「ワシ、こうなる前は街に買い出しをしてたんでさぁ。そこで風の噂としてそんな話を聞きまして」

「ふーん。一応筋が通ってるな」

「そんな奴がこの辺一帯の取り立てに任命されてからと言うモノ、元より厳しかった生活がより一層厳しくなりやして、トドメとでもいうかのように今回の異常気象。神はワシ等に死ねと仰ってるのかもしんねぇですな」

「本当に神の仕業であるならな」


 どう考えたってここで一つの種族を滅ぼす事に対する六神にメリットがないからな。ふとあの駄神の仕業かと思えなくもないが、ペナントレースに夢中なあいつがこんな大それた事をするほど働き者じゃないからな。この線は考慮に入れんでも平気だろう。


「これだからガキは。こんな事が出来る奴が神以外に居るってのかよ」

「それは知らん。俺はこの問題を解決するために来たんじゃないからな」


 俺がこれに関する情報を欲する理由は、単純にメリットとデメリットを平等に天秤にかける為だ。

 スキルのおかげで、他人が暮らしていけないような劣悪な環境でも鼻歌混じりに踏破できるし、食いモンも飲みモンも自由自在に出せるから、究極的にはどこでだろうと悠々自適で快適な日常が送れるんだからな。

 しかし! しかしだよ君達。いくら俺がどこであろうと生きていけると言っても、アニー達を始めとした綺麗で可愛い女性達はそんな場所じゃ到底暮らしていけない。ならばどうするか。彼女達の味方であるこの俺が暮らしにくい原因を取り除こうではないか。

 但し。デメリットが上回るようなら残念ながら『俺』は手を引かせてもらうけどな。


「だったら余計な横槍を入れるな」

「へいへいすんませんね」

「とにかく。あのクソが隊長をやっている限り、ここら一帯の連中の暮らしはそう遠くない内に限界を迎える。その前におれはどうしても冒険者として名を上げ、親兄弟を楽させるんだ」


 ふむ……話を聞く限り、クズ子爵親子を亡き者にすれば最低限の好感度が獲得出来るみたいだな。それにしても、上位貴族が下の人間の狼藉に頭を抱える理由ってなんなんだろうか。地球に居た頃であれば、断罪するためには悪事の証拠なりを掴む必要があったと思うが、この世界なら疑わしきは罰する位で成り立ってるんじゃないかって思う。

 だからこそ。邪魔だなぁってなったら一思いにサクッとやっちゃえばいいんじゃないか? 既に最悪のラインを越えて臨界点を迎えようとしてるんだ。今更領主が変わった程度でこれ以上悪くなる事はないだろうし。


「アニー達はどう思う?」

「せやなぁ。アスカなら大丈夫や思うけど、いきなり行動に移すんはアカン思うわ」

「ええ。そもそもその情報の出元が明らかになっとらん以上、鵜呑みにするんは危険です。アスカはんは心配あらへんやろうけど、あて等にとっては危険かもしれへんから」

「分かってるよ。じゃあ俺達の行動はおっさん等を街の騎士に突き出し、アニー達はギルドで。俺は綺麗で可愛い女性を中心に各々情報を探る感じで行くか」


 とりあえず方針が決まったんで、解散にしようかとした時にずーっと気になってたんだろう。ガキがぽつりとつぶやいた。


「ドノルドさん達は何でこのガキと一緒に居るんだ?」

「犯罪者として捕まえて街へ移送中だからだ」

「アスカ!」


 ガキの問いにほぼノータイムで答えてやると、アニーから電光石火のツッコミが炸裂。痛くはないけどビックリするんで止めてほしいなぁ。

 一方でガキは、どうやらおっさん等が犯罪行為で生計を立てていたなど知りもしなかったんだろう。愕然とした表情でおっさんらを見つめ、おっさん達もばつが悪そうな顔をし、中にはここで言うかねぇって顔で俺に目を向けてくる奴もいるが、野郎共に対して配慮の心なんざ毛ほどもねぇんでな。


「どういう事だよドノルドさん。おれたちが飲んで水や食料は誰かから奪ったもんだったってのか。冒険者としてダンジョンで稼いでたってのは嘘だったのかよ!」

「……そうだ。お前達を食わせる為にそんなまどろっこしい事をしていては時間が足りなかったからな。いや、それでも間に合わずアルナ達の様な犠牲者が出てしまった訳だが」

「言い訳すんなよ! クソッ! そんな汚ぇモンで生かされてたなんて最悪だ……っ!」

「うるせぇなぁ。養ってもらっておきながらなに文句言ってんだお前は。いちいちギャーギャー喚くな」

「なんだと? 無関係な奴は口出しすんな!」

「お前が怒鳴り散らすとうるさくて眠れねぇんだよタコ。そもそも。おっさんらが犯罪行為に手を染めている間、お前は何をしていた。魔物すら逃げ出すようなこの灼熱の大地で、おおかた下のガキ相手に偉ぶってただけんじゃねぇのか?」

「違う! おれはちゃんといつでも冒険者になれるように訓練してた!」

「その割には腕は細いし肌は日に焼けてない。おまけに手の平は随分と柔らかそうだなぁ。訓練ダコなんて一体どこに出来てるんだろうなぁ。見える物なら見せてほしいんだけどぉ。ガハハハハハ」

「うるせぇ!」


 俺の指摘に逆切れをしたガキが剣を抜いて襲い掛かって来たものの、ロクに訓練をしてないザコが出来る事なんてこの世に存在しない。指一本でそれを受け止め、腕を軽く横にスライドさせるだけで、肩が外れて大量の出血が馬車内を真っ赤に染め上げる。


「ギャアアアアアアアアア!!」

「ありゃりゃ。やっちまったやっちまった」


 獣人だからもう少し頑丈かなって思っていたんだが、まさかこんなに簡単に腕が千切れると思ってもみなかったせいで馬車の中が真っ赤になっちまった。ようやくソファがいい感じでなじんできてたって言うのに……またイチから育て直しか。


「アスカぁ……さすがにそれはどうか思うで?」

「ホンマですよ。そら馬車ン中滅茶苦茶にしたんは後で怒るとしても、やっぱ最初に片付けるんはその子供や思いますよ」


 2人が若干引いている通り、俺は夥しい量の血を垂れ流すガキよりも、血まみれになったソファやカーペットなどを先に片付けているが、それも当然だ。俺は野郎に対しては厳しく接する。特に己と相手の実力の差も測れずに襲い掛かってくるような奴よりはソコソコ使い込んだ馬車の方が大事だ。あーあ。こいつは街に到着次第処分だな。


「さて。いつまでも騒がれると後ろのガキ共が起き出しそうだからな。黙らせるか」

「ひ……っ!?」

「姐さんっ! 待ってくだせぇ!」


 おっさんが止めに入ろうとしたが、能力差を考えれば至近距離であろうと間に合うはずもない。なので懐から取り出したエリクサー入りのポーション瓶でドタマを勝ち割るように叩き付けてやると血は一瞬で止まり、その場所からニョキニョキと腕が生えた。

 これであれば、馬車がこれ以上汚れる事もないし痛みに喉が張り裂けんばかりに喚いていていた馬鹿ガキも静かになる。まさに一石二鳥の逆転劇――ってなってくれたらいいんだけど、既に説教をくらう事は既に避けらんないんだよなぁ。


「どうした? ちゃんと黙らせてやっただろ」

「そらそうやけど……」

「あてはてっきり殺してしまうんか思いましたわ」

「ワシもでさぁ」

「んな事をしたらより馬車が汚れるだけだろうが。どうせ捨てる予定だっても、街に着くまではこれを使うんだからな。だったらより綺麗で鉄臭くない状態で乗り終えたいだろ?」


 こいつを殺して黙らせなかったのはあくまで馬車をこれ以上汚さないためであって、慈悲の心がある訳じゃない。アニーとリリィさんは俺のそう言った性格をおっさん以上に熟知してたからあの時に口出しをしてこなかったんだろう。


「とにかく。これ以上騒ぐなら街でやれ。受け入れられないってんならいつでも蹴り出してやっかんな」

「……ああ」


 あれだけの被害を受けてよくもまぁそこまでふてくされた表情を出来るモンだ。何かこいつだけを今すぐにでもここに置いて行きたい衝動にとてつもなく駆られるが、おっさんらがさすがに勘弁してやってくれと泣きついて来るんで仕方なく我慢してやる事に。あと数時間の辛抱だと言い聞かせながら、魔物も居らず景色も代り映えのしない荒野を走り続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ