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#287 情けは人の為ならずっていうじゃん? だから助けてみました

「さて。まずは何はなくとも水からだな」

「あっ!? ちょいとお待ち下せぇ!」


 水は人体にとって最も大切な要素だからな。3日も断てばコロッと死ぬって話を小耳にはさんだ事はあるが、それが事実なのかどうかはよぉ分からんとは言っても、いきなり飯を食わせるよりは確実に喉を通っていくだろう。後はちょっとした実験も兼ねてる。


「ふむ……思った通りか」


 何の対策もなしに〈収納宮殿〉から水を取り出して見せた訳だが、人体が異常な速度で乾燥してしまうような異常気象だ。キンキンに冷えていたはずなのに10秒もしないうちに嵩が減っていき、2リットルくらい入る容器の中は空になってしまった。


「どないなっとるんや?」

「それなんですがね。この地で水を飲むためには教会の加護が付与された瓶を購入しなければならねぇんでさぁ。説明が遅くなって申し訳ありやせん」

「なんやその胡散臭い商売は。その教会がこの異常気象引き起こしてるんと違うか?」

「まぁ、今の説明を聞く限りだとそう思うのが至極真っ当な回答になるが、いくらなんでもそれはあからさますぎないと思わないか?」


 突然の原因不明な異常気象に、それを跳ね除ける瓶の販売。少し知恵が回る奴であればこの異常気象の犯人は瓶の販売者――この場合はその教会連中って事になって、住民の暴動なり貴族の粛清なりが起こっておかしくないと言うのに、ここに居る連中は税が払えないからと追放された。つまりそう言った争いが起こっていないって言う確かな証拠と言って問題ない。

 なぜなら、こうして無駄に命を散らせるより戦場で肉盾として消費した方がいくらか有益だ。倫理観に欠けている行為なのはこの際置いておいてくれるとありがたい。


「せやなぁ。そこんとこどうなんや?」

「ワシ等としてはそれほどおかしい事と思いませんでした。確かに姐さん方の説明を聞くと怪しく思えてきまさぁな」

「フン。これだからロクにモノを考えぬ輩は……」

「面目ねぇです」

「はいはい。とにかくその瓶が無けりゃダメだってなら用意しろ。予備なりなんなり持ってんだろ?」

「もちろんでさぁ! と言いてぇとこですが、さっき馬車がひっくり返っちまった時に割れちまいやして、1つも残ってねぇんでさぁ。申し訳ありやせん」

「いや、俺のスキルがあれば欠片で十分だ。後は瓶の全容を地面に描け」

「へ、へぇ……」


 って訳で、受け取った瓶の破片を口に放り込み、絵が出来るまでの間に強引に水分を与えてやろうとビニールプールを用意し、オレゴン村で創造した水の魔道具を複数取り出し、全力全開で水を吐き出させてみると、本来であれば電柱くらいの太い水柱が発生するほどの威力があるのに、ここだとペットボトルを逆さまにしたくらいしか出て来ない。

 恐ろしいくらいの水分蒸発力だが、やっぱ限界はあるって事だ。


「ほれ。好きなだけ飲んでいいぞ」

「「「……」」」

「はぁ……おっさん。何とかしろ」

「へい。お前等、その水は平気な水だ。さっさと飲め!」


 ドノルドの怒声によってフラフラとした足取りから、まずは母親らしき数人の女性が恐る恐ると言った様子で口をつけ、暫く経ってから今度は子供達に飲むように促す。なんだよ……毒か何か混入させてるとでも思われてたってか?


「すんません。こんな状況ですんで、飲めない水を売りさばく悪い連中も大かれ少なかれおりまして」

「あぁ……」


 つまりあの母親は、まずは自分が犠牲となっておっさんの言葉が真実かどうかの確認をしたって訳か。


「警戒心が強いのは結構だが、この状況でそんな事をする奴がいるのか?」

「『普段であれば』まず居りませんぜ。何せ魔物すら水不足でほとんど居ませんから」

「なるほど」


 魔物の居ないこの状況だからこそ火事場泥棒なんて事を考える輩が居るって事か。そしてここは獣人領で俺は超絶美少女の人族。周りはほとんど獣人とくれば怪しさ爆発ってか。遅まきながら納得してしまった。


「姐さん。出来ましたぜ」

「おう。どれどれ……」


 描かれた絵を見ると、ゴツゴツとしたおっさんのくせにえらい精緻なのを……まさに人は見かけによらいって典型の1つを目の当たりにしながら創造可能になったそれをまずは通常品質で出してみると、底の凹んだ涙型の容器で、表面は土感丸出しのそこに青い文字とも記号とも思える模様がぐるりと描かれている以外は非常に粗末な壺って感じだ。


「アニー」

「任しとき」


 出来たものを早速〈鑑定〉にかけてもらうと、確かにこの瓶には何かしらの結界魔法が施されているらしいんだが、詳しい事は見抜く事が出来ないらしい。


「アニーでも駄目なのか」

「スマンな」

「気にすんなって。とにかく物が手に入ったら後は任せとけ」


 一度その物が創造できてしまえば、後は〈品質改竄〉でより高価な品物へと変質させるだけであら不思議。500のペットボトルサイズだったそれが浴槽の大きさにまで進化したではありませんか。

 その光景に呆然としている追い出された獣人達に、今度は同じ素材の皿などの食器類によそった消化に良いモノとしてポタージュスープを振る舞ってやったし、好きなだけ食えと寸胴を側に置いておいて、こっから先はちょっと大人の話となるんで距離を取る。


「さて。お前等はあいつ等をどうしてほしい?」

「そりゃあ助けてくれるってんならそうしてほしいですが……」

「まぁ……無理だな」


 俺がこいつ等を助けたのは情報が欲しかっただけであって、慈善の心はほとんどない。それに……追い出された誰もが食指にヒットしないからな。

 そもそも俺は世界中を旅する予定の人間だ。そこに戦えもしない獣人を数十名引き連れて歩くなんてそんな面倒極まる仕事をどうしてやらなくちゃならんのだ。この状況に同情の心はあるが、ここに居るのが被害者の全てって訳じゃない。運が良かっただけでこれからの生活まで面倒見てもらえるとか思われると女性であろうと腹が立つ。


「それでしたらワシ等と同じ街まで連れて行ってくだせぇ」

「その位なら構わんぞ。ユニも大丈夫だよな?」

「誰にものを言っているのです。この程度の荷物が増えたところでワタシの肉体は揺るぎもしません」

「よし決まり。後は本人達の意思の確認だな」


 会議が終わったので戻ってみると、寸胴の中身はすっかりなくなっており、そばには満足そうに寝ているガキ共を母親特有の優しく母性溢れる笑みを浮かべてあやしてる姿が。こんな状況だってのに……凄いモンだねぇ。


「ありがとうございます。貴女のおかげでこの子達に満足のいく食事を与える事が出来ました」

「そうかい。ついでに街までこいつ等を送り届ける予定なんだが、あんた等も行くトコがないならついでに送っていくがどうする? 目的地がある場合は、残念ながらここでさようならだが」

「いえ……我々に行くアテなんてありませんから」

「分かった。そんじゃそいつらをさっさと乗せとけ」


 この暑さはガキ共にゃ堪えるだろうって事で、キッチリ幌馬車を用意してやり、海賊共に乗車を手伝わせ、てきぱきと準備を済ませないとそろそろ日が暮れそうだからな。夜になる前までには町とやらにたどり着いておかないと門前で野宿なんて惨めな思いはしたくねぇ。


「姐さん。ガキ共の積み込みが終わりましたぜ」

「なら出発だ。ちょいと時間取られたから急げよ」

「分かりました」


 ユニに指示を出した後は、魔物の反応がまるでないせいかアニー達はコテージにこもろうとしたので首根っこを掴んで強引に会議の席に着席させる。その場には海賊代表として頭のおっさんに、村人代表として冒険者もどきのガキを同席させている。


「さて。集まってもらったのは他でもない。この異常気象についてだ」

「なんか分かったんか?」

「分かる訳ないだろ。それを聞くためにおっさんとそこのガキを連れて来たんだ」

「おれはガキじゃねぇ!」

「そう言うのいいから質問に答えろ。何だってお前はあの連中と一緒に出てきたんだ? ザコとは言え一応戦えるんだろ」


 俺の異世界の常識に当てはめれば、このくらいの歳になれば成人として認められて村なんて小規模な集落であれば戦闘要員として非常時に召集される可能性が高いはずだってのに、追い出された連中の一団に混じってるのは疑問しかない。


「そうだな。お前は村でもガキ大将として力も体格もスキルも恵まれていた。そんなお前がどうして追い出されたんだ?」

「追い出されたんじゃねぇ。おれは逃げて来たんだ。あんな場所に居たらいつまで経ってもドノルドさん達みたいに強くなれねぇからな。冒険者になって沢山金を稼いで母さん達に飲みきれないほどの水を買うんだ!」


 つまり――年頃の男特有の病気を発症してるって訳か。そう言えば俺も昔はこいつと同じような事を考えたりしてたっけ。

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