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#282 つくってあそぼ

「手配犯なぁ……。まぁ、あれだけの事したんやから当然やな」

「アニーちゃんの言う通りやね。おまけに隠しとった王子の殺人未遂もしっかり乗せられてもうたし、こら本格的に身を隠さなアカンの違う?」


 アニー達の所に戻り、一通り手に入れた情報を話すとこんな返答が。憐れむ感じに聞こえる限り、どうやらアニー達は自分達は無関係だとでも思っているんだろう。嘆かわしい。


「言っとくが、2人も俺と一緒に居たんだから同じ扱いになってる可能性もあるんだからな?」


 たとえ何の手出しをしなかったんだとしても、あの時、俺の側に居た時点で十分に同じ人種と思われないとも限らない。いや……あれだけの光景を目の当たりにして平然としてたんだから、連中からすればそう考える方が自然だろう。


「それはないわ。ウチとリリィはアスカが居らん間に貴族連中にぎょうさん質のええ商品売り捌いたからな。それを2度と手に入らへんくなるようなアホな真似するほど、貴族の婦人達は弱ぁないで?」

「……確かに」


 大体の場合、こういった世界は男尊女卑の考えが基本。よほどの理由がなければ頂点に女性が立つ事はない。マリュー侯爵が女領主と馬鹿にされているのがその証拠。

 しかし。女性の活躍が必要とされる場がある。

 もちろん貴族としての最重要案件である世継ぎを産むって事だ。

 この必要性は、貴族であれば誰もが必要なのは理解しているものの、それ以外が同等に必要と考える男は少ない。何故なら男尊女卑の考えが常識だから。女性は無能。世継ぎを生むための肉袋でしかないと考えるのが古い時代は常識。

 しかし。中には才覚溢れる強かな女性がもちろんいる。表面上は従順の皮を被っていながら言葉巧みに夫を操る者。弱みを握り、栄光を餌に頭角を現す者。単純なカカァ天下。それぞれ夫を上へと押し上げる女傑が居る。それも、2人の口ぶりでは数多く。

 そう言った女性は非常に強い。ってか、それに逆らえる男なんてまず居ない。アニーやリリィさんもそこに名を連ねる存在。勝とうとするのが大間違い。


「そんな訳やから、ウチとリリィは問題あれへんのや」

「もしそうやったとしても、いくらでも揉み消してくれますよって」

「だったらどうする。ここで俺との旅を終えるか?」


 エルグリンデくらいまでならアニーとリリィさんだけでも十分に守り切って帰れるはずだ。まぁ、その場合は馬車もないし〈魔法鞄〉も返してもらう。おまけに貴族に人気商品であるらしい下着の販売も危うくなる。

 誤解ではあるが手配犯である俺との旅を続けるか。

 それとも、全てを捨てていち商人として生きるか。


「今更アスカから離れられる訳あれへんやろ。自分が居らんかったら商売が出来へんくなるやないか」

「ホンマですよ。あてからアスカはんを取ったら禁断症状が出てもうて一月も生きてられまへんわ」

「そーかい。とりあえず獣人領に行こうと思うんだが、どう行くのが一番近いんだ?」

「なんで獣人領なんや?」

「ルナさんとかいういい娘紹介してくれるんだろ? だったらこの際に連れてってくれよ」


 この場合、ほとぼりが冷めるまで入れる最も自由な場所は魔族領だろうな。犯罪者以外は足を踏み入れられないから追手の心配は皆無。なんで日がな一日曇りぼっこをしていてもやってくるのは邪魔な魔族ばかり――と考えるとそれはそれで嫌だから、仕方なく他種族の領地を歩き回ろうって魂胆よ。


「まぁ、色々してもらっとるから案内するのに文句はあれへんけど、やっぱ手配犯ともなるとそいつらに迷惑が掛かってまうから嫌なぁ」

「ふむ……時に変な事を聞くが、手配犯ってのは世界中に知らされるのか?」

「そうなんと違うか? だって犯罪者やろ?」

「確かにそうだが、あの山を狩場にしてた山賊連中が居ただろ? あいつ等はここらじゃ犯罪者だが、他種族にしてみれば無関係と言ってもいいだろ?」

「そうですね。隣の領地を預かっている私ですら被害は決して多いとは言えませんから、他の種族の地ともなればその影響はゼロに近いと言ってもいいかも知れません」

「となると、俺の手配書は人族領にしかないかも知れない訳だ」


 もしかして、あいつはそれを知っているから俺を他種族の領地に向かうように言って来た? 流石に考えすぎか。第一、そんな事をして奴に何の利益もない。


「理屈やとそうかも知れんけど、仮にも王子を殺しかけた相手やで? 世界中に手配書が回ってるやろ。その方が確実に犯人殺してくれるようになるやろうし」

「いえ。もしかしたらアスカさんの考えは合っているかもしれません」

「どうしてそないな事が言えるんです?」

「罪状が王子殺害未遂だからです。こんな罪状が付くと言う事は、何も知らない側から見れば、王宮に侵入して殺せる距離まで王族に接近したと言う事。その手段や経緯。警備の穴がどこにあるのか。その全ての情報がアスカさんを捕まえれば手に入る。その絶好の好機をわざわざあげる必要もないでしょう」


 マリュー侯爵も俺と同じ考えか。

 そう。王族の殺人未遂なんて極上のネタをわざわざ他国の奴にくれてやる必要なんてどこにも無い。そんなのは相手に自分を殺してくれなんて、いくら俺を殺す事に囚われてるタマゴハゲだろうとそこまで馬鹿じゃないはずだ。

 ってなると、人族の領地を出ればアスカのままで綺麗で可愛いケモミミ女子達と仲良くなれる可能性が大と言う訳だ。うむうむ。もしそうなのであれば、手配犯にしやがった罰に少しだけ手心を加えてやるとしようかな。


「じゃあ手配書が回っていない前提で獣人領に行くとして、どういった手段を使うのが一番早い?」

「せやなぁ。普通やったら船が一番やろうな」

「アニーちゃんの言う通りやな。それも、一番速度の出る魔導船が速い思います」

「船かぁ……エルグリンデから獣人領に行けるのか?」

「問題ありませんよ。内海ですから波も穏やかですし、魔物の姿もあまり確認されていないので」

「内海?」


 アニーによると、内海は魔物の数も少なくレベルも低いので比較的安全に航行が出来るが、移動範囲が人族の領地だと獣人領と霊族領だけと非常に狭いうえに海賊行為が横行しているとはいえ堅実に稼げるとの事。

 逆に外海は、魔物の数も非常に多くレベルも高いので、海賊行為など皆無に近く、人族領からでも世界中に向けての貿易が可能と言う一か八かみたいな博打みたいな航行ルートらしい。


「獣人領に行くんやったら、内海を通れば7日くらいで行けるで?」

「ちなみに歩きだとどんくらいかかるんだ?」

「そうやねぇ……ユニの体力を考えると倍は要る思いますわ」

「ふーん。ちなみにどっちがルナさんのいる場所に近いんだ?」

「多分やけど、内海から向かった方が早かった気ぃするわ」

「じゃあ海から向かうか」

「どうやってですか?」

「決まってるだろ。船でだよ船で」


 って訳で、一度エルグリンデから20分ほど離れた水辺に到着。海と付くだけあって十分に潮風を感じられるし、魔物や海賊の反応もキッチリ確認できる。この中を渡るとなると、やっぱ普通じゃない船が居る訳よ。具体的には〈万物創造〉の出番。


「ふわー。おっきいのなの」

「ちょっと時間かかるからしばらく遊んでていいぞ」

「ご主人様のお手伝いするのなの」

「じゃあこの木の中身をくりぬいてくれ」


 用意したのは直径5メートルくらいの丸太。これを半分に切り、人が乗れるようにすれば俺が船だと認識する。そうなれば後は〈品質改竄〉で漁船くらいまで引き上げれば、科学の力を最大限発揮させて一気に走り切る。


「分かったのなの♪」


 俺のお手伝いと言う事に、嬉々とした笑顔を浮かべるアンリエットは片腕を本性へと変質させ、中身を胃の中へと収納してゆく姿を横目に、こっちはこっちでゴムボートくらいまでしか創造できんかった時のためにもう一つの準備をしていると、アニーが近づいて来る。


「あの木とその木で何するんや?」

「何って……獣人領まで行く船を作るんだよ」

「ちょい待ちぃ。あの大きさやとウチ等は乗れるかも知れへんけど、ユニは無理やろ」

「誰があんな船とも呼べないものに全員乗るって言った。前に短剣とか作ってやったろ? あん時と同じ要領でやるんだよ」

「船まで用意できんのかい。やっぱアスカはデタラメななぁ」

「終わったのなのご主人様~」

「おぉそうか。助かったぞ」


 嬉しそうに飛びついて来たアンリエットの頭を撫でると、煮込んだ餅みたいに表情をとろけさせ、それを見たリリィさんが大量の鼻血を出したりしているのを横目に、中身をくりぬかれた木に齧り付き、念のためにエリクサーを咥えながら〈万物創造〉と〈品質改竄〉で船を創造する。

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