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#281 重軽傷合わせて140人

「ふあ……っ。やーっと帰って来たなぁ。無駄に寄り道が多かったせいで疲れた。しばらくはオレゴン村で食っちゃ寝しまくってだらけた生活を送りたいねぇ」

「そうか? こんだけの馬車であないなベッドに寝泊まりし、貴族でも食われへんような飯をたらふく食っておいて何に不満があんねん」

「女性成分が足りん! 俺は混浴がしたいんじゃぁ~」


 アニーもリリィさんも十分に綺麗で可愛いけど、やっぱり男がクズってのが分かるねぇ。これだけのレベルと触れ合っていても、どういう訳か別の女性とも触れ合いたくなるのだ。

 こっそり丸男に頼んで女性型の魔物を呼び出してもらったりしたけど、レベルが弱い奴だと意思疎通が難しいし、逆にレベルが高く知能を持つようになると人に下るくらいならと襲い掛かって来て経験値とするしかなくなる。人生ってのは上手くいかんモンだね。


「それやったらあてが補充させてあげますよって~」


 相変わらず首が折れるんじゃないかって勢いで胸に抱き寄せてくるリリィさんの感触は、何度味わったところで飽きようはずもないが、やはり他の女性の感触も味わいたい。特にこのメンバーは胸元が寂しい連中だからな。柔らかいと感じるよりも先に骨のゴツゴツとした感触g――


「痛った!? いきなりなんだよ!」


 慌ててリリィさんの桃源郷から抜け出して背後に目を向けると、ニッコリ笑顔でありながらどす黒い気配を纏っているアニーとアクセルさんがそこに。


「いやなに。どこからともなくアスカ殿を殴れとの啓示が聞こえた気がしましてな」

「ウチもや。アクセルと一緒にその声に従ってアンタを殴ってみたらスッキリしたんや」

「なんだよそれ。訳が分からん」


 とかなんとか言いつつ、女の勘パネェ……と戦々恐々なのは秘密だ。

 何とか一発づつの殴打で事が収まり、特別痛くもない後頭部をさすりながらオレゴン村に急ぐか硬いベッドとマズイ飯を食ってゆったり数日を過ごすかをそこそこ真剣に悩んでいると、〈万能感知〉に敵意を示す反応が向かう先から随分と多く感じ取れるのに遅れ、ユニが足を止め。アンリエットがのそのそとソファから起き上がり、身体の一部を変化させる。


「どないしたんやユニ。アンリエットもそないにして……」

「向かう先から何やら不穏な気配がするのに気づかないのか?」

「ホンマですか? まだ街が見えへん距離なのに、そないな事が何で分かるん?」

「あっちからよくない匂いが沢山するのなの。だから分かるのなの」

「お前達が感じてそれはエルグリンデからの物だ」

「まさか……魔物ですか!?」

「違うな。この感じは人から発せられるもんだ」

「どういう事ですか?」

「さてね。ソレが分かりゃ苦労はせんよ」


 どうやら悪意・殺意の類だと分かっているらしいが、それが俺に向けられている物と言う所までは2人ともに把握はしていないらしい。

 それにしても、何故俺だ? 侯爵の安全を保障して王都まで送り届け、挙句の果てには片道一月掛かる距離を半分以下にまで縮めてやった尊敬されてしかるべきの超絶美少女な訳だが、その事を知ってるのは住民全体に当てはめれば一握りにも満たない。

 真っ先に犯人としてあのクソ執事の顔が思い浮かぶものの、俺の不興を買って侯爵に変な事をされたら困ると考えられないほどアホでもなさそうだからなぁ。奴が悪評を言って回るなんて馬鹿な事はしてないと思うから、これの正体を掴まん限りは街から俺達の姿が確認できるような距離まで近づくのは止めておこう。


「どないするん?」

「ひとまず情報を集める訳だが、丁度いいカモが来たな」

「カモ?」


 不敵な笑みを浮かべながら指さす方向に目を向けると、見えているかどうか知らんが1台の馬車と数人の護衛らしき冒険者が街道を歩いている姿が確認できる。俺の馬車はオフロードタイヤにサスペンションがガッツリ利いた特別製なので、わざわざこの世界にしては整備された街道を通る必要なんてないので、自然と発見が先になる。


「あいつ等はエルグリンデの方から来た。と言う事は、俺達が感じ取った敵意の正体を知っている可能性がある訳だ。ここで逃がすのは勿体ねぇ」

「確かにそうかもしれへんけど、どうやって聞き出すつもりや?」

「決まってんだろ。こうするんだよ」


 パッと見た所、野郎しかいなかったからな。変に気を遣うつもりもないのでユニに跨って一気に駆け出して連中の前へと飛び出し、唸り声一つで足の要である馬を恐慌状態へと陥れる。


「わわわっ! お、落ち着け!」

「敵かっ!?」


 冒険者連中が即座に武器を構えるが、既に〈万能感知〉でユニの足元にも及ばないと言う事は十分すぎるくらいに分かり切っているんで、特に気にも留めずに飛び降りる。


「テメェ等に聞きたい事がある。死にたく無けりゃ正直に答えるこったな」

「何が聞きたい」

「なーに大した事じゃねぇ。エルグリンデの実情って奴を包み隠さず話せばそれでいい」

「実……情?」

「そんなもの、すぐそこなんだから自分の目で確かめればいいだろ」


 まぁ、当たり前の返しだよな。ここからエルグリンデまで直線距離で10分くらい。実際には盆地の縁をジグザグに降りる必要があるんでそこそこ時間はかかるが、俺達ならその時間で十分。そんな距離の街の情報をここで手に入れたところで何の役にも立たない。これが緊急時であればまた違うだろうけど、こっちもあっちも慌てた様子はない。


「いやな。俺もそうだと言ったんだが、こいつがどうも街から感じる気配がおかしいって聞かねぇんだ。そこで、丁度エルグリンデ方向からやって来たテメェ等に中の様子を聞きたいと思ってな」

「でしたら……最初からそうおっしゃってくれればよいのでは?」

「だからこうして穏便に聞いてんだろうが。俺が盗賊だったら今頃は全員殺されて荷物も全部失ってんぞ? それを荷物もテメェ等も無傷で文句言うなんざ調子良すぎんぞ」

「その通りだが、ある意味で襲い掛かって来たそっちに言われると無性に腹が立つ――ん? お前、どこかで見た事があるな」

「あん? こっちにはそんな覚えはないぞ」

「そう言えばぼくもどこかで……それも最近……」


 見ず知らずの冒険者連中が俺の顔をじーっと見てうんうん唸り始めやがった。こっちとしては連中も疑問解決の時間を待ってやるほどお人よしじゃないんで、殴るなりしてさっさとこっちの世界に呼び戻してやろうかと思った矢先、〈万能感知〉で連中からの敵意が僅かに増えた。


「思い出した。お前は〈森角狼〉を連れた銀の髪の少女……アスカで間違いないか?」

「あん? なんで俺の名前を知ってんだ。会った事あったっけ?」

「マジかよ……こいつがあのアスカなのかよ。マジでガキなんだな」


 何かよく分からんが、非常に警戒されているのは理解できる。それと、何で野郎が俺の名前を知ってんだ? 綺麗で可愛い女性以外に名乗った記憶はほとんどない。ましてやある程度アスカと言う存在については口封じをしてあるはずなのに、どうしてこんな木っ端冒険者みたいな奴が俺の名を? ってなる。


「あの……その少女がどうかしたのですか?」


 うむ! ナイス割り込みだ商人。俺も疑問に感じていたから聞き出そうと思っていたが、やっぱ敵対勢力より味方勢力からの質問の方が答えやすいだろうと待っていたが、やっと言ってくれたか。


「そいつはな。王子の殺人を企てたとして最近A級の手配犯になった奴だ」

「「えええええええっ!?」」


 衝撃の事実。あれだけタマゴハゲを見張っとけと言ってあったってのに、たった一週間程度すら守れないとは……これはちょいとキツイ仕置きが必要のようだな。


「なんで本人まで驚いてんだよ!」

「初めて聞いたからに決まってんだろ。で? 何だって俺がそんな身に覚えのない罪で手配犯なんかになってんだよ。どっからそんな情報が来たんだ?」

「冒険者ギルド以外ないだろ。あそこには手紙だけだがやりとりが一瞬で出来る魔道具があるからな。この手の情報が広まるのは凄ぇ早いぞ」

「ふーん。それは便利だな」


 一応そう言う小細工をするだけの知恵は回ってるみたいだが、ハッキリ言って何の意味もねぇんだよなぁ。俺の情報を吐いても問題ないって思えんのは、王都の連中くらいだからな。他の連中にはキッチリ額に何かが埋め込まれたと誤認識させてるからな。


「もういいか?」

「じゃあ最後に1つ……殺りあってみるか?」

「……止めておこう。こちらはD級の冒険者でそちらはA級の手配犯。ランクを鑑みても勝負にすらならないからな。見逃してくれると言うのであれば素直に従うまで」


 ふむ。どうやらランク付けは罪の重軽じゃなくて実力の方が重要視されているらしいな。つっても、この世界に重軽の差があるのかは疑問だがね。


「そっか。こっちも無駄な事をしないなら疲れずに済むな。行って良し!」

「……おい。逃げるなら他種族の領地に行くといい」

「何故?」

「決まってるだろ? 我々が巻き込まれたくないからだ。暴れるなら余所でやってくれ」

「なるほど。選択肢に入れておいてやるよ」


 さて。とりあえず必要最低限の情報は入手できた。後はこれをアニー達と話し合って今後の身の振り方を考えるとするかね。これでまた半殺しと混浴が遠のくのか……いつになったら堪能できるんだろうか。出来る事ならこの世界で成人する前には済ませたい。そうなってからの混浴は難しそうな気がするなぁ。

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