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#279 男の情けなさとプライド

 おっさんはどうやら親衛騎士の団長だったらしく、ほぼ顔パスでぐんぐんと城の奥へと突き進んでいき、たどり着いた部屋は結界を幾重にも重ね、扉の前には門番として2人の騎士が左右に配置され、いのちだいじにを体現したような場所だった。


「団長。いかがされました?」

「王に用がある。通してもらおう」

「それは構いませんが……」

「そいつ等は一体……」


 この場に居るのはおっさん団長と俺の他には、アニーのみ。

 当初は俺だけで行こうと思っていたんだが、何分好感度が高くても信頼度が恐ろしく低いので、もしかしなくてもやりすぎると判断されて半ば脅す形で強引に動向をの権利を勝ち取ったいわば修羅。


「ワタシの知り合いだ。王の御病気に関する有益な情報を手に入れたらしくてな。お前等には漏洩防止のためにしばらく持ち場を離れてもらおう。これは命令である」

「「了解です」」


 片や獣人。片や超絶美少女。人族至上主義と行かないまでも、獣人に対する見下しの精神があれば王族の居る場所にそんな連中をと思わんくもないだろうが、さすがに上司に命令だと言われてしまえば文句も言えないし、あの地獄の光景を目の当たりにしていなければ何か言って来たとしても団長の実力を疑うのかと脅せば一発だろう。


「メロウです。よろしいでしょうか」

「……入れ」

「失礼します」


 おっさんの後に続いて部屋に入ると、中には王様とルクレールの他に、眼鏡をかけた神経質そうな爺さんと、幼稚園児みたいに小さい婆さんが脇を固めるように座っていた。


「お久しぶりですね。アスカさん」

「おいっす~って、なんでルクレールがここに居るんだ?」

「貴女の説明役です。僅かにですが共に時を過ごしましたので、どんな人となりなのかを父に説明しようと参じたのですが、どうやら必要なくなったようですね」

「ああ。まぁ、これからちと重要な話があるんで、悪いが出てってもらっていいか?」

「? 分かりました」


 出来れば華としてルクレールには居てほしかったんだが、これから話す事は確かにこの世界の常識に照らし合わせればあまり同席するのは得策じゃあないからな。


「さて。このようなところまでやって来て、貴様は何が目的だ?」

「なーに。駄目した兵士の補充法を教えてやろうと思ってな。感謝しろよ?」

「お前さんが200の兵士を30分足らずでゴミに変えたアスカかい」

「おうよ。あんたは?」

「わしは王都の騎士の全てを任されとるアガティレってもんじゃ。おめぇさんのせいで大きく戦力が落ちてしもうたわい。この事が他種族に知られると間者を送られる可能性があるのじゃが?」

「悪いのはタマゴハゲだ――と言いたいところだが、こっちにもちぃと事情がある。これから提示する条件を飲むなら、あの無能共を元の役立たずに戻してやるが、どうする?」


 目でアニーに合図を出すと、小さく頷いてから〈魔法鞄〉からエリクサーを取り出した。

 最初の5秒くらいは変な色のポーションくらいしか思ってなかったのか反応が薄かったが、一番に再起動したのはやっぱりその存在を見ているのか話だけしか聞いてないのか知らんが王だった。


「エリクサーか」

「そん通り。さすが王様ですわ」

「「「っ!?」」」


 その声を聴いて、ようやく他の連中が目を見開いて驚愕した。


「どこで手に入れた!」

「旅の商人やね」

「馬鹿言うんじゃないよ! エリクサーなんておいそれと買える訳ないだろ。もし売りに出されてるなんて情報があれば、財務卿であるこのユーリスの耳に入らない訳がないからね」

「信じる信じへんんはそっちの自由や。要は、『ここ』に『エリクサー』が『ある』。そこやろ?」


 随分と強気だ。確かに、連中が抱えている問題に対し、重要なのはここにエリクサーがあると言う事だけ。普通の商売であればもちろん大事だけど、これは慈悲であって商売じゃない。いくらで買っただのどこで入手したかなどはこっちが詳しく伝えてやる義理はない。


「何が望みだ?」

「アスカに関する情報の徹底的な隠ぺいや」

「罪人……と言う訳ではなさそうだな」

「コイツは単純にあんた等みたいな貴族や王族に道具みたいに使われるんが嫌いなんや」

「大した度胸だな。獣人如きが人族の王を目の前で批判をするとは」

「アスカは自分等の戦力を屁とも思っとらん。この場で暴れられたら困るんはそっちやろ?」


 王族相手だと言うのに随分と強気だ。まぁ、俺がそうするように頼んでるからな。

 下手に出てゴネられるより、強気に出て断られれば、第二段階へと移行してインスタント輪廻転生を繰り返せば、大抵の奴は大人しく言う事を聞くだろう。ここに居る連中は1日でも長く生を謳歌したい奴等だろうから。


「アガティレ。ユーリス。可能か?」

「そうですのぉ。こっちは緘口令を敷けば問題ないじゃろうが、念のために禁止令を発布の許可がいただければ確実ですな」

「こっちは難しいねぇ。四肢を無くした人間が五体満足に戻ったなんて話を聞かされちゃ、聡い奴ならエリクサーを使ったって答えに行き着くだろうからね」

「ほんなら交渉は決裂やな。帰るでアスカ」

「そう話を急くんじゃないよ。方法がない訳じゃない。アンタだろ? 最近馬鹿みたいに質のいい下着を売りまくってる獣人ってのは」

「せやで。エエモンやろ?」

「あれは最高さね。おかげでこのあたしゃの女ぶりが2段も3段がったせいか旦那が興奮してね。久々に抱いてもらって調子がいいんだよ」


 そう笑う婆さんは下着の使用者だったらしいが、出来ればそういう発言はしないでほしかったな。一瞬だろうとそんな姿を想像しちまって危うく盛大にリバースするところだった。


「そこで相談なんだが、下着の製作法から販売権まですべてを寄越しな。そうすればこのアタシの財務卿の力の限りを利用して隠してやろうじゃないか。どうだい? 悪い話じゃないだろ」


 なるほど。つまりは最初からそれが狙いって訳か。

 俺としては下着の販売権程度くれてやっても構わないんだが、野郎って事もあってこと下着に関してはアニー達に一任してっからなぁ。一体どう答えるかね。


「なんか勘違いしとらんか? ウチ等は魔神に関する情報の提供に来ただけや。それをあのハゲがいちゃもん付けてきおったから、アスカがわざわざ実力を見せたって、慈悲でエリクサーの提供をしたると言っとんのや。長生きしたかったらあんま調子乗らん方がええで」

「本気で言ってんのかい? あたしゃに喧嘩を売って、人族の領域でまともに商売が出来ると?」

「ハッ! それが何や言うんや。ここで商売出来んくなったら他の種族相手に商売すればええだけや。それにそないな事してみぃ。どれだけの貴族夫人を敵に回す思うとるんや。それら全てを何とか出来るんか?」


 やれやれ。どうやらこの話はまだまだ続きそうだ。下手に声かけするとこっちにまで飛び火してきそうなんで、俺達は俺達で話を詰めるとするかと、王とジジイとおっさん団長に手招きして、2人から距離を取る。


「さて。それじゃあこっちはこっちで話を進めるぞ」

「ええのか?」

「良いも何も……だったらお前等に止められるのかよ」


 俺の問いに、男共の誰もが視線を逸らす。

 そうだろうとも。あの中に入っていけるのはよっぽどの馬鹿か〈女性の扱い〉なんてあるのかどうか知らんスキルを持っている奴くらいのモンだろう。少なくとも、俺達は前者でも後者でもないので、嵐が過ぎ去るまで隅っこに身を潜めている事しか出来ん。


「さて。とりあえず俺の情報に関する事は隠蔽できるんだな?」

「王としてあの場に居た貴族達に手出しをせぬように厳命する事は可能だが、それでも全てを防ぐ事は不可能であるぞ」

「こっちも。ワシの言葉に従わん騎士はおらんわい。さすがに私兵騎士までに力は及ばんがな」

「ま。その辺はお前等の努力次第だ。少しでも頑張ってないと感じたら、容赦なく城をぶっ壊すぞ」

「最大限努力する事を王の名において誓おう。さて、後はエリクサーに関する情報だな」

「その前に。これは本物なんじゃろうな?」

「ああ。入手経路を明かすつもりは毛頭ないが、これは間違いなくエリクサーだ。何ならアンタの動かない脚に対して使ってみるか?」


 その相手はもちろん王様だ。何せ生まれつき足が動かないって症状を抱えてるんだからな。いちいち怪我をさせて治療の具合を確かめる必要のない好都合な実験体と言えよう。


「良いのか?」

「自由に歩けないのは不便だろう? シモの世話とかは……杖があっから大丈夫だろうけど、あの奥さんを抱く時に自分主導に出来ないってのは気持ち的によくないと思うんだが、あんた等はどうだい?」


 この世界の基準はどうか知らんが、やっぱ男としてはベッドの上でもしっかりイニシアチブを取って快楽の向こう側へとエスコートしたいと思う訳よ。ドMでありゃ話は別だけど、連中の反応を見る限りは全員が俺と同意見っぽい。


「しかし……いきなり王に使っていただくのは安全の観点から見ても同意しかねるのぉ」

「だったらジジイかおっさんが試しに使ってみりゃいいだろ。普通の怪我なら一滴で十分だしな」

「使ったのか!?」

「そりゃそうだろ。バッタモン――偽物を掴まされるかも知れねぇんだから試してみないと買うかどうか決めらんないだろうが。で? どっちがやるんだ」

「ワシが行こうかのぉ。今更、怪我の1つや2つで困るような地位に居る訳じゃないからのぉ」

「じゃあ指一本貰うぞ」


 言うと同時に、ジジイの指をナイフで切り飛ばす。速攻だったんでどんな反応をするのかなぁとちらっと眼を向けたが、特に慌てた様子も痛がる様子もないんでエリクサーを一滴かけてやって指を元通りにしてやった。


「おぉ……」

「部位欠損がこの速度だと!?」

「ふむ……違和感もなし。むしろ徐々に肉体が活気を取り戻していくようじゃわい」

「なら安全の証明が済んだところで、グイッと一気に飲んでみろ。生まれつきだから治らんかもしれんが、まぁ悪化する事はないだろう」


 使いさしだが、まぁ一滴だけだしほぼ新品と言っても問題はないからな。王も王でジジイの傷の治りを見て意を決したようにエリクサーを一息で飲み干した。

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