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#278 言葉って難しい

「……」


 くくくのく。ビビってるビビってる。

 流石に戦時でもないこの状況で、命を懸けて俺に向かってくるような度胸のある奴は少ない。ナガトとアマディウスさんの他にはもう1人2人って感じ。多分隊長格だろう。


「随分とのんびりしてたな。おかげでかなりの人間が死んだぞ?」

「ヘッ! 隙をついてザコを殺した程度で粋がってられんのも今のうちだ」

「別に粋がってないって。お前程度であれば簡単にあしらえる。こんな風にな」


 先の一戦で懐に飛び込むのは危険だと分かっているからな。〈収納宮殿〉から射出するようにアダマンタイトの電柱をナガトの腹に向かって抜き取り、くの字に折り曲げて吹き飛ばしてはまた平騎士を容赦なく両断してゆく。


「待て! それ以上殺人を犯すなら罪人とするぞ!」


 かなり焦ったような口調でタマゴおっさんがそう喚いたが、判断が随分と遅い。王都なんてぬるま湯に浸かってるから半分近くの被害者が出てしまった。止めるならナガトが割り込んで来た時が最善だったろうに。そうすればいちいち喚く事もなく俺の耳に届いてたのに。


「はぁ? 何言ってんだおっさん。お前が殺していいって言ったから実行してるだけだろ。それを自分達に都合が悪くなったら罪人にするって……人として恥ずかしくないの?」

「黙れ! とにかく。これ以上殺人を行うと言うのであれば問答無用でひっ捕らえてくれる!」

「わーかったわーかった。次からは殺さない。それでいいんだろ?」


 殺せなくなったのは面倒になったけど、どんな状態で生かすのかについての明言はされていない。

 つまり――両手足を両断しても『生きていれば』罪には問われないって訳なので、特に剣を振る事に変更もなく次々に達磨制作に精を出す。


「テメェええええええええ!!」

「止めなさいっ!」


 そのさなかに何度かナガトが襲い掛かってきたり、アマディウスさんの魔法が襲い掛かって来たけど、種がバレてる以上は近づかないし今のステータスじゃ掠りもしないし、魔法に関しても魔族でもない常人の領域であれば、封魔剣でひと撫でするだけであっという間に無力化が成功する。

 結果。30分もしないうちに騎士のほとんどが二度と人として生活するのが困難な状況に陥り、俺の魔神を討伐したって実力の一端をこれでもかと知らしめることが出来た訳だが、当然のように生きている騎士連中の怨嗟の声が凄まじい。

 しかし俺には関係のない話だ。この地獄を作りだしたのはタマゴおっさんであって俺ではない。行動に移したのは確かだが、その許可を出したのがあっちなんだ。恨みつらみをこっちに吐かれても右から左に受け流すだけだ。


「さて……これで俺が強いって事は十分に理解したか?」

「さすがご主人様なの。強いのなの」

「まぁ、この程度の有象無象が相手であれば、苦戦するほうが逆に困難と言えるでしょう」

「貴様ァ……ッ!」

「なんだよ。注文通り殺してないだろうが」

「手足のなくなった騎士など死んだも同然ではないか!」

「せやでアスカ。さすがにこれはやりすぎや」

「これは……見ててええ光景やありまへんな」

「じゃあそう言わないと。俺の常識では、心臓が動いてりゃ生きてるとしてるからな。だから悪いのはそこのハゲたおっさんだろ」


 ここから何年生きるかは本人次第だ。両手足を失ったせいで自由すら潰えてしまったショックから自殺しないとも限らないし、あの身体では日々の糧を稼ぐ事すら困難を極めるが、直接手を下した訳じゃないからな。

 さて。この後の展開はどうなるかな。奴の背格を考えれば死罪にしたいだろうけど、まともに動けるのがナガトやアマディウスさん他数名と言う今の戦力じゃあどう足掻いたって不可能だろうから、指名手配が妥当か。

 これであれば、どれだけ金をかけるかに頭を悩ませるだけでいいので大した労力も必要もないし、ほぼすべての人類が敵となって俺に襲い掛かって来るだろうし、随分とご立腹だからな。この線でまず間違いないだろう。


「もうよい。お前の実力は十分に把握した。魔神の情報を供せよ」

「王よ! たかが子供の冒険者如きにここまでされて引くと言うのですか!? それでは王家のメンツが丸つぶれですぞ!」

「ではどうすると言うのだ? 戦力となる騎士はこの有り様。勇者とアマディウスですら手も足も出ぬのであれば出来る事などあるまい」

「犯罪者としてギルドに手配犯の手続きをさせるのです。所詮金に汚い連中であれば白金貨1枚も出せば世界中の冒険者や暗殺者共がこぞって小娘の首を刈り取ろうと躍起になるでしょう。何なら爵位もくれてやると言えばより完璧となるでしょう」


 確かにそれはいい手だな。貴族になるなんて俺は反吐が出る程遠慮したいもんだが、この世界の連中であれば貴族って肩書きは相当に欲しい代物だろう。なにせある程度のわがままであれば目をつぶってもらえる王家公認の許可証を手に入れたようなもんだからな。

 しかし馬鹿だな。そんな思惑を俺がいる目の前で堂々とするか? 普通に考えればこの場は媚び諂っておいて、俺が王都から居なくなったのを確認してから相談するだろ。タマゴハゲもこんなミスをするなんて、冷静っぽくしていながらこの惨状に奴の精神も相当参っているんだろう。じゃなきゃ国の重鎮なんて地位に腰を下ろしてないもんな。


「放って置け。それよりも、今は失った騎士の補充が最優先だ。この事が他国に知られれば暗殺者が放たれるとも分からん。支給人員補充を急げ」

「……ハッ」


 王がさらっと命を下すと、苦々しい表情になりながらも頭を垂れたが、去り際に思いっきり俺を睨んでいきやがった。ありゃあ黙って冒険者ギルドに犯罪者として手配書を回すだろうから、しっかりと調教しておくとしようかね。


「あれでも優秀な人間でな。殺されると政務が滞るから勘弁して貰えるとありがたい」


 声をかけてきたのは、ナガト達と共に最後まで無事だった騎士の1人。四角い顔でガッチリとした人当たりのよさそうなおっさんだ。


「あのハゲの知り合いか?」

「昔なじみだ。若かりし頃は共に国を支える一助となろうと躍起になり、こうして互いに地位を得たが、奴はあの通りの性格で少々行き過ぎるきらいがあるため、こっちが尻拭いをせねばならんのだよ」

「ふーん。だったらあいつをよく見張っとけ。王の手前退いたが、ありゃ絶対によからぬことを考えてるからな。被害が来るような事があれば容赦なくこの都市を火の海にしてやるからな」

「お前さんの実力なら出来そうだからな。こちらで出来得る限りの事はすると誓おう」


 さて。それじゃあ俺の実力の証明に十分に役立ってくれたし、次は俺と言う存在に関する情報の緘口令を敷くための一手を打つとしようじゃないか。


「ところでおっさんよぉ。あいつらどうするつもりなんだ?」


 先程、タマゴの尻拭いが役割の1つだと言っていたという事は、使い物にならなくなった騎士と言う人的資源に対する補償なり賠償なりをしなくちゃなんなくなるわけだが、さすがに200人分ともなると1人で抱えるにはかなり荷が重いだろう。


「そうだな……金を渡すにしてもさすがにこの数は……」

「困ってるようなら、ちょーっと頼みを聞いてくれりゃ、こっちが何とかしてやるよ」

「アスカ。一体何を企んどるんや?」

「別に何も。単純に俺と言う人間の情報の漏洩を防ぎたいだけだ」


 出来れば俺と言う存在を隠してここに呼び寄せてほしかったが、いまさら文句を言ったところでどうにもならんし、事前にそう言った取り決めをしておかなかった俺の準備不足が露呈した形でもある。アニー達だけを責めるのはお門違いだろう。

 そのために、こうやってあえて悪役を演じる事で最悪の印象を与え、全てをご破算にする事で通常をはるかに超える好感度を稼ぐ事が出来る。まぁ、既存の好感度が少し下がったみたいだけど、許容範囲内だ。


「せやからあの人等をあんなにしたんですか? いくらなんでもやりすぎや思いますわ」

「何を温い事を言っている。そもそもお前達が主の情報をこんな連中に売り渡したのが悪いのだろう」


 まったくだと同意したいけど、それに頷こうモンならかなりの好感度の低下は避けられないな。


「緊急事態だからしゃーないだろ。それよりもだ。俺がアイツらを五体満足にしてやっから、俺に関するあらゆる情報に対して緘口令を敷け」

「待て。お前さんは連中の状況を分かっているのか? 四肢の欠損などレベル4の回復魔法でも使えなければ癒す事など叶わないのだぞ」

「問題ねぇよ。知り合いの商人から良いモン売ってもらったからな」


 そう告げながら、チラリとエリクサーの瓶を見せてやると、思った通りにそれを知っていたようで目玉が飛び出るんじゃないかってくらいに驚きをあらわにした。


「お前っ!? それをどこで――」

「余計な詮索はすんな。おっさんが答えられんのは俺の提案に乗るか乗らないかだ」


 提案に乗って俺と言う存在を隠蔽すれば、200の兵士が何事もなかったかのように明日からも訓練に励み、拒否すれば莫大な金銭を支払って保護するか、邪魔者として処分するかの二択かな。


「……ワタシ1人での判断は難しい。王都ご相談しても良いだろうか」

「別に構わんが、俺も同席するぞ。余計なこと喋られんのは嫌だからな」


 と言う訳で、魔神に関する情報はジジイ団長に全てを押し付ける事にした。

 その際に、魔神との会話に関する物については憶えている限りの事をジジイ団長にも読めるように翻訳付きで記したので、それで何とかしとけと逃げるようにその場を後にした。

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