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#277 とくと御覧じろ

「クソ……っ! 何で開かねぇんだ!」

「そりゃお前の力が弱すぎるからだろ」


 観音開きの扉を小指1本で添えているだけなのに、馬鹿ナガトから返ってくるものは欠片も感じないってどういう事だよ。これがラノベのテンプレ通りであるならば、シュエイでの一戦のおかげでとんでもない成長を遂げさせてやったはずなのに、まるでそれが感じられんぞ?


「おいクソガキ! 何でテメェみてねぇなのがここにいんだ!」

「はぁ~? 王に呼び出されたから来てるに決まってんじゃん。馬鹿なんですか? そんな事すら理解できないなんて頭悪すぎ。まともな教育受けてない証拠だな」

「なんだとテメェ! ぶち殺してやる……ッ!」

「お前じゃ無理だよザコ助君。俺が軽く扉を押さえてるだけでも入ってこれないってのに、どうやって殺すってんだ? 出来るものならやってみろよ」

「……」

「おい!? 何しようとしているんだ! その先は――」


 誰かが急に焦りだしたな。こういう場合は大抵嫌な予感しかしないんで、タイミングよく後ろに飛びのいてみると、思った通りに馬鹿ナガトが王様の前たってのに平然と抜刀して扉を切り飛ばして強引に入って来やがったし、その後ろからいつものようにリングレットが顔を出し、鞘でその後頭部を殴打する。


「フン。オレにかかりゃこんなもがっ!?」

「ナガト! 王の御前で剣を振るうとは何を考えている! もし怪我でもなされたらどう責任を取るつもりだこの大馬鹿者!」

「痛ってぇなぁ……ちゃんと加減したっつぅの!」

「おんやぁ? この俺を相手に加減なんて随分と舐め腐った態度をとるんだな。弱いくせに」

「っ!? あの時の少女か。なぜここに居る!」

「聞いてなかったの? 王様に呼ばれたから来たんだって。所で他の騎士ちゃん達はどしたの?」


 確かあのダンジョンでは他に騎士ちゃん達が4人は居た。レナの時も気にはなっていたんだが、それを訪ねればわずかながらもバレる可能性があったからグッとこらえていたが、今なら何の問題もなく聞ける。特に武士然の凛々しい騎士ちゃんは好ましかった。


「他の皆は病気にかかっていま療養中よ」

「君は元気そうだけど?」

「私は〈病気耐性〉のスキル持ちでな。生まれてこのかた病気にかかった事がない」

「ふーん」


 どうやら〈浄化魔法〉のせいで想像通りに病気にかかってしまったらしい。後で居場所を教えてくれればエリクサーの差し入れでもしようと思うが、何となく素直に教えてくれなさそうなのが過去の反省点だよ。


「勇者ナガト! 従騎士リングレット! 貴様等、王の御前で何を騒いでいるか! さらには抜刀までする始末……領地の縮小程度で済むと思うでないぞ!」

「うるせぇぞハゲ! そっちこそあんま調子に乗ってっと城ごと全員ブチ殺すぞ?」

「確かに見事なハゲ頭だ。まさに卵肌って感じだな」


 ナガトの指摘に俺が追撃を足す事で、大部分の連中はそっぽを向いて肩を震わせる。中には腿や腕なんかをつねって無表情を貫き通そうと努力してる貴族連中もいるが、俺やナガトは貴族でもなけりゃこの世界の人間もないので大笑い。


「なっ!? き、貴様等……」

「リキルク。控えよ」

「……はっ」


 位階で顔を真っ赤に染め上げたタマゴおっさんに、茹でダコだな。って言いたかったんだけど、王様が割り込んできてこの話は強引に打ち切られてしまった。折角の笑いの種が一つ潰えてしまった。やはり見た目通り堅物で笑いを分かっていないな。


「ナガトよ。お前を呼んだのは他でもない。そこの娘と試合をせよ」

「試合っすか? そりゃ構わねっすけど、なんだってコイツなんです?」

「その者は魔神を討伐したらしいが真偽が測れん。なので、お前との試合で実力のほどを確認する」

「つまりなんすか? オレはこのクソガキの強さを計る為の試金石ってことすか?」

「俺もお前が来るまではアマディウスさんと2対1でもいいぞと言ったんだが、野郎でおまけに相手がこれじゃあやる気もなくなるってもんよ」


 折角2人分の楽園を堪能できると思っていたのに、いざ蓋を開けてみれば片方は野郎なだけじゃなくザコで馬鹿で勇者として実力が微塵も付いてきていないくせにこういう事に簡単に目くじらを立てる短気ぶり。期待ハズレ以下だよ。


「調子乗んなよクソガキ。オレもあれから訓練を積んでレベルも上がってんだ。前みてぇに無様晒す訳ねぇだろうが」

「はぁ? 俺からするとちょびっとしか変わってないっての。それに訓練って……ぷぷぷ~。レベル上げるならやっぱダンジョンに潜って片っ端から魔物殺すのが一番だろ。安心安全な環境で上がるレベルなんてたかが知れてるっての」

「だったらその実力を見せてやるよ! 構えろや」

「お前だけじゃ足りないから、アマディウスさんも一緒にって言うなら受けたげようじゃないか」

「アマディウス! このクソガキ殺すサポートしやがれ」

「坊や如きがワタクシに命令しないでくれる? でも、お嬢ちゃんが少し調子に乗りすぎてるのも事実。魔神云々は抜きにしても、少し懲らしめる必要がありそうね」


 と言う訳で、俺対ナガト・アマディウスの急増コンビによる御前試合的な物を開催する事になった。

 俺的にはこの場で始めても良かったんだけども、タマゴおっさんから言わせると対戦相手の2人が暴れるには安全性の確保がイマイチとの事で、面倒くさいが騎士が普段訓練に使う広場まで移動させられる事に。

 次々と騎士や貴族共が部屋を後にする中、俺はと言うと場所を知らんし筋骨隆々で脂ぎった野郎共と片寄せあってなんて気色の悪い事をしたくないんでぼけーっとしていると、王が杖を突きながらぎこちない歩きでどこかへ行ってしまった。


「ん? どないしたんや」

「いやな。王様が足引き摺って歩いてたんだよ。怪我してんなら別日でも良かったんじゃないかなぁと思って。何か知ってる?」

「さすがにこんな木っ端商人に王族の話が耳に入ってくる訳ないやろ」

「じゃあマリュー侯爵は?」

「知っていますよ。今の王は生まれつき足が不自由なのですよ。そのせいで処分されかけたらしいのですが、それを補って余りあるほどの政治の才で頭角を現し、今の地位にたどり着いた賢王として、市勢の間でも人気の高い王です」

「ふーん」


 賢王ねぇ……あれだけやつれてるのは仕事を詰め込み過ぎてるせいか。優秀なのは良い事だが、1人で抱え込みすぎるとそいつが居なくなっただけで仕事が一気に滞るようになるからいかん。これは将来が不安だな。


「なんや。またなんか悪だくみを考えとるんか?」

「違うっての。あの足治してやったらルクレールとの甘い一夜をくれないかなぁ思ってな」

「……さすがにあれ使うのはあかん思うで。貴族連中のごっつい質問攻めに合うんが目に見えとるわ」

「やり方次第だ。まぁ見てろって」


 エリクサーを風呂の水として使ってもなお有り余る量を所有している俺としては、くれてやる事は吝かじゃないが、さすがに脂ギッシュなガマガエル共にまとわりつかれんのはうっかりグチャッ! とやってしまいそうになる。

 折角ルクレールとの甘い一夜を過ごせるためのきっかけだからな。そう簡単にあきらめてたまるかっての。


「おいクソガキ! いつまでそんなとこに居やがるつもりだ。さっさと来い!」

「やれやれ。ザコ助君はそんなに皆の前で袋叩きにされるのが見てもらいたいのか。人の趣味をとやかく言うつもりはないけど、俺は遠慮願いたいね」

「ハッ! んなビックマウスがいつまでほざけるか今から楽しみで仕方ねぇよ」

「はいはい。せいぜい俺の実力を測る道具として少しでも長く立っていられるように頑張ってくれたまへよ。ザコ助ナガト君」


 挑発に挑発で返し、一方的に向けられる殺意のこもった視線を華麗にスルーしながら城を抜け、訓練所であるらしいサッカーコートくらいの広い砂場には、既に王やタマゴおっさんなんかは居たけど、大部分の貴族は居なくなっており、その代わりにさっきより多くの騎士連中達が大勢待機している。


「遅いっ! 王をこのような寒空の下で待たせるなど無礼であるぞ!」

「別に待っててなんて言ってないけど? それよりそいつらはなんな訳? 全員が相手なのか?」


 ざっと見た所200人くらいは居るな。〈万能感知〉で調べてみても、俺基準で強い奴はいないのできっと簡単に処理を手にする事が出来るが、それだけの数をいっぺんにってのはかなりシンドイしうっかり殺しちゃいそうな気がする。


「その通りだ。ここにアマディウスと勇者を加えた1個中隊が、貴様の実力を測るが問題はないな?」

「別に構わんけど、殺しはナシって言うならメンドイから、やり方はこっちで決めるぞ?」

「フン。小娘如きが大口を叩きおって。殺せるものなら殺してみろ」

「いいんだな? 後から文句を言えばお前も殺すからな」

「出来るものならやってみろ」


 よーし。殺人許可も貰った事だし、これで一切の遠慮を放り投げて数を減らす事に集中できる。


「じゃあ早速始めるとするか。合図を寄越せ」

「では……始めえ!」


 タマゴおっさんの掛け声と同時に、俺の倍以上はあるだろう剣を〈収納宮殿〉から取り出し横薙ぎ一閃。

 たったこれだけで、少なくとも10数人が上半身と下半身に分かれて物言わぬ骸へと変化するが、俺は平然とその中を突っ切って二閃目を振り抜いてもう10数人を同じように殺してやり、続く三閃――


「させる訳ねぇだろうが!」


 はナガトの乱入で半端な感じになったけど、結果としてたった3回剣を振っただけで全体の8分の1を排除する事が出来て風の通りがよくなったし、何より恐怖をばらまく事が出来たのが大きいだろう。

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