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#272 エロ対面倒。寄り切りでエロの勝ちぃ~

「で? ロクに確認もせずに俺を勝手にその王子への暴行犯人と勝手に決め込み、問答無用でこの馬鹿の襲撃に加担したって訳か」

「は、はい……」


 未だ復活する兆しのない七光りをただ待っているのも暇なんで、ここの騎士団と少しだけ鎧の意匠が違うように感じる取り巻き連中の話を聞いてみると、どうやらこいつ等が王都からやって来てアスカの情報を探っていたらしい。

 更に詳しく話を聞いて行くと、ちんたら行軍で本日到着したこいつ等は、王子とあの婆さんや執事とメイド等からアスカの特徴である〈森角狼〉に見目麗しい少女という情報を頼りに騎士団や冒険者ギルドなんかに尋ねてみると、どうやら閑古鳥食堂でそんな少女が居るとの情報を得、色々なところをたらいまわしにされた結果として七光りと出会い、この馬鹿はアスカ=犯人と決めつけて襲い掛かって来たらしい。

 当たり前のように俺が犯人で間違っちゃいないんだが、あの場所に確たる証拠を残したつもりはないので、知らんぷりを貫き通す。


「お前等はどう思ってんだ? 住民のために無償でこれだけ大量の食事を用意してあげるような心優しい絶世の美少女が、なんの恨みもない王子を襲撃するような人間に見えるのか?」

「それに関してはすまないと思う。しかし、〈森角狼〉を連れ歩く事の出来る人間などそうそう居るものではないからな。勘違いするのも無理はないと思わんかね」

「だからって有無を言わさず殺しに来るのはどうなんだ? おかげでこいつがイライラしてんじゃねぇかよ。治めるの凄ぇ面倒くさいんだからな」


 ちらりと目を向けると、ユニが牙をむき出しにしてグルグル唸っている。ついこの間まで忠誠心が低くて気に入らないって態度をしていたけど、今じゃあ魔神まで圧倒できる程の実力者として、主として溢れんばかりの尊敬を獲得している。

 まぁ……それでも食事に文句を言ったりツッコミを入れてきたりはするんだけどね。

 主としてそれほど尊敬している状態だからこそ、多少口が悪いだの。態度が気に入らないだのと言った些細な事に対しても素早く反応して牙を剥きだしにして唸り声を上げる。まぁ、パーティーチャットでそうしろって指示を出してるから当たり前なんだけどね。


「次に主を不快にさせるような態度を取ってみろ。その頭部を噛み砕いてくれる……」

「んな事したら本を全部処分するからな」

「じょ、冗談ではないですか。そう告げておけば、馬鹿な連中でない限り主に手を出すような不届き者は近寄ってこないでしょう。面倒を嫌うのですから手間が省けたでしょう」

「なるほど。確かにそう言った見方も出来るな」


 俺はこの通り超絶美少女だからな。大抵の連中にとって言葉で脅すと言うのは効力が低い。だからすぐに挑発し、相手が剣を抜くなりの敵対行為をしたのを見計らって反撃。その後に改めて脅す事でようやく効果を発揮するんだが、やっぱワンテンポ多くかかるんでちょい面倒。

 そこにユニの強烈な殺気と〈森角狼〉と言うネームバリューがあれば、よほどの相手でなければ突っかかってこない……か。


「なら今回は不問とするが、やりすぎるようなら色々と考えがあるからな」

「か、かしこまりました……」


 先に述べた書物焼却に始まり、栄養バランスくそくらえと言わんばかりのハイカロリーメニューを無理矢理食わせたり、首根っこを捕まえて強引にオレゴン村近くの森に放り投げるなど、色々と罰は与えられる事に思いをはせていると、それが表情に出ていたんだろう。ユニがブルリと震え、それを見た王都騎士の連中もブルリと震えた。


「で? 話はもう終わりって事でいいよな」


 俺としては無実であると言う偽物のアリバイを作ってあるつもりだ。どれだけ頑張って情報を集めたところで、3日前辺りからシュエイに居ると言った情報が入ってきてるはずだからな。わざわざ俺が何か言う必要なんてどこにも無い。この後には閑古鳥食堂の昼と夜の仕込みが待っているから強引に打ち切る。


「確かに。この都市で君の情報は非常にたくさん寄せられ、犯人でないと個人的には断定したいのだが、この惨状を見る限り……悪いが王都まで来て事情を説明してもらいたい」

「メンドイからヤダ。それに、この惨状に関する情報ならそっちの団長を連れてけば事足りるぞ。そいつも数少ない目撃者だからな。俺は何と言われようと行かん」

「これを見てもそのような事が言えますかな?」


 嫌に自信満々に告げながら取り出した1通の手紙を受け取り中身を確認してみると、中には数枚の便箋が入っていて、送り主はマリュー侯爵とアニーとリリィさん。どうやら俺が来ないと分かっていたかのようだ。


『もしもーし』

『お? 連絡寄越した言う事は、手紙が届いたって事やな』

『これは何の真似だ? こんな事をされると、まるで俺が犯人と捉えられるじゃねぇか』


 どうやらこの手紙はキッチリ本人達も把握しているようだが、こんなモンを用意されるとまるで最初っから俺が犯人で、アニー達がその逮捕に協力してるような形になっている。なるほど。この手紙もあの凶行を実行に移す一助を担っていた訳だ。こいつぁ大罪だぜ?


『話聞いてへん? その手紙は王子襲撃の事やのうて、シュエイに現れた化けモン退治に関する情報提供を頼みたいっちゅうもんの為の手紙や』

『いくらあて等でもアスカはん売るような真似しまへんよ』

『なるほど。確かにドエライ強い奴とやりあったが、昨日の今日でどうやって情報を手に入れたんだ?』


 常人なら王都~シュエイ間は1日かかる距離。そしてシュエイがこんな状況で救援物資や人員の補充なども王都に頼もうにも、返答にも最速で2日か3日はかかる。それがほんの10数時間も経っていないうちにアニーが知っていると言うのはどうなってんだ?


『いやいや。アスカは知らん思うけど、シュエイから変な光がこっちにまで届いてたんや』

『一瞬やったら特に疑問に思わんかったですけど、さすがに何分も続くとおかしい思うモンが増え初めましてな。いろいろと調べた結果、とんでもない魔力を検出したんや』

『で? なんで俺の出頭になんだよ』

『決まっとりますやろ。原因が何であれ、シュエイにはアスカはんが居るんやから、確実に解決してくれる思うて、マリュー侯爵が一筆したためてすぐにシュエイに走らせたんや』


 つまり、原因が何であれ、事件が起きた時点で俺が王宮に出頭するのは決定済みだったらしい。クソ商爵が突っかかって来やがったせいでトンデモな面倒に巻き込まれてしまった。何とかしてバックレられないもんかね。


『行きたくないからコッソリ回収してもいいか?』

『あては構いませんよ? せやけど、アスカはんはウチのドレス姿を見たくないん?』

『まぁ……見たくないって言ったらウソになるな』


 声だけでリリィさんがニッコニコしてる姿が鮮明に思い浮かぶ。

 ちなみに手紙には――

 侯爵のには用事が済んだのでエルグリンデへ帰還する旨がつづられており。

 アニーのにはキッチリ説明せんと怒ると書いてあり。

 リリィさんのには俺好みのドレスを発見し、その姿が見たかったら王宮に来いと綴られている。

 俺好みって事は、もちろんその大山が大きく露出して行動の阻害にならないようになっているはず。そう考えると、これを見ないなんて選択肢は男として絶対にあり得ねぇ。


『ほなら、ドレスを着てお待ちしとりますわ』


 やれやれ。全く気が進まんが、見逃せないシーンがあるのも確かだ。どの道行かなきゃなんないのなら、せめて少しでも旨味が欲しいからな。


「ふぅ……わーったよ。行けばいいんだろ?」

「よいのですか?」

「どっちみち行く予定だしな。それが前倒しになっただけだ」

「ではすぐに来てもらおうか」

「そいつぁ無理だ。こちとらまだ雇用契約が続いてるからな。最速でも明日以降にならない限りはこの都市を出ていくつもりは欠片もないぞ」


 既に絶対的な地位を確立しているとはいえ、未来永劫それが続くわけじゃない。正確には今日で店じまいとなるんだが、その報告をしとかんと明日以降も馬鹿みたいに客がやって来てリリンにちょっかいを掛けるようなクソが出て来ないようにキッチリ幕を閉じんとね。


「お前……王命に背くと言うのか。不敬だぞ!」

「俺ぁ別にこの国でなくとも暮らしていけるし、前提として行く理由がねぇんだ。それをわざわざ時間を割いて行ってやるってんだぞ? そこはこっちに合わせてくれんと」

「ふざけてるのか! たかが冒険者如きが王の命に背くと言うか!!」

「うるせぇ」


 これ以上喋ったところで話が前に進む気が全くしないからな。全員の首を切り落とし、〈収納宮殿〉へと放り込む。


「小娘よ。さすがにそう言う手段を取るのはどうかと思うんじゃが……」

「構いやしねぇよ。どうせ生き返らせる事なんて簡単だし、お前等ももちろん黙っててくれるだろ?」


 うすら笑いを浮かべながら剣を揺らすと、あちらも誰のおかげで五体満足に2度目の生を謳歌できているのかをよーっくと理解したんだろう。この世界でも、普通であれば殺人は重大な罪だが、後の生存が約束されていると分かっていれば、「今日は忙しいんでまた明日来てください」と言ったのと同じという言い訳をゴリ押せる。おまけに、〈収納宮殿〉の中に居れば時間の経過もないので、こいつ等にとっては覚えがないうちに1日経過してるとなるだけなのだ。


「はぁ……分かったな? こやつのした事に関しては不問とする。異議は受け付けん」


 ジジイ団長の発言に、その場に居た騎士連中はもれなく敬礼してそそくさと復興作業に戻ってしまい、部下として雇っているガキ連中には銀貨を渡して口を封じた。これで、余程の事がない限りは他者から

俺が王都の騎士を殺したって情報は漏れ出る事はない。


「宝物庫にしかないはずのエリクサーを大量にポンと出し、天災とまで恐れられる魔神すら単騎で撃退か。小娘の側に居ると常識であったモノが音を立てて崩れていくわい」

「気にすんなって。俺と関わった時点で大抵の奴はそう言った気分を味わうらしいからな。その仲間入りをしたと思って諦めろ」


 さて、魔神に関する情報収集はもう済んだんで、後は閑古鳥食堂で特別営業の終了を告知せねばならん。そうなると、きっと喰い納めだと言わんばかりに客が押し寄せる可能性もあるので、こんな災害の起きた日でなければ倍の用意をするつもりだったが、さすがにそんな量は消費しないだろう。


「って訳で、明日には王都に行くから」

「分かっとると思うが、王宮を破壊するような真似はするでないぞ?」

「何言ってんだ。お前も一緒に行くに決まってんだろ」


 何せ魔神を目撃した数少ない重要参考人だからな。本人が嫌だと言っても連れていく方法はいくらでもある。一番簡単なのは首をすっ飛ばして運搬する方法だ。これなら抵抗に対する見張りに食事も不要だからな。


「拒否権はないのじゃな?」

「抵抗できるならしていいぞ?」

「はぁ……分かった。領主様に暇を貰う」

「じゃ。俺は俺は用事があるんで帰るが、何かあったらスラム街区に来てくれよな」


 さて。後はリリンとアンジェとリエナにこの街を去る旨を告げておかんとね。

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