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#271 意外な物が意外と人気になるとビックリするよね

「ニール。ちょっといいかしら」


 到着したのはピンと張った布を屋根とした場所に簡易ベッドや事務を行うためのテーブルとイスを置いた仮の兵舎。そんな場所でニールさんは淡々と書類仕事に追われていた。


「なに?」

「この子――アスカって知り合いなんだけど、常識って奴を教えてあげて。精霊の事や魔族領の事とかをかなり盛大に勘違いしてるようだから。ニールの方がそう言うのに詳しかったはずだし、説明が上手でしょ?」


 そんな説明を聞いてなにやら思う事があるのか。ニールさんは隣で補佐をしていた部下騎士に二言三言告げるとすくっと席を立ってリューリューを代わりに座らせてから俺の手を掴むと、再びコテージへととんぼ返り。

 ちなみにリューリューは「私が事務仕事とか向いてないの知ってるはずよね!」とかって文句を言っていたが、ニールさんは我関せずを貫いてさっさとここまでやって来た。


「さて。アスカと言いましたね。リューリューの話を聞く限りだと魔族領と精霊に関して常識がないと聞いていますが、貴女はその2つに関して一体何をしたんですか?」


 説明を求められたので、俺はシュエイを離れたからまた戻って来るまでの経緯をザクッと説明する事にしたわけだが、ニールさんが王子襲撃事件を知っているかどうかわからんかったんであえてぼかしたが、すぐに自分も知っているから隠さなくても大丈夫だと言われてしまったのでその勢いのまま突っ走る。


「――って事で、俺の無実を証明させる為に説明したんだが、こうして連行される羽目になった」

「……」


 一通り説明を終えた。するとニールさんは黙ったまま額を押さえてうなだれてしまった。何か変な事を言ってる自覚はないんだが、この反応を見る限りおかしなことをしたんだろうと判断できる。


「どうかしたか?」

「まず言っておきますが、魔族と言うのは一般的に魔物と呼ばれる下級。B級冒険者のパーティーが必要な中級。都市レベルの兵力を必要とする上級。最後に国家レベルの戦力が必要になる20評議会と呼ばれる超級の魔族が存在し、あの領内に足を踏み入れるのは鉱山奴隷にすらなれない死刑囚のみです」

「ちょっと待った。って事は、魔族領に通じる道があるのか?」

「そう言うとなると、正規の道を使っていないと言う事ですね」

「まぁ、適当に最短距離を進んだからな。しかし何だってわざわざそんな場所があるんだ?魔族に攻め込まれたらひとたまりもないだろ」

「理由は単純。勇者様方が魔王を討伐する際に使用する為です。危機に関しては、魔族は飛翔魔法が使えますので、わざわざそこを通行する真似はしないのでしょう。なので、大した兵力を置く必要がありません」

「まぁ……そりゃそうか」


 大体で100メートルくらい飛べば十分対岸にたどり着けるような崖程度、俺が出会って来た魔族であれば誰だって余裕をもって――まぁ、中には例外もいるがそう難しい事じゃない。アレクセイなんて軽く空を飛んでたからな。わざわざこれから暴れますよなんて宣言する必要性もないか。

 それに、わざわざ魔族領への通路があるなんて思いもせんかった。俺ぁてっきり、3つの神器を集めて某ドラゴンなゲームみたいに虹の橋を架けるもんだとばっかり思ってたからな。


「とにかく。魔族領は大変に危険で、相手に発見されようものなら……アスカサンの話が真実なのだとするなら平気かもしれませんが、普通ならまず命はありませんので、今後は2度と魔族領に入らないようにしてください」

「ま。覚えてたらね」


 2度と入らないってのは選択肢に存在しない。何せ俺が男に戻る為には、あの場所に顔を出すのは絶対に必要な事だからな。あの場所は俺にとって最も重要な場所。こればっかりはどんな美人の願いだとしても聞き入れる訳にはいかない。

 とりあえず話が終わったんでコテージから出て行こうとしたんだが、今度は精霊についてだと強引に着席させられた。


「では次に精霊についてですが、その存在はほとんど魔法と同一と認識してもらって構わない存在です。意思も人格もない浮遊精霊。3・4歳ほどの自我を持つ下級。5~14歳の子供並に振る舞う中級。そこから上は成人以上の知識と個を持つ大精霊に精霊母。頂点に各属性を統べる精霊王と続きます」

「ん? 精霊王が上なのか?」

「何を当たり前の事を。王と呼称されているのですから頂点以外にあり得る訳がありません」


 まぁ、普通に考えればそうなんだろうけど、ウィンディアさんのあの迫力を前に男が偉そうに振る舞える気が全くしない。他の所はどうか知らんが、少なくとも風の精霊の力関係は圧倒的にあの母――じゃなくてお姉様が頂点だ。ヒヤッとしたぜ。


「貴女が何を想像しているのか知りませんが、シルフ様は風の大精霊として中でもエルフにとても敬われています。なので、エルフの前では絶対に馬鹿などとつけて口に出してはいけません。それが原因で交流が途絶えるならまだしも、戦ともなれば大きな被害が出てしまいますからね」

「ああ。そっちは気を付けるよ」


 どうせ2度とあの集落にはいかないだろうし、そもそもシリア以外のエルフは基本的に人を見下して生活している。そんな面倒な相手とワンナイトするのは非常に骨が折れそうだから、時間をかけて意識改革を行っていく。それまでは唯一のエルフ知り合いとして愛を育もうじゃないか。


「それにしても大精霊を投げ飛ばすとは……貴女の常識のなさには恐怖すら感じました。その迂闊すぎる行動のせいで、人類が魔法を使えなくなるとは思わなかったのですか?」

「仕方ない事だ。あの馬鹿シルフは金もないくせに勝手に俺の飯を食った挙句に礼すらしなかったんだからな。まぁ、精霊を罰するってのは難しいんで、そこは知り合いにキッチリ躾けてもらったぞ」


 知り合いとはもちろんウィンディアだ。彼女が一言語り掛けるだけで、あの馬鹿はすぐにでも前言を撤回するだろうからな。第一、魔神と戦ってる時もキッチリ〈微風〉が発動していたからな。雑に扱われてもそうしないって事は……まさかMなのか?


「シルフ様に意見を言える知り合いとは何者なんですか」

「そいつぁ秘密だ」


 と言った感じで、一応魔族と精霊についての知識は得られた。これが今後必要になるのかと言われれば正直微妙と言うかもしんないけど、まぁニールさんの珍しい表情をいくつか見る事が出来たからそれはそれでよかったとしようかね。

 これでようやく拘束を解除されたのでコテージを出て炊き出しに戻ってみると、意外な事に今度はおかゆがなくなりそうになっているとの報告を受けた。


「どういう事だ?」

「じーちゃんばーちゃんが食べやすいって言ってた」

「なるほど」


 牛丼は肉が少し質の悪いのを使ってる上に煮込んであるから少しきついだろうし、おにぎりは一見するといけるかも知れないが、具も入ってるからきちんと噛まないと消化に悪いが、おかゆはドロドロに砕けるまでしっかりと煮込み続けてあるから消化にいいし、スプーンですくってすすりこめば食事として成り立ち、おかかや昆布の佃煮なんかも食べやすく調整してあるうえに栄養もちゃんとあるからな。


「っし。じゃあ追加だ」


 じーさんばーさんが相手ならそこまで目くじらを立てるような事態も起こらないし、あっち側も孫を見ているようなほのぼのとした空気が何となく流れている。こうなるとますますあの馬鹿共の愚行が目立つよな。

 騎士連中の昼飯も大体終わり、被災者達も追加が来なくなったし大方の腹も膨れたからか山は越えたようだ。後は食べるのが遅いじーさんばーさんやガキが食い終われば撤収し、閑古鳥食堂の最後の仕上げと行こうかねと思っていた矢先、遠くから七光りが複数の部下らしき連中を引き連れて近づいて来た。


「そこの貴様ぁ! ようやく見つけたぞ!!」

「……だれ?」

「ククク……相も変わらず平民如きが貴族にする態度ではないが、今回はどうでもいい。貴様を王子へ暴行を働いたとしてこの場で死刑にしてくれる!」


 いきなりそんな事を怒鳴りながら槍を構えたかと思えば、まるで勢いが感じられない突きでもって襲い掛かって来たんで、礼儀としてそれを掴んで腕を180度回転。そこそこ体重がありそうな七光りを地面に叩きつける。こいつは俺との実力差を覚えてなかったのか?


「さて、そこの有象無象共は向かってくるか?」


 椅子から立ち上が jjりもせず、形だけは団長である七光りをまるで子供でもあやすかのように軽々と投げ飛ばしてやったんだ。それよりこいつ等が劣るとは思えないが、俺を立ち上がらせるほどの奴はいないだろうからな。

 そんな俺の予想通り、有象無象共は一応武器を構えはしているが襲い掛かってくるような馬鹿な真似はしないまま、七光りが起き上がるのを待った。

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