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#260 主役は遅れてやって来るってのが常識だろ?

 言いたい事も言えたんで、さっさと元・ナイフ男を街の外まで運び出そうとした所で、〈万能感知〉が七光りから魔力の高まりをあると知らせてくれたので即座に反転して〈収納宮殿〉から取り出した石を顔面に投げつけた。


「がふっ!?」

「もしかして隙を突いたつもりだった? それなら君の目は節穴だね。第一、殺気を隠そうともしてないし魔力の練りがビックリするくらい遅い。詠唱をしなかったのは……それがあるからかな」


 ちらりと目を向けたのは、しっかりと握りしめている槍だ。確か名前は……あぁ。あったあった。〈嵐刃槍(サイクロスピア)〉って言うのか。俺基準での品質はほどほどの57で可もなく不可もなくって一品。持ち手近くにある風の魔石に魔力を流す事で、槍全体に渦が発生して属性槍として使えるし、更にMPを注ぎ込めば名前の通り嵐を発生させる事が出来る。


「これが君の傲慢の源でいいのかな。やれやれ……道具に頼るなんて三流以下のザコ以外の何者でもないよ。こういうのを扱うには最低でもここに居る皆を1人で一遍に相手をして無傷で勝利を得られるくらいの実力をつけないと。まぁ、君には一生涯無理だろうけどね」


 特にあの武器に意思があったりするわけじゃないが、MPを使って嵐まで起こせるために手足のようにってまで持って行くにはそれ相応の修練が必要になり、それこそ1日も欠かさず、血豆が何度潰れて血だらけになろうとも辞めないほどの強靭な精神力が必要になるってのに、甘やかされて育って来た七光りに扱える代物じゃない。


「黙れ! おれさまは領主になる男だ! 貴様みたいな根無し草の冒険者風情が誰にものを言っている!」

「えーっと七光りのザコ君? 領主に一番必要なのは街を富ませる事でしょ。個人の強さなんて限界がある訳だし、それこそ部下に任せればいいじゃないか。そもそも君が強くなれるような才能があるように見えないしね」

「またおれさまをザコと……何様のつもりだぁ!!」

「そこそこ強いと自負してるAランク冒険者のメリーちゃんだよ。ボクは貴族には媚び諂わなくても生きていけるからね。特に君の親は新興だろ? いつ消えるか分かんない木っ端にそんな事をしても無駄になるかもしれないじゃん?」


 そもそも。目の前の七光りを未来の領主になるかもしれん立場にまで押し上げた立役者だからな。本来であればこのザコが「この愚息の父を領主にしてくださって感謝の言葉もございません」と額を地面にこすりつけながら感謝の態度を取るのが当然だけども、目立って色々と仕事を持って来られるのはマジ勘弁なんであえて自分で発表しないが、それでも純然たる事実として記憶に新しいだろうから、せいぜい俺の特徴でも現伯爵に述べてたっぷりと叱られるがいい。


「ふ、ざけるなああああああああ!! おれさまは領主になる男で決して木っ端などではない! 貴族は偉い存在……まかり間違っても平民如きが手を上げていい存在ではないのだ!」

「はいはいそうですか。ならそう思ってていいよ。ボクはボクでには君をずーっとザコ君と呼び続けるし、刃向かってくるなら潰せばいい。君なら1秒もかからず殺せるし、貴族なんて怖くもなんともないから。じゃあさよなら」


 これ以上ここに居ても何の得にもなりゃしない。さっさとこいつを殺して夜の蝶の好感度を稼ぐようにリューリューに指示しておかねばならないので、肩に未だに暴れている元・ナイフ男を担いで、5割の速度でシュエイの街を駆け抜け、中門はそのまま。最前門は7割の力での跳躍で飛び越えて20キロほど走り、半径1キロ圏内に誰もいない事を〈万能感知〉で確認してから、神壁を取り除く。


「グルアアアア!!」

「せやあああああああ!」


 解除と同時に接近してきたが、触手もなく石化毒の脅威に怯える必要もないこの状況でそりゃ悪手だろってなもんで、バスタードソードを取り出して大上段からの唐竹割でもって両断。次の瞬間には鼻の奥に痛みを感じる程の圧倒的な刺激臭が襲い掛かり、視界は真っ黒で爆音が鼓膜を破るぜって勢いで鳴り響いた。

 取りあえず吹っ飛ばされるほどの威力はなかったんで、武器をしまって耳を塞ぎつつ物は試しと〈収納宮殿〉に入れようとしてみると、ことのほかアッサリと成功。

 とはいえ一度に全てってのは無理みたいで、何度か繰り返してようやく噴き出した石化毒が薄くなってある程度の視界が確保できた。


「なるほど」


 シュエイの中でも不思議に思っていた。今は死体であろう元・ナイフ男の頭部に傷をつけた際に出た石化毒。当初はあらゆるものを石化させるんじゃないかと少しドキドキしていたが、こうして目の当たりにすると、あくまで推論だけどこれは生物にしか効果を発揮しないんじゃないかって結論に至る。

 建物は最初から石だから変化なかったし、臭いと認識して呼吸ができた時点で大気にも影響はなく、その辺に転がっていた魔物由来の革鎧は見事に石になっていたが、俺の石油から作られた化学繊維製の服はどこもかしこもいつも通り。

 そして今まさに石化毒が広範囲に散布されたこの草原だ。〈万能感知〉で見る限りだと、半径で300は毒が未だに薄く停滞してるが、その範囲すべてがグレーに染まっているのは月程度の明かりでも十分に確認できる。これが風に乗ってゆるゆると移動しているんで、被害が拡大する前に残りもキッチリ〈収納宮殿〉に取り込んで後顧の憂いも経ち切った。


「よし。後は……これでいいだろ」


 何せこんな魔物と戦った事がないからな。討伐部位として半身を提出し、残った半身+足一本は念のために焼却処分しておこう。こうしておけば、どこかの馬鹿がエリクサーで復活させようと目論んでも、足一本分足りないから俺の中の理論だと二度と復活しないただのゴミと変わりない。

 これで後は、元・ナイフ男の死体を手に颯爽とシュエイに凱旋。リューリューや多くの女性に歓迎されて、次々に感謝を述べてくる中でこう告げる――「全てはアスカと言う知り合いに感謝するんだな」と。

 こうすれば、俺が直接手をぐ出さなくとも簡単に好感度を上げる事が出来る。同じ事を何度も繰り返せばアスカに頼んどきゃなんとかなるっしょ。みたいな風潮が出来そうなんであまり連発はしたくないけど、今回は多くの綺麗な女性の好感度を一気に稼ぐと言う千載一遇の好機。これを逃す手なんてあるはずがなかったが、眠すぎて全く脳裏をよぎらなかった。俺の女性好きもまだまだだな。

 そんな事を考えながら、軽い足取りで目指すシュエイの一部で突然爆発が起きたので〈万能感知〉で探ってみると、どうやらまた新たな魔物――どっちかって言うと魔族に近いくらいの反応が、1つ発見できた。最前門が動いてないという事は、既に中にいた。そしてタイミングを合わせたような襲撃はどう考えても繋がってるとしか言いようがない。

 つまり――魔族っぽい何かとおっさん商爵はグル? だとしたら魔族っぽい方の目的は何だ? 情報が少ないから仮説も立てられない。そもそもこいつに思考するだけの知恵はあるのかすら分かってないんだ。色々と知って仮説を立てるにはどうしたってあの中に飛び込んでいかなきゃなんない。


「やれやれ……」


 折角元・ナイフ男を殺して称賛が得られると思っていたのに、これじゃあこいつも殺さないと好感度が稼げないじゃないか。この大きな恨みとほんのわずかな感謝の気持ちを込めて、この似非魔族は七光りよりも先にぶち殺さねば。折角手に入れた手柄が薄まってしまう!

 ってな訳で、断続的に爆発が起きるシュエイに向かってすぐさま駆け出す。被害が大きければ大きいほどその大本を殺した際に得られる称賛は大きくなるとは言え、その被害者に夜の蝶であらせられるお姉様方の名が連なる可能性が出て来るので、なるべく早く戻らねばならない。


「ん?」


 最前門まであと5キロってところで、シュエイ側から魔法が飛んで来た。俺の〈火矢(フレイアロー)〉と遜色のない緋色のレーザーだったが特に慌てるような速度でも威力でもないが実力が知りたかったから手を突き出す〈身体強化〉だよりの防御とも呼べない脳筋プレイで対処してみると、多少熱いと感じはしたけど〈回復〉の効果もあって特に問題なかったんで、お返しとして同じ魔法? を撃ち返しておく。

 当たったかどうかの結果は到着してから確認するとしよう。後は念のために、相手からも俺が見えているという前提で高速で左右に動いて的を絞らせないようにすると、思った通りに似非魔族から放たれたであろう2射目の〈火矢〉はものの見事に外れたのを確認してから最前門を飛び越えた。


「さて。どう出るかな」


 既に〈万能感知〉内に似非魔族の反応は捉えているし、その周囲に居る住民であろう弱い反応に騎士であろうまだマシな反応が全部で100近くある。

 そんな似非魔族に向かって、俺はわざとゆっくりとした速度で近寄っていく事にした。

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