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#24 スキル進化

 何とか名付けが終わって従魔契約を結んだわけだけども、次なる問題としてはやっぱりこいつをどうするかだ。

 もちろん。従魔になった以上はこれからもちゃんと馬車牽きをさせ続けることになるのは決定事項な訳だけども、果たしてこれで本当に街に入れるのかと言われれば、無理だろうなぁ……ってのが2人の答えだ。

 希少なAランクの魔物である森角狼(ユニコーンウルフ)の中で、さらに希少な特別個体(ユニークモンスター)となれば、ギック市ほどの大都市でも壊滅の危機に瀕するとの判断が下され、まず間違いなく騎士団が出張ってこないはずがないらしい。


「どうするよ」

「何とか安全な従魔やと分かってもらうしかあれへんやろ」

「アスカはん頑張って。応援します」

「ユニ。俺達が帰ってくるまで街の外に隠れてくれたりできないのか?」

『お断りです。従魔としてワタシが主のそばを離れる事はまずありえません』

「はぁ……っ。いいか? 俺に迷惑をかけないようにちゃんと大人しくしてろよ」

『分かっておりますとも。少なくとも、こちらからけしかけるつもりはありません』


 本当にわかってんのかなぁ。妙に好戦的な顔してるし。

 不安でたまらないけど、進まなきゃギルド経由で国に魔族の報告が出来ない。それが出来なければオレゴン村の混浴タイムがいつまでも近づいてこない。他の連中に任せようにも正確な報告が出来るのは最後を見届けたという事になっている俺にしかできないらしいのが何とも面倒臭い。

 という訳で、街に入るにあたってまずしなきゃなんないのは身分を隠す事だ。

 アニーやリリィさんは別に問題ないんだろうけど、俺は騎士団相手に色々やっちまってるからこのままギック市をうろつくのはマズい。

 一応銀貨面で隠してたから顔は知らんだろうが、この特徴的な髪の色を見て「お前はいつぞやの!?」なんて事になったらあのおっさん騎士に報告が行って公務執行妨害的な罪状で逮捕されるのはノーサンキューだ。確実にユニが暴れる未来が待っている。

 もちろん。知らぬ存ぜぬでシラを切りとおせばいいだけなんだろうけど、自由に街の中を歩きたいんで目をつけられると言う事自体を回避したいって訳で、造り出したるは茶髪のカツラ。これをかぶって銀髪を隠し、目にはカラコンを入れ、厚底のブーツを履いて僅かながら背も誤魔化せば、別人の完成だ。


「どうだ? 別人に見えるだろ」

「可愛えぇですわぁ♪」

「うごあっ!?」

「このワタシが見えなかった……だと!?」


 確認のために2人に見てもらおうとしたんだが、雷光のような速度での突進からの抱きしめで、燃えるんじゃないかってくらい頬ずりをしてくる。あまりの速度にユニですら驚いているほどだ。

 とにかく。リリィさんとアニーからさっきまでのアスカとは別人に見えるとのお墨付きをもらったので、改めてギック市へと歩を進める。


「あれがそうか」

「せや」


 さすが都市というだけあって、オレゴン村の貧弱な柵と違って外壁はレンガっぽい石を積み上げて積み上げて高さは10メートルはあるだろう。思った以上に立派で頑丈そうだ。俺なら悠々飛び越えられるけどね。

 そして、街へと至る入り口には多くの人間の行き交いを可能とするだけの巨大な門が口を開けて待ち構えている。さすがに堀とかはないけど、門扉が頑丈そうだしその左右には詰所みたいな小さい入り口が確認できるから、万が一問題が起きてもすぐに対処できそうだ。


「結構でっかいな」

「当たり前やろ。ここはマリュー侯爵領最大の街なんやから」

「にしては治めてるのがクズ貴族ってのはどうなんだ?」

「侯爵は別ントコに居るんですよ。ここからやと王都まで時間かかりますから」

「ふーん。商人が多いって事は、ここは中継地的なところか?」

「そん通りです。海が遠いんで港はありまへんけど、ここは東の霊族領や北のエルフ領に通じる国交の要所でもありますんや。賑やかやろ?」

「そうだな」


 物が集まれば自然と人が集まる。それがいい形であれ悪い形であれだ。

 しかし。そんな賑やかだった門前も、俺達の到着と同時に一斉に静まり返った。理由は当然。ユニの存在だ。予想通りの反応過ぎて頭が痛くなるが、それでも順番を無視する訳にはいかないんで最後尾の旅商人らしき背負子を背負った牛の角を持つ中年男の後ろに移動すると、顔を引きつらせて後ずさる。


「驚かせてすまんね。一応俺の従魔なんで人を襲う事はないから安心しろ――と言っても信じないだろうが、こっちも中に入りたいんで順番を譲る気はないぞ。お前が譲ってくれるって言うなら喜んで前に進むけど、どうするぅ?」

「い、いえいえ。このままで大丈夫です。そちらの従魔は……」

「ユニだ。そこそこ立派だろう? 馬車の牽き手としてこれが優秀でねぇ。ちょっとしたいざこざがあって馬を失った代わりに森でこいつを捕まえたんだが、馬なんかとは比べ物にならない速度と持久力でね。頼もしい限りだよあっはっは」

「は、はぁ……」


 種族をぼかして説明したんだけども、どうやらこの商人はユニの本性を知っているみたいで今にも死にそうなほど顔色が悪くなっている。本当にスマンなという意味を込めてコッソリと鞄の中に金貨数枚を忍ばせた。せめてもの罪滅ぼしとして受け取ってもらおう。これで馬車でも買うんやで……ほろり。

 そんな事を考えながら順番待ちを始めて10分。ユニが遅々として進まない列にイライラし始めた頃。ようやく兵士らしき存在が十数人やって来た。あの時見た騎士団の装備と比べても貧弱なので、その下部組織か何かだろう。


「貴様か! この街に魔物を侵入させようとしている愚か者は!」


 唾を吐きかけん勢いで怒鳴り散らしたのは、無精ヒゲにぼってりとした小柄な体形を持つ40代くらいに見えるいかにも木っ端の兵士。背後で顔を真っ青にしながら剣や槍を構えているのが部下だとするなら、これでも隊長職に就いているって事か。


「まぁそうなりますね。ちょっと用事があるんで。ちなみに魔物ではなく魔獣だそうです。頭からバリバリと食われたくなかったら訂正する事を薦めます」

「ふざけているのか貴様あああああ! 魔物でも駄目なのに魔獣など通す訳がないだろうが! 捕縛されたくなかったら今すぐ立ち去れえええええええいっ!」

「そうはいかない。こっちも嫌々ながら至急伝えなければいけない用件があるんでどうしても……どこに行くんだっけ?」

「冒険者ギルドや。ちゃんと覚えといてや」

「そうそこ。そこに行かないといけないので通してもらえませんかね?」

「馬鹿にしてるのか貴様ぁ!」

『やかましいぞ下等人種がぁ!!』


 デブ隊長が剣を抜くのと同時に、ユニが大気を震わせるほどの怒鳴り声を上げた。

 実際はただの遠吠えにしか聞こえなかっただろうが、俺は従魔契約を結んでいるのでユニの言葉が理解できる。そして長い時間待たされた挙句、主人である俺に剣を向けた事に余程腹が立ったんだろう。その一発でその場にいたほとんどの木っ端兵士達は竦み上がって、麻痺したように動く気配がなく、商人を含めた一般ピーポー達は泡を吹いてバタバタ倒れていく。


『主に剣を向ける……それがどういう意味か貴様は理解しているのか?』

(ユニ。俺以外には何言ってるか理解出来てないぞ)

(む? そうでしたね。しかしこの男は主に対する態度が悪い。殺していいですか?)

(まぁ落ち着け。この隊長さんは街を守るのがお仕事なんだ。お前みたいな災害レベルの魔獣を街に入れる訳にはいかない。だからこうしてお仕事しているに過ぎないんだ。分かってやりな)

(主がそう言うのであれば……)


 この間。俺は口を動かしていない。今の会話はユニとの〈念話〉によるものだ。これのおかげで、相手に聞かれたら困る作戦のやり取りを堂々と目の前で行える。従魔契約特典その2だ。

 俺が右手を上げる。それと同時にユニが大地を蹴ってその巨体で軽々と後方宙返りを披露する。

 次に俺が左手を軽く回すと、ユニがその場でへたり込む。


「この魔獣は俺と従魔契約を結び、言う事を必ず聞きますが、先程のような発言をされますと忠誠心の高さから時折あのような粗相をしてしまいます。どうかご容赦ください」


 単純に、俺に何かしたら街が滅ぶかもしれないぞとほのめかす。下手に出て時間がかかるより、多少悪役に回ってもいいからさっさと終わらせたいんだ。どうせそう頻繁にここを訪れる訳じゃないんだし、なにより村娘達との混浴タイムが待っているんだ。無関係な野郎共のご機嫌なんかをいちいち気にしてられるかっての。


「これほどの魔物と従魔契約だと……っ!?」

「ええ。万が一があるようでしたら容赦なくこの首を斬り落とすつもりなのでなにとぞご安心を」


 こんな事で優秀な馬車の牽き手であるユニを失うのは痛手ではあるものの、俺の世界ハーレム計画と比べれば微々たる損失でしかないので、そこに容赦は一切持たない。

 ユニも俺のそう言った性格を既に加味していると言うかさせているので、特に動揺するそぶりも見せない。


「……わしの一存では決められん。騎士団に使いを出すからしばらく待機してろ」

「ではこちらの2人だけでも先に入れていただけませんか?」


 そう言って銀貨を数枚握らせる。もちろん誰にも見えないように。

 俺の提案に、2人は少し不満そうな顔をしたけど、先にギルドに行って事情を話しておいてもらうためだと説明すると、すぐ納得してくれた。冒険者ギルドでまたひと悶着起こるのはマジで面倒だからな。


「……まぁいいだろう。身分証明を見せろ」


 賄賂を受け取って多少機嫌がよくなったデブ隊長の指示に従って、2人が銀色のプレートを差し出す。それを見て俺はハッとする。

 まずいな。そう言えば街に入る時ってあんなものが必要だったのをうっかり忘れてた。まぁ、こういう場合は金を支払えば何とかなるのが見て来たラノベでの常識だからさほど焦る必要もないか。


「ちょっといいか? 俺……身分証明失くしちゃったから再発行してもらえないか?」

「そ、そうか。なら通行許可が下りたら作ってやる。料金は金貨一枚だ」

「じゃあこれで」


 随分ぼったくるなぁと普通の人間なら感じただろうが、無限に金が湧き出る俺にしてみたら痛くもかゆくもないので、むしろ口止め料も含めてもう一枚追加してやるとデブ隊長は下品な笑みを浮かべたが、続いて俺に不都合な事を起こしたら……わかってんだろうな? との脅しも忘れないで囁くとすぐに顔を青くさせた。


「た、確かに受け取った。なら列から離れて待ってろ。魔獣ってだけで誰も近づかなくなる」

「分かった分かった。ほんじゃまた中でな」


 という訳で、2人が街に入っていくのを見届けた後。俺達は外門から300メートルほど離れた何もない草原で腰を下ろし、俺はレベル上げのために〈品質改竄〉で色々な物を作っては休憩を繰り返し、ユニは俺を守るように寝そべっているので、座椅子代わりに背中を預ける。ふわふわで全身を包み込むような柔らかさが相まって駄目になりそうだ。

 なんて事を考えながら色々と〈品質改竄〉で作っておけば、次からは〈万物創造〉だけで事足りる。そうするだけでMPの消費量も抑えられるから一石二鳥だ。


 ――レベルアップにより〈万物創造〉に新たなスキルが追加されました。 〈付与Lv1〉

 ――レベルアップにより〈品質改竄〉に新たなスキルが追加されました。 〈消費MP軽減〉

 ――レベルアップにより〈回復〉の効果が向上しました。

 ――レベルアップにより〈魔導〉で新たな魔法の使用許可が下りました。 〈火水土風Lv1〉


 作っては休憩の単純作業でようやく迎えたレベル10。俺の予想通りいくつかのスキルがグレードアップしてくれた。〈回復〉はまぁどうでもいいとして、やっぱり嬉しいのが〈品質改竄〉だ。あまり多くは期待しないけど、これからもお世話にならない機会がまず訪れないのでこれは嬉しい誤算だ。

 それと。アレクセイ相手に銀剣は確かに通用したけど、たった数回斬りつけただけでもう刃がボロボロだ。丁度〈付与Lv1〉なんて追加スキルも覚えたし、新しい武器を作るついでにどんな付与がつけられるのか調べてみるとしますか。


『主。殺意ある気配が近づいて来ます』

「分かってるよ。きっと騎士団の連中だろう」

『ワタシがやりましょうか?』

「そんな事をすれば街に入るのに余計に時間がかかりそうだから却下」


 どのくらい時間が経ったろうね。ユニに遅れて外門の方に目を向けてみると20人規模の団体がゆっくりとした速度でこっちに近づいて来る。皆一様に装備を整えて気合は十分と言った様子でまかりなりにも話し合いをしようって雰囲気じゃあないな。

 その中の先頭。普通に考えれば隊長格であろう女性だけは殺気を隠そうともしていないし、目を爛々と輝かせながら浮かべる獰猛そうな笑みは随分と好戦的に見えるぞ。

 綺麗な桃色の髪は後ろで束ねられ、意志の強そうなというか我が強そうな双眸は燃えるような赤。20代くらいと思える大人びた顔立ちは綺麗の部類に入るし、スタイルも騎士団で鍛えられているだけあってかなり引き締まってるが、一部はちゃんと自己主張してる。Dくらいかな。

 そんな面倒臭そうな表情をしていなければお近づきになりたい美女であろう隊長が10メートルほどの距離を取って足を止めた。取りあえずは挨拶しておこうか。


「わざわざご足労戴き感謝します。殺気を振り撒きながら何の用ですかな?」


 礼節を忘れない常識的な態度。まずはそういった姿を見せて俺がこの街に敵意ある行動をするつもりがない事を見せつける。効果のほどはほぼ期待できないが、最初から喧嘩腰で対応するよりは受け取ってもらえる印象が違うだろう。


「貴様が件の魔獣騒ぎの元凶に相違ないか?」

「多分相違ないと思います」

「そうか……」


 さて……一体全体どうなるか。出来れば穏便に事を済ませたいがそうはイカンガーってか。

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