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#242 熱視線

「依頼を受けてもらえんかったって?」

「そうなんだよ。あたしもビックリしてねぇ」

「なんでまた」


 商人ギルドから戻って来るとおばちゃんが元気なさそうにしていたんで理由を聞くと、そんな事があったらしい。

 なんでも、実力のある高ランク冒険者は子供のおもりみたいなちゃちな仕事は受けたがらなく。低ランク冒険者は当然ながら実力不足で除外。残った中ランクの冒険者は件の商爵の袖の下によって受ける気がないとの事。


「なるほど。じゃあ別口に頼るとするか」

「別口? なんか当てがあるのかい?」

「まぁその辺は交渉次第かね。とりあえずここにメモと食材を残していくから、全員で仕込みだけはやっといてくれ。そこのへぼは手伝わんでいいぞ。お前が手を出すと料理が不味くなるからな」

「チッ。言われなくてもやらねぇよ!」


 そう声を荒げながらへぼコックは奥へと消えていったんで、後はおばちゃんにすべてを任せ、俺は肉成分が切れて動かなくなったアンリエットのみを背負って店を出る。ちなみにユニはそこの護衛としてもうしばらくいてもらい、夕飯頃にまた戻って来ると伝えてある。


 ――――――――――


「よい……しょっと」


 一度コテージに戻ってアンリエットを寝かせて門の前に立つと、当然ながら爺さんと豚獣人の2人が通せんぼをするように移動した。


「なんじゃ娘っ子。どこに行こうと言うのじゃ」

「ちょいとこの奥に用があるんだが入っても構わんよな?」

「これを見れば分かるだろ?」


 確かにな。普通に〈万能感知〉が敵意を示す表示になってるから分かり切ってる事だが、こっちもこっちで退けない理由がある。多少強引だが通してもらう。


「仕方ないな。だったら力づくで通るまでだ」

「ほっほ。〈森角狼(ユニコーンウルフ)〉も居らんのに大層な口を利くのぉ」

「悪いがこっちも仕事なんでな。ガキだからと容赦する訳にはいかんのだ」

「別にいいって。どうせ……すぐに終わる」


 俺が一歩を踏み出すと同時に2人も戦闘態勢へと移行する。

 爺さんの方は体術を得意としてるみたいで、半身になって腰を落として片手だけを前に突き出すスタイル。

 豚獣人の方は槍――というか薙刀っぽい。それを下段に構えてこっちの動きを見るようだ。

 両者共に人類基準であれば強いんだろうけど、俺基準ならアクセルさんより少し強いって感じ。敵じゃない。


「ぐ……あ!?」

「ご……え!?」

「はいはいどうもごめんなさいよって」


 するりと2人の脇をすり抜ける間際に、じいさんの四肢。豚獣人の両手を粉々に折ってエリクサーで即時回復。一瞬の激痛が一瞬で消え去る。そんな不思議な体験をした2人はまだ戦闘が終わってないと言うのにボーっとしているんで、今度は腹に穴を開けてそれをまた回復させる。


「どうした? まだ戦いは終わってないんだ。ボーっとしてっと標的を逃がすし殺されんぞ」


 こんな風にね。と肩から腰まで届く斬撃を打ち込み、エリクサーで回復。この辺りまで来ればさすがに何が起きているのかくらいは理解したようで、2人は完全に戦意を喪失した。


「降参じゃ。まさか孫みたいな娘っ子に手も足も出んとはな」

「世界は広い。あんな一瞬で3度も殺されるとは貴重な経験をした」


 これで話し合いくらいは出来るだろうって訳で、目の前に革袋を放り投げると中から金貨がゴッソリと吐き出されると言う光景に、2人は目ン玉をひんむいた。


「さて相談だ。ちっと人手が必要になってな。腕の立つガキが嫌いじゃない用心棒を大量に雇いたいんだが、お前等の知り合いにそう言う事を請け負ってくれる優しい奴に心当たりはあるか?」

「何かの冗談――って訳じゃないんだな?」

「ああ。ちょっとお気にの女の子がこのままだと路頭に迷いそうなんでね。それを何とかするために手前勝手に動き回ってるんだが、これからやろうとしている事で揉めそうだから、少し荒事に長けた人材が欲しくてね」

「そう言った依頼は冒険者ギルドに受けてもらうのが一般的じゃぞ」

「駄目だったからこっちに来てんだよ」


 冒険者が駄目なら、俺の知る限り戦力として期待できるのはこいつ等しかいない。次点でリューリュー達が出て来るものの、連中は今や街の衛兵だからな。この都市の中のとある1店舗だけを贔屓させるなんて行動は許されない。

 こうなると、自然と残った選択肢はここしかない。まぁ駄目だったら駄目だったで守れるだけの数で配り、残りは看板なんかを置いておくだけにとどめておけばいい。


「何じゃ娘っ子。オヌシ女子が好きなのか?」

「当然だ。あんた等もそうじゃないのか?」

「わしは死んだ婆さん以外は興味ないわい」

「昔も今もこれからも、嫁一筋だ」


 チッ! これだからリア充は……あっとっと。ついつい怒りあまり手が出そうになるところだった。フーハッハッ。フーハッハッ。うん。落ち着いた。


「俺はハーレム志望だ。だから東に困っている美女がいれば手を差し伸べ。西に困っている未亡人が居れば一夜を共にして悲しみを吹き飛ばす。今回はその一環って訳で、ガキ嫌いじゃない用心棒を最低でも20人雇いたい。報酬は言い値で払ってやるが、立場はガキの部下扱い。その奥に一歩でも立入れられたくなかったら、それを呑める奴をここまで連れて来い」


 マッチョハゲも糸目ニヤケもそれぞれ裏の仕事の何かを担当する某かに仕えている。であれば荒事に長けた奴がいない方がおかしい。俺の勝手なイメージだが、裏家業ってのは殺しと麻薬で成り立ってるってイメージが根強いからな。


「ではわしが案内してやろうかのぉ」

「ちょ!? そんな勝手な事をして大丈夫なんすか?」

「仕方なかろう。本来であれば立ち塞がるのが役目じゃが、わし等が駄目だと止めた結果がこれじゃぞ? たとえ死力を尽くしたとしても傷一つ負わせられるか怪しい。それが何を意味しているのか若いお主には想像もつかんじゃろ」


 そう言って血だらけの衣装を指さす爺さん。あの一瞬だけでも3回も殺されるほど圧倒的な実力差を身をもって刻み込んだんだ。最悪を考えるなら、シュエイで裏家業を請け負う人間が居なくなる事までイマジンしないと~。


「さすが年の功。俺がこの奥に居る連中全員をぶっ殺すと言う未来まで思い描いてくれたか」

「当然じゃ。伊達にこの年齢まで生き残っとりゃせんわい」

「って訳だ。全員殺されたく無けりゃそこをどくんだな」

「……分かりましたよ。だが、くれぐれも暴れるような真似はするなよ? お前みたいなのを通したと知られるとこっちもどやされるんだからな」

「分かってるって。あっちが喧嘩を売ってこない限りはカツアゲしないから」

「スマンが後任が来たら説明を頼むぞい。では娘っ子。ついてこい」

「おうよ」


 こうして快く門の反対側に足を踏み入れた訳だが、そこは何ともまぁ混沌としてる。

 入り口付近から見える範囲はいたって普通の建物が並んでて、走り回るガキや住人であろう連中もこの世界基準で普通な見た目の奴等ばっかりだったけど、少し奥に入るだけで空気がピンと張り詰めてわずかに血の臭いが混じるように。

 建物も〈万能感知〉に魔法的な何かが引っ掛かるようになってるし、なにしろ殺気を纏っている人間の多い事多い事。じいさんの案内を少しでもズレればたちどころに己の得物に手をかける素早さはよく訓練されてるって感じる。


「あまり刺激せんでくれんか?」

「いやーすまんすまん。ちょっと動くだけで面白いくらいに反応するからついね」


 もちろん自重して弱い犬がよく吼えるみたいなのが可愛いじゃん? なんて口に出したら平然と襲い掛かって来そうだからな。門番との約束もあるし、なにより面倒くさい事はしたくないんで我慢我慢っと。

 そんな物騒通り(俺命名)を抜けると、また空気が変わって今度は熱気が満ち満ちている。


「ここはなんなんだ?」

「品物を移動させる場所じゃよ」


 つまりは輸出入をしてる場所って事か。となると、確かあの糸目ニヤケが運搬系の一家に身を寄せてるって言ってたから――いた。なにやらデカい木箱を運んでる部下っぽい連中に指示を飛ばしてるみたいだが、のらりくらりとしてなんか全体的に動きが遅く感じる。

 他の上司連中が檄を飛ばす集団と比べて2・3割遅い職務怠慢か?


「おう糸目ニヤケ! サボってんなよ!」


 少し遠いんで声を張り上げてそう注意すると、荷を運んでいる連中からの熱い視線を感じる。たぶん殺気なんだろうけどそよ風そよ風。俺をビビらせたきゃアニーを参考にするんだな。最低でもその半分はないと俺はビクッとしないぜぇ~。

 そんな声に反応した糸目ニヤケが俺を発見。揺れる柳のようにふらふらとした動きをしながら近づいて来た。おいおい部下連中を放っておいていいのかよ。


「誰かと思えば門の前に居た娘ではないか。わっち共のシマに足を踏み入れるとは如何な用件だ?」

「さぁ? 俺はこのじいさんの案内で腕の立つガキ嫌いじゃない用心棒を雇うんだ」

「はて? 強者である娘に用心棒など要るとは思えぬのだが」

「ちょっとお気にの女性の平穏な生活を守る為に必要なんだ。見たら暇そうだし、お前やるか?」


 こいつなら十分にその役目は果たせそうだ。イクスもさして怖がってなかったし、こいつもそれに目くじらを立てるような心の狭い男じゃなかったからな。実力は知らんが部下を従える立場なら弱いって事はないだろう。


「すまんの。わっちはこれでも忙しい身でな。あの日娘に出会ったのも偶然でしかない」

「ならしゃーないか。けど忙しいって割には随分とちんたらしてるじゃないか」


 荷物自体は他の連中のとそう変わらないサイズだけど、動きは滅茶苦茶遅い。だからと言って重そうにしてる訳じゃなく、どちらかってーと割れ物を運んでるようなそんな印象。


「あれは親分が命の次に大切にしてる酒が入っておるのよ。果ては龍の国より取り寄せた炎酒なる大層に酒精の強い物らしく、あの箱1つで金貨10枚は下らぬであろうな」

「ふーん」


 あのサイズの箱だ。衝撃吸収材がゼロだったとしても……この世界なら5本くらいかな。それで金貨10枚なら多分高いんだろう。でもあれって……俺の〈万物創造〉の品質で言えば30くらいだぞ。それを1本あたり金貨2枚ってぼったくってんじゃねぇのか?


「娘には分からんであろうな。炎酒は龍の血を引いている龍族であろうと容易く酔うほどの酒精の強さを持ちながら、芳醇な香りと舌に残る得も言われぬ味……一度親分に分けていただいた事があるが、あれほどの物であれば金貨など惜しくないと思うてしまうぞ?」


 得意気に言っているが、俺はそんな安酒よりはるかに高価で美味い酒を飲んでいるんだがそれは黙っておこう。まぁ? 万が一にも仕事を請け負っていたらサービスで出してやったかもしれんがな。


「そうか。ほんじゃあ糸目ニヤケもいい感じの奴が居たら紹介してくれ」

「わっちの名はユキマルというのだが」

「野郎の名前は覚える気ナシ! って事でじいさん。次行ってみよう~」

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